フランス第二の大手出版社editisが、2007年に未来の読書風景を描いた長篇プロモーション・ムービーを発表している。近い将来、家庭内、書店、旅先などでどのように電子書籍デバイスが使われ、生活のなかでいかなる役割を果たすかが、具体的にとてもよくイメージできるように作られた、すぐれた映像である。
書店の場面が面白い。現在と同様、印刷された本が大量に置かれた書店の風景。いまと違うのは、読者は本に電子書籍デバイスをタッチさせることで、コンテンツをダウンロードできることだ。本は棚に戻し、読書は電子書籍で行うのである。
この映像についてボブ・スタインは、if:bookの記事で「これは1987年にアップルが提案したナレッジ・ナヴィゲーター以来、もっとも興奮する本の未来についてのヴィジョンだ」と述べている。
(映像中の会話の大意)
*勤務先の学校から妻が帰ってくる。家にはパソコンに向かう夫。
女 「本を書いてるの?」
男 「すぐ終わるよ」
(ゲラの状態になっているデータにそのまま文を打ち込んでいる夫。ソファでe-bookを開き本を読む妻)
男 「終わった!すぐ編集者に送るよ。来週には本屋に並ぶだろう」
*街の書店に行く二人、男は棚に収められた本を取り出し、e-bookをかざして本をいくつかe-bookに入れている。書店店主が話しかける
店主 「やあ、調子はどう?」
男 「ちょうど本を書き終わったところです(中略)来週にはダウンロードの画面に並ぶはずですよ」
(イギリスの小説について話す二人)
男 「それはもうダウンロードしたんだけれど、いまブルージュへの旅行に持っていく本を探しているんです」
店主 「それならいい本がありますよ!これはどうですか? ダウンロードします?」
(表紙を見せる店主)
男 「すごくいいですね。ダウンロードしますよ」
(e-bookをかざす男。アマゾンの「カート」のような画面に本の表紙が現れる)
店主 「それから……、『Lonely Planet』 をe-bookにどうですか? 新しい旅行の仕方ですよ」
男 「それもお願いします。あとお勘定を」
店主 「認証しますね。(ボタンを押す店主) これでそちらに受け取りができましたね。こちらではコントロールずみ、と。ありがとうございます」
*旅行先のブルージュで。『Lonely Planet』がGPS、オーディオガイドの役割をしている。「一つ目の角を右に曲がると鐘楼です」「この城は18世紀に作られ…」
*美術館のフロントでe-bookにオーディオガイドをダウンロードして美術品の解説を聞く二人。女はミュージアム・ショップで欲しい画集を見つけるが、フラマン語で書いてあるため諦める。e-bookをかざしてこっそり本の情報を保存しておく男。
*『LonelyPlanet』のレストランガイドで食事をする二人
*翌日、男の書き終えたばかりの本の初校がe-bookに送られてくる
男 「これから少し仕事をしてもかまわない?」
女 「大丈夫よ。私も授業の準備をするわ」
(e-bookの画面にペンを走らせて校正をする男。妻もe-bookを開き、ブルージュの写真や地図を指で移動させて授業用のプリント画面を作る)
*ビーチでe-bookを開き音楽を聴く男。横では妻が自分のe-bookを開いている
女 「これ面白そうだわ。すぐダウンロードしましょう」
*パリで。カフェで偶然友人に会う。
男 「元気かい?(中略)(本の表紙を見せて)これ、そちらのe-bookに送るよ。」
(指でアイコンを移動させて、友人のe-bookに本を送る)
*冒頭に出てきた街の書店。レジには大きな画面がかけられ、男の新作の表紙動画が再生されている。それを見ながら、妻が店主に話しかける。
女 「(これ)うまく行っている?」
店主 「すごくいいよ。1週間でダウンロードが1000もあったんだ。すごく成功しているね」
女 「彼が、こちらに寄るようにって」
店主 「そうなんだ、実はね…」
(大きな画集を取り出す店主、ブルージュのミュージアム・ショップで妻が見ていたものと同じもの。「フランス語だわ!」と喜ぶ妻)
*パリのポンピドゥ・センターの横を歩いている男。e-bookに届いたメッセージを開くと、妻からハートの画像つきのメール。男はにっこりとしてe-bookを閉じる。
■関連サイト
・editis(official site)
・DigiBarn TV: Apple’s Knowledge Navigator concept video (1987)
執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
最近投稿された記事
- 2023.10.22Editor's Note軽出版者宣言
- 2023.06.02往復書簡:創作と批評と編集のあいだで暗闇のなかの小さな希望
- 2023.04.06往復書簡:創作と批評と編集のあいだで魂のことをする
- 2022.09.24往復書簡:創作と批評と編集のあいだで様式によって動き出すものがある