東京国際ブックフェアを見て歩いた4日間

2014年8月2日
posted by 鷹野 凌

2014年7月2日から5日まで、東京ビッグサイトで「第21回 東京国際ブックフェア」が行われました。私は、昨年は国際電子出版EXPOを中心に見ていたため3日間しか行かなかったのですが、今年は4日間とも足を運びました。既に寄稿している記事は以下の通り。セミナーレポートばかりです。

紙と電子の相互補完──三省堂書店が電子書籍を販売するわけ -INTERNET Watch(2014年7月7日)
世界ナンバーワン電子図書館システム「OverDrive」の実力 -INTERNET Watch  (2014年7月8日)
ネット時代におけるリアル書店の活路は「地域性」 -INTERNET Watch(2014年7月10日)

4日間で9回の記者発表とセミナー各1時間を見て、空いた時間にブックフェアと電子出版EXPOの展示内容をチェックして、自分自身も1度登壇し……と、会議棟と西ホールを見て歩いたというより「駆けまわった」ような状態でした。ちょっと予定を詰め込み過ぎて、併催のクリエイターEXPO東京、プロダクションEXPO東京、コンテンツ制作・配信ソリューション展、キャラクター&ブランド ライセンス展には、一度も足を運ぶことができなかったのが残念です。

電子書籍との接触機会を増やす試み

初日、オープニング・セレモニーが終わって、展示会場へ足を踏み入れすぐにKADOKAWAの方から「いまからここで記者発表あるから見ていって下さいよ」と言われたのが、角川アスキー総合研究所が開発した、Twitterのタイムライン上でEPUBが読めるサービス「tw-epub.com」でした。

試し読みがタイムライン上でできるため電子書籍との接触機会が増え、購入サイトにもワンクリックで遷移し、読者をスムーズに誘導できるというわけです。記者会見にはKADOKAWAの角川歴彦会長や井上伸一郎専務、角川アスキー総合研究所の福田正専務、Twitter Japanの牧野友衛執行役員が登壇し、記者会見場が人で溢れかえっていたのが印象的でした。

後でびっくりしたのが、この記者発表を見てその日のうちにBiB/i と Dropbox を使い、簡単にTwitterのタイムライン上でEPUBが読める仕組みを実現した方が現れたことです。さっそく私も『月刊群雛』のサンプルEPUBを作成し、投稿へ埋め込み宣伝に活用しています。

こうなると、角川アスキー総合研究所の立場は……と感じる方もいると思いますが、実は近日実装予定の機能として、任意のページを自由にソーシャルメディア上などでシェアできる仕組みが提供されるそうです。前後数ページのEPUBが自動抽出されるようで、さすがにこれは簡単には真似できないでしょう。一歩先を進んでいます。

読者によって本の断片がウェブ上に拡散され、その断片から新たな読者が生まれる循環。ほんの数年前には「一部関係者の理解を得られない」という理由で電子ペーパー端末から引用投稿機能が削除された痛ましい事例もあるわけですが、同じような機能を出版社が自ら主導して行う時代になったかと思うと感慨深いものがあります。

編集・校正工程をクラウドで

凸版印刷のクラウド型書籍制作システム「トッパン・クラウド・ファクトリー」は、個人的に興味深い展示内容でした。参考出品ですが、編集・校正機能をクラウド上で行う仕組みです。そして、実はこれは私がいま『月刊群雛』の制作で利用している「BCCKS」の、次世代型エディタのプロトタイプなのです(写真下。クリックで拡大)。

同人雑誌「月刊群雛 (GunSu)」の作り方”でも書きましたが、現在『月刊群雛』の編集・校正工程はGoogleドキュメントの共有機能を使っています。すべての作業をクラウド上でできるため、編集協力者とも作者とも一度も顔を合わせぬまま、毎月雑誌ができています。ただ残念ながら、Googleドキュメントは縦書き表示に非対応ですし、校正が終わったあとGoogleドキュメントからBCCKSへ流し込む工程でどうしても手作業が必要になります。

この次世代型エディタでは、いまGoogleドキュメントでやっている工程をすべてBCCKSエディタに統合した上で、外字チェックや修正箇所のマーキングなど、プラスアルファの便利機能が盛り込まれるようで、正式リリースが待ち遠しいような内容でした。こういうツールが普及していくと、出版社の編集者でもバーチャルオフィスで自宅から仕事というスタイルが一般的になっていくのではないかと思われます。

電子図書館でオーディオブック、全巻セットの電子ペーパー端末

大日本印刷で気になったのは、公共図書館向けの電子図書館システム「TRC-DL」に、オトバンクがオーディオブックの貸し出し事業を提供するというデモ展示です(写真下、クリックで拡大)。今秋から導入開始とのこと。目の不自由な方が本を楽しめるという意味で、オーディオブックと公共図書館は非常に良い組み合わせだと思います。

