北米電子書籍市場からのソニー撤退に思うこと

2014年2月14日
posted by 大原ケイ

北米市場における電子書籍ストアのKoboへの移行を伝えるソニーのプレスリリース。

ソニーが北米のeリーダーストアをたたんでKoboに譲渡するというニュース。日本ではそれなりに騒ぎになっているようですが、アメリカ人は「モノ作り」とか、ソニーブランドに対する愛着などというものは全く持ち合わせていないので、eリーダーの持ち主も、「あっそう、これからは本を買うときはKoboになるのかぁ」ぐらいのクールな感想かと思います。カナダ人に至っては、あらら、ますますKoboの寡占状態(注:2012年の端末市場のシェアではKoboが46%、ソニーが18%。アマゾンは24%)かぁ、という程度の反応でしょうか。

Koboに移行することになるeReaderユーザーの蔵書にしても、もともとeリーダーストアのセレクションがKoboよりも少なかったおかげで、読めなくなってしまうものはそんなにないし、仮にあったとしても、3月末までに端末にダウンロードしておけば、その後も読むことはできるそうなので、大騒ぎにはなっていないのです。既に買ったEブックに付けてあったブックマークや下線は消えてしまうそうだけど、それも「既に読んじゃった本」なので、これからまた何回も何回も読み返したいタイトルはないだろうし、そんなに何度も読みたい本は、また買えばいいじゃない、ぐらいの話かなぁ。

「ガジェット屋」に徹すればよかったソニー

結局、ソニーは「ガジェット屋」で、Eブックというコンテンツを売るビジネスなんてそもそもムリだった、ということに尽きると思います。

思えば今は昔、MITメディアラボで開発されたEインク技術を使って最初に商品化したのは、ソニーのリブリエだったんですよね。でも、日本の出版社に「Eブック版売ってやるからコンテンツよこせ」という強気の姿勢に出ることも叶わず、リブリエで“買った”電子書籍は60日で消えてしまうという、「そんなモン誰が欲しいかよ」というサービス内容で、しかも端末のお値段は4万円。実に食指の動かない代物でありました。

一方で、ブラッド・ストーンの『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』を読めばわかりますが、アマゾンは紙の本を既にガンガン売りまくっていたからこそ、アメリカの出版社を騙したり、脅したりしてコンテンツを集められたわけです。でもね、日本ではリブリエは失敗したけれど、その後ソニーは北米市場に向けてeReaderを発売した。つまりキンドル登場以前の時代に、数年間、Eブックを読むガジェットといえばアメリカではソニーeReaderぐらいしかない、という時代もあったわけで。

出回っているEブックのタイトルが少ないということもあって、私が知る限り、その頃のeReaderは「少しでも紙を減らすために、書類を読むためのガジェット」として一定数、アメリカの出版業界に出回っていた。私自身、4〜5年前に編集者に配られていた古いeReaderを使ったことがあるけれど、最初からパソコンにつないで使うモノ、という感じだった。

編集者がエージェントから受け取るゲラが既にPDFファイルになっていた時代なので、ランダムハウス内のいくつかのインプリントでは、編集者にeReaderが配られてたりもした。それまでもゲラはEメールで送られてきたPDFをパソコンで読むか、プリントアウトして読んでいたので、そこにeReaderが加わったという感じで、Wi-Fiや3G接続があるかどうかは大した問題ではなかった。

出版業界以外でも、弁護士とか、飛行機の整備士とか、「職業上、大量の書類を抱えながら仕事をする人たち」の間では、eReaderはよく使われていた。ソニーはその路線で、自分たちのEブックストアを維持しようなんて考えずに、DRMフリーのEブックや、書類を読むためのガジェットに徹するとか、グーグルやScribdなど、どこか他のところと組んで、ガジェットはうちが提供しまっせ、というビジネスのままでよかったんだと思う。

Koboはハイエナにあらず

一方で、ソニーのeReaderの顧客を引き受けただけだけでなく、今までもボーダーズのEブックや、グーグルに代わってアメリカのインディペンデント系書店の指定Eブック屋として手を広げているKoboを、「ハイエナ」呼ばわりするのは間違っている。これは単に、これまでもボーダーズ倒産時にその電子書籍部門を引き継いだように、Koboが提供するサービスの仕組みがシンプルで、色々なものを引き受けやすいのと、アマゾンは他人様の手垢の付いたコンテンツなど見向きもしないせい。これからの流れでDRMが見直されていくとしたら、真っ先にDRMを外してくるのがKoboだという気もします。

いずれにしろ、アマゾンがやらない分野や、アマゾンにできないことをつねに意識しないと、出版業界に限らず、この先リテール業界や製造業で生き残っていくのは難しいでしょう。

[編集部より]
なおソニーは2月7日に日本での電子書籍事業について、「今後ご提供予定のサービスのほんの一部をご案内」というロードマップを発表し、2014年春以後もサービスを継続することを表明しています。

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同人雑誌「月刊群雛 (GunSu)」が目指すこと

2014年1月28日
posted by 鷹野 凌

小林恭子さんが「マガジン航」に寄稿した「ロンドン・ブックフェア2013報告」を読んで刺激を受け、私が一人で勝手に「日本独立作家同盟」を設立したのが2013年9月1日です。「インディーズ作家よ、集え!」を書いた10月31日ごろには、Google+のコミュニティ参加者はまだ70名くらい、自己紹介(参加表明)の投稿をして参加者一覧に名前を連ねた方が30名くらいだったと記憶しています。

それが、「マガジン航」への寄稿から、一気に参加者が増え、本稿執筆時点でGoogle+のコミュニティ参加者が197名、自己紹介(参加表明)の投稿をして 参加者一覧に名前を連ねた方が107名という規模になってきました。「作家同士の助け合いによって互いに研鑽し、素敵な作品を生み出せるような土壌を一緒 に育てていきましょう!」という呼びかけに応えてくれた方々が、これだけ多くいたことを大変嬉しく思います。

「月刊群雛 (GunSu)」とは?

