次世代のブックフェアを構想する

2017年4月1日
posted by 仲俣暁生

先月のこの欄でも少し触れたが、3月1日にリードエグジビションジャパンが今年の東京国際ブックフェアの「休止」を発表した。これを報じた文化通信の記事によると「2018年9月の開催をめざす」とあるものの、存続するにしてもその意義を「皇室の来場」に置いているなど意味不明であり、あらたなコンセプトの設定は難しいと思われる。ブックフェアとながらく同時開催されてきた電子出版EXPOも2015年を最後に終了しており、一つの時代が終わった感を強くした。

もっとも、東京国際ブックフェアが開催されなくなったとしても、ここから派生したコンテンツ東京(クリエイターEXPO、コンテンツ・マーケティングEXPO、キャラクター&ブランド・ライセンス展など七つの専門見本市からなる国際総合展)は今年も開催される。東京国際ブックフェアは昨年の時点で、ビジネス見本市から「読者謝恩(ようするに本の割引販売、出版社からみれば在庫処分)」へと大きく舵を切ったが、結果的にブックフェア自体の存在意義を喪失させることになったのではないか。

この決定の結果、日本は出版先進国でありながら「本の国際見本市」が存在しないという、情けないことになるのか。東京国際ブックフェアに代わる、別のブックフェアを構想すべき時期が来ている。

オルタナティブなブックフェア

すでに、オルタナティブなブックフェアの萌芽は生まれている。昨年10月のこの欄でも紹介した「THE TOKYO ART BOOK FAIR」もその一つ。2016年は海外20カ国からの参加があり、世界的に有名なシュタイデル社による「Steidl Book Award Japan」というアワードと連動した展示もあった。アートブックに特化した小規模なイベントではあるが、クリエイティブな雰囲気に満ちており、未来を感じることができた。

2回目となる今年は神楽坂の日本出版クラブ会館で開催された「本のフェス」。

去る3月12日には第2回目の「本のフェス」が開催された。2016年の初回は「THE TOKYO ART BOOK FAIR」と同様、北青山の京都造形芸術大学・東北芸術工科大学の外苑キャンパスで開催されたが、今年は神楽坂の日本出版クラブ会館での開催となり、前回を上回る3000人が来場したという(前回は1000名)。

今回は私も、自分の蔵書の一部を会場に特設された「本棚」で展示していただき、出展側の一人として参加した。日本出版クラブ会館内では恒例の「本の雑誌社商店街」で新刊書・古書の販売が行われたほか、地元・神楽坂の「かもめブックス」の柳下恭平さんがプロデュースした「スナック乱丁」が開店。私は見る余裕がなかったが、ほかにも作家の石田衣良さんによる創作ワークショップや、さまざまなトーク&朗読ライブが行われたという。

野外スペースでは前回と同様に簡易ステージでのライブ演奏があり、「ネオ屋台村」と称した飲食スペースや、茨城県からの産直市などと相まって、通りがかりの人がふらっと立ち寄りたくなる雰囲気を醸し出していた。

「アジアのブックフェアを立ち上げる」

さらに今年5月には、大阪・北加賀屋でKITAKAGAYA FLEA 2017 SPRING & ASIA BOOK MARKET(仮称)が開催されるという。3月9日にはこのブックフェアの開催に向けて、東京・銀座の本屋EDIT TOKYOで『IN/SECTS』編集長の松村貴樹さん、『LIP 離譜』編集長の田中佑典さん、朝日出版社編集者の綾女欣伸さん、そして本屋EDIT TOKYOの内沼晋太郎さんによる「アジアのブックフェアを立ち上げる」というトークイベントが開催された(私は残念ながら参加できず!)。

日本と台湾をつなぐクリエイティブエイジェンシー、LIPのウェブサイト

田中さんは「台日系カルチャー」の発信を目的とするクリエイティブエイジェンシーLIPの代表で、綾女さんは韓国の出版事情に詳しく『ソウルのブック革命(仮題)』という自著の出版が予定されている(追記:内沼晋太郎さんとの共著とのこと)。松村さんは「KITAKAGAYA FLEA」を開催してきたLLCインセクツの代表で、このASIA BOOK MARKETでは関西圏の版元をとりまとめる役割。また関東の版元は昨年で8回目を迎えたBOOK MARKETを主催してきたアノニマ・スタジオが参加を呼び掛けるとのこと。そこに田中さん、綾女さんらと親しい台湾と韓国から中小規模の出版社を招いて、「アジアのブックフェア」を草の根から立ち上げようというものだ。

これらはいずれもまだ手作りイベントという段階だが、存在意義を「皇室の来場」に求めざるを得ない出版業界主導のブックフェアなどより、はるかにリアリティがある。とくに、ここ数年かけて成長してきたオルタナティブなブックフェアの流れが、ついにアジアの出版社・編集者たちとのコラボレーションへ踏み出すかと思うと、その先に起きる出会いに胸が高鳴る思いがする。

そもそも出版とは一種の家内制手工業なのだ。既存のブックフェアが機能しなくなってしまったのなら、それぞれが理想とする、次世代のブックフェアを構想すればいい。その動きは、すでに確実に始まっている。

ロビン・スローン氏に聞く〜「EPIC2014」から『ペナンブラ氏の24時間書店』まで

2017年3月30日
posted by 仲俣暁生

2004年に発表されるやいなや、世界中のメディア関係者に衝撃を与えたフラッシュムービー「EPIC2014」。2014年が到来するまでには、アマゾンとグーグルが合併して「グーグルゾン(Googlezon)」という巨大メディア企業が生まれ、記事の多くをコンピューターが自動生成するようになる。そこでは多くのフリーランスの「エディター(いまの言い方でいうとキュレーター)」が記事を選択して配信し、広告収入の分配を受けて暮らすようになる。他方でニューヨーク・タイムズは著作権についての訴訟に敗れてオフラインに戻り、エリートと高齢者のためのメディアになる……。

この映像の予測は、いま思えばとてもよく当たった(Googlezonは誕生しなかったが、プラットフォームがメディアを支配するようになった。ニューヨーク・タイムズはオンラインにとどまっているが、新聞の影響力は大きく下がった)。この映像を作ったのが、ロビン・スローンとマット・トンプソンという2人の若者だということは知っていた。だが、そのプロフィールはながらく、よくわからなかった。

