2011年4月18日の「揺れる東京でダーントンのグーグル批判を読む」という記事で、津野海太郎さんが紹介してくれている「saveMLAK」という活動に関わっている岡本真と申します。「マガジン航」には、2009年、2010年に何本か記事を書かせてもらっています。
「saveMLAK」は、東日本大震災を受けて行っている博物館・美術館、図書館、文書館、公民館の支援活動です。活動については、「saveMLAK」のサイトをご覧いただくとして、一昨日の1月17日に、2011年3月以降の自分たちの経験と見聞に基づいて、「本を送りません宣言」というものを出しました。ぜひ、ご一読いただき、ご意見賜れればと思います。
なお、この宣言は便宜上、「saveMLAK」のサーバーで公開していますが、「saveMLAK」という支援者ネットワークの全体の総意に基づいて発表したものではありません。あくまで、末尾に署名している賛同者による宣言であり、宣言にご賛同いただける方を広く募っています。
(以下は2012年1月17日に公開された同宣言の第一版を転載したものです:「マガジン航」編集部)
「本を送りません宣言」(仮称)
前文
災害等の非常時に、支援物資として被災地に「本」を送る活動が広く行われています。2011年3月11日に発生した東日本大震災においても、同様の行為が広く見受けられます。様々な方々の善意の現われと言えるでしょう。
しかし、私たちはここでいったん歩みを止めて、考えてみたいと思います。被災地や被災者に「本を送る」という行為は、支援活動として本当に妥当なものでしょうか。訪ね歩いた被災地の多くで、対処に困る状態になっている数々の本を目にしてきました。支援者の善意に感謝しつつも、困惑する被災者の姿も目にします。支援したいという一人ひとりの気持ちを大事にしつつも、私たちはこう宣言したいと思います。「被災地に本は送りません」と。
「本を送りません宣言」本文
- 本を送るという行為は、本を贈る(プレゼントする)という行為です。私たちは通常、少なくとも「古本」を大切な誰かに贈りません。
◯ですから、私たちは被災地や被災者に「古本」は贈りません。 - 本は重くかさばり、場所をとります。実は本はたいへん扱いにくいものであり、被災地の限られた空間や人手を奪います。
◯ですから、私たちはこの事実を常に意識し、被災地に古本を送りません。また、新品を贈ることにも慎重にふるまいます。 - 被災地には「本」で営みを立てている方々もいます。善意に基づいて大量に送られる本は、実は被災地にある書店等の「知」の経済環境を破壊します。
◯ですから、私たちは、新品を含め、被災地や被災者に「本」を送りません。
「本を送りません宣言」解説
この宣言を初めてご覧になった方は、どのように感じられたでしょうか。もしかすると、自分の善意を否定されたかのような印象をお持ちかもしれません。もちろん、私たちもあなたの善意を否定するつもりはまったくありません。
ですが、善意はときとしてもろ刃の剣になってしまいます。あなたが善意で送った本が、被災地や被災者、そして他の支援者に大きな迷惑を与えることがもしあれば、それはあなたの本意ではないでしょう。被災地や被災者を思うあなたの善意は気高く素晴らしいものです。だからこそ、あなたの善意を無にしないためにも、この宣言にご理解を賜れれば、そして賛同のご署名をいただければ幸いです。
それでも「本を送る」際の目安10ヶ条
さて、それでも本を送りたいのであれば、被災地や被災者の要望を十分に把握できていること、あるいはあなたと被災地や被災者をつなぐ信頼できる支援団体や支援者と関係を築いていることを前提に、以下の目安をご参照ください。ただし、繰り返しますが、本を送る行為を、私たちは勧めません。目安の中でも詳しく述べますが、せめて、集めて売ることまでに留めるよう強く望みます。
- 「送る」のではなく「贈る」ととらえ、あなたが被災者になったときのことを想像し、そのとき、もらって嬉しいと心の底から思える本を選びましょう。
◯被災地や被災者にどのような本がほしいかを安易に尋ねるのも、相手の負担になることがあります。 - 被災地に直接、本を配送することや、持参することや、寄贈の問い合わせをすることは控えましょう。たとえ、それが善意であっても、被災者は断ることができません。私たちの想像力が問われます。
◯信頼できる支援者や支援団体にまずは一度相談しましょう。また、あなたのお住まいの地域の公共図書館に相談してみてもよいでしょう。 - どれほど思い入れがある本であっても、古本は送らないようにしましょう。古本は、被災地の衛生状態によっては、感染症の元となる可能性もあります。
