僕がDIYで本をつくる理由

2011年12月5日
posted by 荒木スミシ

DIYというのは、たとえば「ログハウスなどをひとりで全部つくっちゃう」という意味合いのことだ。Do It Yourselfの略。そう、このDIY精神で「小説」を作っちゃえ、というのが、僕、荒木スミシ(noncafe books)である。

とにかくなんでも自分たちでやる。まず小説を書き、自ら編集し、それをデータ化し、行数や文字の間隔を決め、表紙もデザインし、なんと小説家なのに時には表紙イラストまで描き、流通も、書店営業も、すべて自分たちでやる。外注もなし。noncafe booksはそんな僕の活動を妻の明子がささやかに支えているというほんとに小さな形態である。

最新刊の『僕は本をつくりたい。』

僕は過去に幻冬舎やメディア・ファクトリーから小説の本を出した経験があるものの、「本作り」というのは、まったくの素人同然。妻も広告カタログの会社にいた経験があるので、パソコンは使えるものの、「本作り」に関しては、なんの経験もない。いわばふたりとも「へなちょこ」である。

しかしである。
そんな、へなちょこな僕たちが完全、DIYでつくった小説『プラネタリウムに星がない』がTSUTAYA TOKYO ROPPNGIで文芸週間ランキングの1位を(2週に渡って)獲得したのだ。さらに発売後3ヶ月経っているのに、TSUTAYA三軒茶屋店では9位に!新作の『僕は本をつくりたい。』もTSUTAYA三軒茶屋店のノンフィクション部門で週間ランキングの1位になったばかりだ。

むむむ。
これはその制作体制の小ささを知っている者にとっては、かなり驚くべきことであるようだ。大手出版社の営業はこのランキングを見て、こんな少発行部数の本がランクインなんて聞いたことない、荒木スミシ/noncafe booksなんて聞いたことない、と思って首をひねっているのだろう。

「街」から「個人」へ、そして「DIY系」へ

場所は兵庫県加古川市というかなーり田舎の町にあります。営業も夜行バスを使って行き来し、ほんとにここと決めたところに直接交渉して、200店舗にだけ置いてあります。小さく、小さく、がんばっております。

今は、地方の方が面白い行動を起こす時、向いていると思います。東京のスピードから自由になってみたいところもあります。

僕はかつて大手出版社で小説を出しながら、強く思ったことは、もっといろんな成功があるだろう、ということ。たとえば金銭的な成功もあれば、実は内容的、そして小さいが長い時間かけて売れる、愛されるというような種類の成功もある。なんだか瞬間的に売れるものばかりになってしまい、小さなロングセラーなんて生まれにくくなっているんじゃないか。みんな「大ヒット」を目指すだけの方法に思えたんです。

それに違和感を感じて、もっと映画でいうところの「ミニシアターでしか出せない味わい」の佳作をつくって打破したくなったんです。そこから始まるものがあるんじゃないかって、期待して。

そう思い、ここ4年間くらいの間に、他の人の作品を含めて15冊くらい小さく出版していきました。やってみて、見えてきたのは、「既存のやり方に飽きている客層」ってこんなにいたんだ、ということです。そういう新しい客層が生まれている。そういう狙いを理解して、棚をつくってくれる書店員さんも増えています。小さいですが、確かに。

そういう意味でも、DIY方式でつくる(いろいろ下手な部分もありますが)、意味がでてきたし、いろんな種類、方向性を持った本があるほうがいいと思っています。

僕は思うに、このDIY精神って、いろんな分野に芽吹き始めているんじゃないだろうか。何も芸術の話だけではありません。震災後の生活スタイルを考えた時、僕たちはこのDIYに魅力/活路を感じているのかもしれません。

僕は「渋谷系」の音楽を聴いて育ちました。自分たちの感覚にフィットする音楽を外国や過去などからも探して、取り入れてしまうような街と音楽が重なったムーブメントだったように思えます。それが今は街から離れ「森ガール」や「山ガール」になっていっているように思えます。街角に置いてあるZINEも「渋谷系」の進化したもの、ではないのか。

「街」から「個人」へ、そして「DIY系」へ……といった流れが見えてくるのは僕だけでしょうか。

音楽業界は出版業界の5年先の姿である、といえると思います。今、アーティストたちはレコード会社を次々と離れ、自主レーベルをおこしたり、ダウンロードサイトで作品を販売するようになってきています。

僕は出版業界も同じようになってくると予測します。つまり作家は出版社から離れて、自分たちで売るようになる。そして、DIY精神で「自分ですべてつくってしまう」という作家も現れる。(僕です)。そしてそんなDIYで田舎で作った小説が、大都会、東京・六本木や三軒茶屋で文芸週間ランキング1位になってしまうということも起こってしまうのです。

この落差。この痛快さ。
さて、へなちょこたちの逆襲が始まるのです。

小ささの魅力

2011年11月の新刊『僕は本をつくりたい。』のなかで、noncafe booksのパソコンがなんと未だにG3であり、OSも8.2という旧石器時代のようなものを使っていると紹介したら、「それで本を作っているのか」「本当に現代人か」というようなご感想をいただきました。

noncafe booksのメインマシンは旧式のiMac。

そのパソコンを新調したのです。Yahooオークションで2万円で! 今度はiMacでOSも9.2になりました。僕たちとしては、「うわあ、サクサク動く」「これで深夜に何度も何度もフリーズすることはない」と喜んでいます。しかし旧石器時代が、縄文時代になったようなもののようで、みんなにはバカにされます。

加えて、驚かれるのがその入稿方法です。
イラストレーターで文字をレイアウト編集して、1ページごと画像として入稿するというやり方なんです。これは実は写真データをつくるやり方で、僕たちの本は文字が並んでいる写真データなんです。この方法は未だに続けています。めちゃくちゃ面倒くさいのだけれど、他のやり方を知らないのです。

こんな小ささが武器のnoncafe booksです。

こちらは小説の最新作。

僕たちはよく話すのですが、どうして出版業界は全国発売をどこもかしこもやるのでしょうか? 映画だとシネコンもあれば、ミニシアターもあります。そこでやる映画はやはり違ってきます。その「ミニシアターの香り」のする本は、装丁も中身も違ってきます。それを書店でみなさんが感じ取ってくれているのではないでしょうか。

やはり「小ささ」は今や武器なのですよ。どんな職種でも大手は閉塞感でいっぱいです。けれど小さなところは自由度が高く、なぜか元気です。僕には「小さなところ」が増えていき、そこがかなり面白くなってくるように感じています。今は「純度」の高いものをつくれるのは、小さいほうが向いている。

DIY精神で小説をつくる。
それはつまり「純粋な表現を求めていく」ということだったわけです。
それが出版だけでなく、いろんなところで起きているDIY精神の本質かもしれないですね。

DIY方式だと表現とビジネスとが、大きな意味で融合(イコール)するのです。そういう魅力的なお金を稼ぐ方法というのを、今は挑戦するべき時だと考えます。

僕はその方法をひとつ、見つけた、と思っています。

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ノンカフェブックス担当:山中
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