「日の丸」電書端末Lideoに勝機はあるか?

2012年12月27日
posted by 持田泰

12月10日、凸版印刷・トッパングループの電子書籍サービスBookLive!は、専用端末「BookLive! Reader Lideo(リディオ)」(以下Lideoと略記)を静かに発表した。トッパングループのデジタルコンテンツビジネスは、650億円(2010年度)にのぼる日本の電子書籍市場のほとんどを担ってきた「ガラケー」向けをはじめ、PCやPDA向けにも配信していた電子書籍取次の老舗ビットウェイから連綿と続いている。BookLive!とLideoはその延長線上にあるサービスだ。

配信数は「78,583タイトル 116,454冊」とかなり充実している(12月24日時点)。

細かいスペックシートは専門の皆様にお任せするとして(下記の記事などを参照)、僕はあくまで「ユーザー=読者」としてのポイントにしぼってLideoの使用レポートをしてみたい。

・BookLive!の電子書籍リーダー「BookLive! Reader Lideo」をいち早く使ってみた [2012/12/10]
・山口真弘の電子書籍タッチアンドトライBookLive「BookLive! Reader Lideo」[2012/12/19]

Made in Japanの自負?

最初に結論だけ述べておくと、Lideoはよくできている。UI/UXにおける細かな出来不出来はおくとして、電子書籍のトータルサービスとしてとらえた際に、決定的な「穴」はない。専用端末を含めたサービス全体のユーザビリティは想像していた以上に良いし、端末特有の「癖」も、使っていくうちに慣れるだろう。

とくにLideoの端末を「箱から出してすぐ使える」ようにした理念は素晴らしい。煩わしい通信設定の設定は不要だし、あらかじめアカウントを用意せずとも使える。WiMAXによる無線通信付きで8480円という価格設定は、他社の通信(3G)端末と比較しても突出している。

日本でも発売を開始したKindleに話題をさらわれて地味なスタートになるかと思いきや、思いのほか売れ行きが良いらしいのも、まさにこのポイントが消費者に伝わったからであろう。某書店某店スタッフにこっそりと聴いてみたところ、「入荷した店頭販売分の40台のうち、39台が初日で捌けた」という話である。

本文フォントには読みやすい凸版明朝を採用。

テキストコンテンツで.bookフォーマットの読み込み速度が少し時間がかかるように感じるが(XMDF・EPUBでは起きない)、読み込めたあとの読書操作はスムーズである。「進む」が上タップもしくは進行方向にスワイプ、「戻る」が下タップもしくが逆方向にスワイプでのページ遷移だけであり、他に選択肢がないのも分かりやすい。本文フォントは見やすく、さすが凸版明朝である。ちなみに箱にはでかでかとmade in Japan の文字が。中島みゆきの「地上の星」が聴こえるかのようだ。

端末に関する懸念として取り上げたいのが、電池に関して消費をセーブするECOモードに設定しているにもかかわらず、消費が早いように思われることだ。頻繁に使用している場合、数日しか持たない。他の電子ペーパー端末と比較しても、これは非常に早い。使い続けるうちに電池が劣化してきたら、充電器を持ち歩くようなことになるのではないかと思うと、非常に不安ではある。

10万コンテンツの「物量」とマルチデバイス対応

「電子書籍サービス」は専用端末だけがあれば済むというわけではなく、PC・スマホ・タブレットへのマルチデバイス対応が必須である。Booklive!はサービス開始以来、iPhone/iPadのiOS、Android(いくつかの端末ではプリセットもされている)、WindowsPhone/WindowsPCと、着実に対応端末を増やしている(本稿執筆時点ではMacOSには未対応)。Lideoと各スマホ・タブレット端末間では本棚を同期できるし、それまで読んでいた箇所の続きを別のデバイスで読むことも(一部のコンテンツ以外をのぞき)可能である。

サービス開始時にマルチデバイス対応が重要なのは、すでに大量のBookLive!ユーザーがいるからだ。楽天はKobo Touchの日本での発売時に、スマートフォンやタブレットへのアプリ対応ができなかった(Android版が最近になってようやくリリースされた)し、先行して始めた電子書籍サービスRabooも、Koboとサービスを統合できないまま2013年3月末に終了する。それにくらべるとBookLive!は、Lideo投入に際して、きっちり統一の取れたサービスとして出してきた(それが普通かもしれないが)点で評価できる。

スタートの段階で10万に及ぶコンテンツの「物量」は頭一つ飛び抜けており、ビットウェイが背後に控えている限り、今後も出版社のコンテンツは最短で押さえられるだろうから、将来的な品揃えに対する不安は少ない。実際、LideoにはKindleストアにはまだ並んでいない本(横溝正史『探偵小説昔話』青山二郎『眼の引越』今野真二『百年前の日本語―書きことばが揺れた時代』など)が数多く発見できるのでニヤニヤしている。

ただし、そう遠くない将来、どの電子書籍ストアからも時差なしにコンテンツが出せるスキームが整うだろう。そうなれば、「物量」だけでは差別化のポイントとして弱い。アマゾンのKindle Direct Publishingや楽天KoboのKobo Writing Lifeなど、他の陣営ではセルフ・パブリッシング(自己出版)のサービスを実施しており、その種のコンテンツは今後も増加するものと予測できる。外部提携であってもいいので、Lideoにもセルフ・パブリッシングへの対応を期待したい。

それでも「孤独感」を感じる理由

Lideoをジップロックに入れて風呂場でも操作実験(ジップロック越しでは操作難あり)をしたほど、個人的にはこの端末に愛情すら抱きはじめている。電子書籍サービスとしては全方位にわたり整っているので上記の電池以外の失点は少ない。むしろ加点が多いくらいである。それなのになぜだろう、どうしても「不在感」が否めないのだ。それはUI/UXにおける不如意の積み重ねだけでない、サービス全体から受ける「孤独感」である。以下、この「孤独感」の理由を考えてみたい。

