2014年4月21日、インプレスR&D社国立国会図書館(以下NDL)のパブリックドメイン古書のオンデマンド印刷版を、Amazon及び三省堂書店で販売開始すると発表しました。これはNDLがインターネットですでに公開している「近代デジタルライブラリー」の350,000冊の書籍データのうち、著作権保護期間を経過してパブリックドメインとなったコンテンツに限り、紙の本として販売するというものです。
インプレスグループで電子出版事業を手がける株式会社インプレスR&D(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:井芹昌信)は、スキャニングデータ(画像)を印刷・製本可能なページデータに整形する技術により、国立国会図書館(NDL)のパブリックドメイン古書コンテンツをAmazon.co.jp「プリント・オン・デマンドプログラム」を通じたPOD書籍として販売を開始しました。
第一弾として、Amazon.co.jpでは4月21日より20タイトルの販売が開始されます。
国立国会図書館 古書特集ページ:http://www.amazon.co.jp/kosho-pod
同時に、三省堂書店オンデマンドでも販売いたします。
第一弾20作品は、国宝写本『古事記 : 国宝真福寺本. 上』(1945年刊)から、あの漱石本のパロディ『吾輩ハ鼠デアル : 滑稽写生』(1907年刊)、また当時の中央気象台が編纂した貴重なレポート『三陸沖強震及津浪報告. 昭和8年3月3日』(1933年刊)等々、多岐にわたるジャンルの幅広いラインナップとなっています。
実は過去、我が変電社でもNDL「近代デジタルライブラリー」のデータ所蔵作品を紙で復刊させたいと思い立ちながら、道半ばで挫折してしまった経緯もあり、これはぜひ「中の人」にお話をお伺いさせていただかねば!と、さっそくインプレスR&D社に突撃取材を敢行しました。唐突なお願いにも関わらず、インプレスR&D社の代表取締役社長であり、Next Publishing発行人でもある井芹昌信氏、NextPublishingセンター副センター長の福浦一広氏とともに、今回の取り組みに関して、非常に気さくにまた真摯にご回答いただきました(以下敬称略)。
「本」の形だからこそ「読みやすい」
――リリースからまだ三日ですが(取材日は4月24日)、さっそく『古事記 : 国宝真福寺本』はAmazonカスタマー評価で五つ星がついていましたね。「この本を元に調査を行うことができてよかった」なんてレビューも入っていました。
インプレスR&D社 井芹(以下、井芹):ありがとうございます。いろいろとご好評をいただいています。
――実際、NDLの「近代デジタルライブラリー」に無料で読める作品データが大量(書籍350,000作品 ※現時点)にあるにもかかわらず、その「大量にありすぎる」という点と、サービスとしてユーザインターフェースがこなれていないのもあって、まだ多くの人に読まれていないのが現状だと思います。NDL自体が資料保存を目的としてしている以上、リーダビリティの担保されていないのは幾分しょうがないことかなとも思ってはいるのですが、今回それを「紙」にしたことで、確実に届いた読者がいたのだ、ということの証左だと思います。
インプレスR&D社 福浦(以下、福浦):実際に出してみての個人的な感想でもあるのですが、印刷すると「読みやすい」ということがよくわかりました。さらに製本して本の形にすると、もっと「読みやすい」んですね。そういうことが読者の皆さんにも分かってもらえたのではないかと思います。ただ、製本行程はいろいろ試行錯誤の連続で、大変ではありました(笑)。実際そもそものデータが画像で少し斜めに保存されていたりもするので、そういったものをトリミングしたり整えるきめ細かい作業をしています。
井芹:他にもNDLコンテンツを利用させていただくにあたり、気軽に取り扱ったということはなく、たとえパブリックドメインであっても一つ一つ著者や出版元も確認するなど、細かい部分での神経も使っています。世の中的には、あのNDLデータをそのまま商売的に扱うことに、まだアレルギーがありますから。ただ関係者ともいろいろ相談してみたのですが、みなさんおっしゃるのは「とりあえず出してみる」ということが大事だろうと。出す前にいろいろ整備しても難しいということが現実にあるので、今回は「ルール内でやれる範囲で、まず出してみる」ということに焦点を絞ったわけです。
――今回の20作品はすべてパブリックドメインということで、オーファンワークス(権利者不明作品)が一定手続きによって公開許諾された、いわゆる「文化庁長官裁定」コンテンツ(参考:福井弁護士のネット著作権ここがポイント『そろそろ本気で「孤児作品」問題を考えよう』INTERNET Watch 2013/3/12)は一つもないのですよね。
井芹:はい。今回出したものはすべて著作権が確実に切れているものです。プレスリリースが間違っていて、「近代デジタルライブラリー」所蔵の350,000点=パブリックドメインと捉えられるような書き方がしてありましたが、書籍コンテンツ全体が350,000点で、そのうちパブリックドメインのコンテンツは一部です。今回はその中からきっちりセレクトしています。
――今回リリースまでの過程はどのようなものだったのでしょうか?
