紙の雑誌の休刊が相次ぐなか、エニグモの雑誌コンテンツ配信サービス「コルシカ」がサービス提供開始早々、中止に追い込まれた話題は記憶に新しいところですが、雑誌のコンテンツを電子配信するための制度設計を研究・実験するプロジェクトがいくつも立ち上がっています。
大手出版社をはじめ、広告代理店、IT企業、電機メーカーらが参加する雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムは、来年1月に予定している電子雑誌の実証実験の詳細を発表しました(Internet Watchの記事を参照)。実証実験に参加するのは出版社50社・100誌以上、モニター参加の希望者も定員をすでに超えたと報じられており、雑誌の電子配信に対する、出版社・読者双方の関心の高さが感じられます。
他方、「放送と出版の融合」を旗印に、デジタル放送を活用した新聞、雑誌等の紙メディアの完全デジタル配信の実現を目的とするAll Media In One(AMIO)フォーラムもこの9月に設立されています。AMIOの発起人代表は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授。
同フォーラムの設立趣意書には、「通信と比べた放送の特徴は、限られた一定時間内に大規模数の対象に対したコンテンツデリバリーを得意としており、まさに新聞、雑誌といったメディアの配信には大きなポテンシャルを有していると言えるでしょう」とあり、マスメディアとして放送と似た性質をもつ新聞・雑誌の生き残り策として、デジタル放送による配信が検討されているようです。
現実に稼働しているサービスとしては、iPhone向けに雑誌コンテンツの販売を開始しているMagastoreがあります。参加雑誌も増えつつあり、10月には『ニューズウィーク日本版』が加わりました。偶然ながら、11日に発売された『ニューズウィーク日本版』11月18日号は「本と雑誌と新聞の未来」がカバーストーリー。紙のメディアの将来に関しては、厳しい未来予想が展開されています。
紙の雑誌とあわせて、はじめてMagastoreでiPhone版の『ニューズウィーク日本版』も購入してみましたが、小さな文字をいちいちタップで拡大して読むのはかなり面倒で、この方式では紙の本を読む簡便さには、まだかなわないと感じます。レイアウトを保持した誌面以外にも、テキストファイルでサクサク読めて、重要な部分はクリッピングができるようなインターフェイスが必要ではないでしょうか。
雑誌の電子配信については、登場が間近と噂されているアップルのタブレットPC(ここをはじめネット上に予想図がたくさん出回っています)が大きなカギを握っていると思われます。「マガジン航」でも、このテーマを引き続き取材していきます。
訂正と追記:上記記事の下線部に関して、MAGASTOREで販売されている雑誌コンテンツはテキスト表示もできるはず、というご指摘をいただきました。『ニューズウィーク日本版』の当該号で確認してみたところ、目次や巻頭マンガを除いた本文ページではテキスト表示できることを確認しましたので訂正いたします(ご指摘いただいたジャーナリストの佐々木俊尚さんに感謝します)。
雑誌のオリジナル誌面どおりにレイアウトされた状態で表示されている記事をタップすると、画面下部に上記のバーが現れ、「テキスト」を押すとテキスト表示に切り替わります。大・中・小と文字サイズの切替ができるほか、画面の白黒反転も可能と、読みやすさにも配慮されています。ただしタイトルと本文以外の情報(リード文など)は表示されず、ややそっけない印象も。また、記事からテキストファイルを抜き書きする機能は付いていません。
雑誌は「読むメディア」であると同時に、「見るメディア」でもあったわけですが、電子化によってその両者が分離して、別のインターフェイスをもつようになるのかもしれません。
■関連記事
・「放送波を使って新聞・雑誌をデジタル配信」,AMIOフォーラム発足(It Pro)
・「雑誌デジタル化の可能性探る、日本雑誌協会がコンソーシアム設立」(Internet Watch)
執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
最近投稿された記事
- 2023.10.22Editor's Note軽出版者宣言
- 2023.06.02往復書簡:創作と批評と編集のあいだで暗闇のなかの小さな希望
- 2023.04.06往復書簡:創作と批評と編集のあいだで魂のことをする
- 2022.09.24往復書簡:創作と批評と編集のあいだで様式によって動き出すものがある