インターネット・アーカイブのBookserver構想

2009年10月26日
posted by ボブ・スタイン

インターネット・アーカイブがとてもエキサイティングで、ことによると根本的な変化を生むかもしれないBookServer構想を発表した。インターネット・アーカイブのブルースター・ケールとピーター・ブラントリー、おめでとう。これはグーグル、アマゾン、そしてアップルの真の競争相手になる可能性がある。

以下は、この発表イベントのフラン・トゥーランによる詳細な解説の再投稿である。

すべてが変わった日

フラン・トゥーラン (Fran Toolan)

bookserver

分かってる、大げさに聞こえるタイトルだが信用してほしい。2009年10月19日を記憶すべき日として書き留めてくれ。

自分のキャリアにおいて、デモを見て「ぶっ飛ばされた」ことは滅多にない。今夜は「ぶっ飛ばされた」ことをとても説明できそうにない。その動きを追っておくべきだったのだろうが、僕はそれをしてなかった。完全に不意打ちを食らった形である。チームを率いる優れた才能であるブルースター・ケールと、ブルースターの「評議会」で役割を果たした個人や企業からなるグループ全員に不意打ちを食らったのだ。

僕が見たのは電子ブックの熱心なファンが持つ夢やヴィジョンの多くで、それが今夜いたるところで明白な現実になっていた。僕はブリュースター自身の了解を得て「明白な」と言うが、それはゴールデンタイムに登場する準備はまだできていないけれど、デモはその可能性に僕の頭をクラクラさせるに十分だった。これでも知りたくないなんて言うなら、全力で僕が見たものをレポートさせてもらおうか。

最初から始めよう……

今夜、インターネット・アーカイブの創始者、図書館長であるブルースター・ケールは、「BookServer」プロジェクトと呼ぶものをお披露目した。BookServerは、ツールや事業のフレームワークである。小売業者、図書館員、アグリゲータによる電子書籍の発見、販売、配信を可能にするオープンアーキテクチャのツール一式で、すべて読者が望むデバイス上でとても容易かつ満足できる読書体験を生み出すためのものである。

これではいささか退屈に聞こえるかもしれないが、発表され、デモがなされたものを順を追って辿らせてもらいたい(名前や順番が間違っていてもどうかお許しいただきたい。全部記憶を辿ってやっているので):

* ブルースターは、世界中の図書館でスキャンされた本の数が過去一年で100万冊から160万冊に増加したことを発表した。

* それから彼は、iPhone、Sony Reader、そして他の読書装置でもフォントが変更可能ならテキストをリフローするやり方でStanza経由でアクセスさせることで、その160万冊がすべてePubフォーマットで利用できることを発表した。

* 次に彼が発表したのは、これらのファイルがePubフォーマットだけでなく、「Daisy」フォーマットでも利用できることである。Daisyとは、作品の点字やテキスト音声変換のソフトウェアによる通訳を作成するのに使用されるフォーマットだ。

* 彼が他の媒体に関して引用した上記以外の統計情報として、テレビ録画10万時間、40万もの音楽録音、そして150億(そう、「150万」でなく「150億」だ)ものウェブページがアーカイブされているというのがあった。

* それから彼は一連のデモを演出した。インターネット・アーカイブのラジ・クマーは、BookServerの技術で本をOLPC(One Laptop per Child)XOラップトップに無線で伝送するデモを行なった。100万台のOLPCマシンが世界中の恵まれない子供たちの手に渡っており、今日彼らは160万冊の本に新たにアクセスできるようになったのだ。

* 続いてインターネット・アーカイブのマイケル・アンが、インターネット・アーカイブでMOBIフォーマットで入手できる本がキンドルに――キンドル・ストアの外から――ダウンロードしてキンドル上で読めることのデモを行なった。インターネット・アーカイブの本の多くはMOBIフォーマットでも用意されているので、キンドル読者はどこからでもインターネット・アーカイブの広大なデータベースにもアクセスできるわけだ。

* さて次は、インターネット・アーカイブのマイク・マッケイブが登場し、DaisyフォーマットのファイルがPCにダウンロードされ、それから本を読むのが不自由な人のために特別に設計されたHumana製のデバイスにダウンロードできるデモを行なった。そのデバイスはテキスト音声変換技術を利用してコンテンツを伝送するが、このデバイスの最も驚くべきところは、視覚障害者が、ある章から別の章に移ったり、特定のページに飛んだりと本をナビゲートできるくらいかつてなく使いやすいことだ。

