Kindle for PCを使ってみた

2009年11月20日
posted by 仲俣暁生

アマゾンがキンドル用のコンテンツをPCでも読めるアプリケーション、Kindle for PCのベータ版配布を開始したので、さっそく使い始めてみました。アプリケーションを立ち上げると、アマゾンで購入した電子書籍の一覧が並ぶはずなのですが、手元のキンドルに比べ、なんだか淋しい感じがします。そう、Kindle for PCではキンドルにダウンロードしたサンプル版が表示されないのです。

キンドル用の電子書籍の大半はかなりのページ数まで読めるサンプル・ファイルを提供しており、それらをどんどんダウンロードすることで、キンドルは一種の「立ち読みマシン」「積ん読マシン」としても非常に便利なのですが、現状のベータ版をみるかぎり、Kindle for PCはあくまでも「購入した電子書籍コンテンツ」を管理するシステムであり、本格的なビューアというわけではないようです。ためしにKindle for PCからキンドルストアのサイトにアクセスし、本を選んで「Send sample now」をクリックしてみたのですが、サンプル版はKindle for PCには蓄積されず、キンドル本体のほうに送られていました。(追記:下線部に関して、読者からの指摘で、プルダウンメニューで「Kindle for PCに配信」も選択できることが判明。ただしキンドル側のサンプルとは同期しません。詳細は次回のコラムにてご報告します)

実際、読書用ソフトとしては、Kindle for PCはたいした機能を持っていません。まだテキストの検索もできず、ノートやハイライトもつけられません(のちに実装されました)。たんに、ページをめくって前後に読み進むことぐらいしかできないのです。とはいえ、キンドルで読みかけの本をPC側で読むことや、PCで読みかけの本をキンドルで読むことも現実的にはあるはず。

そうした用途を念頭に置いてか、キンドルで読みかけの本をKindle for PC側で開くと、文頭にキンドルで読んでいるのと同じ段落が来るように表示される機能がついています。つまりキンドル本体とKindle for PCで読書中の本のデータをシンクロさせているわけです。

Kindle for PCとキンドルの表示画面はシンクロしている。

Kindle for PCとキンドルの表示画面はシンクロしている。

Kindle for PC側で表示するページを変えると、ブラウザの画面下に「Saving furthest read location」と表示され、サーバ側にアクセスしていることが分かります。

表示するページのデータをサーバ側とシンクロしている。

どこまで読み進んだかのデータをサーバ側に送っている。

そこで再びキンドル側で同じ本を開くと、今度はキンドルがPC側のfurtheset location、つまりいちばん先の場所に合わせて画面表示をするかどうか訊ねてきます。アマゾンはキンドルの読者が、いまどのページを読んでいるかを、リアルタイムですべて把握しているというわけです。

PC側のいちばん先のlocationとシンクロさせるかどうかを訊ねるアラート画面。

PC側のいちばん先のlocationとシンクロさせるかどうかを訊ねるアラート画面。

もともとキンドル側のメニューに「Sync to Furthest Page Read」という機能があるので、驚くにはあたらないのかもしれませんが、本のどのあたりまで読んでいるかまでを、すべてアマゾン側に把握されていることになり、少々複雑な気分です。

ちなみにキンドルは文字を表示するサイズが何段階にも切り変えられるため、「ページ」という概念がありません。そこで本のコンテンツは「location」という単位に分割し、こまかくインデックス化しているようです。したがって読者が本をどこまで読み進んだかは、このlocationの番号と、全体の「何パーセント」まで読んだかという表示で把握するしかないわけです。

ちなみに、私が試しに読んでいるエドガー・アラン・ポーの作品集、Works of Edgar Allan Poeの最終locationは17706という数字になります。ページという概念をなくした電子書籍の読書スタイルが定着するまでには、まだまだ解決すべき課題が多いようです。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。