井芹:実はずいぶん以前よりAmazon社から、NDLのデータは非常に貴重なコンテンツなので、POD(Amazonプリント・オン・デマンド)として出してみたいとの希望がありました。NDLのデータを民間が再利用することに関してルールができあがってない頃からですね。今回は我々が出版社として紙の本を出してAmazonで販売してもらうという、協業の座組でやりましょうかという方向で話が進みました。
『NDL所蔵古書POD』は「コンテナ」である
――今回のいわゆる「版元」は、「インプレスR&D」社ということでいいんですよね?
井芹:そこの部分なんですが、実は建て付け方が難しいところで、たとえばこの「本(『吾輩ハ鼠デアル』)」=「コンテンツ」の本来の発行元がここにあります(下の画像)。
この出版社(大學館)が、この「本」を「発行」したところですね。我々インプレスR&D社はたしかに、読みやすいかたちで版面へ落とし込む「張りつけ」や、製本するという「成形」はしましたけども、実際に「本」自体の編集もしていなければ、まして組版もしていない。なので、本来の奥付ページはそのままのかたちで発行主体の経緯説明として残しておいて、我々は「版元」とは違い、あくまで「コンテナ」提供会社であるということを明確にするべく、最終ページに別の奥付として用意しました(下の画像)。
紙の「コンテナ」を提供しているが、「コンテンツ」=「本」の出版社は別にあるということはちゃんと尊重していきましょう、ということです。
――Amazonの販売サイトを見ると、出版社が「NDL所蔵古書POD」となっていたので、これはもしかしてNDL自体が版元になっているのかな?と思ったりもしたんですけれども。
井芹:それも違います。そこに「インプレスR&D」と明確に書いてしまうと「インプレス R&D」の出版物として内容責任も持ったように誤解される可能性があったので。我々が提供するのはあくまで「コンテナ」であって、その「コンテンツ」はNDL の「古書データ」を再度「紙」へとメディア変換して書籍化している、というサービスです。なので、あえて「NDL所蔵古書POD」というサービスブランドを作りました。これから何万点か出る可能性があるので、我々の「インプレス」ブランドでやってしまうわけにもいかなかったわけです。
――なるほど。今回NDLへの利益配分のようなものは何もないんですね。
井芹:はい、そういうことは一切ありません。彼らは著作権者を代理しているというわけでもなく、パブリックドメインをデータとしてアーカイブしている立場であり、敢えていえばそのアーカイブ自体は日本国の持ちモノです。パブリックドメインである以上、そこには著作権料が発生しませんから、そのぶん価格が低く反映されています。
「誰でもできる」からこそ「価値がある」
――今回のプロジェクトでNDL側からは、どのような協力があったのでしょうか?
