インターネット電子図書館の夢

2011年9月12日
posted by 仲俣暁生

インターネット上にパブリック・ドメインの本やテキストをアーカイブする試み、いわゆる「電子図書館」や「電子書籍」の元祖であるプロジェクト・グーテンベルクの創設者マイケル・S・ハート氏が、9月7日にイリノイ州の自宅で亡くなられました。

プロジェクト・グーテンベルクのサイトはハート氏の追悼記事を掲載。

この知らせは多くの新聞やウェブサイトで報じられているほか、プロジェクト・グーテンベルクでも公式の発表をしています。この文のなかで紹介されている、ハート氏が語ったとされる次の言葉に私は強い印象を受けました。

One thing about eBooks that most people haven’t thought much is that eBooks are the very first thing that we’re all able to have as much as we want other than air. Think about that for a moment and you realize we are in the right job.

こういうことを人はあまり考えたりしないかもしれないけれど、電子書籍は空気以外で、われわれが好きなだけ享受できる、まさに初めてのものなんだ。そう考えてもらえれば、僕たちのしているのが正しい仕事だということが理解できるだろう。

プロジェクト・グーテンベルクがイリノイ大学の大型コンピュータをつかって開始されたのは、いまから40年前の1971年のことです。当時はまだパーソナル・コンピュータも存在せず、インターネットも生まれたばかりでしたが、この年が本当の「電子書籍元年」といえるかもしれません。

その後、プロジェクト・グーテンベルクの思想はさまざまな人々に受け継がれ、1996年にはブリュースター・ケール氏により、電子テキストやワールドワイドウェブ、さらには映像や音声のコンテンツまでを幅広く収集する、インターネット・アーカイブが誕生しました。現在はプロジェクト・グーテンベルクのコンテンツも、他のテキストアーカイブとともに、インターネット・アーカイブにも収められています

ブリュースター・ケール氏も自身のブログに、マイケル・ハート氏の死を追悼する文章を発表し、20年前の二人の出会いから現在にいたる交流の思い出を綴っています(Michael Hart of Project Gutenberg Passes)。昨年来、大いに話題になっている電子書籍の問題は、「電子図書館という夢」を追い求めてきた彼ら先人たちの試みと切り離して考えることはできません。

ケール氏は今年の5月に来日し、国立国会図書館で講演を行っています。この機会に行ったケール氏への長いインタビューも、さきほど「読み物コーナー」で公開しました。電子書籍や電子図書館の問題に関心のある方は、ぜひお読みください。(ブリュースター・ケール氏に聞く本の未来

日本でも、プロジェクト・グーテンベルクにつよい影響を受けて青空文庫が1997年に誕生しています。このプロジェクトを中心となって進めてきた富田倫生氏は、今年の東京国際ブックフェアで「青空文庫 800人のボランティアと一万冊の電子書籍」という講演をしています。こちらもあわせてお聞きください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。