最善なアウトプットのための、適切な“調べる”を調べたい

2023年4月18日
posted by 山田苑子

こんにちは、心は永遠の大学生、山田苑子です。

いま、大人の勉強と調べ物というテーマは、大ブームらしいです。『調べる技術:国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』が好評で早くも六刷3万部とか(*1)。『独学大全』も出版後すぐ話題になっていました。

誰でもネットで簡単に検索できる時代となった結果、結局「調べる」が結構難しいことだ、ということが可視化されつつあるのがこの5年位じゃないかな。私自身、ちょっとだけ大学で非常勤講師をした時は、結局学生に調べる方法ばかり伝えていたような気がします。だからこそ「調べる」本が今、ブームなんでしょう。

現実問題として、「調べ過ぎる」ほうが怒られる。

でもね、ちょっと待って欲しい。私、仕事として複数業界の専門誌ライターをしてもうすぐ10年目に突入する者なんですが、原稿を納品して「よく調べてくれた!」「そんなに調べ上げてくれて、すごいね!」などと言われたことは、まぁ、ほぼ無いに等しいんです。それは毎回大幅に締切を破り倒しているから、ではあります。クライアントさんとしては「サッサと出してくれ」としか言いようがありません。

調べなくても怒られるし、調べすぎても怒られる。それなら調べないで怒られたほうが、コスパはいい気がします。怒る人はだいたいヒントをくれるはずですから、そこから辿った方が早い。だとすると、「まずは、調べない」が、ごく普通の選択になるんじゃないでしょうか。

思い返しても、自分が調べたことに対して「足りない」と激詰めしてきたのは、史学科在籍時代に顔を出していたあらゆるゼミの教員陣、そして大学院時代の指導陣。つまりアカデミックの人達だけです。自分の場合、18歳から22歳という若い時代に「調べが足りない」と激詰めにさらされたことが、その後の習慣に大きな影響を与えているようには思います。

特に修論を書いた後は、この影響をハッキリと日常的に感じています。何を書いていても指導教授の「それは誰が言うたんや、あんたか?! あんたの勝手な意見か」という言葉が脳内で襲ってくるようになりまして。「いや、先生に説明出来るほどは、調べ切れてません……」と思うと、体が勝手に動いて調べている。

そんな状態なので、私自身は「よし、もう調べなくていいや」って思えたことが、一度もないんです。常に、いつも、ビクビクして、調べて、調べて、「もうこれ以上は、締め切りを踏み倒すと食い詰める」というタイミングでなんとかアウトプットをまとめているに過ぎません。

で、結局、どこまで調べたら「オッケー」なのか。

私のメモリアルを駆け抜けてみると、「調べ続けてしまう」という行動そのものの動機として、「調べること」が好きか嫌いかは、あまり関係ないのではないかと思えます。コレは最早、「業(ごう)」に近い。編集氏の言葉を借りれば「呪い」のようなものでしょう。脳内に巣喰う何かを鎮めるために、調べ続け、その結果をくべ続けて祭祀を行い続けている。そんなイメージです。

この呪いをどこで断ち切っていいのか、今、私は切実に知りたい。「調べる」ことを推奨している方々に聞いてみたいんです。「私は、いつ、調べるのを、終えたらんいいですか」と。

「どこまで調べたらいいかって、結局、調査の前段にある“目的”を達成できるかどうかによるからなんとも言えないよねー」そんな答えが返ってくることが、まぁ、瞬間的に思いつきます。「調べる」には大抵、目的があるはずです。提案書のため、企画書のため、取材原稿のため、論文のため、何かをつくるため、何かを証明するため……。

だとしたら、調べることよりも、何を調べるべきか考えるところが「調べる」のキモな可能性があります。自分の目的を達成できたところが、「調べる」の終わりなんでしょうか。生意気を言うようですが、なんかそれって、底が浅い感じがします。

あと「調べる」っていうと、ちょっと前までは「ググれカス」って言葉がよく取り沙汰されていました。今なら「ChatGPTに聞いとけ!」と言われそうです。実際、そこで出てきた情報をもって「調べた」と言い切る人も、昨今、結構、いるようです。

インターネットに載っていない情報や歴史は、そもそも存在しないと考えている人たちもいるようだ……なんて、笑い話なのかホラーか分からない話も聞くようになりました。大学のレポートとかじゃないですよ、出版書籍の話です。担当の編集が“仕事”してるかどうかはともかく、著者はきっとこう言うでしょう、「自分はよく調べて、書いてます」って。

はて、そうだとしたら、そもそも「調べる」ってなんなんでしょうか。私も一生に一度くらい、自信を持って「よし、調査終わり!」って、なってみたいモノです。

ところでこの原稿、ここまでで「調べる」っていう漢字が一体何回出てきたか、数えてた方はいらっしゃいますか。あまりに回数が多いので、私はだんだんゲシュタルト崩壊してきていて、調べるを調べるよりも調べと調べる、ほら「妙なる調べ」っていうじゃないですか、アレ、なんで同じ漢字なんですかね、それを調べたくなって今すぐ漢和辞典が必要な精神状態になってるんです、いやここはやはり『字統』か。そうすると事務所までいかないと……でもああ、さっきから、編集氏から「それ調べる前にとにかく一度、初稿出してください」って、ホラ、連絡が……。

(次回に続く)

*1 記事公開時の累計部数が誤っていると版元よりご指摘があり、正確な数字に修正しました。この件については「調べ」が足りないままでした。お詫びして訂正いたします(編集部)

執筆者紹介

山田苑子
貧乏文系社会人大学院(修了)。テーブルトークRPGと舞台芸術を養分に育ち、学生時代は薄い本作りに全財産をつぎ込む。夢のサラリーマン生活を6年送った後、不適合の烙印と共に独立。現在は個人事業主と法人代表の二足の草鞋を履く。趣味は大学入学と積読と睡眠。母親から譲り受けた季刊誌『銀花』の山を売りあぐねている。書庫を持つ夢を捨てられない専門誌ライター。剣道三段。