さて、日本独立作家同盟は1月28日に、「月刊群雛 (GunSu) ~インディーズ作家を応援するマガジン~」を創刊しました。「インディーズ作家よ、集え!」でも、個人作家にとって最も高いハードルは「告知すること」だという指摘をさせていただいた通り、デジタル化・ネットワーク化によって制作と発表のハードルが下がることで、たくさんの作家や作品が生まれ、そして埋もれていっているのが現状です。海へ一人で小石を投げ込んでも、小さな音と小さな波紋が広がるだけ。一人でできることには自ずと限界があります。でも、何人か集まれば、大きな石が投げられるかもしれません。もしかしたら、荒れる海に大きな波紋を残せるかもしれません。そういう思いから、この雑誌は生まれました。

「月刊群雛 (GunSu)」 創刊号の表紙デザイン(画像クリックで販売ストアへ)。

発行は「BCCKS」から電子版とオンデマンド印刷版で、在庫は持ちません。電子版は、Kindleストア、iBooks Store、楽天Koboにも順次配信します。オンデマンド印刷版の判型は10インチ(W148×H192mm)で、BCCKSで制作できる最大ページ数の320ページです。当初、文庫サイズで出そうと思っていたのですが、ボリームの多さを文字サイズを小さくすることで対処しようとしたら、5円玉の穴に2文字入るくらいの極小サイズになってしまうことがわかり、急遽サイズを大きくしました。

「群雛」という名前は、雛の群れを意味します。巣で親鳥が餌を運んでくるのをただ待つ雛ではなく、大空を飛ぼうという強い意志を持ち、両足で大地を踏みしめ、まだ羽の生え揃っていない両手を懸命にバタつかせている雛の群れです。大切なのは、「いつかあの大空を飛んでみせる」という意思と、そのために努力ができるかどうかだと私は考えます。

Google+のコミュニティ参加は、Googleアカウントさえあれば1クリックで完了します。しかし、「同盟の参加者」として名前を連ねるには、自己紹介(参加表明)が必要というハードルを設けました。先に数字を挙げた通り、自己紹介(参加表明)をしている方はコミュニティ参加者の半数です。残りの方は、同盟の動向を見守り、応援してくれている方々ということでしょう。

「月刊群雛 (GunSu)」への掲載も、まず必要なのは意思表明です。Google+のコミュニティで「月刊群雛 (GunSu)」参加者募集の「イベント」を立てると、同盟コミュニティ参加者全員に「招待状」通知が届きます。そのイベントに、参加の意思表明コメントをした人から順に掲載するというスタイルを採っています。要は、早い者勝ちです。参加したくない場合は、イベント通知で[いいえ]をクリックするだけです。以後、その号の募集に関しては通知は届かなくなります。

掲載可能な作品は、文章、漫画、イラスト、写真です。表紙枠が1人、新作枠が5人、既刊サンプル枠が10人です。作品の巧拙は問いません。フィクション、ノンフィクション、エッセー、詩、批評、論説、ビジネスなど、ジャンルも問いません。ただし、R18は対象外です。著作権や商標など、法律上問題があると判断した場合は掲載をお断りします。もちろんお金もかかりません。収益は、新作を掲載いただいた方々と編集でレベニューシェアします。

ちなみに、創刊号の参加者募集イベントは、募集開始から2時間半で表紙と新作枠が埋まり、2日半で既刊サンプル枠まですべて埋まりました。その後も何人か参加希望者があり、お断りしなければならないほどでした。配信プラットフォームのファイル容量制限や、印刷版のページ数制限、制作工数の問題があるので、 「いくらでも載せます!」というわけにはいきません。

従来型の同人雑誌と何が違うのか

こういうスタイルの出版は、特に珍しいものでも目新しいものでもないでしょう。文芸同人雑誌の起源は明治時代、尾崎紅葉らによる硯友社の「我楽多文庫」まで遡ると言われています。漫画の同人雑誌も、第二次世界大戦直後からあるそうです。「同人」の世界には、先駆者が大勢いらっしゃいます。最近は「同人誌」イコール二次創作みたいなイメージを持っている方も多いですが、「コミティア」のようなオリジナル創作限定の同人誌即売会も盛んですし、「コミックマーケット」にオリジナル作品でサークル参加している方々もたくさんいます。

「月刊群雛 (GunSu)」の特徴は、在庫を持たないことです。仮にフルカラーオンデマンド印刷でA4サイズ32ページの小冊子を100部作ったら、約10万円かかります。それだけの費用をかけるとしたら、回収することも重視せざるを得ません。「作品のジャンル・巧拙を問わない」なんて生ぬるいことは許されず、商業出版と同じように掲載作品を選別しなければならないでしょう。

在庫を持たない形にすることで、それほど直接的な費用をかけずに制作できます。もちろん商品として提供する以上、表記の統一や誤字脱字のチェックなど、それなりに編集コスト(直接的な費用ではなく、時間と労力)はかけています。そのコストを回収することさえ、正直難しいと思っています。ただ、「それほど儲からなくてもいい」という割り切りができると、比較的自由にやれます。電子出版のプラットフォームによって、そういうスタイルの同人雑誌も可能になったのです。

そしてここにも、先駆者がいます。私が知っているだけでも、佐々木大輔氏・忌川タツヤ氏らによる「ダイレクト文藝マガジン」、堀田純司氏らによる「AiR」、古田靖氏らによる「トルタル」、鈴木秀生氏らによる「ネット出版部マガジン LAPIS」などです。ただ、残念ながら、いずれも現在は続刊が出ていない状態です。「トルタル」は次号を準備中とのことですが、他は今どうなっているか分かりません。

こういう状況をみるに、恐らくこういう同人雑誌は始めることより続けることの方が大変だということなのでしょう。だから私は、初めから「月刊誌」だと宣言することにしました。毎月、最終火曜日発売です。明確な締め切りがあることで、かけられる時間と労力に制限ができます。私も凝り性なので、できることなら徹底的にやりたいたちです。でも、いつまでもクオリティにこだわることより、スケジュールを守って出し続けることの方が重要です。ここでも、割り切ることにしました。