井芹:とくにありませんが、正式な再利用許諾はいただいています。NDLにデータの再利用におけるレギュレーションがあるんです。「この作品を当社で印刷して販売します」という旨を所定フォームで送れるようになっていて、そこで許諾を取ったかたちで今回は印刷製本しています(※後段に上記ルール変更に関して追記あり)。
ですから「誰でもできること」をやっています。特別なルートでNDLから許諾をいただいたということはなく、通常のルートです。当社で独占しようなんて、まったく思っていませんから、皆さんも同じことをぜひやってもらいたい(笑)。
――なるほどそうだったんですね。完全に正攻法で進めたと。
井芹:はい。ただ当社と同じコストで他社も実施できるかというと、難しいとは思います。当社は「NextPublishing」のデジタル処理や、流通の効率化も含めて技術を持っているから、この価格設定ができるわけです。それを使えば今回上手にできるのではないか、ということで手がけたんですね。通常の出版社さんでこういう設計をすると、とんでもない価格になるのではないでしょうか。
――昨年6月に酒井潔『エロエロ草紙』をリバイバルさせた彩流社も、そのNDL通常直接ルートですよね。
井芹:『エロエロ草紙』は人気コンテンツだったと思いますが、今回当社で20タイトルを選書していますけれども、理想を言えば、何が売れるからということでの選書ではなく、「近代デジタルライブラリー」のうちのパブリックドメイン作品をすべて出したいと思っています。
――ではNDLから何が人気コンテンツかを事前情報として聴いたのではなく、インプレス社で独自に選ばれたのですね。
井芹:はい、すべて当社の判断です。Amazon社がもともとやりたいということではあったので、Amazon社からPOD販売ならびに古書の販売に関してのアドバイスはありましたが、NDL側は今回の選書にはまったく関わりはありません。
――僕はてっきりNDLを含めたかたちで、壮大なプロジェクトが進んでいたのかと思っていました。つまり2013年の「文化庁eBooksプロジェクト」の筋に乗っているのかと思っていたんですけど、違ったんですね。あのときは紀伊國屋書店で進めていたので、今回はどういった経緯でAmazonPODに進んだのかな、と疑問でした。
井芹:はい、「文化庁eBooksプロジェクト」とはまったく別の筋です。また先ほども申した通り、NDLの通常のレギュレーションの中でやっています。ですから「誰でもできる」普通のビジネス行為として進めたものになります。逆に言うと、それだからこそ価値があると思っています。
――ええ、そうだと思います。もっともあの実証実験も、効果はありましたよね。『エロエロ草紙』は話題にもなっていたこともあって、けっこうなダウンロード数でした。
井芹:そういった効果測定や、また権利処理のルール作りなどは、文化庁主導でぜひ進めてもらいたいと思います。ただ実証実験があったからといって、すぐビジネスができるようになるかというと、そんなことはないわけですね。実際は、法律的には許されており、またNDLのルールをよく読む限り、正当な手続きを踏みさえすれば、誰でもNDLデータを再利用して世に出せることも分かる。ならば普通にまず、実際に「商品として出す」ということ。誰かがその道筋を示せば、「そうやればいいんだ」と皆に分かってもらえて、後に続いてもらうこともできますから。
――本当にそうですね。いまはまだ、やりたくても踏み出せない企業や団体もけっこういるんじゃないかと思います。かくいう私たち変電社自身、「NDLパブリックドメイン復刊プロジェクト」が宙に浮いたまま止まっています。
井芹:そこは普通の出版社でも、なかなか踏み出せないと思います。我々は少し変わった出版社ではあるので、逆に我々の「使命」だろうと(笑)。ネットメディアも自ら手がけたりしていながら、紙の本の出版社でもありますから、通常の出版社がやっているとおりのこともできる。紙とネットの両方が分かるものとして、こういった際にはリーダーシップを取って行くのが、我々のマターかなと思っています。
電子書籍化はあるのか?
――インプレスR&D社の「NextPublishing」サービスに関しての質問にもなるのですが、このスキームであれば、実はそのまま電子書籍コンテンツとしての展開も可能なわけですよね。
井芹:ええ、デジタルファーストですから可能です。ただデジタルは、「近代デジタルライブラリー」のサイトから読めるわけですね。仮にPDF分冊(※「近代デジタルライブラリー」のサイトでは20頁ごとのPDFがダウンロードできる)を一冊にまとめてパッケージにしたところで、それに商品価値があるのか、という点。もう一つはパブリックドメインであるからには、そのパッケージにもDRMをかけないで出すのが筋であろうと。
ただそこを考えれば、元は我々のコンテンツではないからこそ、その後の責任が持てません。その部分は明確にNDLの「近代デジタルライブラリー」の領分だろうなと考えます。我々はきっちりと読みやすいかたちに製本したことで、たとえば各大学や地方図書館、各自治体等で置いてもらう方がいいだろうと。
――僕自身は変電社活動として、7インチタブレット(nexus7)で直接「近代デジタルライブラリー」からPDFを20ページごとにダウンロードして、アプリでトリミングしながらモバイルで読んでいたりしますが、正直言えば、非常に面倒だったりしますね(笑)。
井芹:そう、実際そうやって読めるんですよ。ただ大多数の人は、そのようなコンテンツがあることを知らないし、またそれが読めることも知らない。だからまずは認知を上げて行くことが非常に重要です。世の中に価値の提供ができるほんの手前まで来ているのに、知られていないのは「もったいないなあ」と。なので価値が分かる人が集まって、そこの認知を広げる活動ができたらいいなと思いますね。
リリース後の読者の反応は
――差し支えない範囲で答えてもらえればけっこうなのですが、現在どれくらいの注文がありますか?
