アマゾンのこれからを「読む」には

2012年12月5日
posted by 大原ケイ

日本でもようやくキンドルが出回り始めて、実際の使い心地も、サービスの内容も一通りわかるようになったから、次はこの先のことをアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスはどう考えているのかが知りたい……というのがせっかちな日本のマスコミの心情のようだ。

とはいえ、アマゾンは具体的な数字を一切出さないニュースリリースやプレゼンに長けているので、アメリカの業界事情を詳しく知るレポーターでさえも、正確な売上げの数字や今後の動きについては慎重にguess work(当て推量)するしかないのが実情だ。

アマゾンに関する断片的なニュースから察するに、来年はヨーロッパ市場でキンドルに力を入れていくと思う。日本はぶっちゃけ、後回し。良くて、しばらく様子見といったところだろう。だって、自費出版プログラムも、アンドロイドのアプリマーケットも、クラウドDB事業も、ストリーミングのインフラも、やることはすべて日本でもやったんだから文句ないでしょ? あとは日本のスタッフが引き続きこつこつと腰の重い日本の版元相手に交渉を続けてコンテンツを増やしていくしかない。

自主出版と多国語展開がカギ

ところで、いまヨーロッパ、とくにキンドルの躍進が著しいイギリスでは、ルクセンブルクに支社を置くアマゾンが、メチャクチャ安い3%のVAT(付加価値税。日本の消費税に相当)しか払っていないのに、Eブックをアマゾンに卸すイギリスの出版社は20%のVATを支払わなければならないのはアンフェアだ、という批判がある。

アメリカ国内でも州法による課税の違いで、すでに同じようなバトルをアマゾンは経験してきた。自分たちだけが名指しで糾弾された場合、倉庫を州税率が低い近隣の州に移転したりして、徹底的に抗ってきたのだ。しかし今回は、もしEUが頑張って付加価値税で足並みを整えれば、それに従うしかない。おそらくそうなることを予測して、アマゾンもすでに準備しているだろう。アメリカ国内のゴタゴタに関しても、連邦政府が統一した見解を示せばそれに従うとベゾスは言っているし、なによりも「税金逃れできたから成功したワケじゃない」というのは正論だろう。

ヨーロッパでもこれからは自主出版(self publishing)のビジネスが伸びるという勝算はある。ちょうど、西海岸に置いていたアマゾン出版の幹部をルクセンブルクに移して、アメリカ国内の出版事業はニューヨークのラリー・カーシュバウムが統括していくと発表したばかりだ。日本でもすでに「Gene Mapper」の例があるように、これから自主出版の中からヒット作品が生まれて、出版社から出ている本と競合していくだろう。そのときに消費者が納得できる付加価値をつけられない出版社は苦しい戦いを迫られることになる。

西海岸にあったアマゾンの出版レーベルの中には、ひとつの国で売れているものをアルゴリズムで絞り出して、これは翻訳して他の国でもいけるな、となったらそれを出版する「アマゾン・クロッシング」という翻訳書部門もあって、ヨーロッパ市場に力を入れるとなったら、さらにここから多言語に翻訳されてヨーロッパ各地でヒットする本が出てくるだろう。

キンドルの日本語環境をいくら整えたところで、日本語で書かれた本の需要は日本国内以上の広がりはあまり期待できないわけだけど、例えばポルトガル語環境を整えれば、ポルトガルでもEブックが売れるし、同じコンテンツをそのままブラジルで売ることもできる。実際、日本でのキンドルサービス開始のすぐ後にブラジルでのサービスが始まったけれど、マスコミ対応で見る限り、日本向けサービスより力が入っていたように思える。

アマゾンが実店舗を出す可能性

Fortune誌は2012年のBusiness Person of the Yearにベゾス氏を選出した。

本国アメリカでも今年のクリスマス商戦はやっぱりアマゾンが強いよね、ってことで、ベゾスは今年のフォーチュン誌の「年男」に選ばれている。そのタイミングでインタビュー番組の大御所、チャーリー・ローズの番組にベゾスが出てきたインタビューがあったのだが、その内容を汲んでいくつかのサイトで「アマゾンが○○をやろうとしている!」というニュースが掲載された。

その中に「アマゾンがブリック&モルタル(つまり路面店)を計画している!」という見出しを使ったのがあって、それに日本のマスコミが飛びついたわけだが、実際の記事を読んでみれば、「if only(〜という条件がクリアされれば)」という言い回しで、実際には可能性を否定する発言をしており、見出しで釣ってPVを稼ごうというセコいニュースサイトに日本のマスコミが本気で釣られた悲しい紹介記事もあった。