もう一つ重要なこととして、参加作家にきちっと対価をお返ししたいという私の思いがあります。恐らくそうしないと、いずれ継続していくのが難しくなってくるでしょう。だから、安売りをするつもりはありませんでした。そもそも、インディーズ作家の同人雑誌を欲しがる人は、恐らくそれほど多くありません。ターゲットはマスではなく、ごく限られた好事家です。多くの電子出版プラットフォームの最低単価である100円で売っていた同人雑誌がいずれも休刊状態になってしまっている現状を見ると、安売りしたところで多くの方には売れないということになるでしょう。

だから、単価設定は非常に悩んだのですが、インディーズ作家を応援することを目的とし、年間1万円くらいを投資してくれる方が100人くらいいれば、新作を載せてくれた方々に1人あたり5000円くらいはお返しできるだろうと試算し、電子版は1部840円(本体価格800円+消費税40円)という設定にしました。正直、目標100部というのも、非常に高いハードルだと思います。また、オンデマンド印刷版は判型やページ数で原価が決まるので、利益をほとんど載せなくても1部1932円(本体価格1840円+消費税92円)という単価になってしまいました。創刊号は320ページというボリュームなので、ご勘弁下さい。

告知する努力をするということ

最後に、個人作家にとって最も高いハードルである「告知すること」について。簡単なことではないのは、間違いありません。しかし、自分の作品を世に送り出したいのであれば、それ相応の努力が必要です。日本独立作家同盟のコミュニティに自己紹介(参加表明)をした人で、Google+のプロフィールに名前しか入力していない人が何人もいました。そのたびに、「プロフィール情報をある程度充実させましょう」「プロフィール写真を入れましょう」という提案をしてきました。日本ではマイナーなGoogle+はともかくとして、TwitterやFacebookをやっていない人、ウェブサイトやブログを持っていない人も大勢います。

作品を売ることは、自分を売ることでもあります。「自己紹介してください」「作品紹介をしてください」と言われたときに、やっつけ仕事でたった一行だけ書いてくる方もいます。別にそれを拒みはしませんが、あえて厳しい言い方をすればこの人には自分の作品にその程度の思い入れしかないのだな、と私は判断します。もちろん一般読者にも、その思いの軽さは伝わります。作品の中身もその程度なのだと判断されるでしょう。それで「売れない」とぼやくことなど、はっきり言っておこがましいです。膨大な作品が次々と生まれ埋もれていく中で、努力もせずに売れることなどあり得ません。自分自身や作品の紹介すらろくにできない人が、自らの作品によって他者の心を揺り動かすことなどできるでしょうか。

繰り返しになりますが、同盟や「月刊群雛 (GunSu)」への参加に、作品の巧拙は問いません。ただ、「いつかあの大空を飛んでみせる」という意思と、そのための努力は惜しまないでいただきたい。無名の個人作家にできるのは、一生懸命やることだけです。

≪ 書誌情報 ≫
書 名:「月刊群雛 (GunSu) 2014年 02月号 ~インディーズ作家を応援するマガジン~」
定 価:オンデマンド印刷版 1932円(本体価格1840円+消費税92円)※送料別
     電子版 840円(本体価格800円+消費税40円)
体 裁:オンデマンド印刷版 10インチ(W148×H192mm)/320ページ
     電子版 EPUB(リフロー形式)およびBCCKS独自形式
発売日:2014年1月28日(毎月最終火曜日発売)
http://bccks.jp/bcck/118927/info
 

≪ 参加者およびタイトル一覧(敬称略) ≫
 仲俣 暁生  「『群雛 (GunSu)』の創刊に寄せて」
 晴海 まどか 「君には傘がよく似合う」
 鈴乃 あみ  「Fantasica Song 1(ファンタジカソング)」
 塩澤 源太  「花壇のアトリエ(センチメンタル)」
 笠井 康平  「彼と僕の大事な恋人たち」
 犬子 蓮木  「さんざんなロスタティクル」
 海野 李白  「かぐやの誓約」
 竹久 秀二  「金色の風」
 十千 しゃなお「落語り帳 春寄席(落語り帳シリーズ)」
 米田 淳一  「彼女たちの本領」
 Kurokiti    「フラフープの練習」
 コユキ キミ  「むささびレディは君のために翔ぶ」
 橘川 真古一 「こくいきさん ~一~」
 山田 佳江  「ピヨ一号二号のこと」
 城田 博樹  「Hello!警報」
 土居 豊    「トリオソナタ」
 ソメイヨシノ  表紙イラスト
 宮比 のん   群雛ロゴマーク
 竹元 かつみ  編集
 鷹野 凌    「月刊群雛 創刊の辞」および編集・制作など

≪ 日本独立作家同盟について ≫
日本独立作家同盟は、2013年9月1日に鷹野 凌を呼びかけ人として設立された、セルフパブリッシング(自己出版)についての情報交換や作家同士の交流などを目的としたゆるやかな共同体です。伝統的な出版手法である、出版社から取次を経て書店に書籍を並べる商業出版「以外」の手段で、自らの作品を世に送り出す・送り出そうとしている人々が集う場所にしようと考えています。同盟加入者は現在100名超。同盟では加入者を随時募集中です。

≪ 本件に関するお問い合わせ先 ≫
日本独立作家同盟 呼びかけ人 兼 代表: 鷹野 凌(たかの りょう)
メールアドレス: allianceindependentauthors.jp@gmail.com
日本独立作家同盟公式サイト: http://www.allianceindependentauthors.jp

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NDLのデジタル化資料送信サービス体験レポ

2014年1月27日
posted by 持田 泰

2014年1月21日、国立国会図書館(NDL)の「図書館向けデジタル化資料送信サービス」が開始。あわせてサイト「国立国会図書館デジタル化資料」が「国立国会図書館デジタルコレクション」へ名称変更リニューアルしました。

