児童ポルノ法改正の何が問題なのか

2013年10月10日
posted by 渋井哲也

「児童ポルノ法の改正案が出るって本当ですか?」

エロ漫画の電子書籍の編集者から、こんな電話をもらったのは今年の3月だった。日本経済新聞(3月10日付)が、自民・公明両党が、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(児童買春・児童ポルノ処罰法)の改正案を提出するために、調整に入った、と報じたからだ。(日経新聞の記事)

私はその記事を見逃していた。多少は話題となったものの、ネットでもほとんど話題になっていなかった。また他のメディアも、この動きについてその後も報じなかった。そのため、まさかその数ヶ月後に「児童買春・児童ポルノ処罰法」の改正案が提出されるとは思ってもみなかった。

結局、第183通常国会は、衆参のねじれによって、参議院で安倍晋三総理への問責決議が可決されたために、6月26日に閉会した。同時に、自民、公明、維新の3党の議員から提出されていた「児童買春・児童ポルノ処罰法」の改正案は継続審議となった。(法律条文 | 改正案

同法案は衆議院にも提出されていたが、一度も審議がなされなかったため、廃案になると思われていたが、国会終盤になって、継続審議を願い出ていたのだ。

私は、性的虐待の被害体験を持つ子ども・若者たちを取材している。生き方をもがき、精神疾患を患っている人も少なくない。「子どもの権利条約」の趣旨にも賛同してきたこともあり、子どもの商業的性的搾取(CSEC)の規制に賛同している。

したがって「児童買春・児童ポルノ処罰法」に関していえば、その趣旨に私も賛同している。しかし、被害のあった子どもに対するケアシステム、ケアに当たるための人材、シェルターが不足している現状に懸念をいだいている。

その一方で、この法律の枠内で、表現規制を議論するのは無理があると思ってきた。「児童ポルノ」の定義が適切ではないために、性虐待の写真が必ずしも現行の「児童ポルノ」に当てはまらない。そのため、私自身もこの法律の「改正の必要性」を感じている者の一人だ。

しかし今回の改正案では、こうした必要な改正が行なわれず、なぜか、所持規制や表現規制ばかりが争点になってしまっている。

「ドカベン」もだめなのか? 参院予算委

この国会で、改正案についての審議はなかったが、提出される前の5月8日、みんなの党の山田太郎議員が参院予算委員会で取り上げた。その質疑は以下の通りだった。

山田議員 今回の改正案では、漫画やアニメについても検討しようとする附則が付いている。しかし、マンガやアニメには被害者はいない。創造物であるマンガやアニメにも適用するのは混乱するのではないか。日本のマンガやアニメが衰退してしまうのではないか。

麻生財相 児童ポルノの規制は、私が党内で担当していたときが最初。ポルノ漫画には成人マークをつけなきゃいけないとか、(棚は)1.2メートル以上の子どもの手が届かないところに置かなければならないようにした。現実問題として、表現の自由が関係するもので、出版元といろいろとやり合った記憶がある。それ以後、ずいぶん、昔に比べれば表現はよくなったんじゃないかと思う。ただ、この種の話は、議員立法。(議員と)直接話し合うのがよく、財務省に持ち込まれても、所管外という感じがします。

*筆者注 : 「児童買春・児童ポルノ処罰法」では何を「児童ポルノ」として取り締まるかを規定している。しかし、ポルノ漫画について成人マークをつけるかどうか、棚の高さをどうするのかは別の議論。これらは同法ではなく、各都道府県の青少年関連条例によるもので、麻生財相は両者を混同している。

山田議員 実は、水島新司先生の野球漫画『ドカベン』は、私と同じ名前の山田太郎という人が主人公なんですけれども、その中でも8歳以下のサチ子という妹の入浴シーンがありまして、こんな本も発禁本になる可能性がある。韓国でも自主規制がなされ、マンガやアニメに影響が出ている。いま、クールジャパンということで、日本の若者の大切な漫画やアニメを海外に積極的に売り込もうとしている。この流れを台無しにしないようにしなければならない。憲法の改正の議論をしているが、改正の先にあるのが表現規制なのか。そう疑われても仕方がない。

