第3回 開戦篇(完結)

2014年10月22日
posted by 原田晶文

『ストラタジェム』計画の全貌

さてさて。ロビン・スローン著『ペナンブラ氏の24時間書店』の日本版(日本語版ではなく)を書いてリリースまでしちゃおう! というリアルタイム進行の無茶ブリ企画もいよいよ大詰め。今回は皆さんのお手元に届くまでをお伝えしていく所存である。

まずはおさらいも含めて、本計画の全貌を整理しておきたい。

これは翻訳ではなく、あくまで原案として『ペナンブラ氏〜』を分解し、その基本骨格を拝借した上で、肉付けとして我が国独自の出版文化ならびに現代日本の出版界の抱える様々な事象を盛り込んで、かつ日本的キャラクター演出によって本家『ペナンブラ氏〜』に対するルサンチマン根性(筆者個人の)のガス抜きをしてしまう、という企画である。当初計画ではほんの短篇で済ますはずが、右往左往しているうちに雪だるま式に膨らんで、今では壮大な三部作構成になってしまい、しかも各部が4巻分冊という非常に低効率な企画に広がってしまった。

まず、本シリーズのメインタイトルは『ストラタジェム』である。ニュアンス的には策略、計略といった感じの言葉である。本作全体に流れるウス汚い知略の数々を象徴する言葉として、これをタイトルとした。

今回は、かの『スターウォーズ』にあやかって、三部作の第二部からスタートすることにした。「ことにした」などというといかにも狙ったように聞こえるが、実際は話を考えていくうちに、前日譚と後日譚を思いついてしまって、本作に盛りきれないので、全体が三部作になってしまったというだけのことである。タイトルは『ニードレスリーフ』。全体タイトルと部タイトルを「;(セミコロン)」で繋ぐのが本作の流儀になっているので、今回ご覧頂く本のタイトルは『ストラタジェム;ニードレスリーフ』である。

元々の計画ではこのタイミングで第二部『ニードレスリーフ』の全部をお届けするはずだったのだが、「兼業作家」のタマゴかサナギの身としては、そこまでの注力ができず、恥ずかしながら四分の一だけのお届けとなってしまった。申し訳ない。つまり、今回は第二部全8章のうちの第2章までのリリースとなる。4分冊になったので、丸一日考えて、部タイトルの下に巻タイトルを追加した。

その結果、第1巻は『キルアクロウ』が副題となった。各巻のタイトルはもちろん由来も仕掛けもあるが、これを読み解いていただくのも愉しみのうちだと思うので、ここでは伏せておきたい。4巻分のタイトルを見比べて、秘密がわかったらニヤリとしてもらえるとは思う。ちなみに第2巻以降の副題は、後述のPDF版の目次でのみ先行告知する。ぜひ上手いこと入手していただきたい。

いずれにしても、小説は第1巻まで完成した。あとはどう人前に出していくかということになる。そうだ。いよいよ開戦なのだ。

工作員にはコードネーム(ペンネーム)が必要だ

今回はとくに青春小説というかとっても主人公が青臭いので、あとで「あの人(=原田)はいつもあんなことを考えているのだな。いやらしい」とか「なんて腹黒いやつだ。いやらしい」などと揶揄されることが大いに考えられる。もしこれを本名で晒してしまうと、兼業作家としての半分の人格のほうはまだいいが、編集者あるいは経営者としての人格のほうは、対人関係にも多大なる影響があることが懸念される。

この小説はあくまで自分の中の別人格が、無意識下で勝手に思いついたことであり、あくまで私の意見ではないのであるので、ご安心ください。と言えるようにしておく必要があるので、ここはやはりペンネームを立てておきたい。

ペンネームに関しては明治、大正、昭和初期の頃は非常にミヤビでキラキラしていた。夢野久作、竹久夢二、久生十蘭、黒岩涙香、幸田露伴、尾崎紅葉、徳富蘆花、泉鏡花、正宗白鳥などなど百花繚乱である。その反動かどうかはわからないが、そのあと登場する作家は普通のペンネームが多い。たとえば、藤沢周平、山本周五郎、西村京太郎、栗本薫、伊坂幸太郎。あとは……普通のペンネームはだいたい本名だった。まあその、本名も含めて、地味な名前の作家が多かったのだ。