絶版本など、国会図書館から各地の図書館へ配信、18都道府県23館で始まる−INTERNETwatch
現時点で、絶版本などの入手困難な約131万点が対象。内訳は、1968年までに受け入れた図書が50万点、江戸期・清代以前の和漢書など古典籍・貴重書が2万点、2000年までに発行された雑誌が67万点、1991~2000年に受け入れた博士論文が12万点

サービス開始時点で約131万点なんてまあ素敵な分量!これは街の図書館が平均的大学図書館蔵書数レベルのデジタル書庫を一挙に得られるチャンスなわけです。またこのサービス開始に併せて「国立国会図書館デジタル化資料」名称改め「国立国会図書館デジタルコレクション」とサイトもリニューアルしています。名称が長いので、以下勝手ながら略して「デジコレ」と呼ばさせていただきます。

新「国立国会図書館デジタルコレクション」TOP

名称・デザイン以外のいちばんの変化としては、検索に「インターネット公開」「国立国会図書館内限定」の他に「図書館送信資料」という項目ができていました(下図中央のチェックボックス)。

「図書館送信資料」が検索項目に追加。

「満洲」で検索をかけてみた検索結果。

「インターネット公開資料(11467)、国立国会図書館/図書館送信限定(20829)、国立国会図書館限定(3255)」ですから、なるほどデータほぼ惜しみなくお蔵出しな模様です。これは素晴らしい!

21日リリース時点では、18都道府県23館で導入と非常に少なく、関東平野に住む僕が頑張って行けそうな範囲ではわずか6館(千葉県立西部図書館千葉県立中央図書館千葉県立東部図書館千葉県野田市立興風図書館東京音楽大学付属図書館神奈川県藤沢市総合市民図書館)でした。またこの中でもいちばん近いであろう東京音大付属図書館は一般人じゃ入館できないんでしょ!と一人悲嘆に暮れていたところ、一週間も経たない3日後の1月24日になんと、18都道府県25館とさっそく増えてるじゃないですか!

しかもその増えた2館に日頃よりお世話になっている(自宅から自転車で行ける距離圏)東京都立多摩図書館が含まれているじゃないですか!これはもうアタックするしかないなということで、さっそく1月24日に行ってきた次第です。なにはともあれ今後もこうやって続々と参加図書館は増えていくのではないでしょうか!素晴らしき哉!

「図書館向けデジタル化資料送信サービス」体験レポート

やってきました。都立多摩図書館です。(1月24日16時頃うららかな小春日)

都立多摩図書館の外観。


大きな地図で見る

都立多摩図書館の場所はこちら(上の地図)。JR立川駅から歩いて20分くらいです。こちらは雑誌バックナンバー保管集中サービス「東京マガジンバンク」でおなじみの館ですが、2016年に西国分寺に移転するらしく個人的にはチャリ圏内から外れるとのでちょっと残念ですが、駅からは近く(徒歩5分圏)になりそうなので全体的には朗報ではないでしょうか。

図書館向けデジタル化資料送信サービス利用手順(都立多摩図書館の場合

さて利用までの流れです。

  1. 出納カウンタースタッフより「利用申込書」を受け取り、氏名・電話番号・住所を記入し提出
  2. 閲覧用デスクトップPC(館内1台のみ)に案内される
  3. 館内スタッフが「国会図書館デジタルコレクション」へのアクセス設定
  4. 国立国会図書館デジタルコレクションサイトから利用者自身で検索閲覧
  5. 館外から利用できる通常サイトとUI他基本機能に変わりはないが「図書館送信資料」全資料にアクセス可能
  6. 複写はサイトからはできず、別紙「複写申込書」へ記入して提出(有料:白黒25円/カラー130円)
  7. 閲覧時間は1人30分まで。後ろに予約者が居ない場合は延長可能

公立図書館だから通常と言えば通常運用だと思われますが、厳しいことを言えば間違いなく煩雑ではあります。まず複写サービスを利用する場合(原則「30分利用」であると考えれば複写しないことにはまともにコンテンツも読めない)、そもそもの「デジコレ」のビューワー画面にある「印刷する」ボタンは使えません。

デジコレビューワ印刷ボタン

なので上の画像のちょうど左下隅にある、コンテンツの「永続的識別子」(info:ndljp/pid/*******)なるものと、中程にある「コマ番号」を、所定の書面にボールペンで記入してカウンターに提出します。それを確認した館内スタッフが別のPCで指定の同コンテンツを「デジコレ」ビューワ画面で立ち上げてから、あらためてPDFファイルを出力して、そのデータを館内のコピーサービス部門の方に回す、という段取りとなります。これは都立多摩図書館ルールではなく、国立国会図書館ルールです。

国立国会図書館配布PDF「100万冊をあなたの街へ デジタル化資料送信サービス」より

個人的には法規上未整備の過渡期ゆえの、やむをえないワークフローであると捉えて、事後は改善されるに違いないと心より信じています。

ちなみに禁止事項が以下です。

  1. 閲覧用端末に機器(ノートパソコン、USBフラッシュメモリ等の外部記憶装置)を接続すること
  2. 閲覧用端末の画面をカメラ等で撮影すること
  3. 画面キャプチャまたは資料の電子ファイルを取得すること
  4. その他図書館から指示される事項

「体験レポをブログで上げたいので画面は撮らないから、このマシンや利用申込書だけでも撮影していいですか?」とお尋ねしたところ、対応スタッフは確認してきますとフロントに戻り、正式回答をいただけたのですが、一切撮影なりませんでした(単に館内撮影禁止ってことかもしれませんが、対応いただいたスタッフは皆様親切でした)。

