「本とコンピュータ」関連書籍が続々と刊行

2010年12月6日
posted by 仲俣暁生

「マガジン航」で先行連載されていた津野海太郎さんの「書物史の第三の革命」を含む新著、『電子本をバカにするなかれ』が国書刊行会から出版されました。この刊行にあわせ、先行公開の最後となる第五回「本の電子化はいつはじまったか?」を公開しました。今回のおもな話題はインターネット上のアーカイブ、つまり図書館であり資料庫です。

津野さんは1997年から2005年まで続いた雑誌、『季刊・本とコンピュータ』の創刊編集長で、『本とコンピューター』『本はどのようにして消えていくのか』(ともに晶文社)という著作もあります。『電子本をバカにするなかれ』には『季刊・本とコンピュータ』に掲載された記事が多数収録されているほか、1986年にリブロポートから刊行され絶版となっていた『歩く書物』という本からも、書物論にかかわる文章がいくつか再録されています。

「本とコンピュータ」にかかわる二つの本がほぼ同時期に刊行。

「本とコンピュータ」にかかわる二つの本がほぼ同時期に刊行。

時期を同じくして、「マガジン航」の発行人でもあるボイジャーの萩野正昭の著書『電子本奮戦記』も新潮社から出版されました。萩野は『季刊・本とコンピューター』創刊時の副編集長でもあり、この本に収められた「異聞・マルチメディア誕生記」は同誌で連載されていた文章を再編集したものです。

このほか岩波新書から刊行された『本は、これから』(池澤夏樹・編)には、萩野をはじめ、「本とコンピュータ」プロジェクトの編集メンバーだった河上進(南陀楼綾繁)さん、四釜裕子さんの文章や、私たちの雑誌にもたびたび寄稿していただいた多くの方々の文章が集められています。また同じ岩波書店から刊行された『書物と映像の未来~グーグル化する世界の知の課題とは』には、「本とコンピュータ」プロジェクトで東アジアの出版についての国際会議を組織するうえで尽力くださった、元平凡社編集局長の龍沢武さんが参加しています。これらの本が、「電子書籍元年」を喧伝されたこの年の終わりに出揃うことになったことにも、なにかの縁を感じます。

『季刊・本とコンピュータ』という季刊雑誌を軸に、ウェブ版やオンデマンド出版、国際出版など多様な出版活動を8年にわたって展開した「本とコンピュータ」プロジェクトに、私も創刊から参加していました。このプロジェクトは2005年に終了しましたが、当時議論したさまざま論点は、本格的な電子書籍の時代を迎えようとしている今後、あらためて大きな問題として浮上してくることでしょう。

「本とコンピュータ」プロジェクトになんらかの関わりのある、これらの本を読んでつくづく思うのは、書物の問題は歴史的な長いスパンで考える必要がある、ということです。津野さんも「書物史の第三の革命」という文章を、このように述べることではじめています。

いま、というのは二十一世紀の最初の十年がたった現在という意味ですが、そのいま、私たちにしたしい本と読書の世界が大きく変わろうとしている。

そのことを前提としてみとめた上で、この変化を「本の電子化やインターネット化に乗りおくれるな、急げ急げ」というようなあわただしい観点からではなく、五千年をこえる歴史をもつ書物史の大きな流れのなかで、できるだけ気長に考えてみたい。

遠い未来を考えるのが大変ならば、わずか数年前のことを振り返ってみてもいいかもしれません。たとえば、5年前に終了した「本とコンピュータ」プロジェクトのことを知ろうと思った場合、インターネットはほとんど役に立ちません。バックナンバーをアマゾンなどで購入できるのは便利ですが、当時のウェブサイトは残念ながらすっかり消えており、多岐にわたった当時の活動全体をみわたすことはできません。

2003年10月頃の「本とコンピュータ・ウェブサイト」。右上のコラムの記事はリンクが生きている。

2003年10月頃の「本とコンピュータ・ウェブサイト」。リンクもところどころで生きている。

そこで、試みにインターネット・アーカイブのしくみのひとつである「ウェイバック・マシン」で、当時のウェブサイトを検索してみました。上の画面は、インターネット・アーカイブに残されていた当時のトップページのうち、もっとも状態のよかった2003年頃のものです。それでもいくつか画像が抜け落ちており、リンクはところどころしか生きていません。たった7年前のウェブサイトなのに、なんと古ぼけてしまったことでしょう。しかし、インターネット・アーカイブが当時のサイトを(もちろん勝手に)記録しておいてくれたおかげで、私たちは当時のことをまざまざと思い出すことができるわけです。

「本とコンピュータ」プロジェクトをいま振り返って感じるのは、本を一つひとつの読書端末としての側からだけでなく、図書館やアーカイブといった、本をとりまく環境全体の側から見渡そうとする姿勢です。

これまでも読書のための「端末」は、長い歴史の中で、石からパピルスや羊皮紙、木簡をへて紙へ、さらに電子機器へと姿を変えてきました。本の未来を考える上でいちばん重要なのは、端末がどのようなものに姿を変えても受け継がれていく、「著作」という意味での「本」であり、それらがつくりだす多様性の確保と、再生産の仕組みの維持ではないでしょうか。目先の電子書籍端末やプラットフォームの競争は、より一段大きな、こうした視点から捉えなおす必要があります。

この「マガジン航」というメディアは、「本とコンピュータ」のささやかな後継プロジェクトです。当時のすべての記事を網羅的にアーカイブすることは難しいですが、おもだった記事でいま読んでも面白いものは、なんらかのかたちで「マガジン航」にも再掲載したいと考えています。当時の寄稿者の方で、「本とコンピュータ」に掲載された記事のここで再録をしてもよいという方はぜひ、編集部までご連絡ください。

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執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。