「エラー451」の時代はやってくるのか?

2013年6月3日
posted by 董 福興

インターネットでしばしば見るエラー番号には、それぞれに意味がある。たとえば、いちばんよく出る「エラー404」は、サーバーの上に指定のページが存在しない、すなわち「見つかりません」という意味だ。

では、「エラー451」の意味はなんだろう? これはネット検閲を強化しようとする動きを明らかにするために、XML規格の起草者の一人でいまはGoogle社の一員であるティム・ブレイ氏が、2012年5月にウェブの管理機関であるInternet Engineering Task Force(IETF)に提出した、「Unavailable For Legal Reasons(法的な理由でアクセス不可)」を意味する新規のエラー番号だ。

ティム・ブレイによる「エラー451」の提案書。

2012年6月、イギリス政府が有名なThe Pirate Bay(TPC)というP2Pダウンロードサイトを封鎖したとき、そのサイトにアクセスしようとした者に対して表示されたエラー番号は、たんなる「エラー403:Forbidden(閲覧禁止)」だった。これでは実際に何が起きているかがわからず不正確だとして、彼はあらたにこの「エラー451」を提出したのだ。「451」という数字が選ばれたのは、もちろんレイ・ブラッドベリが書いた『華氏451度』という作品に敬意を表してのことだ。

もちろん、このエラー番号に強制力はない。言論検閲のある国、たとえば中国のグレイト・ファイア・ウォール(ネット版「万里の長城」)のように、言論管制の存在を自国民に知らせたくない場合、この番号は使われない。封鎖のエラーコードは上の「403」でさえなく、「404」、つまり「このウェブサイトは存在しません」となる。これではどんなサイトが封鎖され、どんな原因で封鎖されたのかについては不透明なままだ(ただし、それを検出するツールもある)。

URLを入れると、そのサイトが検閲されているかどうかがわかる。

では合法的な検閲やブロックとはなんだろう? そのことを考えるには、台湾で著作権法に関連して起こった、ある「炎上」事件を例にとって説明するのがよさそうだ。

台湾では著作権法によるウェブサイト封鎖を検討中

最近、台湾経済部(日本における経済産業省に相当する)の智慧財產局が、あるプレスリリースを公表した。その中では以下のことが提示されていた:

  1. 海外の著作権侵害ウェブサイトにより国内のデジタルコンテンツ産業に損害が出ており、その発展が阻害されていることは確実である。それらに素早い対応をする仕組みが必要だ。
  2. 専門知識のある者によって著作権侵害行為が行われていたり、コンテンツを見れば著作権侵害が一目瞭然であるようなウェブサイトは封鎖の対象となる。
  3. 封鎖するかどうかの判断は、専門家と政府機関と著作権者の団体が決める。そのさいに法的審判(訴訟や裁判)は必要なく、政府の命令だけで封鎖できる。
  4. 封鎖仕組みはDNS(ドメイン・ネーム・サーバ)とIPアドレスにより、命令が出たのち10日内に封鎖する。

この発表が行われる、たちまち台湾のネット界は「炎上」し、デジタル・コンテンツのありかたとサイト封鎖の手法の是非をめぐり、熱い論議が起きた。

デジタルコンテンツにおける「市場の失敗」

日本の読者もご存知のとおり、台湾はパソコンやスマート・デバイスの部品生産国であり、ネット環境と端末の普及も国際的に高い水準にある。先進国並みにデジタルカルチャーが発展しているため、「デジタルコンテンツはネット上で買うのが当然」という感覚が広まっている。

それにもかかわらず、デジタルコンテンツ(映画、ドラマ、音楽、電子書籍など)の販売環境の基盤整備は進んでいない。タブレット端末普及の波に乗って電子書籍だけは発展しているが、映画などは、デジタル配信のライセンス料金、デジタルファイルへの転換費用やストリーミング/ダウンロードのクラウドサービスのコストなどが高いため、いまのところ便利な販売プラットフォームが少ない。いちばん便利なのは2012年6月に中国本土以外のアジア(台湾、香港、マカオ、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール)向けに開店したiTunesStoreで、オープンから一年間がたちユーザーもかなり定着している。

台湾は長い間、「コンテンツを買いたいのに、買える場所がない」という状況にあったため、中国本土の海賊サイトでコンテンツを探す人が大勢いる、たとえば「PPS」や「迅雷 (Thunder)」のようなサイトはストリーミングでコンテンツを提供しているので、「違法ダウンロード」とは言えない。したがって中国政府はなにも統制しないことにしたし、台湾側もなにもできなかった。

ここでハーバード大学のローレンス・レッシグ教授が『Code 2.0』で提出した、コントロール(統制)のための4つの力、すなわち「規範(Norms)」「アーキテクチャー(Architecture)」「市場(Market)」「法(Law)」を考えてみよう。