安倍総理 児童ポルノ禁止法は議員立法で検討中のため、詳細についてはコメントは差し控えたい。実在しない児童を描写したアニメや漫画に関し、どのような規制が必要か。こうしたアニメが、児童を性の対象とする風潮を助長するおそれがある。一方で、表現の自由との関係もあるので、慎重な考慮が必要であることはその通り。

山田議員 (安倍総理に)漫画やアニメが規制されるのに、小説は規制されないのはなぜか。

麻生財相 (手をあげて総理のかわりに答弁)時代ともに表現が変わってきた。いまは子どもは小説を読まないんですよね。漫画のほうを読む、だからどうしても漫画に目がいく、というのがいちばんの背景だと言える。

自民政調会長が他党に「賛成要請」という異例

なぜ、国会に提出される前の、このタイミングで改正案にふれたのかを山田議員に聞いてみた。

すでに表現に関してはいろんな規制がある中で、どうみても今回の改正案はおかしい。こんな規制ができたら、いい世の中はできない、と。実は、私は繰り上げ当選なんですが、最初に当選した2010年の選挙のときもこの問題があって、反対運動もやっていたんです。この問題は出ては消え、出ては消えの繰り返し。だからずっと情報を気にしていたんです。また「出すかもしれない」と。

こうしている間に、自民党内でも、「単純所持の違法化」と「漫画やアニメ等の規制」に関する改正に積極的だった議員たちが他党にも協力を要請するため、走り回っていた。

自民党の政調会長が、みんなの党の政調会議に出席されて、今回出されたものとまったく同じものを置いて行き、説明をされたんです。「我が党は児童ポルノ法の改正案を出すから、賛成してほしい」と。とんでもない、これはまずいな、と。それで自分のホームページやブログに、その日のうちか次の日に反対の意見表明を出した。

政調会長が自ら他党に説明にいくのは異例なことだ。そこまでするとは、この改正案に相当のこだわりがあるのだろう。

山田議員はこれをチャンスと思い、ホームページやブログ、Twitterというソーシャルメディアでの戦略に出た。ホームページでは何度もこの問題を取り上げ、いまや改正案の反対派議員としてメディアに出ることが多くなった。さらなる広がりを求めた戦略として、自身と同じ名前の主人公が登場する『ドカベン』を予算委員会で取り上げたことで話題になっていく。

山田議員はその舞台裏についてこう話す。

自民党内で政調会長の上といえば、総理か副総理しかいない。安倍さんに色がつく前に、先制攻撃してやろうと画策していたんです。予算委員会でないと直接総理に聞く機会はなかった。そして、予算委員会には、マンガに理解があると思われている麻生さんがいる。

実は、麻生さんがこうした関連の法案をいちばん最初に出して来た人だということは知っていたんです。それでも、アニメそのものを規制するということは麻生さんの口からは言いにくいんじゃないか。問題ありという答弁を引き出してしまえば、自民党も法案を出しにくいだろうと思ったんです。そんなところであの議論を仕掛けた。

実は、予算委員会では外交・防衛の集中審議中で、私も外交問題ということで質問をまかされた。でも、本当の狙いはこの問題だった。ただこればかりやっていると「お前、何やってるんだ」と言われますので、うまくクールジャパンとからめて、かなり無理はあったが質問した。あまり時間もなく、バランスもとらないといけない。国会の審議を見ている人からは「突っ込みが弱い」と言われた。

その後、改正案が提出された。議案提出議員は、自民党は高市早苗、平沢勝栄、西川京子の3議員。 公明党は富田茂之、高木美智代の2議員。日本維新の会は中田宏、阪口直人の2議員だった。

単純所持の違法化、漫画やアニメも含めるどうかは
法制定時からの争点

今回の改正案では、「単純所持」の違法化を設ける方針だ。つまり、麻薬と同じで持っているだけで違法というわけだ。また、現行法では提供や、それを目的とした製造や所持、運搬、輸出入の場合のみが処罰せられる。それに対して、改正案では「自らの性的好奇心を満たす目的」も加えた。その場合、一年以下の懲役、または100万円以下の罰金を科すものだ。つまり、持っているだけでも違法化され、持っている理由が「自らの性的好奇心を満たす」ためであれば、処罰されるのだ。

