新型キンドルのファースト・インプレッション

2010年9月7日
posted by 大原ケイ

黒キンドル、使ってみました。これで私は初代からずっと手にしたことになりますね。いえ、そんなにマニアというわけではなく。DXには食指動かずじまいだし。

私のキンドル歴をふりかえりますと…

■初代キンドル
400ドルも出して買いました。初回発送分は売り切れていたので、しばらく待たされた記憶が。その頃は他にこういうのってソニーのEリーダーぐらいしかなくて価格競争してなかったから、400ドルです、と言われたら素直に、ふ〜ん、そんなもんかと納得してました。しかも最初はハードカバーの本が9.99ドルなどというお値段じゃなかったような気がするんですよね。10〜20ドルの本が多かった。

形は角張ってて、なんかリブリエに似て、今から思うとかなり野暮ったいガジェットでした。でもEインクはそれなりにショーゲキ。バックグランドがグレーでもけっこう読みやすいという発見があった。電池も長持ちするのが不思議で。ただ、入力用のキーボードの配列がなんか中途半端で、ブラインドタッチでは絶対押せないのに、それっぽく並んでて、使いにくかったかも。今から思うと両親指で入力しやすいようにできてたんですな。

まだそんなに台数が出回っていなかったので地下鉄で取り出したりすると、周りの視線が突き刺さるようで、恥ずかしくて止めました。業界の人と会ってもキンドルを持っていることがわかると、見せて、見せてぇ!と言われ、ガチャガチャいじっているうちに、蔵書をくまなく見られてしまうのも恥ずかしかった。

それと、両脇のマージンが全部ページをめくるボタンになっていたので押さずにガシッとつかんで持つことが難しいという欠点も。その頃は、出版社に勤めていて、欲しい本はほとんどツテで(タダで)手に入ったことから、古典をダウンロードする以外はあまり使わず、洋書が手に入らなくて困るとボヤいていた知人に譲りました。

■キンドル2
お値段が279ドルの時に買いました。ウィスパーネットがすごく早くなっていた気がします。これはもう日本でも手に入るし、使い勝手はよく知られているかと。雑誌やブログの定期購読もできたけど、2週間のお試しが終わって課金されても読んでいたのは、仕事用に全国紙から書評を集めたサービスだけ。

自分の中で紙の本で買いたいもの、キンドルで読みたいもの、とジャンル分けされてきて、主に自分の仕事と関係ない、だけど売れ筋でチェックしておきたいノンフィクションの本はもっぱらキンドル。読み上げ機能を付けっぱなしにすると、家事などの「ながら読書」ができることを発見。

これはツイートしたエピソードですが、ビールをぶっかけるというアクシデントの後、右上の「次ページ」ボタンをギュギュッと2回押さないと、動かなくなってしまったのですが、まだ使えるし、ということで、WiFiオンリーの黒キンドルが出なければ、まだ使っていると思います。近々、これも「ボタン直せるかやってみたい」というITオタクな友人に譲る予定。

ということで、キンドル3こと「黒キン」ですよ。

新型キンドルの印象

さっそく箱を空けて取り出すと、第一印象は「む、この匂い、この手触り、なんだっけ?」というもの。黒キンドルと言っても、実際の色はこっちでいうcharcoal、濃いグレーですね。画面の大きさはキンドル2と同じで縦横のマージンが細くなったということで変わりなし。

ひっくり返してみて、わかりました。思い起こしたのは「古タイヤで作ったゴム草履」だったわけですよ。キンドル2の裏側って、シルバーの金属みたいなんだけど、キンドル3はシリコンっぽい黒。箱から取り出したときに一瞬「ゴム臭い」匂いがしたからゴム草履を連想してしまったのだ。充電用のアダプターは今までと同じ白。この辺からして「余計なモンに開発費なんてかけない」という姿勢が伺えます。

箱の中身は相変わらずシンプル。黒キンドルでもコードは白。

箱の中身は相変わらずシンプル。黒キンドルでもアダプターコードは白。

操作は同じ。ポチ、ポチと操作し始めると…あ〜っ!なんかやりにくい。「Home」や「Menu」などのメタ操作のボタンが、白キンドルと全然違うところについているので、親指が一瞬、迷うんです。でもま、これは初めてキンドルを触る人にとっては何の問題もないわけで。