最近は本名がどんどんキラめいているせいもあってか、個性的なペンネームが増えている。メジャーどころでは川原礫、西尾維新、橙乃ままれ、平坂読、冲方丁あたりか。姓はともかく、下の名前は非常にバラエティに富んでいる。ケータイ小説だと、ハンドルネームのままで活動する人も多いので、氏名形式でないペンネームがたくさんある。もっとも小説家のペンネームはまだ人名に見えるのでマシなほうで、イラストレーターや漫画家方面は言うまでもないが、もともとかなりフリーダムだ。

自分の場合は、あくまで人名っぽく、かつネット文化のエッセンスがあって、何かをもじったもの、がいいのかなということで、まず上の名を「波野」とした。これは私が以前からネット上で遊ぶときに使っていたハンドルネームであり、かれこれ15年近く馴染んでいるので使いやすい。オフ会でそう名乗ることも多かったので、街中でいきなり呼ばれても自然に振り向けるぐらいだ。

悩んだのは下の名前。本名からもじったり、いろいろ付けたり外したりしていたのだが、なかなか定まらない。いろいろ試行錯誤した挙げ句、最近全編まとめて見た大河ドラマ『龍馬伝』で「船中八策」と出てきたのにインスパイアされて、軽薄にも「はっさく」に決めた。「発作」だと「ほっさ」と読み違えしやすいので、麻雀好きなのもアピールしつつ「發作」とした。合わせて、「波野發作」(なみのはっさく)ということで決定。名前だけでも覚えて帰っていただきたい。今回の連載は本名だが、もしも次があるのならばペンネームでの出陣となる、かもしれない。

基本戦略: 主力の三つのリフローと、遊撃隊のPDF

本編も書けて、ペンネームも決まった。あとはどう打ち出していくのかを考えるだけだ。だけだ、と言ってもこれが難しい。当たり前である。

「電子書籍で出す」というのが基本路線である。理由は資金がないから。以上。そもそも資金なんかなくても勝手に本を出しちゃうぞという企画である。この段階で「三百万円あるので印刷して書店に出しました」ではただの自費出版レポートにすぎない。なので、紙の話はもうしない。1冊ぐらい自分用に刷ってもいいけど、それはまた別の機会に。

形式の話をすると、基本的にInDesignで制作したので、まずPDFとして完成している(なんならそのまま印刷所に送り込んでもいいのだけど?)。この時点で配布、拡散、あるいは販売は可能である。であるが、流行に乗るのであれば、やっぱりここはEPUB3を無視できない。諸事情を鑑みて、かつ自分の直接手の届く範囲ということを考えると、「PDFとEPUB3の二つの形式を使い分けてみる」というのを今回の基本戦略としたい。

まず、EPUB3またはそれに準ずるリフロー形式をもって、KDP、楽天Kobo、コンテン堂で販売を行う。この三点をもって販売戦略の主力とする。これらは10月末〜11月前半には順次発売することとなるだろう。本稿はそれら主力の展開に対しては日程的に先行するため、これに合わせて特別版『ストラタジェム;ニードレスリーフ;巻ノ零 アプライズ』としてBiB/iを利用して公開し、これを読者へのクサビとした。

ちなみにここで公開するものは、販売されるものとは内容が異なる必要があったので、本編とは別に新たに書き下ろしたものだ。大人の事情は後ほど説明するが、まずはちょっとだけストラタジェムの空気を吸ってみていただきたい。

アプライズ

主力の発売開始に先行して、PDF版を特別配布することを決めた。前回ご案内申し上げたとおり、10月31日新宿ゴールデン街のバー「ネッスンドルマ」にて、SideBooks ユーザーミーティングを本当に開催するが、来場者特典として、『ストラタジェム;ニードレスリーフ;巻ノ壱;キルアクロウ(PDF版)』を直接配布する。PDF版はいろんな意味でリッチに仕上げているので、この機会をお見逃しないよう、ぜひユザミに足をお運びいただきたい。

