図書館向け電子書籍貸出サービス普及への課題

2014年11月13日
posted by 鷹野 凌

11月5日から7日まで、パシフィコ横浜で「第16回図書館総合展」の展示会が開催されました(図書館総合展週間は2日〜8日)。私は6日に行って、一般社団法人電子出版制作・流通協議会(電流協)主催のフォーラム「公共図書館における電子書籍貸出サービスについて」と、展示会場内の取材をしました。以下はそのレポートです。

ポット出版「プラス電書」の試み

電流協のフォーラムでは、11月10日に発売される『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2014』(植村八潮 編著、野口武悟 編著、電子出版制作・流通協議会 著/ポット出版)が全員に配布されました。

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実はこの本、紙版を購入すると電子版が無料で付いてくる「プラス電書」という新サービスに対応しており、帯(内側)に印刷されたクーポンコードを対応電子書店で入力するとダウンロードできます。

同様のサービスには、文教堂の「空飛ぶ本棚」(専用アプリ)、三省堂の「デジ本プラス」(BookLive!)、昭文社の「まっぷる」シリーズ(専用アプリ)などがあります。「プラス電書」が目指している方向性がユニークなのは、ネット通販を含めどの書店で買っても利用できて、しかも複数の対応電子書店からユーザーが自由に選べる点です

今のところ対応予定の電子書店は、honto、紀伊國屋書店ウェブストア、BOOKSMART、BookLive!の4ヶ所ですが、順次拡大予定とのこと。恐らく将来的には、クーポンコード入力に対応しているプラットフォームであれば、どこでも利用できるようになるのではないでしょうか。また、ポット出版の沢辺氏によると、対応版元も拡大していくとのこと。今後が楽しみなサービスです。

また、この本は非再販商品です。つまり、書店に定価販売義務はなく、時限再版というわけでもなく、発売当初から希望小売価格制で販売されます。紙版の希望小売価格は2600円+税、電子版単独での希望小売価格は2000円+税と、この手の専門書としては比較的安価です。図書館向け貸出サービスの現況や課題が網羅的に取り上げられているので、この分野に興味がある方や業界関係者の方々は一読をお勧めします。なお、電子版は、ビューワの読み上げ機能や本文検索機能などを考慮し、フィックス型ではなくリフロー型になっています。

電子書籍貸出サービスの現況

フォーラムの登壇者は、植村八潮氏(専修大学教授/電流協技術委員長)、野口武悟氏(専修大学教授/放送大学客員教授)、山崎榮三郎氏(日本ECO)、長谷川智信(元電流協事務局)。司会は増田典雄氏(電流協事務局)です。以下、『電子図書館・電子書籍貸出サービス 調査報告2014』の章立てに沿って解説が行われたので、概要を記しておきます。

まえがき

植村氏から、「電子図書館が“再び”注目されている」と書いたのは、1994年にアルバート・ゴアが発表した「情報スーパーハイウェイ構想」に端を発した一大ブームがあったから、という説明がありました。京都大学の電子図書館実験システム「Ariadne」が公開されたのもこの年で、設計・開発を行った長尾真氏の著書『電子図書館』(岩波書店)も出版されています。また、2009年にはグーグルブック検索集団訴訟問題が発生。2010年には『電子図書館 新装版』が復刊され、2度目の電子図書館ブームが訪れます。ちょうどその頃、長尾氏は国立国会図書館館長でした(2012年に退官)。

第1章 電子図書館の定義と開発の経緯

「そもそも電子図書館とは何か?」という定義から始まります。90年代後半には「誰も正しさを担保していないインターネット上の情報なんか電子図書館じゃない」という意見もあったそうです。図書館の電算化や90年代の実証実験、大学図書館への電子ジャーナル導入、岩見沢市立図書館や生駒市図書館での事例など、これまでの歴史についても触れています。

第2章 電子書籍と図書館向け貸出サービスの実際

この章ではまず「電子書籍」の定義と、市場動向について触れています。そして、図書館が電子書籍を導入するメリットとして、置き場所の節約、管理コスト軽減、24時間利用、資料の保存(アーカイブ)を挙げています。植村氏は「電子書籍なら安く買える」だけではなく、紙の本を返却してくれない人への督促状の発送費や、本を棚に戻す人件費が軽減できる点にも目を向けて欲しいと語りました。

また、野口氏から、公共図書館向けアンケート調査では、電子書籍サービスに期待している機能として「文字拡大」「音声読み上げ」「文字と地の色の反転」といった、アクセシビリティ向上が上位だった点が挙げられました。

改正著作権法第37条第3項(2010年に施行)で、図書館が障害者向けに行うサービスは著作権者の許諾が不要になりましたが、DAISY制作の多くは図書館がボランティアベースで行っており、タイトル数がなかなか増えない点を指摘。市場で売られている電子書籍は、最初から読み上げ機能に対応しているようにして欲しい(つまりフィックス型ではなくリフロー型)という要望を述べました。

また、現在主流になっている図書館向け電子書籍貸出サービスは、図書館がサーバーとデータを所持しているのではなく、図書館外にあるクラウドにアクセスする形式が中心になっています。すると、電子書籍は「図書館資料」なのか? という定義が問題になります。後述しますが、これは会計処理などに関わる問題です。図書館法では「電磁的記録」と規程されているので、CDやDVDなどのパッケージ型は図書館資料とみなされますが、クラウド型の貸出サービスにはこれが当てはまらないため、法改正が必要とのことです。