チャーリー・ローズとのやりとりで、ベゾスは「Only if we can have a truly differentiated idea.(もし、全く違うやり方ができるのなら)」と言っている。つまり「うちもよそと同じような店舗があります」というやり方は絶対しないと。ということは、ベゾスにこれなら従来のリテールとは全く違う店が作れるという確信がなければ「やらない」ということなのだ。そしてこの後すぐに「いまのリテール業を見ると、サービスとして行き届いている。リテール業の人は頑張っている」「アマゾンならでは、というアイディアはいまのところない」と明言している。

この後に続く次の質問、「アマゾンのスマホ」については、ひたすら言及を避けながらも、「You have to wait and see.」 つまり、発表できる時期まで待ってくださいと言っているのだから、こっちは準備している、と言うことだ。まぁ、日本での展開は、やったとしてもアメリカの何年も後だろうし、こんだけガラケーもしぶとい国ではやらないかも。でも実店舗よりは可能性があるんだから、スマホ作っているメーカーはビビっておいた方がいいかもね。

アマゾンとはどういう会社か

約20分にわたるこのインタビューでは、日本のキンドル事業には一切触れていないながらも、アマゾンとはどんな企業なのか? これから何をやろうとしているのか? ジェフ・ベゾスは何を考えているのか? という興味深いヒントがたくさんあった。アマゾンってどういう会社なのか? という本質的な質問に対する彼の答えはこうだ。

1) Customer-obsessed
顧客第一、つまり競合他社のことなんて屁とも思ってないよ、という姿勢。

2) Thinking Long-term
長期的視野でマーケットを捉えている、Kiva Systems(流通倉庫でロボットが商品をピッキングする自動システムの会社)を買収して初の赤字、みたいな四半期ごとの数字は気にしてないよ。

3) Willing to Invent
何か新しいことを発明しようとしている。失敗しても、誤解されても、その結果、既存の業界がダメになろうが、今までなかったビジネスを展開していくよ、ということ。

ベゾスは、自分はスティーブ・ジョブズより、ウォルマートの創設者、サム・ウォルトンに共感する部分が多いと言っている。お客様のためにものを安く売るためにはどうすればよいか、という部分に努力をしている点が同じだと。

次にこれからのアマゾンの根幹ビジネスとして時間を割いたのがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)というBtoB事業。ようやく11月30日付けで東洋経済が「アマゾン、知られざる法人向けビジネス」という記事を書いたが、知られてなかったのはあんたたちがちゃんと書かないからでしょ、という感じ。

でもベゾスの発言が面白いなぁと思えるのは、実はこの先の話で、彼はインターネットなんてまだまだ初期段階で、rate of changeが緩まってからがやっと第2ステージだと言っている。コンピューターウィルスによるインフラ破壊とか、アメリカの高等教育機関の未来とか、壮大なスケールでワクワク、ドキドキするようなことを言っている。Paperwhiteか Kindle Fireか、なんて端末の話はどうでもいい。

ひとつだけ、私が個人的にアップルもグーグルも狙ってくるだろうという、これからの電子書籍ビジネスの大穴といえる部分に突っ込んでいるのだが、これは私の口からは言いたくないので、興味のある人はインタビュー映像を見てほしい。

多様なバックグランドを持つ優秀な人たちとブレストする仕事がいちばん好き、というジェフ・ベゾスにとって、今の日本の社会や市場ほど息苦しい場所はないだろう。そういう意味では、日本の出版業界は(せっかくのイノベーションをもたらす好機である)黒船を追い出すのに効果的な場所だというわけだ。なんと皮肉なことか。

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台湾の電子書籍をEPUB 3で広げる

2012年11月28日
posted by 董 福興

posted by 董福興(WANDERER Digital Publishing

このたび『Gene Mapper』という小説の中国語繁体字版(『基因設計師』)のEPUBファイルの制作を担当し、ワンダラー(WANDERER Digital Publishing)という会社を起業したばかりの董です。『Gene Mapper』は、著者の藤井太洋さんが一人で電子出版し、販売しています。この作品をすでに数千人もの人が読んだことで、日本にもようやく電子出版の元年が来た、という実感があります。

中国語繁体字版『基因設計師』をKinde Paperwhiteで表示したところ。

電子出版の「元年」は実際にいつやってくるかということへの私自身の考えは、以下のとおりです。

  1. 電子書籍が本のように読みやすいこと
  2. 読みたい本が電子書籍として存在すること
  3. 電子書籍が手に入りやすく、その状態が永続すること

この三点が満たされれば、元年がいつだったかは、そんなに重要なことではありません。日本はこの方向に進んでいます。しかし中国語繁体字による台湾の電子書籍がこの三点を満たすまでには、まだ何年かが必要と思います。

中国語繁体字の「電子出版元年」

ここで、台湾の電子出版の歴史について少し書いてみたいと思います。中国語繁体字とコンピューターの歴史は、あるインプットメゾット(IME)ができたことから始まります。1976年、「中国語コンピューターの父」といわれる朱邦復さんが「倉頡輸入法」というIMEを発明しました。いまのPinyinやBopomofoなどのように、読み方から入力するものではなく、漢字の形を分けて、入力するものです。1982年に、彼はこのIMEの特許権を放棄しました。中国語繁体字とコンピューターは、それからどんどん繋がっていきました。

