雑誌売上の減少問題を製品マーケティングの観点から考える

2019年8月19日
posted by 小林徳滋

『出版月報』2019年1月号によると、冊子形式の雑誌の売上は21年連続で縮小しており、休刊点数が創刊点数を上回る状況が10年以上続いている。もはや、分野によっては雑誌媒体が消滅する可能性も考慮せざるを得ない事態である。こうした問題は、通常、出版業界の視点から取り上げられることが多い。しかし、雑誌のビジネスモデルでは購読料収入と広告収入を車の両輪としているため、雑誌の消滅によって影響をうけるのは出版業界だけではない。

雑誌広告を利用している広告主にとっては、製品やサービスのマーケティング手段として雑誌広告が使えなくなるという問題である。ここでは主にソフトウェア製品のマーケティングの立場から考えてみた。

雑誌の中には、無料(フリー)で配布されるものもあるが、大部分は、一号ずつあるいは年間予約による有料で販売されている。読者が無償か有償かによって広告の効果には大きな違いがあり、フリー媒体では広告の効果が上がらないことをしばしば経験する。雑誌の読者は、主に雑誌の記事を目当てに、雑誌を購入するのであるが、内容に対価を支払うという行為によって読者自体が選別される。

マーケティングの観点から言えば、記事の内容に対価を支払うことで読者が上質なターゲットとなる。かかるが故に雑誌、特に専門雑誌の広告は、高度にセグメントされた市場に対する効率的な販促手段となる。私はソフトウェア製品の販売を過去30年以上行ってきたが、この間、コンピュータ/パソコン雑誌がもっとも有効な販促手段であった。

インターネット広告のターゲティング手法もいろいろ開発されている。しかし、現在のネット広告は専門雑誌の広告の代替手段として期待する効果が得られないことが多い。例えば、Googleのキーワード広告は、Webページの内容を検索したキーワードと連動して広告を掲載するのは周知のとおりである。

しかし、よく調べてみるとキーワード広告で得られるページビューには全くピントはずれのことがある。例えば、PDFを印刷する機能を持つソフトウェア製品を販売するため、「PDF印刷」といったキーワードに反応して広告が掲載されるように設定する。

その結果である来訪者を分析したところ、「コンビニでPDFを印刷する」ためにWebページを検索し、検索結果画面に表示された広告をクリックしてきた人が多かった。キーワードのみでは、来訪者選別基準としては不十分なのだろう。

インターネット広告には、このほか、アドネットワークのような手法もあり、一見ターゲッティングの手段が用意されているように見える。しかし、アドネットワークでリーチできるWebページは千差万別の内容を機械的に寄せ集めたものに過ぎない。専門の編集者が編集した雑誌ほどには厳選されておらず、また読者が対価を購って選別したものでもない。

現在のインターネット広告の技術では、良質な見込み客に効率的にリーチするのは至難の業である。この結果、専門的な製品のマーケティング手段としての広告がますます非効率になっている。企業の製品マーケティングの観点から、冊子形式の専門雑誌媒体に匹敵する効果をもつ電子媒体の開発が強く望まれる。


本稿は日本電子出版協会(JEPA)のウェブサイトで7月30日に公開された著者による「キーパーソン・メッセージ」を転載したものです。

執筆者紹介

小林徳滋
1950年生まれ。京都大学・理学部卒業。出版社勤務を経て、1984年8月アンテナハウス株式会社を設立。現在、同社社長。30年以上にわたり、コンピュータソフト製品の企画・開発・販売を担当。XMLによる文書の構造化処理に関心を持っている。2014年1月~現在DITA コンソーシアムジャパン理事長。2016年度より日本電子出版協会理事。2005年10月17日から2008年7月12日まで1000日間連続で「PDF千夜一夜」ブログを書く。第23回盛和塾世界大会において、第20回稲盛経営者賞(非製造業第3グループ第2位)。