昨年に引き続き、今年も東京国際ブックフェアと国際電子出版EXPOに行ってきた。要するに紙の本と電子本の一大見本市である。
「国際電子出版EXPO」は去年までは「デジタルパブリッシングフェア」という名称だった。この改称は、「電子書籍」「電子出版」という用語が市民権を得つつあることが反映されているようにも思われる。「電子書籍元年」とされた去年と比べれば話題性には欠けるように思われたが、それでも実際に会場を訪れて去年との変化に気づいたところがいろいろとあった。
キーワードは「電子化」から「販売」へ
去年の東京国際ブックフェア&デジタルパブリッシングフェアについてのレポートは、「マガジン航」のバックナンバーで「電子書籍は波紋を生む「一石」となる」などを参照していただきたい。今年は開催3日目の7月9日土曜日に回ってきた。
なお、このレポートはあくまでも個人的な興味の範囲でのレポートであることを最初にお断りしておく。

今年も東京国際ブックフェアと国際電子出版EXPOが同時開催。
今年の国際電子出版EXPOを全体的に見渡して、全体的な傾向がちょっと変わったように感じた。去年は「ePub化して電子書籍を作れますよ」というツールが非常に目立っていた印象がある。今年もそういう出展はあるものの、そこから一歩進んで「電子書籍をこういう径路/こういうポータルサイトで売ることができますよ」という「販売ルート」の売り込みが目立つようになったように思われる。
つまり、電子書籍を「作れます」の段階にとどまっていたものが、「作って、販売できます」の段階に進んだわけだ。「ePubで電子書籍が実現できるんですよ(作れたらあとはAppleストアとかで売れるし)」という段階から、「こういう販売ルートに載せることができます(そのために、こういうフォーマットで作れます)」というステージに一歩進んだのだ。これは電子書籍の世界における現実的な一歩前進だと思う。
電子書籍制作・販売サイトの躍進
今回、わたしが最も興味を惹かれたのが、ブログサービスで有名なSeesaaが最近開設した「forkN(フォークン)」の出展だった。開発者の方からもいろいろ説明を受け、非常に興味深いと思った。

Seesaaのオンライン電子出版サービスForkNのサイト。
forkN の担当者の方も明確に意識していたが、これはpaperboy&co.の先行サイト「ブクログのパブー」と競合するシステムである。どちらもオンライン上でブログを書くような感覚でePub・PDFファイルを作成することができる。そして、それをそのまま販売できる。売れた場合のみ手数料がかかって、それもどちらも同じく販売価格の3割(つまり、発行者側が7割)というところも同じである。素人でも簡単に電子書籍を無料で作り、売れれば利益になる、というシステムとして、この二つはともに完成度が高い。
パブーはすでにわたしも利用して、震災後のチャリティ本を発行したりしている。では、forkN はパブーとどこが違うのか。開発担当者は「機能的にはそれほど違いは出せないと思います」と言った。「新着情報のタイムライン表示はforkNが先に始めたんですけど、パブーさんも意識されてるようで、すぐに向こうにも搭載されました」という。このあたりは技術的には実装が難しくないことであり、そこで差別化は難しいだろうという。逆にいえば、双方ともに機能的には完成度が高いということの裏返しでもあるだろう。両社ともブログサービスを提供してきた実績があり、それをePub制作ツールに転用するのはさほど難しいことではない。
では何が違うのか。それはサイトで販売される作品の「雰囲気」ということになりそうである。パブーでは最近、有名な著者による作品が増えてきたため、素人が入りにくい印象があるのではないか、というような指摘があった。また、パブーでは「アダルト」は「その他」というカテゴリー内に押し込められているが、forkNでは「R-18」枠が明記されており、サイト全体としても身近で軟らかい作品が多くなるようである。また、ソーシャルリーディングや検索機能の充実で差別化を図りたいということらしい。
この棲み分けは非常に健全なものだと思う。本格的にレンタルブログブームが始まってから7~8年、基本的な機能はさほど変わらないがサービスごとにユーザーの「カラー」がある程度出てそれぞれに共存しているように、この種の「電子書籍を無料で制作して、販売もできるサイト」はこれからも次々と出てくるだろうが、それぞれのカラーを打ち出せれば共存は決して不可能ではないと思う。
「電子書籍ストア」を開設するシステムも登場
forkN の向かいのブースには「wook」が出展していた。こちらも「電子書籍をウェブ上で作って販売できる」という意味では同じようなサイトといえるが、少し違うのはwookは「電子書籍ストア」を開設するシステムであることだ。パブーや forkN と基本は同じだが、制作者/出版者にフォーカスを当てているということになる。電子同人誌や小規模出版者のようにブランド勝負で発行したい人にとっては使いやすいだろう。また、wookではPC閲覧時はストリーミング、スマートフォンでは専用アプリを使うという点で「作品の保護」が強化されている。
これらのサイトではいずれも作品の独占をしない。他で販売している作品も(そこで独占契約がない限り)自由に販売できる。わたしも3サイトで共通タイトルを販売してみようと思っている。