こちらのバージョンはDRMフリーで直接譲渡のみ再配布を許諾しているので(要はネットでイージーにバラ撒いちゃダメよってこと。つまんないから)、会場に来られなかったという人は、手に入れた人からぜひ「分けて」もらって欲しい。PDF版の活用については他に隠し球はあるが、現時点でお伝えできるのは以上である。

PDFで展開しても、ええじゃないか

EPUBの研究や普及を目指す会というのはいくつかあるが、PDFの同じような会合というものがなかなか見当たらない。自分が知らないだけなのかもしれないが、あるのなら行ってみたいし、本当にないのなら作ってみたい。とはいえ、PDFはすでに普及が済んで、研究する余地もあまりないというのもまた事実である。

印刷屋なら当然誰でも知っているが、現代の印刷の工程では必ずと言っていいほどPDFが生成される。

InDesignであれば、トンボを外し、単ページで書き出すようにするだけで、電子書籍用のPDFが出来上がってしまうのである。Web用書き出しのチェックを入れれば容量も抑えたものにもできる。それだけだ。3分程度の作業しか要らない。上記工程では10回もクリックしていないのではなかろうか。すでにここまで来ているのに、ここからわざわざ「電子化」と呼ばれる工程を追加して他の形式にしないとならないほど、PDFはダメなのだろうか? いいいじゃないかそのままドンドン売れば。

今回の『ストラタジェム』の制作を通して痛感したのは、「イチ表現者として」は、やはりPDFでの配布は捨て難いということだ。PDF版とEPUB3版の両方を用意したが、自分の表現したいものを100%反映しているのは、PDF版である。EPUB3版はどうにも痒いところが掻けていない感がある。文章を書くだけでOKな表現者ならば、あれでもいいのかもしれないが、自分はもっとこだわりたい部分がある。

小説はモノクロで文字だけだが、フォント使いや、ページ送りなど、演出上遊べる要素はいくらでもある。モノクロにこだわる理由もない。例えばミヒャエル・エンデの『果てしない物語』は、墨文字ばかりではなく、特色の印刷ページもある。もちろん物語上の演出であるが、紙の世界はこのように自由自在に表現できていた。これからEPUBもどんどん表現の幅が広がっていくとは思うが、PDFは現時点ですでに紙と同じことが表現できるのであるから、もう少し活用していきたいと思っている。一番SideBooksを使ってるからってのも、もちろんあるけれど。

SideBooks
http://sidebooks.jp

まずはPDF版の完成へ

本文自体はmi(テキストエディタ)で書いているのだが、一通り書いたところでいきなりInDesignに流し込む。その上で推敲、校正を行うのが「發作流」である。なぜいきなり流し込むかというと、分量がよくわからないからである。とりあえず割り付けておいて、量を調整していく。PDFを意識して文書を作る場合、まず最初に考えるのは文書のタテヨコのサイズだ。A4なのか四六なのかB5変形なのかを考えないで、いきなり中身は作れない。あとでヒドい二度手間が発生するからだ。この工程はリフロー前提のEPUB主体の場合と最も異なる部分かもしれない。

今回の場合、「iPhone5コンシャス」というコンセプトなので、iPhone5に最適化した文書サイズを採用している。iPhone5/5sで実際に読むとフォントサイズは若干小さめだが、iPhone6あるいはiPhone6 plusであれば最適である。運良く両方お持ちの方は試して見て欲しい。「iPadコンシャス」版も余力があれば試してみたいとは思っている。InDesignの場合、文書サイズの設定項目に「デバイス」という項目がありiPadやiPhoneなどを選んで設定ができる。すべての端末ごとに合わせて作り分けるのはナンセンスだが、スマホかタブレットかぐらいの作り分けはしてもいいかと思っている。

