2013年11月30日、大学生による未来の雑誌企画会議「MoF competition」という公開イベントが開催されました。当日は11組の大学生が出版、メディア関係者の社会人に対し各々が思い描いた未来の雑誌企画のプレゼンテーションを行いました。大学生が出版関係者に対してプレゼンを行うイベントとしては、「出版甲子園」という書籍企画のコンペが既にありますが、雑誌企画で大学生が出版関係者に対して行うプレゼンは前例がありません。
未来の雑誌創発プロジェクトMoFのはじまり
そもそも未来の雑誌創発プロジェクトが始まったきっかけは、2013年2月に下北沢の本屋B&Bで開催されたイベントでした。その内容は、「N magazine」編集長・島崎賢史郎氏と博報堂ケトル代表・嶋浩一郎氏、起業家・家入一真氏、そして「未来の雑誌創発プロジェクト」発起人の一人であるインプレスHD執行役員・丸山信人氏によるトークイベント。大学生限定でありながら定員を超える参加者が集まったこのイベントで「未来の雑誌創発プロジェクト」が発表され、その場で運営メンバーの募集がかかりました。
募集を見て集まった大学生メンバーと出版社有志により、「未来の雑誌創発プロジェクト」はMoF(Magazine of future)という名前のもと始動しました。掲げたビジョンは「既存の雑誌から、形にとらわれない、新しい雑誌のスタイルを追求すること」。「雑誌」、「マガジン」という言葉がいまや紙媒体のみを意味していないことは、最初に集まった時点で大学生、出版社ともに共通認識を持っていました。それを踏まえて新しい紙媒体の雑誌を発刊することや、ウェブマガジンを立ち上げるといった、成果物を作ることを目的とせず、いま雑誌の役割とは何か、大学生は雑誌に対しどのような想いを持っているのか、何よりも未来の雑誌とは何か、そのような答えのない問いを追求するところから活動をスタートしました。
最終コンペに向けての活動
MoFは11月のコンペに向けて様々なイベントを開催してきました。その中でも特にB&Bでのイベントと自主企画のワークショップは、MoFの活動のビジョンに沿った未来の雑誌について考える場となりました。
B&Bでのトークイベントは2013年7月30日~31日に二日間連続で開催されました。30日は紙媒体の雑誌の未来について考える場として、2月のイベントにも登壇していた「N magazine」編集長の島崎氏と「ケトル」編集長の嶋氏のトークイベントを開催、31日には無料コミュニケーションアプリ「LINE」を運営する株式会社LINEの執行役員・広告事業グループ長である田端信太郎氏をゲストに迎え、参加者の大学生が田端氏に質問を投げ続けるバトル形式のイベントを開催しました。一方は紙媒体、もう一方はインターネットメディアについて考えるイベント、この二つのイベントを通じてMoFが目指す「未来の雑誌」の可能性を広げることができました。
ワークショップは9月に一回、11月に一回、計二回行いました。一回目は雑誌企画アイデア出し方を学ぶもの。ポストイットにブレストしたアイデアを書き出していく定番の短冊会議を行いました。和やかな雰囲気で始まったワークショップも、いざ現役出版人への発表の時間になると、プロの方々から厳しいフィードバックが飛ぶ場面もありました。二回目は既存の雑誌のPR戦略を立案するワークショップ。「紙、ウェブという媒体の区分を超えて雑誌というメディアは拡張する」という考えのもと、いかにして伝えるか、その伝える場をつくるか、売るということだけを最終目的としない、メディアとしての機能をいかに最大化するかを考える機会となりました。
まだ立ち上がってから一年も経っていない若い団体ですが、前年の11月末に設定した2013年度の目標に向けて試行錯誤を繰り返し、活動を通じて日々高まる雑誌への愛着を感じつつ走り続けました。
未来の雑誌企画会議MoF competition開催
こうした経緯を経て、2013年11月30日、未来の雑誌企画会議MoF competitionが開催されました。会場は青山のブックカフェbrisa libreria。11月最後の夜に、多くの出版関係者、雑誌好きな大学生が青山に集いました。
今回のコンペでは特に決まったテーマを設定していません。紙媒体でもよし、ウェブマガジンでもよし、雑誌を盛り上げるためのムーブメントでもよし、課題はとにかく未来の雑誌を提案すること。審査基準も斬新さと実現可能性の二点のみ。学生の自由な発想に出版社の方々の期待が託されました。