井芹:初日の注文は分かっているんですが、100冊にはいかない範囲で、数十冊の単位で注文が入りました。各メディアでも取り上げていただいたし、Amazonさんのトップページにも掲載されてネット上でも話題になったので、やはり皆さん興味がおありなんだと思いました。Amazonに商品紹介を書いたのも報われました(笑)。ここはけっこう苦労したんですよね。そんなに専門家でもないなかで、いろいろ調べて商品を紹介したので。
――ああ、そこは手を抜かずにちゃんと書いていましたよね。
井芹:我々も出版社なので、そこの手を抜いたら本当に何も知的作業をしないということになりますから(笑)。本当は、そういうのをCGM的に書いてもらえるようなサービスがあるといいんですけどね。自前でレビューを書くのでも、やはりコストはかかってしまう。ほんのちょっとでも一冊一冊、限界までコストを落とさないといけないですから。原価を下げれば下げるだけ、皆さんに配布する価格を下げられます。
そもそも売上は、一タイトルあたり数部くらいしか見込んでいません。これから続けて出すにあたり、一冊あたり何部さばけるかを考慮して、相当下のほうの部数で設計しています。我々としてはすべてが持ち出しになれば続けていけません。だから低いところをリクープラインとして、ロングテールで「面」として長く売れていければいいなと思っているんですけど。
――今回のPODは、何冊かは在庫していたりしているんでしょうか?
福浦:いえ在庫は0冊です。抱えたくないですから(笑)。全部注文後でプリントしています。
――ああそうなんですね。速いですね。僕が注文したらすぐに届きましたから。
福浦:それはAmazonプライム会員じゃないですか?
――はいプライムです。
福浦:プライムはPODプリントも優先されるようになっています。翌日に届いたんじゃないですか?
――はい、翌日に届きました。速いから何冊かは在庫を置いているのかと思ったんです。
井芹:それをしてしまうと、たとえば2部しか売れなかったものを3部先に作ってしまい、返品率33%みたいなことになってしまいますから(笑)。
――なるほどそういうことですよね。
井芹:だから一冊たりとも無駄にできないわけですよね。
――昔から授業で図書館にある本の部分がコピーされて配布されていたりしたので、こういうかたちで手の入るのであれば、教科書の副読本として教育現場からのニーズは普通にありそうですよね。
井芹:そう思います。認知さえ進めば、皆さん「なんだそうだったのか」ということで利用いただけるかなと。なので速く認知が進んでほしいとは思います。
今後の展開――続けて出すということが重要
井芹:我々としてはやはり、商品を続けて出すということがいちばん大事かなと。考察ばかりしていても前に進まないわけで、「まず出して」から世に問う。やはり今回出したことで、メールによるお問い合わせから、ソーシャルメディア上でもさまざまな声をいただいており、こういったいろいろな意見を聴いて前に進んでいければと思います。
――今後、たとえばファン投票などを実施して、PODリリースの順番を決めるとか、そういったことってどうでしょうか?