山崎氏からは、図書館の基幹システム(富士通とNECが大半のシェアを占めている)の歴史と、電子書籍貸出サービスとの連携、期待されている点などについて説明が行われました。出版社からは従来型の買い切りモデルではなく、ライセンス制の導入など柔軟な対応が望まれているそうです。

第3章 図書館向け電子書籍貸出サービスの現状

この章は具体例として、国立国会図書館デジタルコレクションオンライン資料収集制度「eデポ」や「図書館送信」、公共図書館で電子書籍貸出サービスを導入している事例として札幌市中央図書館、大学図書館の事例として慶應義塾大学メディアセンターが挙げられています。また、学校図書館とデジタル教科書、その他の専門図書館についても触れられています。

第4章 「公共図書館の電子図書館・電子書籍サービス」調査の結果と考察

この章では長谷川氏から、電流協でこの調査を行うようになった経緯と、調査結果の概要が述べられました。全国公共図書館の中央館1352館に調査票を送り、回答が得られたのが743館、回収率は55%。都道府県立図書館の回収率は高く(91%)、関心が高いことがうかがえるそうです。

電子書籍サービスを実施しているのは38館5%と、昨年の同調査に比べると館数は増えていますが、昨年より調査対象が多い(昨年は360館が対象で回答225館)ため、単純に比較するのは難しそうです。

・電子書籍サービス実施予定なしは539館73%
・デジタルアーカイブ実施予定なしは526館71%
・国立国会図書館の「図書館送信」申し込み予定なしは426館57%
(※図書館送信の参加館は11月4日時点で360館

コンテンツに関する課題は主に出版社側の問題なので、アンケートではそれ以外の課題も尋ねています。予算確保、知識不足、サービス中止に対する不安感などが上位です。

第5章 事業者別電子書籍サービスの現状

この章は、図書館向け電子書籍貸出サービスを行っている事業者についてのレポートです。

TRC-DL(図書館流通センター・大日本印刷・日本ユニシス)
明和町電子図書館サービス(凸版印刷)
BookLooper(京セラ丸善システムインテグレーション)
ドキュメントコンテナ for ライブラリ(想隆社)
ジャパンナレッジ(ネットアドバンス)
NetLibrary(紀伊國屋書店)
Maruzen eBook Library(丸善)
LibPro(アイネオ)
AMLAD(NTTデータ)
日本電子図書館サービス(KADOKAWA・講談社・紀伊國屋書店)
OverDriveメディアドゥ

第6章 「図書館向け電子書籍貸出サービス」普及に向けた課題と提言

最後に課題と提言です。植村氏から、図書館向け電子書籍貸出サービスはクラウド型が中心なので、契約したベンダーのシステムに依存せざるを得ないが、カスタマイズを強く要求するケースが多く、コスト高になって普及の阻害要因になっているという指摘がありました。

また、契約モデルの不在も課題として挙げられました。アメリカでも大手出版社が積極的になったのは、2012年8月に米国図書館協会(ALA)がビジネスモデルを提案して以降だったそうです。また、OverDriveが米国で展開している「Buy it now」ボタンのような出版社と図書館の協調関係も、参考にすべきだと語りました。ちなみに、図書館総合展のメディアドゥ・ブースで、慶應義塾大学メディアセンター向けの画面を見たら、「Buy it now」ボタンはありませんでした。検討はしているが、当初は設置しないそうです。

他には、会計処理の問題もあるそうです。大学図書館での実例として、電子ジャーナルは雑誌の電子化なので資産計上しなくてよいが、電子書籍は図書なので図書に準じた会計処理を行う必要があるという解説(『月報私学』2010年12月号)がなされたため、わざわざデータをDVDに焼いて資産計上しているとのこと。実態として、クラウド型の電子書籍貸出サービスは「購入」しているわけではなく、アクセスする権利を得ているに過ぎないので、資産計上しなければいけないのは道理に合わないわけです。著作権法が改正され2号出版権(公衆送信権に対応)ができたのと同じように、図書館法も改正すべきだと提言されました。

図書館総合展のブース

図書館総合展に出展していた電子書籍貸出サービス事業者については、ブースの写真を撮ってきました。

図書館流通センター・大日本印刷・丸善

京セラ丸善システムインテグレーション

想隆社

以下は日本電子図書館サービス(JDLS)のブースについて。

JDLSのブースは講談社とKADOKAWAのあいだに。

山中湖情報創造館で実証実験が開始された(出版社名として、講談社・KADOKAWA以外に、文藝春秋、学研、研究社、インプレス、筑摩書房の名前が見える)。

ビューワはボイジャーの「BinB」を採用していた。

以下はメディアドゥとOverDrive関係。

メディアドゥのブース。

慶應義塾大学メディアセンターでOverDrive電子図書館システムの実証実験が開始された。

国内では慶應義塾大学出版会とポット出版がコンテンツを提供している。

これ以外には、図書館をまとめて検索できるウェブサービス「カーリル」、本棚があるコミュニティスペースを簡単に図書館にできる「リブライズ」、下北沢の「本屋B&B」「共読ライブラリー」プロジェクトの帝京大学メディアライブラリーセンター、図書館専門メーカーのキハラなどの展示が目を惹きました。

図書館検索サービス「カーリル」のブース。

試作品の図書館向けICタグ対応タブレット端末とNFC拡張アタッチメント。

ビールが飲める「本屋B&B」も出展。

「すべての本棚を図書館に」するリブライズ。

帝京大学メディアライブラリーセンターのブースは2階建て。

キハラは100周年ということで歴史的図書館用品の展示を行っていた。

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