「閲覧専用端末」は代わり映えのないデスクトップPCです。導入初日ということもあってか、後に待ち人はおらず、延長利用で閉館19時まで張り付いていることが可能でした。今後仮に行列ができて各人30分のみ利用となると、「デジコレ」サーフィンしているような時間はあるはずがないので、利用前にある程度アタリをつけておく必要がありそうです。アタリの付け方としては、シンプルに館外から観れる通常の「デジコレ」サイトで「図書館送信資料」フラグ立ててサーチすれば、コンテンツは観れませんが検索には引っかかります(下図)。

館外からアクセスしたときの画面。コンテンツは見られないが検索は可能。

「ああこんな本もあるのか!」とピックアップリストを作って利用しにいくのがよいかと思います。そして軽くチェックしたら続きは複写サービスに回してください。その方が時間制限なく腰据えて読めます。なのですが、著作権利切れていないコンテンツの複写は一部のみです。

国立国会図書館「著作権にかかわる注意事項」ページより

そう考えると、わりと珍妙なサービス利用の具体的実態が予測できて困っています。例えばある長編小説を読みたいとなった際には、30分でイントロを読んで、その続きを読むには複写サービスを利用して、でも一部(著作物の半分)しか複写できないので、また図書館に日参して残り半分は30分細切れで読む――それは無茶です。

だいたい複写サービスは有料(白黒25円/カラー130円)なので、それなりの枚数お願いすれば結構ハリます。やはり館サイドで利用端末増やすなりしてルール変更し、最低でも1〜2時間利用くらいは許されるような方向で調整いただきたいところです。

もしくはタブレット等の電子書籍端末を複数台導入して、館内利用のみならず端末自体の貸し出しまでできたら!さらに夢想すれば、IDとPINのみ発行して手持ちのPC・タブレット・スマホで、図書館で「借りた」データを閲覧できたら!もちろん「デジコレ」国立国会図書館デジタルコレクションを陰ながら推進していらっしゃる皆様方の描いている未来がありましょうから、言わずもがなの個人的妄想は垂れ流すまい。

もっともコンテンツ量だけは半端ないことが間違いないので、これはもう後に待ち人がいなくて、「デジコレ」サーフィンができる時間をそれなりに確保できれば、楽しいこと請け合いです。ぜひ他の図書館でも導入検討していただきたいと思います。

いずれは古書販売への導線にも?

ところで、一点気になっていることがあります。

館外アクセスした場合の「デジコレ」には見えないのですが、確か館内の閲覧専用端末でみた際の各コンテンツビューワーの左カラムのフッターあたりに、「外部の古書データベースで検索する」という誘導リンクがありました。都立多摩図書館ではその外部リンクは殺されており、迂闊な僕は「ああ、こんなことを始めるのかー」くらいに見過していたのですが、帰宅してから思い出したのです。

ちょうど一年前、あの酒井潔『エロエロ草紙』ほかを配信した「文化庁eBooksプロジェクト」を変電社が取材をした際に(「文化庁eBooksプロジェクトは何を残したか」—「マガジン航」2013年4月9日)、同プロジェクト担当窓口である野村総合研究所上級コンサルタントの小林慎太郎氏がこんな発言を残しています。

小林 今回の実証実験で利用した「国会図書館デジタル化資料」は、1968年までに出版されたものにかぎられています。また「近代デジタルライブラリー」としてすでに館外にネット公開しているものは、戦前の出版物でほぼ占められています。こうした制約のなかで、価値ある本はどのあたりなのかを知るため、そうしたことに詳しい方にヒアリング調査を行う必要がありました。対象が対象なだけに、ビジネスモデルのありかたを柔軟に考えた場合、電子書籍そのものの「販売」だけでなく、今回のようなデジタル化資料を呼び水にして、古書販売への導線としても利用できるのではないかと考えました。

私も当初は知らなかったのですが、現在でも『解体新書』などが、古書で普通に売買されているんですね(笑)。もちろん、価格は保存状態により数十万~数百万円になりますが。そういった歴史的価値のある貴重な古書は実際に手に取ることが難しい。そこで「立ち読み版」としてまずデジタルで読んでもらい、手元に置いておきたいものは購入していただく。そうすれば古書店のビジネスを邪魔することもなく、逆にそのような稀覯書の存在を世に知らしめる、いい契機になると考えました。

まさかこの展開ですか? そう遠くない未来に図書館で外部の古書販売サイトで絶版本を注文できてしまうような、そんな図書館サービスが実現せんとしてますか? であればですよ。古書好きはまず図書館に行って、130万冊の古書電子版の中から好きな物を立ち読みして、気に入れば紙の絶版古書をそのままWebで注文購入できるなんてことなったらこれ、天下のAmazonマーケットプレイスすらおいそれと真似できないサービスが仕上がってしまいますよね!(もしかすればGoogleなら追いかけてきかねない)

投壜通信を拾い上げてきたような気分

さて、今回僕がどんなコンテンツを漁ってほくほく顔で帰ってきたかと申しますと、例えばこんな雑誌です。

複写サービス(カラー)での表紙『北窗』

北窗「ほくそう」と呼びますが、先日「変電社ブログ」にレビューを書きました『哈爾賓入城』の著者、竹内正一が館長を努めていた満鉄哈爾浜図書館が当地で発行していた総合雑誌です。

またこんな冊子も。

複写サービス(カラー)での表紙『満洲観光』

満州観光聯盟が発行していた『満洲観光』哈爾浜特集ですが、とてもビビッドなオレンジ色の表紙!こちら両誌ともに詩や作品を寄稿していた野川隆なる詩人がおります。ダダ詩誌「エポック」から「ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム(GGPG)」の前衛から始まって、プロレタリア文学運動に身を投じ検挙され運動瓦解の転向後、満洲にわたり中国人農村での合作社運動に加わり治安維持法で再検挙収監された後、戦時下獄中で病没した作家です。戦前1941年『狗寶』で第14回芥川賞候補にもなっています。ちなみに兄猛は実は初代「江戸川乱歩」だった説等もあります。