2012年、東京の書店の店頭でふと目にした『ペナンブラ氏の24時間書店』という小説の作者の名として「ロビン・スローン」の名を見かけたとき、この人があの「ロビン・スローン」であることに、すぐには気づかなかった。でもこの本を読み始めたところ、彼こそがあのフラッシュムービーの作者であることをただちに実感した。そして彼が、本とデジタルメディアのどちらにも等しく愛情を注ぐ、卓越したストーリーテラーであることも……。

今年2月、『ペナンブラ氏の24時間書店』が文庫化されたのを機に、版元の東京創元社が行う新刊ラインナップ説明会にスローン氏が登壇することを知り、インタビュー取材を申し込んだ。

来日時にインタビューに応じてくれたスローン氏。

メディアの未来を予言した「EPIC2014」の舞台裏

――お目にかかれるのを楽しみにしていました。「マガジン航」は出版と本の未来について考えるためのウェブマガジンです。残念ながら日本語の記事だけですが。

スローン じつは「マガジン航」をGoogle翻訳で読んでみようと思ったんだ。でも……ウーッ、ダメだった(笑)。だけど、出版産業や書店を話題にしているんだなという大体の雰囲気は掴めたし、トピックは面白いと思ったよ。

――このインタビューでは『ペナンブラ氏の24時間書店』という小説だけでなく、メディアの未来についてのスローンさんの考えなども伺えたらと思っています。最初の質問ですが、スローンさんとその仲間が2004年に発表して話題になった「EPIC2014」を当時、私も見てとても衝撃を受けました。メディアの未来が生々しく描かれていたからです。

でも数年たってからあらためてあの映像を見て、少し考えが変わりました。あの映像はとてもシリアスな未来予測に見えるのですが、同時にどこか物語的でもある。「グーグルゾン」が登場する場面は、恐るべき出来事というより、むしろクスッと笑って受け止めるべきではないか。つまり全体が一種の寓話なんじゃないかと思ったんです。そして、そのことはのちにあなたが小説を書くようになることを予見させるものがありました。この受け止め方は正しいでしょうか?

スローン そう、そのとおりなんだ!

――よかった(笑)。それがずっと気がかりでした。では、インタビューを始めましょう。あなたが「EPIC2014」のフラッシュムービーを作ったときに在籍していたポインター学院(Poynter Institute)という組織に関心があります。これはどのような組織なのでしょうか。

スローン ポインターはとても興味深い組織なんだ。この組織を設立したのはネルソン・ポインターという新聞社のオーナーで、収益は新聞事業から得ているけれど、ポインター自体はNPOとして運営されている。新聞事業の収益をジャーナリストを育成したり、ジャーナリズムの未来を考え、よりよいジャーナリズムをつくっていくための教育に再投資しようという崇高な理念をもっていて、アメリカでもとてもユニークな存在なんだ。

――当時のあなたの身分は、ポインターの研究者だったのですか、それとも学生ですか。

スローン その中間みたいな立場だった。大学はすでに卒業していたから、ポインターでは責任のある仕事をして給料をもらっていた。その傍らで、ここでの2年間のフェローシップのあいだに、いろんな講義に出てさまざまな教師から学ぶことができた。

――「EPIC2014」のムービーは、そもそもどんな目的でつくったのでしょうか。そしてその反響に対して、当時どのように感じました?

スローン 最初の質問に対する答えはとてもシンプルなんだ。この動画の共同制作者であるマット・トンプソンと私はそれまでも、ジャーナリストたちに対していろんなチャートやグラフや統計の数字をつかったプレゼンテーションを見せて、あの動画と同じ話を伝えてきたんだ。「インターネットが勃興して、印刷メディアはたいへんな状況になる」という話をね。でもジャーナリストは、そういう話を聞かされるとすぐに眠気を催す(笑)。あるときそのことに気づいて、動画形式をつかった別の語り口で物語を伝えることにしたんだ。

当時の反響については、じつは語るのが難しい。当時のインターネットは、いまのインターネットとは違っていたからね。まだYouTubeもできていなかったし、ソーシャルメディアもまだ普及していなかったから、実際のところ、あれがどのくらい評判になったのかよくわからないんだ。いまのYouTubeみたいに、1,000万ページビューだとか200億ページビューだといった数字で表されたりはしなかった。評判になっているのはわかっていたけれど、反響は電子メールをもらったり、学校で教材に使われているという連絡をもらったりする程度だったからね。

――あの動画の冒頭のセリフは、ディケンズの『二都物語』から取られていますね。ということは、あの物語全体が一種の寓話になっているのだと思います。なぜ、そのような手法で語ろうとしたのですか。

スローン 先ほどの質問の答えとも関連するけれど、あの動画のためのストーリーをつくり、制作をすすめていくなかで、マットと私はこう考えたんだ。「登場人物の数を少なくして、フェアリーテールみたいなシンプルな物語にしよう」と。ジャーナリズムについての真実の物語には、何千もの登場人物がいる。日本やヨーロッパを含めれば何千もの新聞が存在するし、テレビ局も世界中にやまほどある。それらの関係はとても複雑だ。でも、私たちは物語をシンプルにするために登場人物を減らした。グーグルと、ニューヨーク・タイムズと……という具合にね。まさに「魔女とドラゴンと大きな悪い狼と…」という、フェアリーテールのやり方を採用したんだ。

――そうすることで、人々がよりそれを理解しやすくなると考えたのですね。

スローン そう。それに記憶しやすくなる。シンプルなストーリーほど、記憶に残るからね。

――英米の子どもがみなディケンズのフレーズを知っているように、日本の子どもはみな、学校で「平家物語」の冒頭のフレーズを教わるんです。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。驕れる者は久しからず、盛者必衰の理をあらわす」。これは日本の古代に栄えた平家という武士の一族が滅びるまでを語るストーリーなのですが、「EPIC2014」の物語はこれによく似ていると思ったんです。

スローン その洞察はすばらしい。2004年当時は、いまとではまったく違う世界だった。当時はニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった新聞社も、インターネットのことがよくわかっていなくて、まったく懸念を抱いていなかった。ネットのイメージは、「オタクっぽい人がチャットルームでなにかやってるんだろう」といった程度だったんだ。そこで我々は、新聞ビジネスはまだ栄華を誇っているけれど、急速に世の中は変化していく。ネットによってこれからの社会はこうなるんだ、ということをあの映像でわかりやすく見せたかったんだ。

Kindleの画面が小説を書くことを促した

――ポインターを辞めてから、小説家としてデビューするまでのあいだは、どんなふうに過ごしておられたんですか?