PDF版でのみ表現できたのは、巻頭あたりの白紙ページ、章扉、「張り紙」の表現(EPUBでも一応トライしているが)、2章のゲーム内会話とLINE会話の表現、巻末付録の登場人物紹介などである。あとは改ページをコントロールしての、読み味の調節などは、リフローではそもそも諦めなければならない要素だ。他にも盛り込みたかったアイディアはあったが、この企画の場合、最初からEPUBでのリリースを視野に入れているので発想段階で却下となった。

ただ、誤解のないよう補足しておくと、上記の程度のことであれば、ほとんどはきちんと取り組めば、おそらくEPUB3の仕様の範囲内でクリアできるのだとは思う。これはEPUB自体の問題ではなく、今回利用を予定しているオーサリングツールの都合といったほうがいい。さらに付け加えておくと、単に試行錯誤する時間がないだけということもできる。歯切れが悪くて申し訳ないが、要は今すぐできるのか、やろうと思えばできるのかという選択肢で、今すぐできるPDFを選択した。というだけのことなんである。

ともあれ、PDF版は表紙から奥付まで一式まるっと完成した。iPhone5サイズで317ページ。結局、総文字量は予定の6万字よりちょっと増えて7万4千字ぐらいとなったのだった。出来上がったところで、ここからEPUBを作っていく訳である。

電子書籍では、表紙こそが武器になる

EPUBへの展開の前に、表紙について話しておこうと思う。書店で直接手に取ってもらえるチャンスのある紙本とは違って、電子書籍は端末上で得られる限られた情報の中から、内容を想像しなければならないというハンディキャップを抱えている。数ページの試し読みという取り組みもあるが、消費者が得られる情報量は、書店での購買行動における自由な商品チェックとは比較にならない。

そもそも他の本と同列に一覧で表示されるという条件下で、他のディベロッパーに先んじて客の財布のヒモを緩ませようと思ったら、もうタイトルと表紙に全身全霊をつぎ込む他ないのである。にもかかわらず、そのタイトルとその表紙で本当に大丈夫?

タイトルについては前回詳しく述べたのでそちらをご覧いただくとして、ここでは表紙について説明する。実は本プロジェクトでは相当早い段階で表紙画像を作成して、チラ見せしまくっていたのである。というのは、本作ではタイトルがストーリー展開上非常に重要な鍵となるため、そもそもの本編執筆段階で表紙が必要になるという特殊事情があったからだ。

ところが、後になって4分冊が決定したとき、表紙に使おうとしていた「飛ぶ娘」(本連載のタイトルバナーに使っている画像)のモチーフがこの第1巻では使えなくなってしまったのだ。そこで急遽、第1巻の内容に合う表紙を用意するということなったわけである。ちなみに元の表紙は第2巻用に使う予定。制作はAdobe Illustratorを使用している。

まず、地紋が要る。バックに敷く文様だが、ストーリーの兼ね合いで江戸小紋などを取り入れることにしているのだが、第2巻で使う「松葉散らし」のような良い感じのものがなかなか見当たらない。

いろいろネタを拾っていたところ、山東京伝の戯作の表紙によい物があった。それを参考に描いたのがブルーグレーと紺であしらった縦菱のバリエーションのものである。タイトルをライトオレンジとし、中央には同じく山東京伝の戯作から、引っ張りだこになってニヤけている貸本屋の画を配置した。もともとモノクロだが、色はPhotoShop上でレイヤーを重ねながら吹き付けた。デザインに関しては本職ではないので、このあたりが限界である。予算さえあれば、プロに発注したいのだけど事情がそれを許さない。ワンマンパブリッシャーの哀しさである。

さて、表紙についてはもう一つ。帯の話。書店で売るときですら、帯を付けて全力で販促に取り組んでいるというのに、ただでさえ伝わりにくい電子書籍において、表紙に帯を入れないなどというのは、もうなんかやる気ないのかと聞きたい。というか本屋に行ったことがないのかと。本作では、当然帯も入れているし、煽り文句もばっちり入れた。しかも、よく見て欲しいのだが、コレが半透明なんである。リアルで印刷物で同じようにやったら絶対高い。クライアントに説教されるレベルで高くつくはずだ。でも電子なので、やり放題。こういうことをやるためにも、デザインツールは十分なものを使いたいところだ。そこは電子書籍のキモなんじゃないかと思っている。いずれにしても、どうにか第1巻用の満足のいく表紙を用意できた。次の工程へ進もう。

「ロマンサー」でリフローの海へ発進!