この野川隆は先の『満洲観光』に「哈爾浜風物詩」なる詩編を残していて、美しい「松花江(スンガリー川)」きらびやかなロシア人街「キタイスカヤ」を魅惑的に歌った後で、「道外」という薄汚れた貧民窟の満人街を歌います。

たいていの旅客はふしぎなことには
きたないところを見たがらないのだ
たいていの紳士淑女は晴れやかな顔を
満人街といふとしかめてしまふのだ
殊に貧民のむらがり集まる
陋巷となれば話をしただけで
話をしたものまで軽蔑される
よろしい
ひとつ
軽蔑されよう
そのかわりに私といへども
裸おどりの好きな連中に
思ひきり大きなべろんこの舌を
出してやることも忘れないやうにしよう
—野川隆『哈爾浜風物詩』昭和15(1940)年5月

こんな歌を時局顧みず満洲「観光」雑誌に歌ってしまえる野川隆の臍曲り根性は、さきの竹内正一の眼には映らなかったであろう中国人を描いているわけです。

「国立国会図書館デジタルコレクション図書館送信サービス」を実際に利用してみての素朴な感想でありますが、上記の野川隆は没年月日(1901年4 月23日-1944年12月23日)がはっきりしているので、明確に著作権切れということで、複写サービスに回していくつかの作品を持ち帰りました(複写代金トータル535円也)。小さな詩片やら小品をプリントアウトして持って帰る気分を何かに例えるなら、大海に漂う投壜通信を拾い上げてきたような、そんな気分であります。とても楽しい!

※この記事は2013年1月27日に変電社のサイトに掲載された「国立国会図書館図書館向けデジタル化資料送信サービス体験レポ」を編集のうえ転載したものです。

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未来の雑誌企画会議「MoF competition」

2014年1月15日
posted by 樋熊 涼

2013年11月30日、大学生による未来の雑誌企画会議「MoF  competition」という公開イベントが開催されました。当日は11組の大学生が出版、メディア関係者の社会人に対し各々が思い描いた未来の雑誌企画のプレゼンテーションを行いました。大学生が出版関係者に対してプレゼンを行うイベントとしては、「出版甲子園」という書籍企画のコンペが既にありますが、雑誌企画で大学生が出版関係者に対して行うプレゼンは前例がありません。

未来の雑誌創発プロジェクトMoFのはじまり

そもそも未来の雑誌創発プロジェクトが始まったきっかけは、2013年2月に下北沢の本屋B&Bで開催されたイベントでした。その内容は、「N magazine」編集長・島崎賢史郎氏と博報堂ケトル代表・嶋浩一郎氏、起業家・家入一真氏、そして「未来の雑誌創発プロジェクト」発起人の一人であるインプレスHD執行役員・丸山信人氏によるトークイベント。大学生限定でありながら定員を超える参加者が集まったこのイベントで「未来の雑誌創発プロジェクト」が発表され、その場で運営メンバーの募集がかかりました。

募集を見て集まった大学生メンバーと出版社有志により、「未来の雑誌創発プロジェクト」はMoF(Magazine of future)という名前のもと始動しました。掲げたビジョンは「既存の雑誌から、形にとらわれない、新しい雑誌のスタイルを追求すること」。「雑誌」、「マガジン」という言葉がいまや紙媒体のみを意味していないことは、最初に集まった時点で大学生、出版社ともに共通認識を持っていました。それを踏まえて新しい紙媒体の雑誌を発刊することや、ウェブマガジンを立ち上げるといった、成果物を作ることを目的とせず、いま雑誌の役割とは何か、大学生は雑誌に対しどのような想いを持っているのか、何よりも未来の雑誌とは何か、そのような答えのない問いを追求するところから活動をスタートしました。

最終コンペに向けての活動

MoFは11月のコンペに向けて様々なイベントを開催してきました。その中でも特にB&Bでのイベントと自主企画のワークショップは、MoFの活動のビジョンに沿った未来の雑誌について考える場となりました。

B&Bでのトークイベントは2013年7月30日~31日に二日間連続で開催されました。30日は紙媒体の雑誌の未来について考える場として、2月のイベントにも登壇していた「N magazine」編集長の島崎氏と「ケトル」編集長の嶋氏のトークイベントを開催、31日には無料コミュニケーションアプリ「LINE」を運営する株式会社LINEの執行役員・広告事業グループ長である田端信太郎氏をゲストに迎え、参加者の大学生が田端氏に質問を投げ続けるバトル形式のイベントを開催しました。一方は紙媒体、もう一方はインターネットメディアについて考えるイベント、この二つのイベントを通じてMoFが目指す「未来の雑誌」の可能性を広げることができました。

ワークショップは9月に一回、11月に一回、計二回行いました。一回目は雑誌企画アイデア出し方を学ぶもの。ポストイットにブレストしたアイデアを書き出していく定番の短冊会議を行いました。和やかな雰囲気で始まったワークショップも、いざ現役出版人への発表の時間になると、プロの方々から厳しいフィードバックが飛ぶ場面もありました。二回目は既存の雑誌のPR戦略を立案するワークショップ。「紙、ウェブという媒体の区分を超えて雑誌というメディアは拡張する」という考えのもと、いかにして伝えるか、その伝える場をつくるか、売るということだけを最終目的としない、メディアとしての機能をいかに最大化するかを考える機会となりました。

PR戦略を考えるワークショップの様子。

まだ立ち上がってから一年も経っていない若い団体ですが、前年の11月末に設定した2013年度の目標に向けて試行錯誤を繰り返し、活動を通じて日々高まる雑誌への愛着を感じつつ走り続けました。

未来の雑誌企画会議MoF competition開催

こうした経緯を経て、2013年11月30日、未来の雑誌企画会議MoF competitionが開催されました。会場は青山のブックカフェbrisa libreria。11月最後の夜に、多くの出版関係者、雑誌好きな大学生が青山に集いました。