スローン 私はずっと作家になりたいと思っていたけれど、ポインターにいたときも、そのあとにカレントTV(元副大統領のアルバート・ゴアが創設したニュース専門TV局。のちにアル・ジャジーラに売却された)にいたときも、仕事に追われていてその機会がなかった。

はじめて小説を書こうと思ったのは2009年の暮れに、アマゾンのKindleと出会ったときだ。そう、まだゴツいデザインだった初代のKindleだね(笑)。それを手に入れたとき、私はその電子インクで表示されるスクリーンにすっかり魅せられてしまった。自分の書いたものを、このスクリーンの上に載せてみたいと思った。それで2010年に入ってからいくつか書き始めたもののひとつが、短編バージョンの「ペナンブラ氏の24時間書店」につながっていった。Kindleの画面は、自分がものを書くようになる上で、本当に原動力になってくれた。

――それまでは本当に何も書いたことがなかったんですか?

スローン もっと若いころから、何かを書いてみたいという気持ちはもっていたし、大学生の頃にちょこちょこっと書き始めてみたことはある。でも、最後まで書き終わらずにそのままにしてしまったりで、きちんと書き上げたことはなかったんだ。

――短編版の「ペナンブラ氏の24時間書店」はアマゾンのKDPで出版されました。その後、キックスターターをつかった「アナベル・スキーム(Annabel Scheme)」という作品の執筆・出版プロジェクトを行いますね。これが大きな転機になったと思うのですが、このプロジェクトについてもお話しいただけますか。

クラウドファンディングの「キックスターター」を利用して行った執筆プロジェクト。

スローン そのとおり、二つの意味であの試みが大きな転機になったね。一つは読者層で、もう一つは物語の長さや複雑さだ。

読者層に関して言えば、自分の作品に興味をもって読んでくれる人が外の世界にいるということがわかった。キックスターターのプロジェクトでは、約千部の印刷本をつくった。商業出版なら、それほど多い数ではないけれど、当時の私には、自分の書いたものを、それだけの数の人々がお金を払って読んでくれるというのはすごく大きな意味のあることで、物語を書く上でのモチベーションになった。

中編「アナベル・スキーム」は現在はPDFで無料で配布されているほか、Kindle版(有料)でも読める。

作品の長さや複雑さについていえば、それまで書いていたのは「ペナンブラ氏の24時間書店」も含めてショートストーリー(短編)ばかりだった。「アナベル・スキーム」はノヴェラ(中編)で、これだけの長さのものを書いたのは初めてだったから、物書きとして階段を一つ登れた気がした。長編バージョンの『ペナンブラ氏の24時間書店』を書いて、そこからさらに一段上がることができた。

現代社会のリアリティと教養を詰め込んだ『ペナンブラ氏の24時間書店』

――長編バージョンの『ペナンブラ氏の24時間書店』は、いわゆるヤングアダルト(YA)小説のスタイルで書かれています。「アナベル・スキーム」はなんというか、ややオカルト風の文体でしたよね。なぜ『ペナンブラ氏の24時間書店』の長編版ではこのような手法を選んだのでしょうか。

スローン 自分としては、「YA」と「大人向け小説」の違いというよりも、「リアリティのある文芸小説」と「オカルト的なファンタジー小説」の違いとして捉えている。じつは短編版の「ペナンブラ氏」はもっとマジカルな感じで書いていたんだ。本当に悪い魔法使いが出てきて、最後にはそれが「じつは彼は500年もの間生きてきたのだった」と分かる――なんというか、「アナベル・スキーム」と似た感じのどこかオカルト風の物語だった。

でも改稿をすすめていくうち、自分が本当に信じていないものを書くことはやめようと考えが変わった。作中で不思議なことは起きるのだけれど、自分が信じられること、リアルだと思えることを書こうと思い、全体を大きく書き直したんだ。

――若い読者にとってリアルに感じられる話であると同時に、ITや本、電子書籍やデジタルアーカイブについての教養が詰め込まれていて、この作品を読むととても勉強になる気がします。そうした「教育的」な効果もこの作品に期待していましたか?

スローン 教育しようという意図はとくになかった。というのも、教育的意図で物語を書くというのは危険なことだからね。「本書を読んだ読者が、このようなことを理解してくれることを望む」……こういうのはよくない(笑)。

ただ、いま現実の世界に起きていること、現実の世界で必要とされているリベラルアーツ(教養)、つまり現実の世界で起きていることを解決できる思考方法みたいなことは、この物語のなかに盛り込んでいった。それまで頭の中で長い間シチューみたいにコトコト煮えていた色んな材料から、自然に何かが生まれたっていう感じかな。でもそれによって誰かを教育しようという考えはもっていない。

『ペナンブラ氏の24時間書店』の日本版は東京創元社より刊行。今年にはいり文庫化された。

――この物語の主人公クレイは失業した若いデザイナーです。本が出た当時のサンフランシスコや若い人たちが置かれていた状況を反映していたり、そんな彼らに対する共感のようなものはありましたか。

スローン 元の本がアメリカで出版されたのは2012年で、いまとは当然、状況はちがっていた。2008年の経済危機(いわゆるリーマンショック)の余波のなかにあって、私自身はさいわい仕事を得ることができたけれど、クレイのような大学を出たばかりの若者が仕事を得るのにはとても苦労する状況だった。だからこの小説にも、似たような状況が書かれているところはあるね。

若い人への共感があるかといえば、答えはイエスだけれど、コインの表と裏のように、そこには二面性がある。仕事がなくて、混乱しているという困難な状況はある。でも、そのことによって物語が起動するという側面もあるから、悪いことばかりではない。でももし、これが2017年が舞台の物語だったら、クレイはフェイスブックで仕事を手に入れて、それでおしまいという退屈な話になっただろうね(笑)。

――ところで、『ペナンブラ氏の24時間書店』の魅力的な登場人物、キャット・ポテンテには誰かモデルがいるのですか?