同法は1999年に、性的搾取や性的虐待から子ども(18歳未満)を守ることを目的に、議員立法で成立した。以来、改正について常に議論がなされてきた。その主な論点は三つだ。

 1)児童ポルノを持っているだけ、つまり「単純所持」を違法とするか
 2)禁止される児童ポルノに、漫画やアニメ、CGなど表現物を含めるか
 3)児童ポルノの定義をどうするか

実はこれらの論点は、法律が出来る前から争いがあった点だ。1996年のストックホルムで行なわれた「児童の商業的性的搾取(CSEC)に反対する世界会議」(通称、ストックホルム会議)で、児童買春や児童ポルノを犯罪化する流れができていた。

ストックホルム会議では、つぎのような宣言がなされている。

児童の商業的性的搾取に反対する世界会議「宣言」

この宣言は、①予防、②保護、③リハビリ及び社会復帰、④子どもの最善の利益の四つのアプローチと、①国内行動計画の策定、②国内の中心機関設置の必要性、③データベースの確立という三つの要素からなっている。

「児童ポルノ」の定義もはっきりしない

この頃は、自民、社民、さきがけの3党連立による村山富市政権だった。ストックホルム会議に日本政府代表として参加したのは当時の清水澄子参議院議員(社民)。1998年5月には、与党3党による「児童買春問題等プロジェクトチーム」ができていた。12月には「ユニセフ・グローバル フォーラム in 東京 公開ワークショップ」が開催された。このときから、児童ポルノの厳密な定義の必要性が言われていた。

参加した研究者(肩書は当時)からも「子どもポルノの定義が不明確。例えば、子どもが性的に搾取された写真だけが対象になるのか、それとも子どもの映像を変形した映像やコンピューターグラフィックスでつくられた映像を使った疑似ポルノなど、子どもの性的詐取の絵まで含めるのか」(デイビット・ムンターポーン/チェラロンコン大学教授)と指摘された。

また、「ポルノなり、わいせつ概念というものが非常に恣意的につくられていて、何のための規制なのかがわからない部分もありえる。(中略)もう少しきちんとした定義と明確な内容が必要」(福田雅章/一橋大学教授)とも言われていた。

捜査側のニーズとしても「保護すべき子どもの年齢を明確化し、何を子どもポルノとするかについて共通の定義を規定すること」(ラルフ・ムチュケ/インターポール事務総局犯罪情報局一般犯罪課長)があげられていた。

日本国内の「児童ポルノ/子どもポルノ」の定義の議論は、法制定時からずっと行なわれているのだ。今回の改正案でいきなり、「マンガやアニメ、CGなど」を含めるかどうかを検討するようになったわけではない。

公明は「児童の権利とのバランスを考え
処罰化は妥当」との立場

2008年からの第一次安倍政権で、「児童買春児童ポルノ禁止法見直しプロジェクトチーム」(PT)ができ、与党である自民党と公明党は改正案を大筋で合意していた。内容は次の通りだ。

一、何人もみだりに児童ポルノを所持し、保管してはならない=単純所持の禁止

一、自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持・保管した者は、1年以下の懲役か100万円以下の罰金に処する=処罰規程

一、インターネットプロバイダー(接続業者)は、児童ポルノ被害がインターネットの利用で容易に拡大することにかんがみ、捜査機関への協力や被害拡大を防止する措置を講ずるよう努める=児童ポルノの被害拡大防止

一、(付則)児童ポルノに類する漫画やアニメなどの規制と、インターネットを利用した児童ポルノの閲覧を制限する措置は(1)法改正後の施行状況(2)児童の権利擁護に関する国際的動向(3)関連する調査研究と技術開発の状況などを勘案しつつ検討、その結果に基づいて必要な措置を講ずる。

このとき、私は「月刊公明」の取材で、当時の公明党プロジェクトチームの事務局長・丸谷佳織衆議院議員に話を聞いている。今回の改正案で法案提出者に入っていた2人に取材ができなかったため、公明党の考え方を示す一つになっていると思われる、2008年当時のインタビューを掲載することにする。

――単純所持の違法化の根拠は?