今回のコンペでは特に決まったテーマを設定していません。紙媒体でもよし、ウェブマガジンでもよし、雑誌を盛り上げるためのムーブメントでもよし、課題はとにかく未来の雑誌を提案すること。審査基準も斬新さと実現可能性の二点のみ。学生の自由な発想に出版社の方々の期待が託されました。

審査員は扶桑社「SPA!」編集長・金泉俊輔氏、博報堂ケトル代表取締役・嶋浩一郎氏、NHK出版・出版・放送・学芸図書編集部チーフ・エディターの松島倫明氏、フリー編集者の畠山美咲氏、富士山マガジンサービス代表取締役社長・西野伸一郎氏、brisa libreria代表取締役の元木忍氏、インプレスHD執行役員・丸山信人氏、フリー編集者で「マガジン航」編集人でもある仲俣暁生氏。学生からすると思わず背筋が伸びてしまうような面々にお集まりいただきました。

審査員の方々の眼差しは真剣です。

当日プレゼンされた企画は以下のとおりです。

1. チーム・いいじゃん
「子どもの五感を刺激する!親子向けの新しい雑誌」
2.  チーム・やわもち

「ボッチ向けの雑誌 Bocchi」
3. チーム・apm

「女性クリエーターによる女性のための女性グラビア誌」
4.  チーム・LL

「ゆめみ男子」
5. チーム・のべたべ

「小説×ご飯 ノベライス」
6. チーム・入江澤村ペア

「セックスコミュニケーションをプロデュースする雑誌 HAPI HAPI」
7. チーム・PeanutButter&Jerry

「旬の一歩手前でブームを先読む雑誌 Be Boom!」
8. チーム・りなてぃ

「東京銭湯セントーキョー」
9. チーム・ひねくれ

「離婚した男性向け雑誌 通り雨男」
10. チーム・uno

「若者の夢をかなえるための雑誌 Fluff」
11. チーム・富士山マガジンサービスインターン
「ラグジュアリーな参考書 Magenta」

このなかで見事に最優秀賞を獲得したのは、「女性クリエーターによる女性のための女性グラビア誌」を提案したチーム・apm。潜在的な需要があることはわかっていたが、そこに切り込むことができなかった領域に大胆に切り込んでいったことが評価されての受賞でした。続く優秀賞は「東京銭湯セントーキョー」を提案したチーム・りなてぃ。ウェブと紙を連動させた未来志向のメディアと銭湯という伝統的なスペースを組み合わせた提案でした。参加学生の投票による特別賞は「セックスコミュニケーションをプロデュースする雑誌 HAPI HAPI」を提案したチーム・入江澤村ペアと「ラグジュアリーな参考書 Magenta」を提案したチーム・富士山マガジンサービスインターンのダブル受賞。「HAPI HAPI」はもっと性を気軽に楽しめるのでは?という疑問から生まれたという時代性を感じる提案でした。「Magenta」は紙媒体という媒体の特性に着目し、ページを切り離しファイリングできるなど他のチームとは違う視点で、未来の雑誌のあり方を提案してくれました。

コンペを通じてみえてきたことは、雑誌好きの大学生は紙の雑誌に限らずメディア全般に対し熱い関心を持っているということ。企画の内容の工夫と同時に、どうメディアを駆使してそれを伝えるかを必要条件として提案しているものが目立ちました。出版社の方々にとっても、大学生が雑誌をどのようにとらえているか、雑誌に対しどのような想いを持っているかを知るよい機会になったかもしれません。

MoFのこれからの活動

MoFは研究所のように活動していきたいと考えています。雑誌はこれからどのように変化していくか、メディアとして新しい可能性を拓くことができるか。現在進行形で変化し続けるメディア環境に対して、大学生のリアルとメディアの現場で働く社会人のリアルを融合し、大学生と出版関係者が一体となって活動できるのがMoFの強みです。2013年度は雑誌企画のコンペを軸に活動を行ってきましたが、これからはコンペに限らず、雑誌好きの大学生の好奇心をくすぐり、大学生側からメディアの温度を上げることができるような活動を行っていきたいと思います。

その中でも軸となるのはイベントの開催です。人から発信される情報を人に伝える媒体すべてをメディアと定義するのであれば、人と人を直接つなげるイベントは最短距離のメディアです。モノだけではなくコトもメディアになるという未来予想図を体現していくことがMoFの活動です。今後もMoFの発信するモノ・コトにご注目ください。

MoFの活動へ参加ご希望の方は、下記URLの「Contact」までお問い合わせ下さい。

未来の雑誌創発プロジェクトMoF HP:http://mofmof2013.wix.com/miraizasshi

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Bookish買収にみるディスカバラビリティの行方

2014年1月14日
posted by 大原ケイ

ネット時代が到来し、紙でも電子でも欲しい本がオンラインで見つかり、すぐに手に入れられるようになった一方で、特に目的もなく本屋さんをキョロキョロして「へぇ、こんな本があったのかぁ」「わ、これなんだかおもしろそう」「あ、この本のこと、このあいだ誰かがよかったって言ってたな」と、今まで読んでみようと思ったことさえなかった本を見つける場が少なくなった。

これは「ディスカバラビリティ(discoverability)」と言って、要するにどうやって「未知なる本との出逢い」を補っていくかがこの先の出版事業の課題だ。バーンズ&ノーブルが売れ筋の本を大幅にディスカウントするのも、街の本屋さんがディスプレイに工夫を凝らすのも、買おうと思っていた本の他にも「ついで買い」をしてもらおうと思うからこそ、なのである。

本好きのためのSNS

Eブックの台頭とともに、そのディスカバラビリティの場として期待されているのが、Bookworms(本好きの人)のためのSNSだ。自分の「本棚」を作り、レビューを書いていくと、同じ本を読んだ人同士で繋がり、他のメンバーの本棚を覗いたり、レビューを読んだりすることで、似た趣向の人同士で集まれるようになる。 フェイスブックでもBookScoutというアプリを通して同じような機能を搭載している。