スローン モデルはいるけれど、誰か一人というわけではなく、いろんなところでこれまで一緒に働いた女性たちのもっている要素をまぜあわせて作ったキャラクターなんだ。キュートでカリスマ性もあり、数学やプログラミングの能力に長けていて、しかもデザイン能力もある。右脳と左脳の両方の能力をもつ女性たちのね。

――作中に出てくる、クレイが大好きなファンタジー『ドラゴンソング年代記』を読んでみたいのですが、ご自身でそれもお書きになる予定は?

スローン 残念ながらその予定はないんだ(笑)。でも、私自身にとって『ドラゴンソング年代記』に相当する物語がある。アメリカで刊行されていた『ドラゴンランス年代記(Dragonlance Chronicles)』という古典的なファンタジー作品だ。作者はマーガレット・ワイスとトレイシー・ヒックマンの二人で、最良の作品というほどの出来ではないけれど、竜や魔法、魔法使いが出てくる。『ドラゴンソング年代記』はそれをモデルにしたんだ。

この投稿の続きを読む »

北海道の読書環境を支えるためのネットワーク、「ぶっくらぼ」スタート

2017年3月21日
posted by 荒井宏明

幸福から遠い北海道で

2017年の1月末のこと。北海道の函館市について「魅力度が第1位」と「幸福度が最下位」という正反対の結果が相次いで公表され、全国ニュースでも取り上げられた。魅力度は、民間コンサルタント会社が調査。全国の主要な1000市区町村を対象にインターネット上で「観光に行きたいか」「特産品を買いたいか」など77項目を質問し、3万人からの回答を点数化したもので、函館市がトップとなった。ほかにも札幌市や小樽市、富良野市と、トップ10に道内から4自治体がランクインしている。

一方、民間シンクタンクが人口20万人以上の中核市のうち一部を除く42市で、人口増加率や財政の健全度などの基本指標に加え、健康・仕事・生活・文化・教育の5分野で、全39項目を調査。「幸福度」として集計分析したところ、函館市が最下位となった。さらに悲しむべきことに同市は「健康」分野の評価がとりわけ低く、自殺者数・生活保護受給率・大学進学率などの項目がワーストだった。都道府県別でみると、北海道は、魅力度「第1位」、幸福度「ワースト7位」であり、函館の置かれている状況とさして変わらない。

ずっとワースト圏をうろうろしていたので、いまさら驚かないが、やはりワースト1位は情けない。

北海道は「文教」分野においても、ワーストにランクされることが多い。昨年秋、文科省は公立小中学校の学校図書館図書標準の蔵書率を発表し、北海道の小学校がワースト1位になった。蔵書指針の達成割合でトップの岐阜県は98.1%、対してワーストの北海道は35.2%だ。

公立学校の「図書館の質」がこれほどまでに異なる理由は、学校図書の購入費が地方交付税として一括で市町村に渡されているからだ。国が「学校図書費」として予算を措置しても、実際の予算編成は市町村に任されているため、往々にして教育分野の優先度が下がり、大幅に削られてしまう。「教育予算が橋や道路に化けてしまう」のは国家予算の編成においてではなく、交付税として市町村に下りてからだ。北海道は除雪費という優先度の高い事業費用があり、文教予算の優先度がさらに下がる。結果、北海道の学校図書費は「国の予算措置の半分以下」で毎年、執行されている。

学校図書館で人気の本はこうなるが、廃棄するレベルになっても予算不足で買い換えられない。

「最優先課題を三つ挙げろと聞いてほしい。私はこう答える。教育、教育、教育だ」

これはイギリスのトニー・ブレア元首相が1996年10月の労働党大会で演説したものだ。イギリスもかつては日本と同じく教育予算を地方交付税扱いにしていた。そして日本と同様に、地方自治体が「学校図書整備費」を削りに削っていたため、堪えかねたブレア氏は、学校図書整備費の編成権と執行権を地方自治体から取り上げ、国庫補助金に戻した。

日本、特に北海道でこのケースに注目する政治家がいてもいいようなものだが、これまで「地方の学校図書館における不平等」を課題として唱えた政治家は田中康夫氏と石原慎太郎氏以外に知らない。かつて民主党が政権をとったとき、所属議員は「文教施策の向上」を盛んに匂わせていたが、マニフェストの「読書環境の整備施策」は驚くほど内容が乏しく、北海道の読書環境の悪化はなにひとつ止まらなかった。

現在、学校図書館のワーストレベルに加え、公共図書館の設置率はワースト4位で、書店がある自治体の割合はワースト6位。これに「町村の平均面積が全国1位で全国平均の2.5倍にも及ぶ」という地理的状況を加味すると、「住民が図書にアクセスできる環境」は、間違いなくワースト1位といえる。

ネットワーク形成事業「ぶっくらぼ」

かかる状況において、北海道の読書環境のドラスティックな向上は、一朝一夕には成らない。そこでわたしが代表理事を務める一般社団法人北海道ブックシェアリングは「広く賛同を募り」「手数を増やし」「長期戦」で仕掛ける事業として、北海道の読書環境ネットワーク形成事業「ぶっくらぼ」を起案。すでに北海道、北海道新聞社などの後援を得て、2018年度から事業を開始する。

北海道ブックシェアリングは「格差のない読書機会の実現」を進めるために2008年、札幌の教育関係者と図書関係者が集まって設立。読み終えた本の再活用や、読書環境に関する調査、レクチャー、ワークショップなどを実施し、東日本大震災被災地ではさまざまな図書施設の復旧・再開を手がけた。昨年から北海道で広がっている「無書店自治体問題」について実地検証しようと、「社会実験:北海道の無書店自治体を走る本屋さん」を実施している。移動図書館車を改造した移動書店車で道内各地を回って、一日書店&図書イベントを開くという試みだ。

このように当会は、直接的支援である「ボランティア活動」と、調査・分析・提言を進める「シンクタンク事業」を平行して進めてきた。「ぶっくらぼ」では、これまでの蓄積を最大限に活用しながら展開していく。

昨年の走る本屋さん事業で道内5カ所を巡回。2018年度は10カ所程度に増やしていく。

まず次年度は「広く賛同を募る」事業として、道内の読書環境問題に対して、課題意識を持つ団体や積極的に課題解決を進めている団体に呼びかけ、ネットワークを形成していく。北海道の面積は8万3000平方キロにも及ぶ。小さなものから入れていけば21の都府県が収まるほどだ。ネットワークのメッシュをきめ細かくするためにも、オール北海道体制で臨む必要がある。情報誌の発行やウェブサイトの設置、定期会合・勉強会の開催、講師の派遣、読書環境に関する調査などによって、読書環境整備への意識を醸成していきたい。