中国語繁体字対応のキーボード。「中」、「大」、「人」、「心」などは、倉頡輸入法に対応するため。

朱邦復さんは2000年頃に、台湾のコンピューター会社と連携し、台湾初の電子書籍リーダーを作りました(下の写真を参照)。これは2001年に発売された「文昌一號」で、日本における∑ブック、LIBRIeに相当するものです。

当時、出版社の人は彼にこんな苦情をいったそうです。

「そんなものを作ったら、誰も紙の本を買ってくれなくなる。私たちは倒産しちゃうぞ!」

しかし、当時は技術が未熟でしたので、電子書籍のリーダーもコンテンツも、全然広がっていきませんでした。その間、電子辞書のほうは発展していったにもかかわらず、電子書籍はブームになれなかったのです。

その後、KindleやiPadの普及とともに、台湾でも電子書籍関係の販売サイトはどんどん増えています。けれども技術者たちは出版のことを全然わかっておらず、できあがった電子書籍は全然「本らしく」ありません。

台湾は当初、EPUB 2を共通フォーマットとして採用しましたが、これは縦書きもできず、禁則処理もできませんでした。技術者には、なぜ出版者がその組版ではダメだというのかがまったくわかっておらず、表現力のあるビューワやリーダーは、今までにひとつもありませんでした。

日本にはボイジャーのように、20年間にわたって電子書籍を一途にやってきた会社があります。また「青空文庫」というアーカイブもあります。そうした基盤の整備が固められていたからこそ、今のような発展があるのです。

EPUB 3と中国語繁体字

EPUB 3が制定されたとき、台湾の「資訊工業策進會」のエンジニアが一人参加していました。彼の熱情によって、EPUB 3は日本語だけではなく、中国語繁体字にもうまく対応することができるようになりました。

縦書きは、いまではもう中国本土にはない、台湾独自の文化です。中国ではかつて「文化大革命」がありましたよね。それ以後、中国語簡体字の書籍は、ほぼ全部が横書きです。また香港も中国語繁体字を使っていますが、イギリスの植民地だったこともあり、やはりほとんどの書籍が横書きです。台湾は中国語圏のなかで、縦書きを維持している、最後の場所になります。

私は今年(2012年)の国際電子出版EXPOに参加して以来、EPUB 3の制作技術を研究してきました。そのうちに、なんとか中国語繁体字の電子書籍を制作できるところまでたどり着きました。しかし、満足できる結果にいたるまでには、まだ基盤の一角が欠けています。それはフォントです。

中国語繁体字の問題としては、以下の三つがあります:

1)文字の数が多い
日本の漢字は、JIS第三、第四水準まで含めても、2万字くらいでしょう。また中国語簡体字なら、6000字あるだけでも実用に足るフォントになります。

しかし中国語繁体字は、政府機関が公表する公的書類文字交換コード「CNS11643」によると、9万以上の文字があります。しかも、実際にその全部を含んだフォントの一揃いがありません。Windowsのシステムフォント「新細明體」は7万字、OS Xのシステムフォント「黑體―繁」は5万字でしかありません。また書籍印刷用のフォントとしても、3万〜4万文字が必要となり、その容量は簡単に10MB以上になります。これらを作るのはかなり苦労でした。

2)フォントが古い
DTPがブームになったとき、台湾では華康(Dynafont)や文鼎(Arphic)といった会社が、いろいろなフォントを作りました。しかし、当時は国内用のBIG 5コードを使っており、文字の数も2万を超えていませんでした。その後、Unicodeに転換したときにも、よく使われている二つのフォント、明体(明朝体)と黒体(ゴシック体)だけに対応し、ほかのフォントはすべてBIG 5のまま放置されてしまいました。また約物なども古い基準のままなので、これらのフォントを指定しても、Readiumで見ると、使えないものだということがわかります。

システムフォントも古いものばかりなので、約物がバラバラ。

3)印刷用の書体が四種類がある
台湾には繁体字ともに、中国の印刷文化が保存されています。その伝統にしたがって本を作るときには、次の四種類の書体が必要になります。

・明体=宋体(日本の明朝体):これは書籍には必須の書体です。しかし残念ながら、iOSにはこのフォントが入っていません。iBooksで使えるのは、内蔵されている「黒体―繁」だけです。
黒体(日本のゴシック体):これはシステム用フォントなので、全部のシステムにあります、しかし、電子書籍には不向きな書体です。
・楷体:これは書道の書体で、繁体字ではまだまだよく使われています。
・仿宋:これは中国宋代に、木で活字を作るときに用いられた独自の書体です。木には繊維があるので、この書体は繊維の方向に沿って書かれる縦の筆順は細く、横の筆順は太くなっており、かなり美しいものです。いまは明体ともども、よく使われています。

