今年の夏、東京国際ブックフェアのボイジャー社のブースで弁護士の村瀬拓男さんが行った、グーグル「ブック検索」集団訴訟についての講演映像がボイジャーのサイトで公開されました。村瀬さんは新潮社でCD-ROM版『新潮文庫の100冊』をはじめとする電子書籍を担当されていた、電子出版のエキスパートです。その後、弁護士に転身され、現在は法律家の立場から、著作権をはじめとする問題に積極的にかかわっています。
ブックフェアでの講演当時は、「ブック検索」集団訴訟の和解案が、日本を含む全世界を巻き込むことが明らかになり、出版界が騒然としていた時期でした。その後、11月13日に修正和解案が示され、日本国内で出版された本は集団訴訟の和解から除外される見通しになりました(日本書籍出版協会事務局による修正和解案の訳文 PDF)。しかし、集団訴訟和解からの除外はけっして問題の解決ではありません。たんに訴訟以前の状態への復帰にすぎず、法的和解の手段を失ったことで、むしろ事態をさらに複雑にしたといえます。
村瀬氏の講演では、米国での「ブック検索」集団訴訟の行方に関わらず、今後に日本の出版社が電子出版に取り組む場合に考えなければならない問題の要点が、簡潔にまとめられています。ことに、この講演でも村瀬氏が紹介している国立国会図書館の電子図書館構想は、グーグルの「ブック検索」と同様、重要な問題を提起しています。そういう意味でも、あらためてグーグルの「ブック検索」集団訴訟とはなんだったのかを考えてみることは重要です。
以下に村瀬氏の講演録の冒頭部分を転載します。全文と全映像はボイジャーのサイトでご覧ください。
東京国際ブックフェア2009 村瀬拓男氏 講演録
いくつもの新聞や雑誌などで「Google問題」「Google和解問題」という形で報道がされていたので、今日は業界関係の方々中心ですから、皆さんいろいろなところでいろいろなものを読んで、見ておられると思います。この問題で我々が一体何を考えなければいけないのかとか、一体この問題というのはどういうことなのかといったことを、なるべくわかりやすくお話ししていきたいと思います。
まずは、Google和解問題とはどういったものなのかざっとおさらいすると、これはGoogleが2004年、2005年くらいからGoogle図書館プロジェクトという名のもとに、アメリカにおいて、アメリカの大学図書館を中心とした公共図書館の蔵書をスキャンをはじめてデジタル化をした、それがことの発端です。
それに対してアメリカの作家組合、有力出版社数社が、それは図書館に蔵書されている本とはいえ本をスキャンしてデジタルコピーをするということは複製権の侵害であると、アメリカで訴訟を提起しました。Googleは当然この本のスキャンを無許可でやっていたわけですから、著作権法上、これは日本でもアメリカでも同じですが、コピーの権利は権利者が持っていることになりますので、勝手にコピーしてはいけないのではないのか、というのが権利者側の言い分。
それに対してGoogleは「フェアユース」という抗弁を出しました。このフェアユースというのも当然これから業界関係の方々、いろいろなところで耳にする言葉だと思います。多分来年、再来年の著作権法改正で、フェアユースというアメリカで入っている権利制限条項が具体的に検討される可能性が大きい。
このフェアユースというのは一言でいえば、公正な利用、つまり公正に、社会のために役立つような利用の仕方をするならば、権利者の許諾なんかいらないじゃないかというのが、非常に平たく言えばフェアユースの考え方で、Googleはフェアユースの名のもとに図書館という公共の場にある、みんなの公共財産の本を、最新のデジタル技術を用いてより利用しやすくすると、そういう形のどこが権利者の権利を侵害しているんだというのが、彼らの言い分だったわけです。
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執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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