PDFの次はEPUBである。EPUBへのオーサリングツールや変換ツールはいくつもある。CAS-UBなどのバリバリのプロ仕様のものもあれば、InDesignで書き出すことも実は可能だ。ただまあ、こういうレポートで終始InDesign前提の話ばかりでは、面白くない。飽きられる。膠着する戦況を打開するのはいつだって新兵器である。今回は「ロマンサー」を使うことに決定した。異論は認めない。ロマンサーが何かについては文字数の関係上多くは述べられない。ただ、一つだけ言えることはあるとすれば、これは利用が無料である。以上。

ここで試行錯誤の過程を述べてもキリがないので、最終的な結論だけ順を追って端的に述べさせていただく。ロマンサーの利用で最も重要なのは、事前の仕込みである。そこまでしっかり済んでいれば、何もおそれることはない。尚、ロマンサーへのユーザー登録などの基本的な話はキリがないので割愛する。

前提条件をいくつか。ロマンサーでのEPUB制作は、ファイルを読み込ませる「原稿入力作品」と内蔵エディタで直接制作する「エディタ入力作品」の二通りがある。今回はすでに作品があるので前者を利用した。読み込ませられるファイルはdocx、PDF、画像の3種があるが、文字物はdocxの一択である。では工程を説明しよう。

①docxを用意する。複数ファイルを読み込むことはできないので、1冊分を1ファイルにしておく。見出し、書体指定(明朝かゴシックか選ぶ程度)、文字サイズ設定は可能だが、それ以外の装飾要素は今回は使わないこととした。あわせて、表紙画像を200万pix以下のjpegかpngで用意する。短辺1100pixぐらいがだいたいの目安になる。奥付ページがあるのなら画像でも提供できる。その他、発行者や書籍の紹介文などの準備もあれば、あとでスムーズだろう。

②ロマンサーにログインし、新規作成を選択。「原稿ファイルをアップロードして変換」とあるのでクリックする。タイトル、原稿ファイルなど上から順に項目を埋めていき、最後に[変換]をクリックする。すると約10分で.epubファイルの生成が完了する。出来上がったファイルは公開と非公開が選べる。また、Kindle専用のEPUBを書き出すというチェックもあるので、ここで作成してKDPに送り出すことも可能なのである。

というわけで、ロマンサーを活用して、無事に販売用のEPUB3文書を制作することができた。このあとはいよいよ実戦配備である。

ロマンサー
https://romancer.voyager.co.jp/

戦略の要は兵站にあり。ShortMag!を利用

通常であれば、ワンマンパブリッシャーの自分は自らKDPやKobo、コンテン堂などに著者登録の申請などをして、その上で電子書籍のデータを送ったり各種設定をしたりなど、いろいろな作業を行わなければならない。自分は前線でバリバリ撃ち合うのはいいのだが、後方での支援任務(事務処理)となると、もうそれだけで気が遠くなりそうなのである。そんな状態では、せっかく本編ファイルが完成しても、販売の最前線にまで送り届けることができないことになる。これでは、戦わずしてすでに敗北が確定しているではないか。戦略が聞いて呆れてしまう。

そこで、ここは戦略的視点に立ち戻り、大局的視点から鑑みて、兵站業務をアウトソーシングすることにあいなった。株式会社エクスイズムにはShortMag!という、電子書籍販売支援サービスがあるのだが、普段から「本屋横丁」で懇意にしていただいていたのに甘えて相談を持ちかけたところ、協力の要請をご快諾いただくことができた。