印刷によく使われる四書体(右上から時計まわりに、楷体、仿宋、黒体、明体(宋体)。

これからの展開

中国語繁体字フォントの基盤が固まり、必要最低限である明・黒・楷三種類のフォントがそれぞれ4万文字に対応しました。これらは約物の横、縦対応やフォントデザインのベースラインなど新しいフォントの基準も満たしています。今後さらに望ましいのは、それら三種類のフォントがオープンフォント(BSD License)になることです。できれば、Windows、OS X、iOS、Android、Linuxなどのシステム内蔵フォントになり、自由になってほしいと思います。

上の写真は台北にある、台湾最後の一軒となった「日星鑄字行」という活字屋です。台湾でもっとも古い楷書活字を持っており、何万字もあるため、これらをデジタルによって保存することは大変です。

これらのフォントが電子化され、自由になることで、中国語繁体字の電子書籍がもっと広がることを私は望んでいます。目的は商売でもいいし、文化の保存でもいいのです。何千年も昔から現在まで生き続けてきた中国語繁体字と縦書き文化を、デジタルの力によって、この先も生き続けさせたいのです。

最後に、ワンダラーが制作したEPUB 3の見本をご紹介します(下記からダウンロードできます)

塑膠鴉片:http://wanderer.tw/post/34646924318/plastic-opium-epub-vertical-ebook-for-free-download

この作品は、著者からクリエイティブ・コモンズのライセンス(CC BY-NC-ND)によって開放されている作品です。ワンダラーの手によって、この作品の縦書きEPUB 3のファイルを作ってみました。Embedded Fontは台湾文鼎(Arphic)のオープンフォントAR PL MingU20-L明体です。ぜひ、お手元のEPUB 3ビューアで試してみてください。

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図書館のための電子書籍ビジネスモデル

2012年11月21日
posted by 秦 隆司

アメリカで電子書籍が定着し始め売上げも伸びているが、いまだに大きな問題となっているのが、図書館での電子書籍の貸し出しだ。電子書籍は何年経っても劣化せず、基本的に1冊のデータでどこからでも何人でもアクセス可能なものなので、伝統的な紙の本の貸し出しとどう差別化を計っていくかので図書館側と出版社側のせめぎ合いというか、模索がおこなわれている。

この8月にアメリカ図書館協会(ALA)のデジタル・コンテント&ライブラリーズ・ワーキンググループから提言の形で、図書館と出版の電子書籍における条件を探った複数の電子書籍ビジネス・モデルが発表されたので、今回はそのモデルの紹介をしてみたい。

※この記事の内容に、アメリカ図書館協会(ALA)のディレクター、キャリー・ラッセル氏へのインタビューをくわえたロングバージョンは、ブックジャム・ブックス編集部編の電子書籍、『ニューヨークの夜と文学ギャングたち』(BinB形式)でお読みいただけます。

六大出版社と図書館の関係

その前に、まずアメリカにおいての図書館と出版社の今の関係を手短にみてみよう。アメリカには「ビッグ6」と呼ばれる大手出版社がある。これはランダムハウス,ペンギン、アシェット、ハーパーコリンズ、サイモン&シュースター、マクミランの6社。(2012年11月のいまランダムハウスとペンギンの合併話が進んでいる)

電子書籍についてこのビッグ6のそれぞれの図書館との現在の関係は以下のとおり。

マクミランサイモン&シュースターは図書館での電子書籍の貸し出しを許していない。マクミランは9月末に電子書籍の提供において図書館とパイロット・プログラムを始めるとアナウンスしたものの、それがどんなプログラムであるかはいまだ不明。

ハーパーコリンズは1冊の電子書籍に対して図書館が貸し出せる回数を26回までに制限している。図書館の有するライセンスは26回を過ぎると切れてしまい、それ以上貸し出しをしたい場合、図書館は再び電子書籍を購入しなければならない。

ランダムハウスは、全ての貸し出しを許可しているが図書館に販売する電子書籍の価格を大幅に上げている。

アシェットは、パイロットプログラムとして特定の図書館に一定の電子書籍の貸し出しか許可していない。

・一度は図書館から電子書籍を引き上げたペンギンは新たな1年間のパイロット・プログラムを発足させ、ニューヨーク公共図書館とブルックリン公共図書館に電子書籍の提供を始めた。内容は新刊電子書籍については一定期間が過ぎなければ提供をおこなわず、1年間を過ぎると図書館の取得したライセンスは無効となり、図書館は再びその電子書籍を購入しなければならないというもの。

……とまあ、出版社によりばらばらで、これといったスタンダードが出来るまでにはまだまだ道のりは遠いという感じだ。

アメリカ図書館協会のレポート

大手出版社の足並みが揃わないなか、先ほど触れたようにアメリカ図書館協会(ALA)のデジタル・コンテント&ライブラリー・ワーキンググループがビッグ6を想定し、どんな形で電子書籍の提供が可能となるかを探ったレポートを発表した。