丸谷議員 児童ポルノであっても、単純所持はいいという根拠はない。人にあげたり、他人に見せるのはいけないが、日本で持つだけならいいよ、というのが現行法です。これは児童ポルノを肯定することになる。G8の中で、単純処罰を禁止していないのはロシアと日本。それだけ国際スタンダードとの間にずれがある。

――警察権力の強化につながるという意見もある。

丸谷議員 警察権力の強化については、その懸念がないようにしないといけないが、強化があるから、単純所持をしてもいいということにはならず、議論としては噛み合わない。どちらを優先するか、党としても濫用を拡大すべしとは言っていない。適切な捜査が行われるべき。

――冤罪の可能性は?

丸谷議員 理論上は懸念があるが、アメリカでも、所持しているだけで次々と逮捕され、パソコンがのぞかれ、個人の情報がのぞかれ、という状況はない。本人が所持したくて所持したかどうかを証明するのは、警察側や検察側になるわけですよね。その個人を逮捕することが最終目的ではなくて、児童ポルノの存在自体を許さない、というのが目的。児童の権利とのバランスを考えたら、処罰化するのが社会的なメッセージとしても妥当だ。

――過去に入手したものも法改正によって捨てなきゃいけない?

丸谷議員 以前入手した児童ポルノは捨てなきゃいけません。

――「子どもに見せかけているポルノ」、いわゆる「みなしポルノ」については?

丸谷議員 「みなしポルノ」は、出演している人が実際には18歳以上。でもタイトルが児童ポルノ、たとえば『女子高生…』などというパッケージをあけたら、じつは18歳以上だった、となると違法性はないわけですよね。これはどうすべきか。児童を性の商品化しないことが目的だとすれば、児童ポルノと銘打っての広告は規制すべきと思っている。

――漫画やアニメについては?

丸谷議員 漫画・コミック・アニメの登場人物は実在しない。性犯罪の抑止力になっているという意見もある。その一方で、「え、そうなの?」という人もいる。理論的に話をすすめるために、漫画・コミックの収集者と実際の性犯罪との関連をきいても、警察庁はデータがないというだけ。警察は、犯罪を調べたらたまたま児童ポルノがあった、ということはできるが、そこの因果関係は決められない。

一方、心理学者の一部には因果関係を裏付けられる、という人もいる。FBIの調査でも因果関係があるといわれている。でも、それだけをベースに法律をつくるのも無理があり、研究調査が必要。ただ、因果関係のほかに、児童を性の商品化してはいけないという思想を流布させる必要もあるのではないか? いまは感覚論とか価値観だけの議論になっているが、それだけで議論するのはあやうい。

――「児童ポルノ」の定義が曖昧すぎて心配する声がある。

丸谷議員 『アルプスの少女ハイジ』の入浴シーンが児童ポルノに含まれてしまう、なんてことはありえない。そんな法律をつくることが目的ではない。自分の赤ちゃんの入浴を写真をとってもいい。

処罰対象を限定している民主党案は
「児童ボルノ」の定義も見直していたが…

2008年当時、民主党はそもそもの「児童ポルノ」の定義について見直しを求めていた。現行法も民主党案も、2条2項2号(2号ポルノ)の後段部分は共通している。

現行の2号ポルノの前段は「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態」となっている。

この条文は、AKB48の河西知美さんの写真集が指摘された部分だ。表紙の写真で、上半身が裸になっている河西さんの乳首周辺を外国人の男児が後ろから両手で隠している、というものだ。

この条文での「性器等」は、「性器、肛門又は乳首」のことを指す。そのため、「児童ポルノにあたるのではないか」とネット上やスポーツ紙で話題となり、発行元の講談社は発売中止とした。

一方民主党案では、「殊更に他人が児童の性器等を触り、若しくは殊更に児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態又は殊更に児童の性器等が露出され、若しくは強調されている児童の姿態」とした。

