Editor’s Note

2013年3月21日
posted by 仲俣暁生

日常編集家アサダワタルさんの連載、「本屋はブギーバック」の第2回を公開しました。今回はマンガの第一巻だけをひたすら集める「一巻書房」というプロジェクトを紹介する、「一巻書房は、新しい批評だ!」です。

「一巻書房」のユニークな活動の詳細はアサダさんの記事をご覧いただくとして、この話を聞いて最初に私が思ったのは、「書房」という言葉のもつ意味のひろがりです。

「書房」は本屋か出版社か、それとも…?

日本の場合、書店や古書店がのちに大きな出版社になったり(後者は岩波書店が典型)、近世には書店と出版社がそもそも未分化だったという歴史的経緯があるためか、出版社と書店のどちらの名称にも、「書房」「書店」という言葉がよくもちいられます。

「◯◯書房」という名の出版社を思いつくままに挙げていくと、「みすず書房」「筑摩書房」「河出書房新社」「早川書房」といった中堅出版社のほかにも、「原書房」「竹書房」「柏書房」、「さ・え・ら書房」「ゆまに書房」「あかね書房」「ひつじ書房」「ミネルヴァ書房」「イザラ書房」、さらには「大和書房」「二見書房」「白夜書房」「三笠書房」「新宿書房」「御茶の水書房」「富士見書房」…と、人文系からビジネス書、サブカルチャー系まで、さまざまな出版社が「書房」を名乗っていることに、あらためて気がつきます。

書店のほうの「書房」は、「オリオン書房」「くすみ書房」「ふたば書房」「流水書房」「ガケ書房」と、こちらもさまざま。ちなみに「三月書房」と「七月書房」は書店として存在し、「五月書房」と「六月書房」は出版社です(私が知らないだけで、他にもあるかもしれません)。

「書房」とは、文字通りに受け止めれば「本の部屋」、つまり「書斎」や「図書館」にも通じます。そこで本の売り買いがされなくても本が「出版」されなくても、書物があり手にとって読まれる場所ならば、そこを「書房」と呼んでいいのではないか。

「一巻書房」の蔵書の一部。これも立派な「書房」である。

もし、本のあるあらゆる場所が「書房」になりうるなら、そのコンセプトはミニマムからマキシマムまで、いろんなサイズがあっていいはずです。アマゾンやグーグルがめざすのがマキシマムなら、こちらはミニマムでいってやれ。岩淵さんの「一巻書房」の試みには、そんなひそかな心意気が感じられ、気持ちいいのです。

いっそ、大勢の人が手分けをして、じゃあ自分は「二巻書房」を受け持つ、私は「十七巻書房」をやってみる、ではオレは「最終巻書房を」…といった感じで、Wikipediaのような分散型のマンガの各巻ごとの批評データベースができたら面白い。実現しなくても、そういう「夢想」を受け手にさせてしまった時点で、「一巻書房」というプロジェクトは成功なのだと思います。

スタンダードブックストア心斎橋店にて
キックオフ・イベントを開催

本屋という場所をつかって、小売業としての書店が抱える現実の諸条件を少し逸脱したところで、さまざまなアイデアや「妄想」による本を使った社会実験をしてみたい。そんなアサダワタルさんの大胆な提案に、大阪スタンダードブックストアの中川和彦さんが応じ(連載第1回「本屋でこんな妄想は実現可能か」を参照)、さらにそんなお二人の考えを「マガジン航」編集人である私が「面白い!」と思ったことから、「本屋はブギーバック」という不思議な連載がはじまりました。

そこで善は急げとばかり、「マガジン航」での連載記事と、実際の本屋さんでのワークショップやトークイベントとを連動させる試みの第一弾を、さっそく今週末の23日午後に、大阪のスタンダードブックストア心斎橋店で行います。僕もこの日は東京から駆けつけ、アサダさん、中川さんに、いろんなアイデアや「妄想」をぶつけてみたいと思います。

みなさんの「妄想」の持ち寄りや提案も、もちろん大歓迎です。あなたの「妄想」が、ほんとうに実現してしまうかもしれません!

スタンダードブックストア×マガジン航 presents
「本屋でこんな妄想は実現可能か!?」トーク&ワークショップ

日時:2013年3月23日 open 11:15 start 12:00
出演:仲俣暁生×アサダワタル×中川和彦
会場:スタンダードブックストア 心斎橋 BFカフェ
料金:1,200円★1ドリンク付き
※詳細はスタンダードブックストアのサイトをご覧ください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。