都立多摩図書館で「雑誌の再起動」セミナー開催

2018年1月18日
posted by 仲俣暁生

東京の都立図書館としては港区・広尾にある都立中央図書館のほかに、昨年1月に立川市から国分寺市(最寄り駅は西国分寺)に移転した都立多摩図書館がある。多摩図書館の主な目的は、雑誌の特性を活かしたサービスを行う「東京マガジンバンク」と、子供の読書活動を推進する「児童・青少年資料サービス」とされており、前者の機能を果たすため、雑誌の創刊号を揃えた「創刊号コレクション」をはじめとする約1万7000誌を揃えている。

多摩図書館では現在、東京マガジンバンク企画展示として「雑誌の未来を考える」というコーナーを設け、貴重な所蔵雑誌の一部を年表などとともに紹介している(3月15日まで)。

また、この企画展示と並行して昨年11月より、東京マガジンバンクカレッジ〈雑誌総合セクション〉連続セミナー「雑誌の過去・現在・未来」も開催されてきた。この第3回目の講師として、「マガジン航」編集発行人の私も登壇させていただく予定である。第2回までのセミナーはすでに終了しているが、第3回のみの参加はまだ受け付けているとのことなので、あらためてここで告知させていただく。

こうしたテーマで行われるセミナー等にお声がけいただくようになったのは、2011年に刊行した『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)という本のおかげだと思うが、2018年の現在、雑誌をとりまく環境はこの本にまとめた記事を書いていた2009年〜2011年にかけてとくらべても、さらに変化している。市場規模の縮小や休刊雑誌の増大にとどまらない、地滑り的な地殻変動が起きていると言っていい。

過去2回のセミナーで講師を務められたのは、元小学館の岩本敏さん(『BE-PAL』 『サライ』『週刊日本の天然記念物』『ラピタ』『駱駝』等の編集長を歴任)、久我英二さん(暮しの手帖社編集局長兼営業企画部長、元マガジンハウス執行役員編集局長)といった、そうそうたる経歴の方々であり、モデレーターをつとめてくださる清水一彦さんも、マガジンハウスで『POPEYE』の編集長を務められた方だ。

こうした「雑誌の表通り」に比べ、私が経験してきたのはいわば、「雑誌の裏通り」あるいは「横丁」といえるかもしれない。東京ローカルの情報誌だった『シティロード』にしても、まだウェブやITビジネスの草創期に創刊した第一期の『ワイアード日本版』にしても、大日本印刷によるメセナ的なプロジェクトだった『季刊・本とコンピュータ』にしても、上記の雑誌に比べれば、はるかに部数の少ないニッチな雑誌だった。

さらに2009年から続けているこの「マガジン航」というウェブマガジンにしても、ここ数年、注目をしている日本各地のローカルメディア(地域雑誌)にしても、あるいはジンやリトルプレスと呼ばれる少部数出版物にしても、これまでの大量生産・大量流通・大量消費を前提としたマスマガジンとは違った考え方で運営されている。これらのニッチなメディアにはニッチなりの読者と寄稿者のコミュニティがあり、「雑誌的」なメディアの役割は、紙からデジタルに変わっても本質的なところでは変わらないのではないかと私は思う。

これらのニッチなメディアは果たして「雑誌の再起動」へとつながるのか、それとも「雑誌的」に編集されたメディアがすべて不要な時代がやってくるのか。この大きな問いをめぐり、セミナー当日は、私自身のささやかな雑誌編集経験と、「マガジン航」を含むウェブ上の新しいメディアの経験をふまえつつ、モデレーターの清水さんとも議論しつつ話をすすめるつもりである。会場からの発言、質疑応答なども大いに歓迎したい。

なお、都立多摩図書館の「マガジンバンク」は貴重なバックナンバーを含めた多種多様な雑誌を手にとって見られるという、雑誌について知りたい人にとっては格好の公共施設である。このセミナーは参加費無料で、席にもまだ余裕があるようなので、「マガジンバンク」を見学にくるついでに立ち寄っていただければと思う。

連続セミナー「雑誌の過去・現在・未来」〜第3回「雑誌の再起動」

日時:2018年2月4日(日)14:00-16:00
会場:東京都立多摩図書館 2階 セミナールーム
参加費:無料(要申込み)※当日参加も可
定員:120名 程度

講師:仲俣 暁生(「マガジン航』編集発行人、大正大学表現学部客員教授)
モデレーター:清水一彦(元『POPEYE』編集長、江戸川大学メディアコミュニケーション学部マス・コミュニケーション学科教授)

※申込みは以下のサイトより。
http://www.library.metro.tokyo.jp/event/tabid/4370/Default.aspx

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。