この条文では、河西さんの写真集は適用されるかどうかは微妙になる。しかし、ジュニアアイドルの写真集で、扇情的なポーズの写真は適用されることになる。現在、ジュニアアイドルの写真集を想定した条文がないことを民主党案は視野に入れた。

また、32条3項3号、いわゆる3号ポルノは「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」だが、民主案では主観的な部分が多すぎるとして削除を求めていた(写真は法案の当該条文。クリックで拡大)。


その上で、単純所持の処罰対象を、

 1)対価を支払って取得
 2)性的目的など所持

に限定する。つまり民主は「収得罪」の新設を主張していた。処罰対象は、自民・公明案よりも狭くなっていた。

地方では「児童ポルノ単純所持」を先行して違法化

国の議論に先立って、地方自治体では、児童ポルノの単純所持を違法化させるところも出てきている。奈良県では2005年7月、「子どもを犯罪から守る条例」を制定し、第13条で規定している。(条例条文)

この条例の子どもポルノの定義は、「児童買春。児童ポルノ処罰法」の定義と同じだが、「子ども」は13歳未満を指すため、「処罰法」よりも範囲が限定されている。そしてこれに違反した場合は、30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料となる。

なぜ、13歳未満の「子どもポルノ」の所持を禁止したのか。当時の菱川雄治・警察本部長は定例会で次のように説明した。

13歳未満の子どもを使用して作成された子どもポルノは、子どもに対する性的好奇心を刺激し、ひいては子どもに対する性的犯罪を引き起こさせるおそれがある有害、危険なものであります。また、子どもポルノは、性的同意が成立しない13歳未満の子どもに対する強姦や強制わいせつなどの、まさに性的犯罪行為が記録されたものでありまして、これらを見たり、見る目的で所持することは、そうした性的犯罪行為を容認し、支える行為であります。このように、子どもポルノの所持等は子どもに対する性的犯罪を助長する行為であると認められますことから、これを規制することとしたものであります。(議事録

13歳未満にしたのは、刑法の性同意年齢によるものだ。刑法176条では、

十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

また、177条では、

暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

と規定している。13歳未満との性行為は、合意があっても犯罪となる。これが「子どもポルノ」の単純所持禁止について、13歳未満の子どもに限定した根拠になった。(刑法条文

また京都府も2011年10月、「児童ポルノの規制等に関する条例」を制定した。その第7条には、

何人も、正当な理由がなく、児童ポルノを所持し、又は児童ポルノの提供を受けてはならない。

とある。ただし、所持そのものでは罰則はないが、廃棄命令に違反した場合は、30万円以下の罰金となる。さらに、「児童ポルノ」ではないが、「児童に係るわいせつな行為を視覚により認識することができる方法で描写した写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」は、所持・保管などしないように努力義務を課している。(条例の条文(PDF))

京都の条例でも「13歳未満」とした理由について、金谷浩志・府民生活部長は以下のように答弁している。

13歳未満の児童に対する性交等の行為は性的犯罪行為を構成するという極めて重大な性的虐待であることが明確であるということから、それらの画像等の有償取得等に対して直接罰則を科することとしたところであります。また、13歳以上につきましても、性交が写ったものなど悪質なものを所持している場合、廃棄命令を出し、従わない場合は罰則を科すこととするなど、可能な限り厳しい条例になっている。議事録

また、栃木県では2012年7月、「子どもを犯罪の被害から守る条例」が施行された。13歳未満の「児童ポルノ」の所持を禁止し、違反した場合は、廃棄命令の対象となる。廃棄命令に違反すると30万円以下の罰金となる。(条例の条文(PDF))

13歳未満の「児童ポルノ」の所持を禁止する理由として、古川芳巳・生活安全部長は2013年1月の県会文教警察委員会でこう答えた。

条例で保護する対象につきましては、一般に判断能力や危険回避能力が乏しい小学生以下の子供を重点的に保護するとの理由から、13歳未満の子供とすることを考えております。(議事録

「けしからんと思っている子育て中の親がいっぱいいる」
(平沢議員)