『CODE 2.0』より。統制のために働く4つの力を示した図。

違法ダウンロードが多発する状況のもとでは、レッシグのいう「規範(Norm)」は抑止力がほとんどなかった。つぎに「アーキテクチャー(Architecture)」すなわち技術的手段からみると、合法コンテンツを売る際にも、ストリーミング方式は(ダウンロード方式に比べ)送り手側がかなり強いコントロールをもつが、違法なコンテンツの提供手段として用いられたときも、海賊行為が禁止しにくくなる。

「法(Law)」は最後の手段だが、その前に「市場(Market)」がどう動くかも重要だ。アップルのiTunesStoreのような、低価格で高品質のデジタル・コンテンツを販売するプラットフォームが台湾に他にもっとあれば、海賊サイトに対抗できるのではないか。それを待たずに法律で直接禁止するのは、「市場の失敗」を示すことになるのではないか。

台湾ではまだ、Google Play, Amazon, Hulu, Netflexなどのサービスが使えない。また台湾本土のサービスももちろん少なく、中華電信のようなISP会社だけ。一方、台湾のテレビは99%がケーブル化されているが、アナログのままなので、デジタルコンテンツをPay Per Viewで配信できないのだ。

それをいったい誰が望むのか?

ここで電子フロンティア財団(EFF)が作った次の映像を見てほしい。

1分31秒目にでてくる「ISP LIABILITY(プロバイダ責任制限法)」の話は、ここで話題にしているようなコントロール手段だ。すでにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加を表明している日本では、TPPと著作権をめぐって大きな論議が起きている。台湾もTPPに参加予定であり、著作権にまつわるこうした動きは、TPPが望む通りではないか、という論議もある。

ネット封鎖という手段によって著作権者は権利を確保できるが、合法的な販売手段がなければ、そこから利益を得ることはできない。合法的な販売手段が先か、海賊サイトに打撃を与えることが先か、という議論は「鶏と卵」である。消費者は単に、もっと高品質で低価格のコンテンツを望んでいるだけだ。海賊サイトが封鎖されても、合法的なコンテンツが提供されないなら、いちばん損をするのは消費者ではないか。

台湾の著作権の専門家である章忠信教授もこういう。

「著作権法は著作権を保護するための法律ではなく、著作権者の私権と、公衆の著作へのアクセスがもつ公益性のあいだを調整するための法律です」

「エラー451」の時代がいつかやってくるのか?

もうひとつ、ネット検閲をめぐる議論がある。もし政府機関が命令一つでウェブサイトを封鎖できるなら、いまは海賊サイト対応だけかもしれないが、今後は別の理由によって、いろんなサイトを封鎖することができるのではないか?

台湾に住む者として、これはかなり敏感にならざるをえないことだ。なぜなら、海峡を越えた先にある国は、もっと強力な仕組みでネット検閲を実施している。海峡のこちら側には「ネットの自由」があるということが、二つの地域の間の指標的な差になっている。だからどんな理由であっても、どんなかたちでも、ネット統制に対して台湾では断固反対の声が消えないのだ。

最後に、台湾のある人が、『華氏451度』の言葉と、ドイツの神学者マルティン・ニーメラー(「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」という詩で知られる)の言葉からつくった二次創作を紹介して、本稿の結論としたい。

最初に彼らは、海賊コンテンツがあるウェブサイトを封鎖すべきといった。私はそれに同意した。彼らは、「もしこれに反対なら、海賊行為を応援するというのか。犯罪行為を励ますのか」と言ったからだ。私は彼らのサイト封鎖に同意した。

次に他の誰かが、「ポルノサイトも封鎖すべきだ」といった。私もそれに同意した。なぜなら、そうしないと私は変態だと思われたからだ。次に、「宗教団体のサイトも封鎖すべきだ。「それらのサイトは我々を中傷した」と誰かが言った。私もそれに同意した。

私たちは誰かが不安になったり、不愉快や不法を感じるウェブサイトがあったら、最後までそれらを燃やし続けなければいけない。なぜなら私たちはもう、そうしているだから。

結局、政府は「ウェブサイトを焚く」方針を決定した。すべてのウェブサイトは非合法になった。それによって皆が喜んだ。これでもう、誰かの感情を害することもなくなり、誰かの権利を侵害することもなくなったのだから。

それが現在、「この素晴らしき時代」と呼ばれている時代の由来である。この時代にあったウェブサイトのすべては、「エラー451:このページは燃やしました(This page is burned)」と表示される。

「僕達は一度も、正しい意味で、火を燃やしたことはなかった」
──『華氏451度』より

これは私自身の立場でもある。海賊コンテンツへの対応は必要でありその目的には同意するが、手段としてネット封鎖を用いるのは「パンドラの箱」を開けるようなものだ。一度でも開いてしまえば、もう閉じられなくなるのだから。

■関連記事
電子書籍にDRMは本当に有効か?
日本産アニメ・マンガの違法流通について考える