Editor’s Note

2013年5月20日
posted by 仲俣暁生

今年からはじめた新連載、アサダワタルさんの「本屋はブギーバック」と清田麻衣子さんの「本が出るまで」、それぞれの最新記事が公開されています(記事へのリンクはそれぞれの小見出し)。

「本屋はブギーバック」
第3回 わらしべ文庫から垣間みえる街の生活の柄

アサダさんが今回紹介するのは、大阪市此花区で中島彩さんが運営している、本の物々交換スペース、「わらしべ文庫」。

どの本がどの本と交換されるか、自分以外の人がどんな本を好きで確かな関心を寄せているのか、そういうことに触れる度にすごく感動します。そして、みんな本が好きすぎて不要になっても捨てられない。だから誰かに託すことができればという気持ちも含めてここに置いていくのかなぁと思っていますね。

という彼女の言葉や、実際に「わらしべ文庫」でやりとりされている本の佇まいからは、産業化した出版のもとでの消費財とは違う、もう一つの「本」の顔が浮かびあがってくるような気がします。

「本を出すまで」
第2回 出したい本に出会う

清田さんの「本を出すまで」は、出版社をやめて独立した編集者が、自ら出版社を起こして本を出すまでをセルフドキュメンタリーのかたちで綴る連載です。

今回は、東日本大震災後にある写真家の作品(右の写真は田代一倫「はまゆりの頃に」より)と出会ったことで、編集の仕事を志した原点を彼女が再発見していく過程が綴られます。

本を作るノウハウは身につけた。ライターと編集の区別すらつかなかった新卒から始まって、ひととおりの武器は揃えたはずだ。自分で考えることを停止した状態の人と、繊細な感覚の世界とを繋ぐことはできないだろうか? 自分自身の課題が、本をつくる糸口になるかもしれない。

みずからが著者として本をつくることは、電子書籍によってとても簡単になりました。しかし、本をつくるモチベーションをもっているのは著者だけではありません。何かと何かを「繋ぐ」ことをめざす編集者もまた、本が生まれる場所に立ち会う重要な存在なのだということを、この言葉は思い出させてくれます。

人と人をつなぐ目に見えないネットワーク

ふたつの連載はどちらも、期せずして「本が生まれる場所(著者と編集者の関係)」と、「本が読者に届けられる場所(さまざまなタイプの「本屋」)」がテーマになっています。出版や書店はいうまでもなくビジネスであり産業ですが、同時に人と人をつなぐ目に見えないネットワークであり、そこにはそれぞれ異なる考え方や個性をもった「人」がいる。

産業としての出版や書店が行き詰まりを見せるなか、電子化や多メディア化といった方向での解決も模索されていますが、けっきょくのところ、本をめぐる環境を支えるのは、一人ひとりの仕事に対するモチベーションであり、創意工夫であるはずです。

大手出版社や大型書店とは別のところで、個々人が自分なりの動機でものごとをはじめることのほうが、迂遠に見えても「本」の力をとりもどすための確実な道なのではないか。この二つの連載から、そのささやかな手がかりやヒントが見いだせたらと思っています。どうか今後の展開にもご期待ください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。