第3回 継続編(完結)

2014年3月25日
posted by 結城浩

はじめに

こんにちは。「私と有料メルマガ」という短期集中連載の第三回目です。

もともと、この短期集中連載を書くきっかけとなったのは、有料メルマガに対して、

  • 有料メルマガはWebに比べてクローズドで、読者は広がらない。
  • 有料メルマガの著者は少ない人数のために力を割かなくてはいけない。

という意見を聞くことがあるからです。その意見は私も理解できるのですが、自分が有料メルマガを運営しているときに感じていることとはずいぶんずれがあるように思いました。そこで、自分が「結城メルマガ」を二年間、100回以上継続してきた経験を書こうと思ったのです。

  • 第一回 皮算用編では、私が「結城メルマガ」を始めようとした経緯と、始めたばかりの頃に起きたことについて書きました。
  • 第二回 転換編では、初期の体験から自分が考えたこと、そしてそれを踏まえて行った「結城メルマガ」の方針変更を書きました。特に、書籍の執筆とメルマガ執筆を「オーバーラップ」させることで、読者さんに満足してもらえるような品質を保つという話題を書きました。
  • 第三回 継続編では、現在の私が考えていることを中心に、メルマガ執筆を継続させることの意味、継続させるために工夫していることなどを書きましょう。

読者さんから得る「ほんとうの報酬」

まず、自分に問うてみます。

  • なぜ、私は「結城メルマガ」を継続的に発行しているのでしょうか。

「多くの励ましを読者さんから受け取っているから」という答えが私の心に真っ先に浮かびました。

「結城メルマガ」を発行すると、読者さんからそれに対する感想メールがときどきやってきます。毎日続々やってくるというほど多くはありませんが、無反応ということはあまりありません。

  • 今週の「結城メルマガ」はおもしろかった。
  • なるほどと思いました。
  • 私も同じようなことを考えています。

そんな感想メールをいただくことは、「結城メルマガ」を継続的に執筆する大きなモチベーションの一つです。メールに限らず、Twitterで感想ツイートを見ることもあります。そんなとき、自分の書いたものが一人一人の読者さんに確かに届いているのだと実感します。

感想メールで励まされるのは、本を書いたときも同じです。しかし、本とメルマガでは発行サイクルがまったく異なります。本は書き上げるまでに何ヶ月も掛かり、そして読者さんから感想が届くまでさらに時間が掛かります。メルマガの場合には、書き上げてから配送まで約一日。感想メールをもらうまでに一週間以内という具合に、早いサイクルで回っていきます。ですからメルマガでは、書いた文章の「感触」が手に残っているうちに反応をもらえるのです。

「結城メルマガ」は有料メルマガですから、読者さんから購読料をいただきます。読者さんが支払ったお金からメルマガ発行サイトさんの手数料を引いたものが私に届きます。それは不安定な収入になりがちなフリーランスのライターにとって大きな安定収入です。購読してくださる読者さんには本当に感謝です。

しかし、そのように有料メルマガの購読料から得られる報酬とは別に、読者さんからいただく「励まし」こそ「ほんとうの報酬」なのかもしれないと思うことがあります。なぜなら、そのような励ましは「結城メルマガ」の執筆のみならず、書籍の執筆にも大きな良い影響を与えてくれるからです。

「結城メルマガ」は「新しい試み」をする場

もう一度、自分に問うてみます。

  • なぜ、私は「結城メルマガ」を継続的に発行しているのでしょうか。

それに対して、今度は「新しい試み」をする場がここにあるからという答えが私の心に浮かびました。

私は書籍を書く仕事をしていますが、書籍の上で何かしら「新しい試み」をするのは難しいことがあります。書籍の読者数はメルマガの読者数よりもはるかに多いので、「新しい試み」が大規模になってしまうからです。

2013年に私は『数学ガールの誕生』という講演集を出版しました。この本は、公立はこだて未来大学での講演の書き起こしをもとにしています。実はこの講演集も、書き起こしたものを読み物として整え、「結城メルマガ」で何回かに分けて配送しました。講演の様子をいきなり書籍化するのではなく、いったん「結城メルマガ」向けにまとめることで、読者さんからの感想や意見をもらい、いい感じに仕上げることができました。この講演集も「結城メルマガ」での「新しい試み」が実を結んで誕生したものといえます。

「結城メルマガ」は複数のコーナーがオムニバス的に集まって構成されています。ですから「あまり長くないけど、読者さんに読んでもらいたい」という文章も、一つのコーナーに入れることで読者さんに提供できます。書籍にまとまることのない長さでも大丈夫です。この点は、第二回「転換編」に書いた「メルマガは雑誌に似ている」という話とも合致します。