◯古本はバザーやフリーマーケットで売り、現金にして支援に役立てるほうが効果的です。 - その時の災害等の状況をよく理解し、適切な内容の本であるかを十分に吟味しましょう。たとえば、津波被災地に津波を描いた作品を送るべきでしょうか。
◯他方、たとえば津波の本を送らないことが常に正しいとも言えません。 - 送った本のその後を詮索しないようにしましょう。「送る」ということは「贈る」ということであり、送った時点でもうあなたのものではないのです。
◯送られてきた本を読もうが捨てようが、それは受け取った方々の自由です。 - あなたや周囲の方々が集めた本は、チャリティーバザーやチャリティーフリーマーケットを開いて売りましょう。その売上を本に関わる支援者・支援団体に寄付することで、あなたの善意は被災者や被災地に届くはずです。
◯チャリティーイベントの開催は、それ自体が大きな支援になります。 - 送るために本を梱包するなら、女性の力でも、一人で持ち運べる重さと大きさで段ボールに詰めましょう。
◯まとまった量の本は想像以上に重いのです。それが何箱もあることを想像しましょう。 - 本を段ボールに詰めたら、その中に入っている本のリストを作成しましょう。もし、リストをつくれなければ、せめて詰める本一式の背表紙を写真にとりましょう。
◯リストや写真は必ず段ボールの側面に貼り付けます。上面に貼ると、段ボールを積み上げると見えなくなってしまいます。 - 本を段ボールに詰める際には、次の2つの方法をとりましょう。1つは、特定のジャンルの本だけをまとめて1箱に入れる方法です。もう1つは、一家三世代の誰もが楽しめる本をまんべんなく入れる方法です。
◯後者の方法については、不忍ブックストリートによる「一箱古本市」の活動が参考になります。 - 絵本を送ることには慎重でありましょう。絵本は素晴らしいものですが、「読み聞かせ」の必要が生じ、周囲の大人が時間を割かなくてはいけません。
◯「読み聞かせ」は、ときとして被災者の負担になることがあります。他方、読み聞かせる必要が少ないマンガは好まれる傾向にあるようです。また、長時間読みふけることができる、読みとおすまで何日かかかるという点で、長編マンガが好まれます
被災地の状況は、地域や時間によって大きく異なります。たとえば、同じ自治体であっても、山間部と沿岸部では、被災の状況や程度が異なります。また、時間の経過とともに支援のニーズは絶えず変化していきます。このため、以前は喜ばれた支援であっても、いまは歓迎されない支援になることがあります。このような違いや変化を慎重に見極めることは、あらゆる支援活動に共通して必要なことでもあります。
以上。
<この宣言に賛同する個人・法人(賛同順)>
・岡本 真(saveMLAKプロジェクトリーダー、アカデミック・リソース・ガイド株式会社)
・江草 由佳(saveMLAKプロジェクト、国立教育政策研究所)
・川上 努(saveMLAKプロジェクト、G-Links)
・山森 光陽(先生おでんせプロジェクト実行委員会事務局長、国立教育政策研究所)
・渡辺 一馬(一般社団法人ワカツク)
・森 なを子(saveMLAKプロジェクト、白梅学園大学・短期大学図書館)
※この「宣言」は2012年1月17日に公開された第一版に基づいています。最新のバージョンはこちらをご参照ください。
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執筆者紹介
- ヤフー株式会社でのYahoo!知恵袋の立ち上げ等を経て、1998年に創刊したメールマガジンACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)(週刊/5000部)を母体に、アカデミック・リソース・ガイド株式会社を設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、文化施設の整備に関わりつつ、ウェブ業界を中心とした産官学連携に従事。著書『未来の図書館、はじめませんか?』(青弓社)、『これからホームページをつくる研究者のために』(築地書館)、『ウェブでの<伝わる>文章の書き方』(講談社現代新書)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)ほか。
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