賛同のタイプはシンプルに二つにまとめた。A「情報の共有化(情報誌の受け取りと配布、勉強会の参加、アンケートへの回答など)」と、B「情報を共有しながら、ヒト・モノ・カネ・チエのいずれかを拠出」である。AからBへの移行や、その逆もありだ。自治体、図書館、書店、企業、NPO、そして個人の「意思と情熱」の明示よるネットワークの形成。この実務を当会の若手職員がどう捌くかも楽しみだ。

2019年度からは、ネットワークを軸に「手数を増やす」事業をスタートする。トライアンドエラーの繰り返しのなかから、実効的な手法を構築していきたい。例えば、図書館や公民館図書室での書籍の販売、自治体が経営する町営・村営書店の新設、小・中・高の学校横断による図書委員・図書局ネットワークの構築、商店街や町内会主催による図書イベントの開催、公民館図書室と連携したマイクロライブラリーの設置など、既存のインフラやリソースを活用しながら、視点と枠組みを変えることによって、よりきめ細やかに読書ニーズに応えられるメソッドを組み上げていく。

大麻銀座商店街で実験的に始めた古書市「大麻銀座ブックストリート」は、いまでは毎月最終土曜にレギュラーでの開催になった。

北海道ブックシェアリングが江別市大麻銀座商店街との共催で毎月開いている古書まつり「大麻銀座ブックストリート」は、ことし3月で15回目を迎える。イベントにあわせ、いくつかの商店がオリジナルの飲食メニューを考案し、フードコートを設置するなど、地域連動型の賑わいを生み出している。もともとは実験的に「大麻銀座商店街ブックフェス」を仕掛けたのが始まりだ。

めげることなくトライアンドエラーを繰り返すためにも、楽しみながら課題解決する、という姿勢が必要だ。ヒステリックに課題解決を叫ぶのではなく、思いつく限りのバラ色の未来を掲げるのでもなく、地味に楽しく前向きに手数を繰り出す。いまのところ、それが最も効果的だと思われる。

例えば現在、書店も図書館もないまちで、小学校の図書委員や担当教諭が、よく分からないまま学校図書館図書を選定する、というケースが少なくない。これは、札幌などで開かれる「図書見本市」に図書委員や教諭を招待するための基金やシステムをつくるか、あるいはNPOなどが見本図書・見計らい図書をバスに積んで巡回することで解決できるはずだ。招待するなら、書店員や司書との昼食会や交流会を開き、巡回するなら滞在先での懇親会や意見交換会を開く、というように人と人が楽しくつながる仕組みをつくり上げていきたい。

商店街にパイプイスを並べて書評合戦「ビブリオバトル」を開催。買い物客や通行人もオーディエンスで参加するなど、地域に根付いたイベントになっている。

人口3000人で、本屋はもちろんスーパーもなければ、薬屋も花屋も電気屋もない。喫茶店もなければ居酒屋もなく甘味屋もない。コンビニの「セイコーマート」と生協の宅配システム「トドック」によって、日常の生活がかろうじてつなぎとめられている。そのようなまちでの「図書に関する問題」は、ツタヤ図書館問題やアマゾン・取次問題、電子書籍の普及問題などとは次元が異なる。しかし、読書の果たす役割が娯楽や趣味・教養にとどまらず、予防医学であったり、人生哲学であったり、自殺や詐欺被害を未遂に防ぐものであったり、就労・起業の支援にまで及ぶことを考えると、なおざりにしておくわけにはいかない。

「ぶっくらぼ」が何年で、どのくらいの効果を生み出すか、まだその予測もつかないが、「悪化を食い止め、その先へ」を合言葉に、北海道の力を引き出していきたい。


【クラウドファンディングご協力のお願い】
現在、『北海道のこどもたちがいつでも本を読める環境を創りたい!』とのタイトルでクラウドファンディングを実施しています。読書環境ワースト1位の北海道で、課題解決・格差解消に向けたネットワークづくりのための情報誌「ぶっくらぼ」を隔月で発行するための資金調達です。なにとぞご協力をお願いいたします。

『北海道のこどもたちがいつでも本を読める環境を創りたい!』(2017年4月25日まで)https://readyfor.jp/projects/booklabo

IoT×BookShopハッカソンに散った、書店を地域コミュニティにするアプリの話

2017年3月8日
posted by スガタカシ

2009年にiPhoneのARアプリ「セカイカメラ」が流行った頃、書店で働いていたぼくが夢想したことがある。書店に置かれる手書きのPOPが将来、書店員はもちろん、客も書き込むことができるARのタグに置き換われば、書店で本と出会う体験は、もっとワクワクする体験になるかもしれない――。

意気込んでプレゼンテーションに臨んだ筆者。

去る1月28日、日本出版販売(日販)とデジタルハリウッドの主催で開催された「IoT×BookShopハッカソン」に参加してきた。2日間のあいだ、チームに分かれ書店体験を変えるIoTプロダクトを開発し、優勝を競い合うハッカソンだ。

書店勤務、フリー編集者を経て、いまは2016年4月に「すごい旅人求人サイト SAGOJO」というWebサービスを提供するスタートアップをやっている。書店を離れて久しいにもかかわらず、参加を決めたのは、「セカイカメラ」流行時に抱いた妄想がどこかに残っていたせいかもしれない。紙の本も書店も好きだけど、テクノロジーの可能性も信じてる。縮みゆく書店よりも、テクノロジーで変わる書店の新しい姿を見たい。書店を退職して5年が経ついまに至るまで、そんな思いを抱いてからだ。どうせなら、狙うは賞金10万円が出る優勝。そう意気込んで、同じ会社で働くエンジニア2人を誘って申し込んだ。

最優秀賞の賞金10万円を狙ったが……。

結論は、惨敗だった。あとには泊まり込みで開発したプロダクトが残っただけだ。しかし機会をいただいたので、2日間熱中して開発したプロダクトについて、書いてみたい。もしかしたら僕たちが考え、作ったものが、どこかのだれかの参考になるかもしれない。そう願って。

書店を「地域コミュニティ」として再定義する

ハッカソンではチームに分かれて、制限時間内にプロダクトを企画、開発して競い合う。ぼくたちが作ったのは「本とつながる、街とつながる」と銘打った、書店を街のコミュニティにするアプリ。Honyan(ほんやん)と名付けた。