これで、『ストラタジェム』EPUB版は、Kindle、Kobo、コンテン堂の三大プラットフォームに送り込んでいただくことができ、その間、自分は他の販促活動に取り組むことができるのである。おそらく11月の上旬には、いずれかの販売サイトに『ストラタジェム;ニードレスリーフ①キルアクロウ』というタイトルでご覧いただけると思う。見かけたら、うっかりで構わないのでポチっとしていただければ幸いである。

いくつか留意点があるとすれば、とくにKDPでリリースする場合、ネット上で同様のものが検索できると審査が通らない可能性があるということだろう。元はブログなどを勝手に拾ってきて商売したりできないようにするための措置であったと思われるが、これが原因で審査が長引くことがよくあるそうだ。

前述のBiB/iでリリース版と同じ文書を置けないというのは、実はこれが理由である。あくまでもお試しだよと話せば済むかもしれないが、交渉するにも無駄に時間がかかる。であれば最初から全く異なるものをお試し版にしておけばいい。ここはワンマンパブリッシャーのメリットである。自分が著者なので、プロモーション用にちょっと新たに書き下ろすなんて造作もないことだ。交渉も許可も必要ない。もちろん追加の費用もかからない。

ShortMag!
http://www.exism.co.jp/service/esm/ebook/select.php?book=1

BiB/i
http://sarasa.la/bib/i/

で、ナンボで売りまんの?

金払いがよく、かつシビアなIT業界に比べて、一般に出版業界の人はお金について、もらうほうも払うほうものんきな業界である。仕事が終わってからの値引き交渉なんて日常茶飯事だ。なんの落ち度がなくても平気で値引きを求めるし、ギャランティを明言しないで仕事をおっ始めることもザラである。個人差はあるにせよ、業界全体がゆるい。私自身も、その例外ではないのだけど。

さて、そんな出版人があまりしたがらないお金の話をしよう。金が無くてはいくさはできぬ。ケチで有名な黒田勘兵衛も、いざいくさとなれば金に糸目は付けなかったと聞く。一介の雇われ編集者ならいざ知らず、今となっては一応、ブックアレーというワンマン企業の経営者でもあるので、このあたり避けて通るわけにはいかない。つまり、そろそろ今回の小説本の値付けをせねばならない、ということである。

本の値段の付け方には2種類のアプローチがある。一つは掛かりそうな経費を積み上げて、売れそうな部数で割って、必要な利益を上乗せする方法。もう一つは、いくらぐらいなら売れそうか考える方法である。実際はこの中間の折衷案が妥協点になると思うが、どちらに寄せるかは経営判断や営業判断による。

賛否両論あるのは覚悟の上で、持論を示してみたい。電子書籍はやろうと思えばどこまでも制作費や経費を削ぎ落とすことができる。特にこのプロジェクトは、動いているのは私一人である。著者も私、編集も私、装丁も私、営業も販売も私である(読者ぐらいは私以外にいてほしいとは思うけれど)。ワンマンパブリッシャーなので、経費の積み上げをしないことにした。経営者なので、自分の時給の設定は自分でできるからだ。

そこで、あくまで「著者」として得られるはずの取り分、つまり「印税」で考えてみる。ちなみにこれは自分で直接販売する場合である。いろいろ細かく含めると複雑怪奇になるので、プラットフォームや販売支援の取り分をトータルで50%として考えることとする。つまり定価の半分が著者の取り分だ。今回は四分冊になったが、ページ数的には合巻にした場合2000円ぐらいで売れそうなボリュームである。

文芸書の場合、2000円の本の著者印税は10%の200円である。第1巻はその四分の一の50円が相当する。自分の場合、著作以外にもいろいろ作業をしているので、制作費も少し盛らせてもらって、自分の取り分を100円とする。そこに50%となるようなプラットフォーム分を盛りつけると、本の定価は200円(税別)ということになる。というわけで今回のシリーズ『ストラタジェム』は216円として売ってみたい。7万4000字で216円ならそんなに高すぎることはないはずだ。4冊全部でも864円だから、決して高いことはない。文庫本より安いはずだし。

なんて、予定調和で算数をしてみたのだけど、これは「弐佰圓堂」という200円均一電子書店企画への布石であるので、屁理屈みたいなものである。ダイソーみたいな感じで、なんでも200円の本屋があってもいいんじゃないかってことで始めた企画なのだけど、詳しいことはまたいずれどこかで打ち上げると思うので、ここでは割愛する。ま、数が売れないことにはお話にならないのですがね。それは次のお話。

ニイタカヤマノボレヨ?