フェイスブックにも読書コミュニティのアプリBookScoutが登場。

アメリカでは、既に成功しすぎてアマゾンに買収されちゃったShelfariGoodReadsの他にも、図書館のようにカタログ機能を充実させ、著者や著作に関するトリビア知識が豊富に得られるLibraryThing、読んだ本の内容からメンバーと気の合いそうな人を探し出し、友だちや恋人に発展するかも知れませんよと宣伝するAlikewise、有名・無名を問わず、「私の人生を変えた5冊の本」をテーマに人とつながっていくYouAreWhatYouReadなど、ちょっとヒネリのあるサイトがたくさんある。

そこから「ブッククラブ」を開催し、ネット上で特定の本や特定のテーマに沿って意見交換できたり、リアルでブッククラブを計画すればオフ会も計画できる。著者に直接メールで質問したり、チャットでイベントをすることもできたり。

そんなコミュニティが数多あるのだが、アメリカらしいなと思うのは本を読むだけでなく、自分で本を書いた・書きたい人、いわゆるセルフ・パブリッシング作家たちの本を見つけるためのサイトが多いことだ。

自分が書いた本をアップロードして、他の人にレビューをつけてもらう。誰も知らない本の中から、これはおもしろい!と思ったものを見つけて紹介できる。つまり、発見するだけでなく、発見されることにも重点を置いたサイトなのだ。

四大出版社が仕掛けたBookishの挫折

これがアマチュアの“出版”コミュニティーだとしたら、プロがしかけたSNSサイトがBookishだろう。ペンギン、サイモン&シュスター、アシェット、という名だたる大手出版社が出資して立ち上げたSNSだ。

ローンチは2011年夏、と当初は発表されていたのだが、サイトにはBookishの文字があるままずるずると予定が伸びて、その間にもCEOが二度も変わったりしたのを聞いて、あまりうまくいってなさそうだな、というのが伝わってきた。ウワサでは、推薦本を選ぶためのアルゴリズムを作る過程で、参加大手のそれぞれの思惑が噛み合わない部分もあったようだ。4冊読んだ本を入力すると、次に読むべきはコレ!という本が出てくるのが“ウリ”だったのだが。

しかも2012年4月には例の米司法省からEブックの価格談合訴訟で、スポンサーの3社とも、アップルといっしょにその対応に追われることになった。結局、ちょうど1年前の2013年に、他の出版社16社も参加してようやくスタートを切ったというわけだ。

アマゾンやGoodReadsだと、読者が過去に買った本や、高い評価をつけた本に基づいてお薦め本が抽出されるのだが、Bookishはそれを出版社から提供できるメタデータでやっている分、意外性がなかったり、ありすぎだったり…。

しかもホームページに「We Know Books」とでかでかと出てくるところが、上から目線という印象がある。アメリカ人って、こういう「お仕着せ」が大嫌いだからね。なにごとも政府や大企業が後押ししてやってますよ、という点をアピールすると敬遠されてしまうのだ。

もう一つ懸念されていたのが、このサイトを通した本の販売ルート。Bookishで見つけてこれ読みたいなと思う本が決まったら、じゃあそれをどうやって購入できるか、というところでも大手版元が絡んだトラブルがあった。Eブックを選ぶとEPubかPDF、つまりiBookstore, Android, Nook向けとPCのデスクトップで読めるものが買える。ただしキンドル版はなしね、というロコツな「アマゾン外し」がユーザーの失笑を買っていた。

一方、紙で欲しいとなると、他のオンライン書店へのリンクもあるが、基本はダイレクトセール、つまり取次のベイカー&テイラーが扱うことになり、これだとおそらく出版社が直接売るというのは、他のアカウント(つまり書店ね)がいやがるだろうなぁ、という感じ。

Bookishを買収したZola Books

そのBookishが立ち上げ後わずか1年でZola Booksに買収されたというニュース。あまりにもあっさりとしたこの結末からは、いかに出資した大手出版社が手放したがっていたかがわかるというものだ。せめて「こういうサービスは出版社自身がやらない方がいいんだな」というレッスンを1年で学んだ、ということにしておこうか。

買い手であるZola Booksも 2011年9月に立ち上がったばかりの“Eブック総合サイト”を名乗るベンチャーだ。創始者2人は片方がリテラリー・エージェントで、もうひとりが美術品 オークションのサザビーズのサイトに関わった人物。ローンチ当初は『きみがぼくを見つけた日』の著者オードリー・ニッフェネガーが出資者のひとりとして、 このサイトでのみEブックを販売するということで、ちょっと注目されていたけれど、その後はイマイチ知名度が低い作家ばかり。

Bookishの買収を報じたZola Booksの公式ブログ記事。

しかもメディアが伝えるZola Booksの紹介記事で目に付くのは、フラットアイアン地区に構えた今風ITオフィス。本がずらりと並んでいるけれど、なんだか社員が読んでいるという気がしないんだよね。これまでブルームバーグ前市長が音頭をとって、ニューヨークでどんどんIT企業を育てて第2のシリコンバレーを作ろうという動きがあったけれど、今年からばりばりリベラルのデブラシオ市長に代わり、今までと同じような市政のバックアップは期待できないかも知れない。最初の資金が底をついたらどうやって儲けるつもりかねぇ?という疑問も多し。

ところで私 は仕事柄、こちらの出版社をたずね歩くので、編集者からじきじきに本をもらったり薦められたりすることが多い。その編集者が担当した本に限らず「この企 画、他社に取られちゃったんだよねぇ。悔しくて」「私が編集したんじゃないけど、うちの社で来シーズン出るこのタイトルがおもしろいよ」という感じで、正 に「口コミ」のお薦め機能に助けられている。

ゲイリー・シュタインガートの『スーパー・サッド・トゥルー・ラブ・ストーリー』も、ギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』もゲラの段階で教えてもらって、気に入っていたらベストセラーになっていた。時折、この情報をうまくまとめたら、おもしろいSNSが作れるような気がする。「エディターが個人的に読んでいる本」というくくりで。

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