プロダクトを作りはじめる前に行ったブレインストーミングで。模造紙に、付箋に書いたアイデアを貼り付けていき、近いアイデアをグルーピングしていった。

ご存じのとおり、書店は街によって、その性格を大きく異にする。立地によって、客層も売れる本も違うからだ。荻窪の文禄堂と郊外の国道沿いのTSUTAYAとでは、ベストセラーもまったく違う。その書店の品揃えと客層には、「その街らしさ」があらわれる。書店は地域の文化をうつすもの。であれば地域文化のハブとして機能させてもいいんじゃないか。そうして考えたのが、書店を「地域の人やお店のコミュニティ」として再定義するというアイデアだった。

書店は本を売ることで商売をしてきた。でも娯楽が多様化すれば本に費やす時間は減り、本が売れなくなる。本の購入がインターネットでも可能になれば、その分、書店に足を運ぶ人は減り、売れなくなる。書店が困るのは当然の流れだ。

でももともと、書店が扱っている本は情報の束。書店が提供するものを商品としての本に限定する必要は、どこまであるだろうか。書店が立地する地域に関する本や、その土地に縁のある作家の本はそうでない本に比べてよく売れる。では本だけでなく、その街の情報や、その地域の人とのつながりが、書店で得られるようになったらどうだろう。

書店に行くと、本だけでなく、その街や、人とつながることができる。その時、街に1軒しか残っていない本屋が、地域の未来を担うおもしろい人のコミュニティになるかもしれない。

書店を街のコミュニティにする。その世界観はここに書いたようなものだ。でもハッカソンなので、開発したプロダクトで勝負しなければいけない。

高級そうなお弁当が支給され、満足げなエンジニア。

LINE Beacon を利用した「待ち合わせ場所を書店にしたくなる」アプリ

「書店を街のコミュニティにする」というビジョンを現実に落とし込むため、プロダクトは「待ち合わせ場所を書店にしたくなるアプリ」というコンセプトで考えることにした。もともと書店は時間を潰すにはうってつけで、昔から「待ち合わせ場所」に利用されることはすくなくない(待ち合わせ場所を書店にすれば、相手の多少の遅れも気にならない)。書店を待ち合わせ場所としての書店利用を促進することで、書店に立ち寄る人を増やすことができる。

企画コンセプトと実装する機能が決まったら、デザイナーが画面構成のラフを描く。

今回のハッカソンのテーマであるIoT要素としては、会場で無償提供されたLINE Beaconを使う。Beaconというのは英語で信号灯やのろし、標識を意味するもので、既に普及している例としては高速道路にせり出していて、混雑状況などを知らせてくれるアレなんかがある。

会場で無料で支給されたLINE Beacon。今も手元にあります。

LINE Beaconでは、この端末から一定距離内に入った/出た時にBeaconと連携したアプリやLINEアカウントにイベントを発生させることができる。このLINE Beaconを使って、書店に近づいた時と離れた時に、イベントが発生するアプリを作る。

来店時イベント:書店利用者同士がつながるレコメンドを配信

まず、書店に訪れることでしか起きないイベントを用意することで「書店で待ち合わせ」したい人を増やすことを考える。あらゆる場面に「おすすめ」があふれるなかで、リアル書店だからできる、まだやっていない、利用者がうれしいおすすめのかたちとはなんだろうか。

考えたポイントは3点。

・本がおすすめされるのは、書店に近づいた時だけ
・本のおすすめとともに、おすすめしている人の人柄が見える
・おすすめされた本はお店のどこにあるかがわかって、すぐ手に取れる

もちろん書店内ではこれまでも、POPや陳列などで本がおすすめされてきた。そこに、同じ街の同じ書店を利用する、読書傾向の近い人の好きな本のおすすめが加わることで、本とつながるだけでなく、人とつながるという要素を加える。書店を核に、読者によるサロンが形成されるイメージだ。

実装するのはこんな機能。あらかじめアプリをダウンロードしておくと、LINE Beaconで、書店に近づいたユーザーを検知する。入店前にその書店を利用するユーザーのお気に入りの3冊(ユーザー登録後にプロフィールに入力してもらう)が、おすすめのコメントともにプッシュされる。おすすめされた本は、店内の棚番号が表示され、そのままお気に入りすることもできるし、入店後、すぐに手に取ることができる。

栄養ドリンクでドーピングしつつ、制限時間ギリギリまでコーディングするエンジニア陣と筆者(左端)。

書店内:リアル書店におけるブックマークのあり方

「書店で待ち合わせ」というシーンで来店する場合、荷物になるし、書店内にいられる時間も限られる。手に取った本を、必ずしもその日に買うとは限らない。

でも書店の品揃えや陳列は日々変わる。一度買い逃した本と再会するのには結構な手間がかかる。配達でもいいし、取り置きでもいいし、書店でもう一度手にとって吟味してから買いたい、と思うこともある。

その場で買えなくても、気になった本はとりあえずブックマークすれば、後でスムーズに買えるようになって欲しい。リアル書店がブックマーク機能をつけない間に、「あとで買おう」の少なくない割合が、かつて職場の同僚が「家庭用書籍検索機」と呼んだAmazonに流れているのが現実だろう。そこで実装するのはこんな機能だ。

・書店内で気に入った本はスマホをバーコードにかざすことで、一発でお気に入りに保存
・ブックマークした本は棚番号の表示に対応。できればレジでの取置や宅配購入も可能に

退店時イベント:書店を街の案内所に

「書店で待ち合わせ」した人は、いずれ街に戻っていく。そこで、書店から離れようとすると、ユーザーが購入したりブックマークした本の好みに合わせて、店の書店員が、街のお気に入りのお店やスポットをおすすめしてくれる機能を実装する。

本の好みにはその人の志向が強く反映される。本に紐付いた、街のスポットのおすすめ。書店が街の案内所になる、という発想だ。

ただ、お店のファンを増やすことを考えて書店員をここで登場させはしたものの、ただでさえ忙しい書店員が街のお店を紹介するのはハードルが高いかも、と悩むところではあった。もしかすると書店員ではなく、その書店に通う人が、本に紐付いた近隣のおすすめのスポットやお店を設定できるようにするのがいいかもしれない。