このレポートは「Ebook Business Models for Public Libraries(公共図書館における電子書籍のビジネスモデル)」というタイトルがつけられている(プレスリリースはこちら。レポートのPDFはこちら

このレポートでは、出版社が図書館に電子書籍を提供するにあたり、図書館側から求めるべき3つの基本的な条件が示されている。

その3つの基本的な条件とは、

  1. 一般に販売されている電子書籍は全タイトル図書館でも貸し出しが可能であること。
  2. 図書館が購入した電子書籍は図書館の所有物となり、ほかのデリバリー・プラットフォームへの移行も含め、期間制限なく貸し出しが可能であること。
  3. 出版社やディストリビュータは図書館側にメタデータを提供し、図書館側がデータを効率的に管理し、検索できるようにすること。

以上の3つの基本的な条件は、図書館と出版社が結ぶいかなるビジネス・モデルにおいても必要となってくるとALAは見ている。今すぐ、全ての条件を勝ち取れなくとも、図書館は公共施設の機能としての自己の組織のことを考えれば、最終的にはこの3条件を外すことはできず、図書館はこの条件を勝ち取る努力をすべきだという。

そのほかの具体的なビジネス・モデルとしてALAは次のようなものを提案している。

シングル・ユーザーモデル:1冊の電子書籍に対し、貸し出しを1人の利用者だけに制限したモデル。ふたり以上の利用者に貸し出しを可能にさせるためには割り増しの値段や、利用回数を制限した契約を結ぶ道もある。

利用回数制限モデル:決められた貸し出し回数に達した場合、図書館が再び同じタイトルの電子書籍を購入するモデル。このモデルは3つの基本的な条件に反しているが、値段が安く充分な貸し出し回数許可が与えられる場合は容認できる。またこのモデルでは一定期間が過ぎた場合は、延長をしないと自動的に所有権が図書館側に移るというサンセット条項を入れて契約を結ぶことが理想的だという。一定の利用回数に対しお金を払うのは実際的には「購入」ではなく「レンタル」であることを知っておくべきだろう。

ディレイド・セールスモデル:電子書籍の新刊本に対し、出版社が数週間から数ヶ月間、図書館への提供を遅らせるモデル。このモデルも厳密には3つの基本条件から外れるが、その遅れの程度によって容認できる。提供が遅れた本は価値が落ちるため、価格に反映されディスカウントされるべきだという。また、一方では人気となる新刊本への遅れのない提供に対してプレミアム価格を支払うことも考えられる。

イン・ライブラリー・チェックアウトモデル:これは図書館で電子書籍を借りようとする人は、実際にその図書館まで出かけて行き、借り出し手続きをしなければならないというもの。図書館からの電子書籍の貸し出しがあまりに手軽で、販売されている電子書籍の売上げを妨げるという考え方から、出版社にとって有利となるモデルだ。利用者にとってははなはだ面倒で、図書館まで足を運ぶことが実際に出版社の電子書籍販売の妨げとなっているという信頼できる統計もないため、このモデルを受け入れる図書館は少ないと思われる。

インター・ライブラリー制限モデル:実際にその電子書籍を購入した図書館以外での利用を制限するモデル。同じ組織に属する図書館でも、実際に購入しない限りその電子書籍の貸し出しはおこなえない。

以上、いくつかのビジネス・モデルを紹介してきたが、フィジカルな書店が数を減らすなか、図書館を出版社の「ショールーム」として使ってもらい、よりよい条件を模索するということも考えられるとALAは述べている。

そのいくつかのアイディアは以下のようなものだ。

出版社の全電子書籍出版リストによるショールーム化:図書館の利用者は本を買う人々であることから、その図書館に揃っているかどうかに関わらず、出版社の全電子書籍出版リストを見られるようにする。そのリストを見た人は図書館にその電子書籍を揃えるように促すか、直接その電子書籍の購入をおこなう。

セールス・チャンネル:図書館のインターネット図書リストに「Buy it(購入)」の機能をつけ、出版社の販売を助ける。図書館はこの販売から一定の収入を得る。

読者へのアドバイス:図書館からの推薦により、本への興味を喚起する。電子書籍関係のサービスをさらに充実することにより読者と著者および本の結びつきを深める。

ALAデジタル・コンテント&ライブラリーズ・ワーキンググループは、この数年間の図書館がおこなう選択が、今後の図書館と電子書籍の関係に大きく影響するため、将来の利用者も充分考慮しながら舵を切って行くことが重要として、このレポートを締めくくっている。

ALAが全米の図書館のために、出版社との電子書籍購入に対するビジネス・モデルを示したのは興味深い。お役所ではないので、これが即スタンダードとなることはないが、契約時に図書館側の取るべき姿勢がはっきりしてきたといえる。