* ブルースターはデモを一休みしていくつかの事実を詳しく述べた。その中で最も重要だったのは、世界中の図書館にある本が三つのカテゴリに分類されるという事実である。一番目のカテゴリはパブリックドメインで、これが世の中の本の20%を占めている――これがインターネット・アーカイブでスキャンされつつある本だ。二番目のカテゴリは活字となり今でも商業的に成立している本で、これが世界の図書館の本の10%を占める。最後のカテゴリが「絶版」だが今でも著作権が残っている本である。これが本の70%を占めており、ブリュースターはこの膨大な量の情報を出版の「死角」と呼んだ。これらの多くが、グーグルブック検索の和解に関連してよく耳にした孤児作品――著作権保持者に連絡を取る方法が誰も分からない――である(出版業界にいる僕の友人は全員、こうした統計をしばらく考えたら、頭がクラクラし出すだろう)。

* 繁栄するデジタルエコシステムは、情報が自由に手に入るだけでなく、消費者が本を買ったり、借りたりできなくてはならないということについてブルースターは話を続けた。

* ここでマイケルが戻って来て、iPhoneのStanzaリーダ上で――BookServerの技術を使って――オライリーから出ている本を買うデモを行なった。Stanzaからでなく、オライリーから直接購入したのだ。本の読者であれば、それに驚くことなど何もないと思うかもしれないが、出版業者にとってはこれはすごく驚くべきものなのだ。StanzaはBookServerの技術をサポートしながら、伝送プラットフォームとしてその技術を使って出版社や他の小売店から直接商品を買うこともサポートしている(繰り返すが、出版業界にいる友人はこのことを少し考えてもらいたい)。

* 最後のデモは僕には目新しいものではなかったが、ラジが壇上に戻り、彼とブルースターが、Adobe ACS4サーバ技術を使って電子書籍の貸し出し、そしてどこにある図書館からでも二重貸し出しからの保護が可能であることのデモを行なった。はじめブルースターが貸し出しプロセスを実演し、それからラジが同じ本を借りようとしたが、その本は既にチェックアウトしているので借りることができないと分かるわけだ。ソニーへの賛辞があり、それからブルースターは、自分が借りたテキストをSony Readerにダウンロードした。このモデルは、(多くの出版社が、図書館から電子書籍のコピーを無限に「貸し出し」するのが容易すぎることを恐れているのに反して)図書館が出版社から書籍を購入し、可能な冊数だけ貸し出しを行なう慣習を保護している。

* この夜のプレゼンテーションの最後に、ブルースターはこのプロジェクトに関わった人たちの多くに、壇上に上がり、自分たちがここにいる理由と、何がこのプロジェクトに参加する動機となったか少し話してくれるよう求めた。壇上に上がったとても多くの人たちは、彼らが代表する多様な所属組織と同じくらい見ごたえがあった。最後にはステージは人でいっぱいになったが、その中には、ライザ・デイリー(Three Press)、マイク・タンブリン(Shortcovers)、アンドリュー・サビカス(オライリー)といった僕が知る人たちもいた。それ以外は僕が知らない人になるが、アドリアン・ガードル(Feedbooks)、OLPCの最初の画面を発明した女性、本の著者、トロント大学の司書、イングラムから来たカートライト・リード、そしてAdobeの代表者がいた。

Bookserverによる配信イメージ。

Bookserverによる配信イメージ。

イベントが終わると、僕は滞在していたマリーナ地区まで歩いた。その夜感じたチャンスや引き起こされるであろうことを考えると本当に頭がクラクラきた。僕はここに来るよう依頼されてイベントに立ち会い、完全に打ちのめされている。

インターネット・アーカイブは、これまで本にアクセスしたことがない何百万人もの人たちに対し、本の入手可能性を一挙に拡大し、これまで情報を持たなかったところに情報をもたらした。それがどんな新興市場を作り出すか、もっと重要なのは本にアクセスすることで、新しい知性が我々の集合知に何を貢献するかは誰も分からない。一連のデモで、ブルースターは、無料が図書館の貸し出しモデル、そして商業市場と共存できる世界を示した。このエコシステムにおける重要な両方の顧客の利益を守っている。彼はまた、最も洗練された形で、我々の大規模小売業者の友人や検索エンジンの巨人といったあらゆる「クローズドシステム」をつまらないものとして表現してみせた。

僕はこれが持つ意味についてまた投稿しなくてはならないだろうが、僕よりも賢い人たち――その人たちの多くに僕は今日会うことができた――が、起きたばかりのことについてずっと歯切れよく語ってくれるだろう。僕のほうは未だぶっとばされたままだ。あれは「ゲームのルールが変わった」日だったと思う。完全に実を結ぶまでには2、3年かかるかもしれないが、歴史上でそれが可能であることがすべて示された日を特定することができる。その場に僕を招待(というより、その気にさせてくれたと言うべきか)してくれたピーター・ベントレーに感謝しなくてはならない。ワオ!

(日本語訳 yomoyomo)

■この記事のオリジナルはこちら
The internet Archive (and friends) announce Bookserver

(この記事はThe Day It All Changed(Follow the Reader)からの再投稿です)

■関連記事
“BookServer”これは驚き!
Bookserver訪問記