いま振り返ってみて

と、こんな機能を盛り込んだiPhoneアプリ「Honyan」、プレゼンやデモで興味を持ってくれる人は多かった。「地域に残った数少ない本屋に通うのが楽しくなりそう」「本屋だけじゃなく図書館にも使えそう」という声もあったのは、うれしかった。

ただ、お店に行った時・店内・お店を出る時。三つのシーンで機能を考えたが、いま振り返ってみると、アイデアを盛り込み過ぎて、散漫な印象は否めない。チームのエンジニアやデザイナーのみんなは頑張って、主要な機能をデモできるレベルに実装してくれた。でも2日間という限られた期間で実装するにはオーバースペックで、結果としてプロダクトの完成度がいまひとつになってしまったところはあるかもしれない。そしてIoTハッカソンとしては、VRなどもっと視覚的にわかりやすいプロダクトの方がよかったかも、とも思う。(優勝したプロダクトは、書店の手書きPOPをVR化する、というとても視覚的にわかりやすいものだった)

それでも、書店を地域のコミュニティとして再定義する、という発想は、我ながらアリなんじゃ、と思う。この記事が、どこかの誰かの参考になればうれしい。

深夜、疲れて眠るエンジニア。

今回の参加者40名程度のうち、ほとんどがエンジニアとデザイナーで、出版や書店に関わった経験のある人間はぼくを含め2、3人だった。イベントの参加者受付では「プランナー枠」として出版や書店に関わった経験のある人間が募集されていたにも関わらず。

書店の現場はとても忙しいので、きっとこのイベントを知ってはいても、参加できなかった人がいるかもしれない。でも、実際にこうした場に出るとたくさんのアイデアが出るし、他人のアイデアにも触れることができる。そしてなにより、自分が可能性を感じたアイデアを短期間で形にしていくのは、とても楽しく、夢中になって作った。もしかしたら将来、一緒に何かができるかもしれない人と、新たに出会えるのも魅力だ。書店×IoTハッカソン、またの開催と、次は書店や現場にいる人達がもっと参加するといい、と願っている。

いま本をどう売るか――ウェブ、イベント、書評

2017年3月1日
posted by 仲俣暁生

村上春樹の4年ぶりの長編(新潮社によれば「7年ぶりの本格長編」)『騎士団長殺し』が2月24日に発売された。当日は各地の書店で深夜零時からの発売に向けたカウントダウンや読書会など、さまざまなイベントが行われた。

私も都内の大型書店で行われた深夜零時からのカウントダウン&即売イベントに参加した。発売日夕方にこの本をめぐってラジオの生放送で話をする仕事があり、その前に確実に手に入れたかったのだ。

「まだ大丈夫かな?」と不安に思いつつ、発売数日前にこの大型書店に向かって手に入れた整理券の番号は39。案外と若い数字に驚いた。当日の集合時間ちょうどに会場に着いたときも、すでに集まっていた人の数は思ったよりも少なく、殺到という感じではなかった。カウントダウンの瞬間までには長い行列ができたが、その一部は、当日の呼び込みで並んだ人たちだった。

書店によってはタワー上に積み上げたところもあったようだが、この書店ではオーソドックスな面陳だった。

一つしかない特設レジで、あらかじめカバーがかけられ、手提げのビニール袋に入れられた上下巻セットが淡々と売られていく様子は、さほどドラマチックなものではない。かつての「Windows 95」や、人気のゲームソフトが発売されたときと比べれば、きわめて静かな風景だった。

しかし、こうしたイベントがテレビや新聞などのメディアで報じられ、本の存在が多くの人に知られることの意味は大きい。ニュース映像や新聞記事が伝えるイメージは、この夜の実際の雰囲気とはかなり異なるものだったとしても、同じ本を求めて人が集まるということ自体が、いまの時代には新たな意味をもっている。

アマゾンで予約すればそれほど待たずに家に送られてくる本を、わざわざ夜中に本屋まで買いに出かけるのは、一番乗りで読みたいというファン心理だけが理由ではないはずだ。自分と同じ本を読んでいる、他の読者がどんな人たちなのかを知りたい。そんな動機も働いていたのではないか。

報道陣の姿が目立った『騎士団長殺し』発売日の都内大型書店。

こうした即売イベントは、メディアがその本の読者を取材する絶好のチャンスでもある。私が並んだ書店でもカウントダウンの前から取材陣が待ち構えており、購入したばかりのお客さんからコメントをとるのに余念がなかった。メディアの取材陣がとりまくことで、地味だった即売会場も、心なしか華やかな雰囲気になっていた。

「風物詩」となったティーザー広告

今回の『騎士団長殺し』は初版が上下巻が各50万部、さらに発売前に上巻20万部、下巻10万部の増刷が決まった。メディアは大げさにこれを「130万部」と報じたが、通読する読者は最大で60万人(図書館や個人間の貸借、中古本での売買を考慮にいれなければ)である。この本より売れている本は、現代小説に限ってもいくらでもある。必ずしも村上春樹のこの作品が、飛び抜けた大ヒット作というわけではない。

にもかかわらず、新刊が出るたびにメディアは村上春樹の新作を取り上げ、社会でも大きな話題となる。それは書店側が仕掛けるイベントだけが理由ではない。なによりも出版社の側が、この作家の本を売ることに積極的に取り組む姿勢を見せていることが大きい。

村上春樹『騎士団長殺し』公式サイト。ティーザー広告が発売後は公式サイトになった。

今回も、本が出版される数ヶ月前から、内容には一切触れずにタイトルだけを開示するいわゆる「ティーザー広告」という手法がとり入れられた。この戦略が大成功を収めたのは、2002年の『海辺のカフカ』(やはり新潮社)のときだ。折しもインターネットが一般に普及し、マスメディアに替わる有効な告知媒体となりつつある時期だった。これが功を奏したことで、以後、版元がどこであれ、村上春樹の新作に関しては、つねにこの方法が採られるようになったのだろう。

今回の『騎士団長殺し』でも「村上春樹 7年ぶりの本格長編 2017年2月刊行決定!」と謳った新潮社の特設サイトが早くから立ち上げられ、店頭ポスターとも連動した大々的なプロモーションで読者や書店の期待を高めていた。こうした情景は、村上春樹の新作が出るごとの「風物詩」となった感がある。