アメリカの出版社と図書館が足並みを揃えることはまだまだ先の話となるようだが、新たに生まれた電子書籍の契約条件については図書館も出版社も探っていかなければならない道であることは確かだ。

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神田古本まつりで「電子書籍」体験を

2012年11月9日
posted by 池田敬二

昭和35年から開催されている神田古本まつり。約100店舗が参加し、出品される本の数は100万冊以上だという。今年は10月27日(土)から11月3日(土)まで開催された。国内はもちろん、海外からも多くの「本好き」「活字中毒たち」が訪れた。

古書探しはもちろんのこと、神保町の街情報もわずかなキーワードから「連想検索」によって探し出してくれる心強い存在が、2007年10月にオープンした「本と街の案内所」である。神田古本まつり開催期間中には多くの人々がこの案内所を訪れた。この「本と街の案内所」には、2011年9月から未来の読書環境の提案を行なう実験室として、電子書籍端末による読書体験ができる「e読書ラボ」が開設されている。市販の電子書籍端末を一堂に展示し、実際に手に取って比較できる。多くの古書や新刊書籍を買うために人が集まる神田神保町で、電子書籍が体験できる貴重な場所である。

連日、夕方まで大勢の人出で賑わった神田古本まつり。

「電子書籍体験コーナー」での貴重なヒアリング

私が所属する一般社団法人 電子出版制作・流通協議会(通称、電流協)は、電子出版の制作・流通に関する市場とビジネスを成長拡大していくために、2010年に設立された。現在、約130社の会員で構成されている。

今年の神田古本まつりの期間中、電流協は「e読書ラボ」の協力で「本と街の案内所」の奥のスペースに「電子書籍体験コーナー」を開設した。試用できる電子書籍端末およびコンテンツを増設、より多くの来場者にじっくり電子書籍での読書を体験してもらおうとテーブルと椅子も用意した。紙の本のヘビーユーザーに、電子書籍を紹介しようという試みである。

ゆっくり触る機会の少ない読書用端末を体験できるコーナーが設置された。

事前には迷いもあった。古本まつりの来場者と電子書籍のユーザー層は属性がまるで違うので、無意味ではないか? という危惧である。いや、だからこそ意味があるはずだ! と、この企画を推進してきた電流協普及委員会や「e読書ラボ」を運営している国立情報学研究所 連想情報学研究開発センターのスタッフとも侃々諤々のディスカッションを繰り返した。結果、電子書籍や電子出版の普及活動の一環として、まずは実施してみようということになった。

実際に私が立ち会った感触をお話しよう。会期直前の10月25日にアマゾンkindleの日本販売のニュースも飛び込み、この話題もあってか、想像以上に「電子書籍体験コーナー」に関心を持っていただいたようであった。

蓋をあけてみれば、ほとんど電子書籍は初めてという方ばかり。残念ながらKindle Paperwhiteは展示できなかったが、ソニーリーダーやkobo Touchなどを並べたところ、「これなら紙に近い」「文字の大きさも変更できて便利だ」「家が本で溢れているので、一定量でも電子化できれば助かる」という好感触の初心者の声が聞かれた。天候によって増減はあったが1日平均約40人で期間中約300人の来場者がこの「電子書籍体験コーナー」を訪れた。

特に印象的だったのは奥様が入院中の老紳士の話だ。寝たきりの奥様は大の読書好きだが、手が不自由になって本を持つことさえ難しい。耳で読むオーディオブックや朗読ボランティアなどを提案したが受け入れず、自分の目で活字を読みたいのだという。ここならいろいろな電子書籍端末が見られると娘さんがプリントアウトした地図を頼りに、電車を乗り継いでいらしたのだった。

操作方法を確認すると「これなら妻も使えそうだ」と、一つ一つの端末について丁寧にメモを取る姿に胸を打たれた。大きさが比較できるようにペンと一緒に電子書籍端末をデジカメで撮影しながら、床ずれ防止のため体位交換する都合上「(左右、中央とベッドの)3ヶ所に順次固定する工夫がいるなぁ」とつぶやいていらした。電子書籍の役割は、読書形態がアナログからデジタルに移行するだけではなく、読みたくても読めない状態を解決できるという側面があることをあらためて実感したエピソードであった。

電子書籍とアクセシビリティーについて

出版コンテンツをデジタル化することで、これまで読みたくても読めなかった高齢者や視覚障がい者などに、待望の読書の道を切り開くことも可能だ。アクセシビリティーといえば、スマートフォンや iPadなどタブレットのユーザーインターフェースでおなじみのピンチイン、ピンチアウト(タッチパネル上で2本の指で画面をつまむようにして操作すること)による文字の拡大縮小機能や、視覚障がい者が利用している音声読み上げ機能を思い浮かべる人が多い。