審査員は扶桑社「SPA!」編集長・金泉俊輔氏、博報堂ケトル代表取締役・嶋浩一郎氏、NHK出版・出版・放送・学芸図書編集部チーフ・エディターの松島倫明氏、フリー編集者の畠山美咲氏、富士山マガジンサービス代表取締役社長・西野伸一郎氏、brisa libreria代表取締役の元木忍氏、インプレスHD執行役員・丸山信人氏、フリー編集者で「マガジン航」編集人でもある仲俣暁生氏。学生からすると思わず背筋が伸びてしまうような面々にお集まりいただきました。
当日プレゼンされた企画は以下のとおりです。
1. チーム・いいじゃん
「子どもの五感を刺激する!親子向けの新しい雑誌」
2. チーム・やわもち
「ボッチ向けの雑誌 Bocchi」
3. チーム・apm
「女性クリエーターによる女性のための女性グラビア誌」
4. チーム・LL
「ゆめみ男子」
5. チーム・のべたべ
「小説×ご飯 ノベライス」
6. チーム・入江澤村ペア
「セックスコミュニケーションをプロデュースする雑誌 HAPI HAPI」
7. チーム・PeanutButter&Jerry
「旬の一歩手前でブームを先読む雑誌 Be Boom!」
8. チーム・りなてぃ
「東京銭湯セントーキョー」
9. チーム・ひねくれ
「離婚した男性向け雑誌 通り雨男」
10. チーム・uno
「若者の夢をかなえるための雑誌 Fluff」
11. チーム・富士山マガジンサービスインターン
「ラグジュアリーな参考書 Magenta」
このなかで見事に最優秀賞を獲得したのは、「女性クリエーターによる女性のための女性グラビア誌」を提案したチーム・apm。潜在的な需要があることはわかっていたが、そこに切り込むことができなかった領域に大胆に切り込んでいったことが評価されての受賞でした。続く優秀賞は「東京銭湯セントーキョー」を提案したチーム・りなてぃ。ウェブと紙を連動させた未来志向のメディアと銭湯という伝統的なスペースを組み合わせた提案でした。参加学生の投票による特別賞は「セックスコミュニケーションをプロデュースする雑誌 HAPI HAPI」を提案したチーム・入江澤村ペアと「ラグジュアリーな参考書 Magenta」を提案したチーム・富士山マガジンサービスインターンのダブル受賞。「HAPI HAPI」はもっと性を気軽に楽しめるのでは?という疑問から生まれたという時代性を感じる提案でした。「Magenta」は紙媒体という媒体の特性に着目し、ページを切り離しファイリングできるなど他のチームとは違う視点で、未来の雑誌のあり方を提案してくれました。
コンペを通じてみえてきたことは、雑誌好きの大学生は紙の雑誌に限らずメディア全般に対し熱い関心を持っているということ。企画の内容の工夫と同時に、どうメディアを駆使してそれを伝えるかを必要条件として提案しているものが目立ちました。出版社の方々にとっても、大学生が雑誌をどのようにとらえているか、雑誌に対しどのような想いを持っているかを知るよい機会になったかもしれません。
MoFのこれからの活動
MoFは研究所のように活動していきたいと考えています。雑誌はこれからどのように変化していくか、メディアとして新しい可能性を拓くことができるか。現在進行形で変化し続けるメディア環境に対して、大学生のリアルとメディアの現場で働く社会人のリアルを融合し、大学生と出版関係者が一体となって活動できるのがMoFの強みです。2013年度は雑誌企画のコンペを軸に活動を行ってきましたが、これからはコンペに限らず、雑誌好きの大学生の好奇心をくすぐり、大学生側からメディアの温度を上げることができるような活動を行っていきたいと思います。
その中でも軸となるのはイベントの開催です。人から発信される情報を人に伝える媒体すべてをメディアと定義するのであれば、人と人を直接つなげるイベントは最短距離のメディアです。モノだけではなくコトもメディアになるという未来予想図を体現していくことがMoFの活動です。今後もMoFの発信するモノ・コトにご注目ください。
MoFの活動へ参加ご希望の方は、下記URLの「Contact」までお問い合わせ下さい。
未来の雑誌創発プロジェクトMoF HP:http://mofmof2013.wix.com/miraizasshi
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