すでに述べた通り、国内のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)以来のモバイルコンテンツビジネスの延長線上で成立している。したがって「黒船」勢のように商品・サービス・情報・ユーザーが行き交うコミュニケーションの土台としての「プラットフォーム」という自覚は薄く、「コンテンツプロバイダ=デジタル商品を消費者に配信する場」という位置に甘んじている。

たとえば、Lideoのスリープ画面には、ユーザー設定では切ることのできないプッシュ広告が出る。Kindleの北米向け機種にも「広告つき」モデルが存在するが、これは「広告なし」モデルに対する廉価版という位置づけだ。プッシュ広告は、ユーザーに選択肢を与えずに一方的に進めるべきではない。他にも2013年1月31日までの期間限定で福井新聞の自動配信コンテンツがプリセットされているのだが、東京に住んでいる僕がどうして地方新聞を読みたがると思うのか。こうした対応からも分かるように、Lideoはコンテンツの見せ方がいかにも「一方通行」なのである。まずは「端末は誰のものなのか?」という問いを今一度立ててもらいたいと思う。

ストアでは8冊がタイル表示されるが、本のタイトルが途中で切れてしまう。

ストアの第一印象も「詰め込み過ぎ」といっていい。8つのコンテンツがタイル式に並んで表示されるが、書名が途中で切れてしまうなど、視認性が悪い。また「書店」では文字サイズも変更できない(文字サイズの変更はあくまで電子書籍ファイルへの操作であり、端末オぺレーション上での説明やタイトル文字の拡大縮小はできない)。これではターゲットである「多読のシニア層」が読みたい本にたどり着けるのか心配である。これならば紙の本のほうが早い、ということになっては本末転倒だろう。

ほとんどの本に読者レビューの☆がついてないのも、ユーザーの母数が少ないせいだけでなく、Lideoの端末から☆をつけられないことが大きい。Android用のアプリからはシェアもレビューの投稿もできるのだから、とくにポリシーはないのだろうが、これでは読者側の反応を求めていないと受け取られても仕方ない。ソーシャル本棚サービスの「読むコレ」と連携して、さまざまなレビュー収集企画が実施されているのは、BookLive!の側でもユーザー参加性の弱さを自覚しているからだろう。

ソーシャル本棚サイト「読むコレ」とも連携。

いまのBookLive!のストアは(Lideoの端末から見るかぎり)「新装開店」したはいいものの、自分以外の客の姿が見えず、売り子ばかりがいる書店のような印象を受ける。たしかに本の買いやすさへの配慮は行き届いており、「シリーズ購入」への導線や「全巻カートに入れる」ボタンなど、他のサービスにはないきめ細やかさがある。にもかかわらず、一人の客としてこの「書店」を訪れると孤独に感じるのだ。

その「孤独感」を埋めようとソーシャルポストをしようとしても、Lideoの端末からはできない。前述したとおり、AndroidアプリではFacebookやTwitterへのソーシャルポストが実行できるが、Facebookへのポストの場合、表紙の画像が表示されるだけで、ストアの個別コンテンツに誘導するURLが生成されないため、ポストの意味がない。

逆向きの導線として、BookLive!サービスへのアフィリエイト・プログラムが考えられるが、こちらも現段階では用意されていない。先にも挙げた自己出版サービスや自炊コンテンツへの対応を欠いたスタンスも気にかかる。ようするに、ユーザーを巻き込んで商品とサービスと情報を循環させていくスキームがなく、外部連携に関しての配慮に欠けているのだ。

アマゾン以外の選択肢としての期待

いま一般的な「多読のユーザー」は、本を購入する際にどういう行動をとるだろう? 欲しい書籍のタイトルがわかっていれば、まずはインターネットで検索するだろう。その場合、現時点では最初に出てくるのはアマゾンのストアということになる。人によってはここでカスタマー・レビューを確認し、紙の本もしくはKindle版をワンクリックで購入する。さらに読了後は、Facebookやtwitterなどのソーシャルポストで感想を共有し、他の読者をアマゾンのサイトへ誘導するだろう。圧倒的ともいえるこの導線を踏み越えて行かないかぎり、ほとんどのユーザーは、アマゾン以外の電子書籍サービスにたどり着かない。

ウェブのとば口であるサーチエンジンからソーシャルメディアまでを巨大なECサービスが押さえ、その流れを完成させてしまった際にどういう事態になるかを考えていくと恐ろしい。「電子書籍元年」と言われた後も、なかなか明けない長い夜にずっと寝ずの番をしていた一人として、Kindleの登場によって日本でも電子書籍が普及することは悦ばしいが、アマゾンの一人勝ちでは面白味がないし、競争がなければサービスの改善ものぞめない。「Kindleなら品揃えが豊富」というブランディングのマジックにすぎないようなアンケート結果もあったが、「総合評価ではLideoが最高」という熱心な支持層=エバンジェリストがつくようなサービスになっていただきたい。

たんにmade in Japanの電子書籍端末というだけでなく、日本人にもっとも相応しい「読書」の環境をLideoが提供できたときこそ、「長い夜」は明けたと言える。その日まで、僕はひきつづき寝ずの番を続けたいと思う。

■関連記事
コボタッチ日本投入は楽天の勇み足!?
電子書籍戦争は終結、勝者はアマゾン
進化せよ。ここがガラパゴス島だ!
日本語電子書籍リーダーの進む道