津野海太郎さんの「書物史の第三の革命」の連載第2回目(「本の黄金時代」としての二十世紀)を読み物コーナーで公開しました。
今回の話題は、20世紀に起きた紙の本の爆発的な量的拡大です。年間の出版刊行点数が日本国内だけで8万タイトルという、現在の本の洪水状態はいかにして起きたのか。「本の黄金時代」とは、言い換えるなら「本の大量生産・大量消費時代」のこと。いまの電子書籍ブームの背景にある、膨大な紙の本のストックに思いをはせるにはうってつけのエッセイです。
ところでこの連載記事では、書物にかんするさまざまな本が言及されています。今回もメキシコのジャーナリストであるガブリエル・ザイドの “So Many Books” 、フランスの書物史家リュシアン・フェーヴルとアンリ=ジャン・マルタンによる『書物の出現』、日本のメディア史研究者、永嶺重敏の『モダン都市の読書空間』などが言及されています。
しかし残念なことに、日本語で読める後者の2冊は絶版あるいは品切れ状態であり、新刊書店で買い求めることができません。書物史についてのこれらの古典的著作が、紙の本のかたちでは入手困難であることは、「本の大量生産・大量消費時代」における皮肉以外のなにものでもありません。
一方、ガブリエル・ザイドの”So Many Books” のほうは、出版社のサイトで最初の3章までがPDFで公開されており、その内容をただちに知ることができます。ちなみにこの本の英語版を出している出版社、Sort of Books は、ポウル・ボウルズ、ジェーン・ボウルズ、トーベ・ヤンソン、ステファン・ツヴァイク、変わったところではミュージシャンのピーター・ブレグヴァドの作品なども刊行している、1999年に創設されたイギリスのインディペンデント出版社です。刊行点数は少ないですが、1冊1冊の本を息ながく丁寧に売っていこうとする姿勢に好感を抱きました。
この出版社の創業者は社名の由来を、”In short, we publish the sort of books we like.”と述べています。電子の本だろうが紙の本だろうが、出版社がなすべきことは、読まれるべき本を読者に確実に届けることではないだろうかーーそんなことを考えさせられてしまうエピソードでした。
執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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