TPP大筋合意との報に際して

2015年10月10日
posted by 青空文庫

aozora-bunko

10月5日より各種報道にて、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について参加各国が大筋合意したとのニュースが流れております。

青空文庫では、これまで著作権保護期間のさらなる延長について反対し、またTPPに関しましても、文化に大きく影響を与えるにもかかわらず、国民不在のまま進められる議論に強く憂慮して、「TPP著作権条項に関する緊急声明」にも賛同するとともに、日々パブリックドメイン作品のデジタルアーカイヴを推進することによって、著作権の失効した本が社会で自由に活用されることの重要性を訴えて参りました。

青空文庫に関わるボランティアは、その多くが作家や作品のファンであり、また少なからぬメンバーが、自分たちの好きな本がいつまでも読み継がれ、世界じゅ うで自由に分かち合われ、これから先も公有財産として大切にされてゆくことを強く願うだけでなく、共有された知や文化が社会に循環され、次の新しい創作物 が生まれて未来の文化が育まれてゆくことを心から祈って、日々の作業に取り組んでおります。

その立場から見て、著作権保護期間がさらに20年延びることによって、これまで産み落とされてきた無数の本に、そして将来の世界の文化に、いったいどれだけ資することがあるのか、疑問を抱かざるを得ません。

もちろん、青空文庫は法律を遵守して活動することを旨とし、公正な利用と保護によって文化の発展を目指す著作権法の理念に基づいて、保護期間の満了した本を「青空の本」として、読む人にお金や資格を求めず、これからも豊かな本の数々を集めていきたいと考えております。さらに著作権者本人が公開を希望する本もまた、一定の条件のもとで継続的に受け入れていく方針です。

また報道以来、青空文庫へのご心配が数々寄せられておりますが、TPPの大筋合意のために明日すぐ当文庫が閉鎖されるとか、保護期間延長によって青空文庫の活動そのものがなくなるといったことはございませんので、その点はひとまずご安心ください。

TPPに関して今後、条約の締結や国内法の整備などが進められていくことでしょう。とはいえそのなかで、ひとりひとりが粘り強く声を上げ、自分たちの文化がどうあるべきなのか、あきらめずに議論を続けることも必要です。

今ようやく芽生えてきたパブリックドメインによる豊かで多様な共有文化が損なわれないような、柔軟な著作権のあり方を切に望みます。

※この記事は2015年10月7日に青空文庫の「そらもよう」に掲載された同題の文章をそのまま転載したものです。

執筆者紹介

青空文庫
1997年7月創立。誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようとするボランティア活動。著作権の消滅した作品と、「自由に読んでもらってかまわない」とされたものを、テキストとXHTML(一部はHTML)形式に電子化した上で揃えている。現在は、さまざまに開発された青空文庫対応の表示ソフトを利用すれば、本のページをめくるように、作品を読むことも可能。呼びかけ人の富田倫生(1952-2013)を先頭に、自由に活用できるパブリック・ドメインと文化共有、そして誰かの生きた証である創作物を後世に遺すデジタル・アーカイヴの意義を訴えつつ、著作権保護期間の延長について一貫して反対している。
http://www.aozora.gr.jp/
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