紙の書籍よりも速いテンポで読者さんに届けることができ、しかも短くてもいいという点を考えると「結城メルマガ」は電子書籍の一種ということもできるでしょう。電子書籍が持っているテンポの速さや長さの自由度は、メルマガも持っているというわけです。

私は「書いてみて学ぶ」ことがよくあります。自分が気付いたこと、自分が考えたことを書く場として「結城メルマガ」は大きな意味を持っています。自分が「新しい試み」をする場を保ちたいというのは「結城メルマガ」を継続するモチベーションの一つでしょう。

言葉にならない魅力を求めて

今度は「なぜ」から「どのように」と問いを変えてみましょう。

  • どのように、私は「結城メルマガ」を継続していきたいのでしょうか。

大方針は決まっています。第二回「転換編」でも書いたように《読者のことを考える》という原則はゆるがないからです。それではその原則をどのように実装すればいいでしょうか。

私が心がけていることの一つは「トーンに気を付ける」です。「結城メルマガ」は毎週火曜日の朝七時に配送されます。必ずしもすべての読者さんがその時間に読むわけではありませんけれど、ともかく配送は朝です。ですから私は「朝にふさわしいメール」になるように心がけています。具体的には、明るい話題、楽しい話題、さわやかな話題になるように心がけるということです。逆にいえば、暗い話題、悲しい話題、気分が重くなるような話題は避けるということでもあります。

また、説明がちょっと難しいのですが、「役に立つことにこだわらない」ようにもしています。「この記事があるから購読している」や「こういう役に立つから購読している」のように読者さんに思ってもらえるのはとてもありがたいことです。でも私は、もう一歩進んで「うまく言えないけれど、このメルマガは何となく好き」と思ってもらえるようにがんばりたいと思っています。「何となく好き」「どことなく楽しい」「なぜか元気が出る」というところを目指したいのですが……まあ、でも、これについては素直に書いていくしかないわけですけれど。

そして「たった一人に向けて書く」ようにしていきたいですね。メルマガというメディアの特性にこだわりすぎるのはよくありませんが、あくまでメールはメールであり、読者さんひとりひとりに向かって届けられるものです。読者さんの多くは「自分あてのメッセージ」をふだん読んでいる場所で「結城メルマガ」を読むことになります。そのことを忘れないようにしたいと思っています。具体的には「結城メルマガ」を書くときにはいつも、「大切なあなたに向けてお手紙を書く」という気持ちになろうとしています。私がいま関心を持っていること、私がいま考えてることを、たった一人の「あなた」に届けるつもりで、ていねいに言葉を紡いでいきたいと思います。

メルマガは閉じたパッケージ

……と、ここまで書いてきて「ブログとメルマガとの違い」について改めて思います。

ブログは「広がっている」メディアです。世界に向けて広がっていて、いつでも誰でもアクセスできる。読者は検索を使ってジャンプしてきて、どのページからも読む可能性がある。そして、多くの場合、ページの周りには広告がひしめいている。

それに対してメルマガは「閉じている」メディアです。たったひとりの「あなた」に向けて届くお手紙です。そしてメルマガの周りには広告はない。そこには独特の親密さがあるように思います。

有料メルマガは読者数が少ない。確かにその通り。有料メルマガはWebに比べてクローズドだ。確かにその通り。でも、少ない人数だからこそ、クローズドだからこそ、親密な気持ちになって書けることもある。有料メルマガという特性が生み出す面白さや楽しさがあり、そこで育まれるテキストというものもあるのではないか……。

と、ここまで書いてきたところで、私はたまたまSF小説”Gene Mapper”の作者、藤井太洋氏の鼎談集をKindleで読みました。藤井氏は「ブログと電子書籍の違い」について次のように語っています。

電子書籍は、基本的にその一冊で完結していて、雑多な情報から遮断されている。「閉じている」ということは、すごく大事なんじゃないかな。

『セルフパブリッシングで「本」を出す』(藤井 太洋, 梅原 涼, 十市 社)

何というシンクロニシティ。

「結城メルマガ」も同じです。メルマガは基本的に一通でまとまっています。読者さんは一冊の本を手にして読むのと同じように、一通のメールを受け取って読みます。書き手が送るメッセージを、読み手は一つの閉じたパッケージとして受け取るのです。

本が多くの可能性を秘めているのと同じように、メルマガもまだまだ多くの可能性を秘めている。《読者のことを考える》という原則を大切にしつつ、私はこれからも「結城メルマガ」を通して、たった一人の「あなた」にお手紙を送り続けたい。

私は、そんなふうに思っています。

(短期集中連載・完結)

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