なるべくボタンを小さく、少なく、というのはわかります。だけど、ナンバーキーがないのは、やり過ぎじゃない? シンボルの一覧を出して、そこからカーソルを動かして数字を打ち込むんだけど、これは元のママ、一列使って一番上にボタンを残しておくべきだったかもね。

キーボードも微妙に変化。右側の新型ポインティングデバイスが便利。

キーボードも微妙に変化。右側の新型カーソルキーが便利。

一方でいちばん改良されたと感じたのが、四角いポインティング・スティック(トラックポイント)の代わりについてる四角いカーソルキー。ここに親指を当てて、四方にうにうにと押せばプチプチと反応してカーソルを動かすことができる。前のより楽チン。

この先、どんなに改良されても、これ以上ボタンが小さくなることはないと断言しておきます。アメリカ人の指じゃ、押せなくなるから。

ということで、肝心の中身ね。「Experimentalというコーナーを覗くと、ウェブブラウザを立ち上げることもできるし、可能なら画面も]読みながらMP3の音楽やポッドキャストが聴けると説明されている。ブラウザを使ってウェブサイトを見るのは、やはりちょっと面倒くさい。URLは打ち込まなくちゃいけないし、リンクの上にいつも上手くカーソルが合わせられないことも。写真の解像度は上がったとは言っても、液晶でキレイにカラーで見られるものを白黒で見ているので、何が写っているのかよくわからない部分も出てきそう。要するに「とりあえず」ウェブも見ることができますよ、ということでしょう。 

確かに、コントラストや解像度がアップしたので、前よりもくっきりハッキリ見やすくなっている。白黒写真がかなりキレイです。でも別にキンドル2でも見にくかったという印象はありません。つまりあれです。iPhone 3からiPhone 4にアップグレードしたときの感じ。Retina displayも両方知っている人は、違いがわかるけど、どっちかしか知らなければ、それに慣れているので不便だとは感じないわけですね。青空キンドルもサクサク動きます。細い文字だとさすがにかすれることがないのでキンドル3、見やすいです(日本語フォントによる電子書籍についてはまだ未確認)。

青空キンドルで変換したPDFを表示したところ。

青空キンドルで変換したPDFを表示したところ。

ウェブブラウザでは日本語表示もくっきり。

ウェブブラウザでは日本語表示もくっきり。

いわゆるソーシャルリーディング機能はどうでしょうか? みんなが下線を引いた部分を表示しながら小説をひとつ読んだけど、薄くディスプレイされているだけなので、読書の妨げになるほどではありません。でもやっぱり、みんなが「お、いい文章だな」って思うところは一致しているようです。

ハイライト箇所を複数の読者で共有することも可能。

ハイライト箇所を複数の読者で共有することも可能。

そして個人的にちょっと気になっていたゲームアプリ。どんなものがあるのか見てみると、やっぱりクロスワードやスクラブル、あるいはsudoku(日本で言うナンプレ)といった言葉遊び系や知能パズル系のものばかり。さすがキンドル、Xboxやプレイステーションと張り合おうという気は全くないのがわかります。クロスワード中毒の経験があるので、とりあえずいくつか試してみたものの、コツがわかってきたところで、止めておきました。われながら鋼の意志です。じゃないと、一切を放り出して目が潰れるまでやってそうな自分がコワイから。こういうのは英語の勉強にはなりませんね。ボキャブラリーの下地があってこそ楽しめるゲームなので。

とまぁ、今のところはこんな感じで、特に衝撃はありません。相変わらず「読書好き」のためのガジェットです。キレイなカラー写真や、アクションもののゲームや、メールもウェブもチェックしたい人は、いくらでもiPadでもなんでも使ってね、という確固たるスタンスは感じますが。地味なグレーの本体に、地味なグレーのスクリーン、ある意味、コンテンツに没頭できる優れものです。

ちなみに、ネイルサロンで爪を塗ってもらいながら読んでいたときに、やられた感が押しよせてきました。雑誌と違ってめくらなくても読める、場所をとらない、
マニキュア塗り立ての指でも操作できるってすごいことかも。

こんどはビールをぶっかけないようにしたいと思います。

[お知らせ] 9月27日に東京で大原ケイさんのビジネスセミナーが行われます。テーマは「アメリカの電子書籍は今:リテラリー・エージェントとは」と「日本の作家を海外に売り込む方法:コンテンツの副次権を考える時代」の二本立て。詳細はこちらを参照ください。また大原さんの著書『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)も9月10日に発売されます。

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執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。