今回の自民・公明・維新が提出した改正案では、民主案は考慮されず、2008年当時の自民・公明両党の合意事項を踏まえたものとなっている。すなわち、

 1)適用上の注意規程の明確化
 2)児童ポルノ所持等の禁止
 3)自己の性的好奇心を満たす目的での所持の罰則化
 4)インターネットの利用に係る事業者の努力規定
 5)被害児童の保護のための処置を講ずる主体、責任の明確化

といった内容だ。

そして検討事項として、児童ポルノに類する漫画等(漫画、アニメ、CG、疑似児童ポルノ等)と児童の権利を侵害する行為との関係性に関する調査研究と、インターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限(ブロッキング)に関する技術の開発の促進が盛り込まれた。

ほぼ2008年当時のものと変わっていない。法案提出の議員に取材を申し込むと、平沢勝栄衆議院議員(自民)だけが話を聞かせてくれた。

――今回の法案提出の経緯についてお聞かせください。

平沢議員 今回の法案は、前にやったものと同じ。前回は私も関わったけれども、今回いちばんフォローしているのは高市早苗、阿部俊子の両議員です。普通、廃案になったとしても、自民党を通ったものは了承済みということになるけど、新しい議員が増えたから、部会で一応説明することになったんです。

次の部会では、一般の方から送られてくる漫画や写真集を見てもらう。外国で出回っている児童ポルノの多くは日本が発信元になっているといった話も、外国の大使館から入ってくる。その一方で、日本の一部の方々は、「(改正案は)表現の自由をおかす、規制するのはおかしい」という。でも、そういう方も現物を見せると、「これはひどいですね」と言う。現物を見ないで議論されているんです。

――漫画やアニメと性犯罪には因果関係があるんでしょうか?

平沢議員 自民党の部会でも、これが犯罪とどんな因果関係があるんだ? と質問がありました。でも、ダイレクトな関係は証明できるはずがない。漫画を読んで犯罪を犯すやつもいるし、犯さないやつもいる。

――今回の改正案は、漫画が児童ポルノとして認められれば、大人が見るのもだめ、ということになる。

平沢議員 一つだけ言えることは、子どもに有害だということです。表現の自由というのなら、まず自分の子どもに見せろ、と言いたい。私の地元で、現物を見ないで騒いでいたやつがいるんですよ。判断基準は自分の子どもに見せられるか。大人ならそれなりの判断能力は持つでしょう。でも、子どもは白紙状態で、なんでも吸収しちゃいますから。人生経験もない子どもたちに見せるのはいいか、と。児童ポルノは被写体になっている子どもを守る。漫画の場合は、見る子どもたちを守らないといけない、と。

――過去に出したアイドルのヌード写真集は?

平沢議員 法律は過去にさかのぼらない。そもそもヌード写真集なんて(規制対象に)ならないと思うよ。ただし、18歳未満の子どものものはだめ。大人の裸の写真は週刊誌でもいくらでも出ている。だめなのは(被写体が)子どもだからです。子どもをこんな形で撮らせるのはいいのかどうか。これは誰が見たって、性的な興奮のためだから。これは都条例ではひっかかる。

――都条例で児童ポルノはすでにゾーニングされているのでは?

平沢議員 いや。これは秋葉原で売っているって、どこかの記者が言っていた。数年前、「子どもの水浴びの写真を撮ったら、児童ポルノになるのか」と言った人がいたが、そんなものなるはずがないよ。子どもの成長を記録するための写真に、性的な興奮を覚えるはずがない。

その一方で、こういうもの(児童ポルノ)はけしからん、と思っている子育て中の親がいっぱいいる。そういう声は聞かないで、「表現の自由」と騒いでいる人もいる。それと国際的に見たらこれはおかしい。諸外国でも、単純所持が規制されているところもあります。G8では、(単純所持が規制されないのは)ロシアと日本だけじゃないかな。国際的にこういうものを日本が輸出しているのはいろいろ批判があるし、私も大使館の人たちと話をすると、「国内的に規制をしてほしい」と。一言で言えば、表現の自由も無制限じゃないっていうこと。

――かつてFBIが自ら児童ポルノサイトを作って、クリックをした人を捜査対象にしたという話もある。

平沢議員 日本ではそういう捜査手法はできないんです。アメリカは、婦人警官が売春婦になりすます「おとり捜査」がさかんですから批判されることじゃない。イギリスもそうですよ。日本だって、薬物とか拳銃とか、一部に例外的なものはありますよ。でも児童ポルノに関しては、日本ではそんな捜査はできるはずがない。

――メールで送られてきたもの、たまたま見たサイトで残ったキャッシュは?