もちろんすべての新刊書に対して、これだけの手間とコストをかけたプロモーションができるわけではない。それなりの売上が見込める村上春樹のような人気作家だからこそ、ということなのかもしれない。

しかし本来は、その反対であってしかるべきではないか? さほどプロモーションをしなくても、ある程度売れることが確実な人気作家でさえ、これだけの努力をしないと本が売れないのだとしたら、そうでない作家や本は、さらにきめ細かい新刊情報を事前に書店や読者に流し、本の魅力を伝える努力が必要なはずだ。

書店員と読者を招いた新刊ラインナップ説明会

新刊ラインナップ説明会に登壇したロビン・スローン氏。このあとで本誌の長い取材に応じてくれた。

この前日、2月23日に行われた東京創元社の新刊ラインナップ説明会にも参加した。このような場は初めてだったが、『ペナンブラ氏の24時間書店』の著者ロビン・スローン氏(メディアの未来を予言した動画「EPIC2014」の作者の一人でもある)がちょうどこの時期に来日しており、同書の文庫化にあわせて登壇の予定があるという。ぜひスローン氏を取材したいとオファーしたところ、説明会への参加とインタビュー取材を許可していただけた。

この新刊ラインナップ説明会は、東京創元社が今年発売する本について、招待された書店人や読者に対してプレゼンテーションを行う場だ。入場時に配られた封筒には、今年刊行予定の書目とその概要が記された書類やチラシのほかに、「SECRET」とシールが貼られた小袋が入っていた。案内に従って開封すると、なかには文庫サイズの小冊子が。同社イチ推しの新刊の冒頭部分が読めるプロモーション用サンプルだった。

「SECRET」と書かれた小袋を開封すると小冊子が入っていた。

ラインナップを記した資料を見ると、久生十蘭の『魔都』が創元推理文庫から4月に復刊されるとあった。私の知るかぎり、社会思想社の現代教養文庫、朝日文庫に次いで三度目の文庫化となる。これはとてもうれしい。おそらく会場を埋めた他の書店人や読者も、自分の好きな作家や作品との出会いに、同じように胸をときめかせたことだろう。

配布された資料の情報はソーシャルメディア上でのシェアも許可されており、この説明会に参加するような書店人や読者が、ネット上でのインフルエンサーとしても期待されていることがわかる。

会場の廊下には関連する既刊書や特製グッズ、特製のガチャポンまでが運び込まれ、物販も行われていた。登壇する著名作家の姿も自然に会場に溶け込んでおり、書店や読者への感謝イベントのような風情も感じられ、取材であることを忘れるほど楽しかった。

こうした試みは一版元だけでやるだけでなく、同ジャンルの複数版元でやれば、なおのこと効果的だろう。すっかり既刊書の(下手をすれば「不良在庫」の)安売りイベントと化した東京国際ブックフェアは、今年の開催が中止になったと本日付けの「文化通信」が伝えている。その代わりに、このような「新刊案内」の場がもっと機能すべきではないか。エンターテインメント系の本だけでなく、人文書などでもぜひ、こうした場をつくってほしい。

新作が事前に読めるNet Galleyが日本でもサービス開始

本を売るための古典的な仕組みとして書評(ブックレビュー)がある。もちろん書評は「批評」の一種であり、ダイレクトな意味での販売促進の施策ではないが、現実には多くの書評家や作家に対し、書評を期待した献本が行われている。

最近では「プルーフ」と呼ばれる簡易製本の書評用冊子が刊行前につくられることも増えた。しかしこれは、あくまでも書評家など限られた人が対象であり、一般の読者――ウェブで熱心に本のレビューを書いているような人も含め――が本の刊行に先立って新作の内容を目にする機会はない。

アメリカのNetGalleyでは過去に村上春樹の作品も。

ところで、アメリカにはNetGalley(galleyはゲラ、つまり校正紙)というサービスがあり、本をプロモーションしたい側の出版社と、事前にプルーフを読んでレビューしたい書評家(登録制)とをマッチングさせる仕組みになっている。このサイトでためしにHaruki Murakamiで検索すると、6点がヒットした。もちろん、現在はプルーフを読めないようになっているが、新刊のときはこのサービスをつかってプロモーションを行ったようだ。

NetGalleyには日本人もレビュアー登録ができるようなので、試しに入会していくつかの本をリクエストしてみた。しばらく待つと、リクエストした本は自分の「本棚」に登録され、DRM付きのPDFかKindleへの配信として読める。もちろん単なる「タダ読み」は許されず、感想やレビューなどのフィードバックを促される。そのフィードバックの品質や頻度によって、レビュアー自身も評価される仕組みのようだ。

アメリカ版Net Galleyのトップページ。登録したレビュアーは、ここに掲載されたなかから希望する新刊のゲラをリクエストできる。

リクエストした本のプルーフが読める状態になったところ。DRM付きのPDFまたはKindleで読める。

このNetGalleyが日本でも今春、サービスを開始する。2月10日に行われた印刷業界向け展示会「PAGE2017」のカンファレンス「デジタルメディア時代の出版ビジネス最前線」でも、出版デジタル機構の新名新社長が、この春からNet Galleyの事業を展開することを告げていた(なお、出版デジタル機構はメディアドゥの子会社となることが2月28日付で明らかになった)。

当日のプレゼン資料によると、現在はα版をテスト中とのこと。レビュアーとしては「プロフェッショナルリーダー」が想定されているが、その資格はプロの書評家など従来の書き手に限らず、図書館員や書店員、ウェブ上のインフルエンサー(影響力のある書き手)なども含まれるという。

プロモーション支援ソリューションNetGalley(ネットギャリー)の仕組みを伝える図(出版デジタル機構の公式ページより)。

このように本の情報や話題、意見のあつまる場はいま、多様化している。リアルイベントにしても書評やレビューにしても、これまでのように書店の店頭や印刷媒体のなかだけで閉じるのではなく、それをきっかけにネット上で話題が広がり、さらに多くの人々の目に触れるようになりつつある。

日本でのNetGalleyのサービス開始は、出版デジタル機構の公式サイトでもすでにアナウンスされている。会員(レビュアー)側の申し込みも始まっていたので、私もさっそく登録した。思いがけないほどスピーディに日本での展開が決まったのは、本の話題や評判がウェブで広まっていくことへの、出版社の側の大きな期待があってのことだろう。この仕組みが定着すれば、日本でも本の売り方が大きく変わっていくに違いない。