青空文庫がインターネット・アーカイブに収録

2011年11月25日
posted by 仲俣暁生

日本を代表するオンライン・テキスト・アーカイブである「青空文庫」に集められた著作権保護期間を満了した日本語の文学作品テキストのうち、 約4000 タイトルがアメリカのインターネット・アーカイブに収録され、オンラインで「電子書籍」として閲読できるようになりました。

インターネット・アーカイブ内の「青空文庫」のページ。

今回の青空文庫の収録にさいして、ボイジャーが発表したプレスリリースには、以下のような文言があります。

今回 Internet Archive に提供されたのは PDF 形式のファイルですが、縦書きにも対応した EPUB3 での提供が引き続き進められています。これらのEPUB3データは近々公開される予定です。ボイジャーは、今後も Open Library における “Aozora Bunko 青空文庫” コレクションの拡充を図るとともに、世界中の電子書籍読者にとってよりオープンで、より使い易い読書環境作りを推進します。その一環として、国際標準をめざす EPUB3 日本語表示の基準を提案し、国内出版物の世界に向けた流通と表現の自由の確保のために Books in Browsers に基づいたWebブラウザによる読書システムのリリースを準備しています。

さらに今回のインターネット・アーカイブへの日本語作品の登録に関しても、

Internet Archive の Open Library を通じて多数の日本語作品が公開されたことは、電子書籍流通における地域的な隔たりが世界規模へと変化していくことを象徴しています。無償であるパブリックドメイン作品は、ただちにビジネスに影響を及ぼすものではありませんが、 Internet Archive は、有償作品の流通を活性化する書籍情報の取得について積極的に関与しており、なおかつ、電子書籍の読者に対してLending & Vending(貸出と販売)の両立を保証する姿勢を示しています。グローバルな電子書籍流通は、近い将来において日本の読者へも大きな影響をあたえるとともに、福音となるだろうとボイジャーは確信しています。

とコメントしています。さらにこのプレスリリースは、インターネット・アーカイブで「BookServer」プロジェクトを推進しているピーター・ブラントリー氏から、ボイジャーに対して次のようなメッセージが届いたことも伝えています。

Internet Archiveは、志を同じくするボイジャーの協力・支援によって、青空文庫の閲覧がOpen Libraryを介してより広範に利用可能になったことをうれしく思います。私たちは今後、数ヶ月にわたって更なる日本語作品を加えていきます。容易にアクセス可能な日本文学作品の収録は、PDF として、そして近い将来 EPUB3 として、ネイティブな日本語読者ばかりでなく、世界中の日本語を学ぶ人々にとって大きな助けとなることでしょう。

成長する書誌カタログ「オープン・ライブラリー」

今回インターネット・アーカイブに収録された「青空文庫」の作品は、オープン・ライブラリーにも登録されています。オープン・ライブラリーはインターネット上の総合書誌カタログであり、同時にその閲覧・貸出・購入(Read, Borrow, Buy)をサポートするシステムでもあります。

どんな具合に閲覧できるのかを確認するため、さっそく萩原朔太郎の「猫町」で検索してみました(以下はiPadで読んだときの表示画面)。

作品名あるいは著者名で検索。右下の「Read」をクリックすると電子書籍が立ち上がる。

ブラウザ上で「猫町」(PDF版)を表示したところ。

さて、このオープン・ライブラリーはただのオンライン・テキスト・アーカイブではありません。さきの「猫町」の画面の右上に、「edit」というボタンがあることに気づいたと思います。ここをクリックすることで、ウィキペディアと同様、だれもがこの作品の書誌情報を編集することができるのです。

「猫町」の書誌情報の編集画面。

ページ数や本の重量、縦・横・厚さのサイズを記入する項目も。

オープン・ライブラリーでは同一作品でもeditionが異なれば、別のものとして扱うよう書誌データの収集・整理を行なっています。つねにデータの更新が行われており、その履歴も公開されています。今回は「青空文庫」の収録テキストなので物理的な形態はありませんが、ライブラリー上でテキスト閲覧ができるかどうかにかかわらず、物理的に存在する本についてはすべての書誌をあつめていくという方針のようです(たとえばセルバンテスの『ドン・キホーテ』などは、1600年の初版刊行以後の817のeditionが網羅されています)。

今回の「青空文庫」のインターネット・アーカイブとオープン・ライブラリーへの登録は、電子書籍がグローバルに流通するというだけでなく、これまで日本が蓄積してきた本の文化や歴史が、世界的な本の歴史のなかに統合されていく契機となるかもしれません。

■関連記事
ブリュースター・ケール氏に聞く本の未来
Internet ArchiveのP・ブラントリー氏が来日
電子図書館のことを、もう少し本気で考えよう
ePUB 世界の標準と日本語の調和

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。