「DRC-DL」は4月にボイジャーのブラウザビューワー「BinB」を導入してリニューアルし、利用時のアプリインストールを不要にするなど使い勝手を徐々に向上させています。米電子図書館システム「OverDrive」がもうすぐやってきますが、地味に頑張っている国内勢にも目を向けておきたいところです。

また、各メディアが注目していた「honto pocket」(写真下、クリックで拡大)は、ドイツのtxtrが開発した単三電池2本で動く安価な電子ペーパー端末「txtr Beagle」をベースに、大日本印刷が独自開発したものだそうです。EPUBへの対応や、文字の大きさ変更、しおり機能などが追加され、使い勝手はかな り良くなっていました。

今年も昨年に引き続き参考出品だったのですが、「シリーズ全巻まるごと入ってます」という販売手法は固まっているそうで、今秋にも発売予定とのこと。ただし、この端末は通信機能や外部端子が省かれているので、故障時にコンテンツをどうサルベージするかが気になるところです。

トーク・イベントは今年も大盛況

今年もボイジャーブースのトーク・イベントは、登壇者の顔ぶれが非常に豪華でした。予定を事前にチェックしたら、興味を引かれる回がことごとく他の取材予定と重なっていて、泣きそうになりました。ただ、ボイジャーはトーク・イベントを全て撮影しており、後日映像をYouTubeチャンネルで公開してくれるのです。なんて素晴らしい!

こういった各社がブースで独自に行っているトーク・イベントは、困ったことに主催者の公式ガイドに載っていないため、よほど細かくチェックをしない限り見落としてしまいがちです。今年も大日本印刷、凸版印刷、楽天、パピレスなどが独自にトーク・イベントをやっていたようですが、事前に予定を詰め込んでしまったため、ほとんど見ることができませんでした。

トーク・イベントは集客できるので、今後もっと増えてくるのではないかと思われます。それはそれでいいのですが、スケジュールをあらかじめ簡単に調べられる方法や、ボイジャーのように映像を後から見られる手段を提供して欲しいところです。毎年のことですから、ボイジャーが後日ウェブで映像を公開しているのをご存知の方も多いでしょう。それにも関わらず、このトーク・イベントは毎回大盛況なのです。もちろんライブで見られるに越したことはありません。でも、見たくてもブックフェアに来場できない人もいます。他のトーク・イベントでもこうした代替手段を用意すれば、喜ばれることでしょう。

Offline to Onlineの試み

こちらは既に “リアル書店で電子書籍を売るO2O事業が続々登場” で紹介させて頂いたので、詳細は省きます。電子書籍をもっと身近に感じてもらうため、各社さまざまな試みを行っています。Wi-FiやBeaconを使いエリア限定で電子書籍・電子雑誌を読めるサービスや、リアル店舗で電子書籍・電子雑誌を購入できる仕掛けなどが続々登場しています。

セルフパブリッシングの支援システム

こちらも既に “いま改めて考える、出版社のレゾンデートル” で紹介させて頂いたので、詳細は省きます。作家自身が出版「者」になれる時代ですが、出版「社」の機能が不要になったわけではなく、その一部は姿や形を変え別のプレイヤーから提供されるようになっていくのでしょう。

まったく印象が異なる土曜日のブックフェア

最後に、土曜日のブックフェアについて。これまでいつも平日だけ行って、ブックフェアには来場者が少ない印象を持っていたのですが、今回は土曜日に足を運び認識を改めました。平日の昼間に展示会へ行ける人は限られている、という当たり前のことを忘れかけていたのです。

バーゲンコーナーはもちろん、ブースにも人だかり。誇張ではなく、歩くのが大変でした。特に小学館を中心とした児童書などを展示しているゾーンは混雑がひどく、通り抜けるのを諦めたほどです。逆に、展示内容が電子出版寄りの大日本印刷や凸版印刷のゾーンは、平日より人が少ないくらいでした。

ブックフェアはあくまでも「業界関係者のための商談展」であり、一般の方や18歳未満の方の入場はお断り、ということになっています。しかしそんなのは建て前で、一般の方が「少し本を安く買えるから」と大勢来場していることを業界関係者の誰もが知っています。そもそも、場内を子供がゾロゾロ歩いているのです。

こういう光景を見ると、いつまでこんな建て前を続けるのだろう? という疑問が湧いてきます。建て前と業界の活性化と、どちらが大切なんでしょうか。ブックフェアは業界関係者向けの内容と切り離し、名実ともに一般向けとして土日をメインに開催した方がいいのではないでしょうか? 「活字離れ」を嘆いている暇があったら、少しでも読者を増やす努力をすべきだと私は思います。

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