読み物コーナーに新記事を追加

2010年9月10日
posted by 仲俣暁生

少し間が開いてしまいましたが、津野海太郎さんの「書物史の第三の革命」の連載第3回目(「読者ににじり寄る」ことと「自分を大切に思う」こと)を読み物コーナーで公開しました。

「書物」をめぐるさまざまな本を紹介しつつ、本の未来を展望するこの連載エッセイで今回とりあげられるのは、森銑三と柴田宵曲の共著『書物』(岩波文庫)、テオドール・アドルノの「書物を愛する」というエッセイ(みすず書房刊の『文学ノート2』に収録)です。アドルノはこのエッセイで、装丁が「本のコマーシャル」になっていることを批判しており、それと似たエピソードとして、津野さんが晶文社の編集者だった時代、藤田省三氏から「なぜ本に著者の顔写真をのせるんだい? 本に書かれていることと、それを書いた人間の顔にはなんの関係もないだろう」と問い詰められたことが紹介されます。

書物がアドルノや藤田の考えるような「禁欲的」なメディアであった時代から、「コマーシャル」化した消費財としての本のあり方への変化がおきた時代、それが20世紀という、「きわめて特殊な、よくもわるくも異常な時代」だった、と津野さんは今回のエッセイを結んでいます。いま話題になっている「電子書籍」は、こうした「きわめて特殊な、よくもわるくも異常な時代」を終わらせることになるのか、それとも別の「異常な時代」をもたらすのか。本の未来に関心のある方はぜひ、連載の第1回目からつづけてお読みください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。