平沢議員 今の警察の捜査は国民が見ているし、マスコミが見ている。裁判だって、国民が参加する時代になっている。検察審査会もあって、いろんな形で国民がチェックしている。これがおかしいとなれば、国民が判断します。メールで来たもので警察が逮捕したら、国会だって許しませんよ。「権力は暴走するかもしれないから、徹底的にチェックしないといけない」という理屈はわかるが、暴走なんてできませんよ。

――児童ポルノの定義はまだ曖昧ですよね?

平沢議員 これから問題になると思いますよ。やっぱり、裸かどうかではなく、性的興奮を覚えるかどうかですよ。明らかに、性的虐待とか、性的な関心を呼ぶものは児童ポルノになるでしょうけども、それ以外のものは制限的にやるでしょう。最後は線引きが不明瞭なところがでるでしょう。これは国民が判断するしかない。定義は時代ともにかわる。ある程度の線引きは必要だが、はっきり数学のように、こっちはこうだ、とはいかないと思う。

――すでに自主規制をしているインターネット事業者へ努力義務規定を入れることにどういう意味があるのか?

平沢議員 自主規制団体は、全部の団体が入っているわけじゃないでしょ。入らないで個人でやる場合だってあるわけですから。自主規制に拘束される事業者は限られている。(ブロッキングされたものが「児童ポルノ」かどうか判断できないのは)「わいせつ」の場合と同じですよ。国によっても人によっても「わいせつ」の定義だって全然違うわけです。それに比べると児童ポルノは、国際的にも、年代関係なく、ある程度、コンセンサスが得られる。子どもは純白、純情だから、有害なものから守ってあげようと。これは世界中同じだと思うよ。

――自民党は各都道府県での規制を全国的に統一させる法律を作ろうとしていたが?

平沢議員 いまは、各県でやっているから条例でいいんじゃないの? 騒音条例も含めて、統一したほうがいいという声もあるが、そういう声が熟してからでいいんじゃないかな。ニーズが高まれば、国会でやるのもあり。いずれはそうなるかもしれない。

表現の自由というのは、一部の漫画家のためにあるのではない。自分たちだけよくて、国民はどうなってもいいという表現の自由はない。でも、乱用だけは気をつけないといけない。もし法律が通れば、乱用を戒める付帯決議ができます。私のところ(編集部注:平沢議員の選挙区は東京都葛飾区)は、『キャプテン翼』とか、『こち亀』とか、マンガの街ですから。マンガが文化だというのは百も承知です。

継続審議となった「児童買春・児童ポルノ処罰法」改正案は、参議院選挙の後、再び、衆議院で審議に入る。選挙前の議席数では、自民、公明、維新では過半数に至っていなかったため、他の党の協力を求める必要があった。しかし、参院選の結果、自民、公明、維新で過半数に達した。

国政選挙では、ある問題に対して大雑把に「是か非か」ということが問われる。しかし、表現規制のように細かな論点がある問題を争点化することは難しい。この問題についての議論は、ニコニコ生放送などで一部は争点化されたものの、広がりを見せていない。今後は議会内だけでなく、様々なチャンネルを使って丁寧な議論を求めたい。

執筆者紹介

渋井哲也
ノンフィクションライター。若者の生きづらさ、自殺、自傷行為、家出、援助交際、少年犯罪、いじめ、教育問題、ネットコミュニケーション、ネット犯罪などを中心に取材。東日本大震災後は、震災やそれに伴う原発事故・避難生活についても取材を重ねている。著書『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)、『明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中』(幻冬舎)、『ネット心中』(NHK出版、生活人新書)、『実録・闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)、『若者たちはなぜ自殺するのか』(長崎出版)ほか、共著『復興なんて、してません――3・11から5度目の春。15人の“いま” 』(共著、第三書館)ほか多数。