デジタル化されたテキストデータは、音声に変換させるTTS(Text To Speech)の技術や音声合成エンジンも驚くほど進化している。ちなみに、電流協のニューズレターはアクセシビリティーの観点から、毎号PDF版、HTML版、EPUB版に加えて、音声合成された朗読が埋め込まれたTTS機能付EPUB版も発行している。関心のある方はその実力を試していただきたい。

このTTSは視覚障がい者や高齢者だけでなく、いわゆる健常者にも聴覚で「読む」という行為が新しい読書スタイルとして定着する可能性がある。満員電車の中でいくら読みたくても物理的に本を開くことができないような状態でも、TTSであれば聴くことができる。出版物だけでなく、通勤電車の中などで新聞など速報性の高いコンテンツも適しているといえる。

また出版物を朗読した音声コンテンツのオーディオブックは、かつてはカセットテープやCDといったパッケージメディアであったが、現在はインターネット上でダウンロードする形式が主流になっている。オーディオブックの市場規模は日本では10億円程度といわれているが、全米オーディオブック協会の発表によると米国では2010年のセルマーケットで1167億円、ダウンロードマーケット市場で692億円と大きな市場を形成している。セルマーケットとダウンロードマーケットの数値比率の逆転も、新しい統計で見られるはずだ。

アメリカでオーディオブックが日本に比べてはるかに大きな市場を形成している要因として、国土が広大で車社会なので移動中に耳で「読む」習慣が浸透していることや、就労ビザで集まる多くの外国人たちが文字よりも音声で英語に親しんでいることも挙げられる。オーディオブックは声優らが朗読して録音するためコストも時間もかかるが、TTSは低価格、短時間での音声変換が可能である。電子出版以外でも文章の校正やレシピなど様々な応用が可能であると新たなサービスも登場している。

こうした電子書籍をアクセシビリティーから捉えることは、社会的意義や福祉の側面で重要であるのと同時に新しい読書スタイルを生み出し、市場拡大につなげるという意味でも見逃せない視点である。新刊書籍や過去の膨大な出版コンテンツにもアクセスできる環境が整備され、誰もが読める電子出版が実現できれば、出版社をはじめとする出版業界にとっても、そして何よりも読者にとって理想的な姿といえるだろう。

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アクセシブルな教科書としての電子書籍
電流協ニューズレターのダウンロードページ(電子出版制作・流通協議会)

エージェンシーに電子書籍は追い風となるか

2012年11月2日
posted by 大原ケイ

日本の電子書籍にまつわる一連のバカ騒ぎと、私個人の仕事(翻訳権売り込み業)とは本来あまり関わりのない話なのだが、本の電子化という過程において、これからはおそらく著者と出版社の間で電子化権を誰が預かり、印税をどうするのかという話をしなければならなくなるだろう。つまりは契約だ。その話し合いに果たして日本でもリテラリー・エージェントという“クッション”が必要かどうかを考えてみる。

日米での出版契約の違い

日本で出版社から本を出すことになった場合、当然のように担当編集者が話を進めるその「本を出す」という行為は、オフセット印刷の紙の本を、日本語で書き、日本国内で販売することを指す。だがそのディテールについてはかなり曖昧で、著者はとりあえず〆切りと提示された頃に、だいたいの目処で決められた枚数内の原稿を編集者に渡し、とくに問題がなければいつのまにやらそれが本になり、刊行され、忘れかけた頃に「著者を甲、出版社を乙とした、ピラの紙」が2セット送られてくるので、両方に署名とハンコをして1通を送り返すという、すでに世の中に本が上梓されていることを考えると何のためなのかよくわからない作業がある。

今まではそんなやり方で問題がなかったから済んできただけの話で、よく考えてみれば個人と企業が合意の上で取り組んだプロジェクトであっても、双方の意志が相反して何かしらのトラブルにならないわけではない。

一方、契約社会のアメリカでは、本を1冊出すことが決まった時点、つまり編集者の企画が編集会議を通った時点で詳細な取り決めがぎっしり詰まった契約書を出版社と著者の間で交わすのが習わしとなっている。ボイラープレートと呼ばれるこのヒナ形は出版社によって異なるが、何十ページにも及ぶことが珍しくない。

これはつまり日米での根本的な考え方の違いで、アメリカでは「あとで揉めて訴訟になったりすると面倒くさいから(それに訴訟にかかるお金がハンパじゃないし)、最初にキッチリ決めておきましょうね」というところを、日本では「映画化だの増刷だのとなった場合にはその時にまた相談しましょうね」と後回しにしているだけのことなのかもしれないと思ったりする。

