読み物コーナーに新記事を追加

2010年4月19日
posted by 仲俣暁生

読み物コーナーに、ジョン・シラクッサ氏による記事「電子時代の読書~過去そして未来」を追加しました。シラクッサ氏は2000年前後の第一次電子書籍ブームの時代に、Palm Digital Media(元Peanut Press)という電子書籍の会社で働いた経験があり、当時と現在のブームを比較しつつ、本質的な問題に切り込んでいます。日本語にして24000字(原稿用紙で60枚)という長文記事ですが、じっくりお読みください。

この記事は、2009年2月のArs Technicaに掲載された後(原文はこちらで読めます。The once and future e-book: on reading in the digital age)に大いに話題を呼び、Electric Book Works(EBW)から、無料の電子書籍としても配布されるなど、出版の未来について考える際の必読文献となっています。原文が書かれたのは、アップルがiPadを発表し、電子出版への参入を表明する以前(それどころか、アマゾンもまだ初代Kindleを売っていた段階)ですが、「電子書籍(eBookのコンテンツ)」と、それを読むための「読書用端末(eBookリーダー)」を区別すべきであり、重要なのは端末ではなくコンテンツであるという指摘は、いま読んでも示唆に富んでいます。

日本ではまだ、アマゾンのキンドルも日本語に正式対応しておらず、アップルのiPadの発売も5月に延期となり、本格的な電子書籍の発売はこれからと思われます。しかし、この問題に関心を抱くジャーナリストは多く、今年初めのiPadの発表前後から「電子書籍のについて書かれた本」が増えてきました。せっかくの機会なので、いま手元にあるいくつかの本をご紹介します。

電子書籍について書かれた本たち。このうち、それ自体が「電子書籍」としても発売されているのは、佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』と、ロバート・ダーントンの『The Case for the Book』。

佐々木俊尚氏の『電子書籍の衝撃 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?』は「ディスカバー携書」シリーズからの紙版のほか、ディスカヴァー・トゥエンティワンのウェブサイトで電子版も発売されています。佐々木氏は本の未来を、先行して電子化のすすんだ音楽の世界になぞらえ、これからの本はネットワーク上に「アンビエント化(遍在化)」して存在するようになり、大量生産・大量消費の時代とはことなる、セルフパブリッシングの時代がくることを期待しています。

こうした見方は、すでに「マガジン航」でも紹介した書物史家ロバート・ダーントンの『The Case for the Books』の、「インターネット上でつくられる多層構造の電子本を夢みる」という考えとも重なります。ちなみにこの本の原書は、すでにキンドル版も発売されていました。ぜひ日本語訳を待ちたいところです(冒頭の「グーグルと出版の未来」は、岩波書店の『思想』(2009年6号)に翻訳が掲載されています)。

この他にもIT系ジャーナリストの西田宗千佳氏による『iPad vs. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争』(エンターブレイン)、在米ジャーナリストの石川幸憲氏による『メディアを変える キンドルの衝撃』(毎日新聞社)などが目につきました。この本はどちらも、キンドルやiPadといった「読書用端末」に焦点を当てていますが、その背景にあるのは佐々木氏が指摘する「プラットフォーム戦争」であり、その奪い合いを通じたビジネスモデルの構築です。

シラクッサ氏の「電子時代の読書~過去そして未来」と合わせてこれらの本をお読みになると、「電子書籍」問題の本質がいっそう理解できると思います。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。