3・11後の「知のアーカイブ」をつくる試み

2012年6月20日
posted by 仲俣暁生

みすず書房のPR誌『みすず』6月号に、ハーバード大学エドウィン・O・ライシャワー日本研究所のエリック・ディンモア氏とアンドルー・ゴードン氏による「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」という文章が掲載されています(同社ウェブサイトからPDFで全文がダウンロード可)。この文章を読み、「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」の活動をはじめて知りました。

まだアルファ版とのことですが、さっそくアクセスしてみたところ、「ウェブ・アーカイブ検索」「震災情報レイヤー地図」「わたしの「東日本大震災」」という三つのコーナーがすでに公開されています。

「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」のアルファ版サイト。

「ウェブ・アーカイブ検索」は震災関連のさまざまな資料や記録の横断検索です。まだ暫定版とのことですが、ここでたとえば「図書館」と入力すると、たとえばSAVE MLAKがとりまとめた被災地の図書館や美術館、博物館、文書館、公民館などの被災状況を示す写真や、図書館・アーカイブズの紙資料保存に携わってきた「東京文書救援隊」というボランティア組織の活動などを知ることができます。

「震災情報レイヤー地図」は文字どおり、インターネット上の地図に震災情報をレイヤーでマッピングしていくしくみで、「わたしの「東日本大震災」」は被災者が自身の声をネット上に投稿できるしくみです。

昨年の震災と福島第一原子力発電所事故にかんしては、とても多くの出版物が刊行されましたが、こうしたウェブ上のアーカイブも、もうひとつの「出版」活動といえると思います。この「2011年東日本大震災アーカイブ」については、あらためて機会を設けて詳しくご紹介していく予定です。

* * *

もう一つ、昨年秋に刊行された『印刷白書2011』(日本印刷技術協会)に掲載された前田邦宏さんの文章を再編集した、「「知の赤十字社」にむけて」という論考を「読み物」コーナーに掲載しました。

東日本大震災の甚大な被害を受けて真摯な思いで書かれた文章で、「知のアーカイブス」の重要性が説かれるなど、震災後のメディアのあり方を考える上で示唆に富んでいます。「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ」について書かれた『みすず』の文章とも響きあうところがありますので、この機会にあわせてお読みいただければ幸いです。

東日本大震災後の被災地における知のインフラづくりや地域復興には、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」がすでに始まっていますが、それとは別に、「2011年東日本大震災デジタル・アーカイブ」を見てもわかるとおり、民間側で注目すべきプロジェクトが先行していくつも動いています。正直に言って、発想の柔軟さにしても動きのスピードにしても、これらのほうが官主導のものに比べ一歩も二歩も先を行っています。「マガジン航」ではこうした動きに今後も注目していきます。

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執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。