実際のところ、刊行されるほとんどの本が初刷以上に捌けず、数週間もすると書店から消え、あとは「在庫なし増刷予定なし」でウヤムヤにされて消えていくのだから、出版側にとってはこうするのが一番ラクなのだ。著者から何か問い合わせがあっても「売れてないんだからこれ以上なにもできません」と言われてしまえば手出しはできないし。実のところどれだけ売れているのか、本当に初版部数だけ刷られたのか、増刷予定はないのか、などが知らされることはほとんどないのだから。

デジタルな電子書籍が出てきたことで、このアナログ的な“藪の中”状態が許されなくなることを期待している。それなのに、「著作隣接権」というコンセプトに政府のお墨付きをもらおうなんて、版元が著者に対して「うちで本を出したんだから、トーゼンなんですよ」と、これまで通りなぁなぁで済ますための策にしか思えない。

そんな権利をわざわざ発明しなくても、電子化権や映画化権を著者と版元のどちらが預かって売り買いするのか、売れた場合の利益をどう分けるかをキッチリ最初から決めておけば済む話なのだから。

「まずエージェントを見つけましょう」

ただし、著者というのは出版契約の素人なので(今のところ版元も)副次権の種類や妥当な印税率というものがわからない。そこでアメリカで活躍するのがリテラリー・エージェントというわけだ。エージェントを通してでないと持ち込み原稿は見ないという出版社もすでに多い。アメリカで「publishing」にまつわる本を検索すると、どうやって本を出すか、という本が多いことにも驚かされるが、その第1章は必ず「まずエージェントを見つけましょう」というものだ。

欧米で活躍するリテラリー・エージェントの人たちは、元編集者も多く、いちばん著者に近いところで書き手を育てたいという思いからエージェントになる場合が大半だ。弁護士の資格を持っている人もいるが必須ではない。元出版社勤めということで、その出版契約が妥当なものかどうかがわかるし、この著者のこんな本ならあの出版社のどの編集者という売り込み先もわかる。玉石混淆の原稿の中からモノになりそうな作品を探し出し、著者をクライアントとしてずっと抱えるので、長期的なキャリアを考えてあげることができる。出版社と揉める前に間に入ることができる。ともすると力の強い出版社のゴリ押しに負けないように著者を守ることもできる。

もしかしたら日本の編集者からすれば、この「間にワンクッション入る」のはやりにくいと思うのかも知れないけれど、メリットもある。著者の作品が売れていないとか、盗作の疑いがある、といった面倒なやりとりをしなければならない場合、間に誰か公平な判断ができるプロがいるのはありがたいと思うのだけれど?

これまで日本でも「作家のエージェント」を名乗るAやBという団体もあるが、ちょっと調べてみると「その原稿や企画が売り物になるかどうか、プロの目で見てやるから、手数料払え」「もし売れたら、これから書いた原稿からも甘い汁を吸わせていただく」というサービスらしく、企画ごとにン万円というお金を取るようだ。これは欧米のエージェントとしては、モグリがやることで、基本的にエージェントを名乗るからには、出版が決まってから著者印税(やアドバンス)のパーセンテージ(だいたいは15%)をロイヤルティとして受け取るのが不文律となっている。

そしてこういう日本の出版プロデューサー的なサービスには、海外での翻訳出版による副次権収入はまるで望めないのが実状だ。海外にも売り込みますというサービスを展開しているTなどは概要を英訳したり、ウェブページで作品を紹介するところまではやっているようだが、こういうやり方で欧米での出版が決まるのはほんの一握りで、今のところ「海外」=「アジア諸国」に留まっている。

編集者が出版社を辞めて立ち上げた「コルク」

そんな中、講談社の編集者2人が「コルク」というエージェンシーを立ち上げたという話を耳にして、さっそく話を聞いてきた。現場で働く編集者が、これからの出版業界にエージェントという仕事が必要だと考えてくれたことは喜ばしい。

エージェントが作家を育て上げたところで、日本の出版状況を考えると、「印税の15%」という数字では、やっていくのは苦しいだろう。どうやってエージェントの存在をjustifyするのか、つまりフリーランスとしてやっていくための付加価値を付けていくのか、静観したい。願わくば元雇用主の講談社にオイシイ話を持ち込むだけの御用達エージェントではなく、広くオークション(企画や著者を複数の出版社の間で競わせること)も手がけるようなエージェンシーに成長されたし。

このコルクについては、これからも日本のあちこちのマスコミで取り上げられるだろうから私としてはエールを送りながら見守るつもりでいる。

今の私にキンドルやkoboについてもっと見解を聞かせて欲しいという声があるのは承知で、こちらは敢えて発言を控えている。なーんだ、結局品揃えとしては他の電子書籍ストアとあまり変わらないじゃないの、と感じている人もいるかもしれない。だけど、実際に使い始めると色々なことがわかってくると思うので、その辺の洞察を期待する。

※大原ケイさんの個人ブログ、「マンハッタン Book and City」の「電子書籍時代は日本にエージェンシーをもたらす追い風となるか?」(2012年10月28日)を改題して転載したものです。

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