wookは「電子書籍ストア」を開設するシステムをデモ。
現時点での限界としては、いずれのサイトも自分で InDesign などで制作したPDFファイルをアップロードすることはできないところだ。違法著作物アップを防ぐためという理由も聞かれるが、多少審査があったとしても自作PDFが公開可能になれば、同人誌として制作した書籍データをレイアウトそのまま電子版公開もできるので、ぜひ期待したいところである。
一方で、情報商材&アフィリエイトの大手サイト「インフォトップ」が運営する電子出版サイトも出展していたが、情報商材の抱える数々の問題点(高すぎる定価設定、アフィリエイト報酬率の高さ、正確な内容を伏せての販売、spam行為を煽る内容の商材の存在など)をどのように解消するかについての説明が特にみられず、ただその情報商材の販売成果だけを電子書籍販売スタンドとして宣伝していたのが残念だった。
電子書籍ツールも手頃に
パブー、forkN、wookといったサイトを利用すれば、素人であってもほとんど無料で電子書籍を制作し、売れたときには収入を手にすることができる。このようなシステムが出ている以上、「ePubに変換するソフト」や「電子書籍を制作できるツール」を何十万円で販売するというのはやや不利なように思われる。
去年出展していた中では電子書籍制作ツールが数百万円のオーダーで提案されていたが、今年はそのあたりの相場も下がってきたようだ。
もし自分が大手出版社ならずとも小規模出版社か編集プロダクションをやっているのなら導入を検討しただろうと思われたのが「Digit@Link ActiBook」(スターティアラボ)である。PC/iPhone/iPad/Android対応の「Actibook Custom3」で初期費用10万円、月額費用7万2500円という価格は「手の届く」範囲と言えるだろう。
「SMART BX」(ヴイワン)はiPhone/iPad/Android対応のアプリが作れるサービスで、1アプリごとに月額31500円。それなりに販売力を持っている制作者が雑誌的に多くのコンテンツを盛り込む場合なら魅力的だろうと思われる。ただ、アプリ内課金やマップ連携などはオプション扱いだ。
「moviliboSTUDIO」(ポルタルト/Impress Touch)もiOS/Android/PC向け電子書籍を「月額10500円より」制作できるとうたっている。ただし、配信にはアプリごと(OSごとに別)のチケット購入が必要になるので、総額としてはそれなりに大きくなる。
いずれにしても中小規模の事業者であれば手の届く価格帯に下りてきたわけで、今後はさらに個人でも手の出せるサービスが出てくることが期待される。
ただ、個人的にはこれらの制作ツールが余計なところに力を入れているようにも思われる部分がある。たとえば、「紙の本のページめくりを再現するかのようなページめくりインターフェース」などは、本来、力を入れるべきところではない。紙の本に似せることに尽力するよりも、アプリならではの地図連携などの機能が充実してほしいと思う。
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