井芹:実はいちばんそれをやりたいんですよ(笑)。そういうウェブページを用意して投票を受けて、何部以上になった場合は実際に商品投入する、そういうモデルがぜひ形になればと思っています。そういうことに向いているコンテンツだと思うんですね。
――そうですね。貴重な資料が本当にデータアーカイブの奥に眠っているので、アカデミズムの現場や教育現場等で利用されると面白いと思います。たとえば、長らく紙の本でもなかなか手に入らないようなマイナー作家のコアなファンが、没後何年記念としてPODを出したいなんてニーズは、地方の文学館などでも掘り起こせそうですよね。
井芹:実際、数部のニーズがあれば商品化できます。本当はNDLがやってもいいサービスだと思うんです。実施は彼らにはできない領域なので、そういう付加サービスに関しては、民間または第三セクターに任せたいという意向なんですね。なので、NDLのレギュレーションにちゃんと則ったかたちで、当社とAmazonで連携プレイをして読者に届けるサービスが生まれるのであれば、NDLとしてはウェルカムなんですよ。
福浦:今回はAmazonだけでなく三省堂書店さんにもご協力いただいて、同じようにPODを実施しているので、古書の街・神保町でも簡単に手に入ります。ちょうど三省堂神保町本店でも店頭での印刷製本購買キャンペーンを4月26日から実施していますね。
井芹:今回、記事によってはAmazonのみで開始したように書かれてしまいましたけれども、同じことは三省堂書店でも始めています。三省堂書店はオンデマンド印刷製本用のエスプレッソ・ブックマシンを2台も入れて、いちばん力を入れられている書店さんだと認識しているので、ぜひとお願いして進めてもらっています。
――この試みに、ぜひ変電社としても何かしらのかたちでお手伝いできればと思います。
井芹:そういう連携先を増やしていければと思います。今後出していくにあたって我々の問題は、セレクションをどうするかが非常にキーです。次の100冊を選んで行く場合、どういう基準で選んで、どう紹介していくのかが重要なので、そういった点はいろいろな外部との協力連携が進めていければと思います。
取材を終えて
さて、短い時間の中でも楽しい充実した取材を終えた矢先のことですが、5月1日にNDLが非常に重要なルール変更を発表しました。
2014年5月1日 国立国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載手続が簡便になりました
5月1日(木)から、国立国会図書館ウェブサイトのコンテンツのうち、著作権保護期間を満了と明示している画像については、転載依頼フォームからのお申込みが不要となりました。
なんと上記取材時ではNDLのレギュレーション上、パブリックドメインのデータであっても手続きを踏まなくてはいけないとされていた「転載依頼フォームからの申請手続き」がここに来て「不要」となりました。これは悦ばしいルール変更です(下の画像)。
サイトポリシー:国立国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載について
つまり「インターネット公開(保護期間満了)」と表記ある物(上の赤枠箇所)に関しては、引用先として「「国立国会図書館蔵」「国立国会図書館ウェブサイトより」など、当館の画像を使用したことを記載」さえすれば、面倒な許諾申請は実施せずとも再利用していい、ということになります。これは大いなる第一歩です。
昨年の4月に書いた「文化庁eBooksプロジェクト」取材取材記事の締め括りの言葉を思い出しました。
「電子書籍」は現在のようなサービス提供者主導のものだけでなく、「読者=ユーザー」主導の胸躍る好奇心の追求の場、あるいは古書のリパッケージという新たなパブリッシング・モデルの創出など、さまざまな可能性を秘めている。もちろん、そのプロセスにどれだけの艱難が待っているかも、今回の実証実験では明確になったはずだ。
しかし、一定の手順を踏みさえすれば、膨大なデジタル・アーカイブスの宝の山の中から、自分が探し出したコンテンツを復刊することで誰もがデジタル・パブリッシャーになれる――この可能性はとても大きなものだ。
まさしく「新たなパブッリシングモデル」の可能性が花を咲かせようとしている過渡期であることを強く感じます。そしてその現場に直接取材を出来たことは非常に貴重な体験でした。井芹氏の言う「まず出してみて、そこから始める」の精神こそ、いわゆるソフトウェア開発現場における「永遠のベータ」の精神であり、まったくの不定形の未来に対して最善な態度であろうと僕は思う次第です。これからもこの「新しい可能性」の追求を見守っていきたいと思います。
■関連記事
・NDLのデジタル化資料送信サービス体験レポ
・文化庁eBooksプロジェクトは何を残したか
・印刷屋が三省堂書店オンデマンドを試してみた
・スウェーデン作家協会のオンデマンド出版サービス
執筆者紹介
- (変電社)
最近投稿された記事
- 2014.05.08レポートNDL所蔵古書をプリントオンデマンドで
- 2014.01.27レポートNDLのデジタル化資料送信サービス体験レポ
- 2013.04.09レポート文化庁eBooksプロジェクトは何を残したか
- 2012.12.27コラム「日の丸」電書端末Lideoに勝機はあるか?