戦略は組めた、武器はできた、兵站も整った。さてこうなると戦局を左右するのは現場の戦術級の勝敗である。まあ、個々の戦況に影響を受けないようにするのが真の戦略なのだけど、我が軍はそこまで資源に恵まれているわけではないので、現場でがんばらないと勝てない。王道から奇策まで、金をかけないでできるプロモーションはできるだけやっていこう。

まず、幸いなことに私にはSideBooksというバックボーンがあるので、アプリ内のフリーマガジンコーナー「StandRack」にて、100万人のDLユーザーに向けてプロモーションを行うことができる。お金はかからない。私以外の誰でもみんな無料なので、興味がある人はご連絡を。また、そこで展開中の「本屋横丁」上でも、好き放題自由にプロモーション活動ができる。前述の「ShortMag!」もストアを出店しているので、「本横」自体の事例としてもうまく拡散できるようにしていきたいところ。立場的にすぐできることはさっさとやってまうべきだ。上手くいったら他の人も使ってくれるだろうし。

しかし、これだけではまったく不十分だ。紙の本では、関連各社にプレスリリースを配信したり、全国の書店店頭に現物を配布したり、POPを置いたり、サイン会を開催したり、話題性の向上のためにスキャンダルを起こしたりと実に多種多様な方法で売り込みまくる。とてもマネできるモノではないのだが、ワンマンパブリッシャーがどこまで突っ込んでいけるか、タダでできることならなんでもやろうじゃないか。

それと、自分用に1冊実物を作ってみようかなと思っている。予算はないので限りなく手作りになるとは思うが、イベント開催なんかでは置いてみたい。ハードカバーの布張り箔押しスピン有りも作りたいけど、それは4冊無事に完結して、合巻本を作るときかな。

そういう一点ものが増えてきたら、自ら行李を担いで貸本屋としてぐるぐる回るのも、また乙な物ではないだろうか。やっていることは移動図書館なのだけど、ラインナップが全部一点ものだったり稀覯本や古典籍、レアもののビニ本などだったりというね。貸本屋の小説を書きはじめたら、結局自分が貸本屋になってしまったわけで。ただ、私は腰痛持ちなので、どこかの駅の階段で立ち往生していることがあるかもしれません。そのときはどうかお助けください。手伝ってくれたらその日の交通費五千円を差し上げますので。

(というわけで、この短期集中連載はひとまず)完。

本編『ストラタジェム;ニードレスリーフ 巻ノ壱 キルアクロウ』近日発売!
最新情報は、本屋横丁『ShortMag!ストア』をチェキラ

『SideBooksユーザーミーティング』開催のお知らせ

SideBooksユーザーミーティング #01
2014年10月31日(金)20:00〜 途中参加歓迎
会場:Bar『ネッスンドルマ』(新宿ゴールデン街)
http://www.goldengai.net/shop/c/17/
参加費:¥2,000(チャージ料+ワンドリンク込み)

内容:SideBooksおよび本屋横丁デモ
小説またはアプリに関する質疑応答
(内容は追加または変更になる可能性があります)
特典:『ストラタジェム;ニードレスリーフ①キルアクロウ』PDF特別版直接配布

※ AirDropで配布しますが、非対応の方には他の方法もご用意しています。
備考:SideBooksをインストールしてご参加下さい。

※店内スペースに限りがございます。万が一満席の場合は、しばらくお待ちいただくこともあります(まあ、それはないと思いますが一応)

問い合わせ:info@honyoko.com