フランクフルト・ブックフェアで次期EPUBの概要発表

2010年10月22日
posted by 滑川海彦

10月12日、アメリカの電子書籍標準化団体の一つ、IDPFのLiza Daly委員(Threepress Consulting社長)はフランクフルト国際ブックフェアで行なった次期EPUB3(旧:EPUB 2.1)に関する講演の内容をウェブに公開した

興味深いプレゼンなので内容を簡単に要約して紹介する。

■解説音声付き

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目的
世界の多種類の言語、ネーティブ・マルチメディア、 スクリプトによる対話性、高度なレイアウト等のサポートに必要な規格を制定する。

ePUB3制定へのプロセス
2010年4月に憲章を制定して作業をスタート、6月にニューヨークで第1回会合を行った。夏までに各種要求出揃う。2011年の第1四半期にドラフト・フォー・コメント(最終案)を公開し、標準化採択は2011年第2四半期を目標としている。

多言語サポート
縦書きレイアウト、双方向のページ進行、ルビ、外字のサポートを行う。CSS3 テキスト・ワーキンググループと密接に連携して活動している。オープンソースブラウザ(WebKit等)の開発者、W3Cメンバーにも参加を求めている。CSS、HTML5のサポート状況はブラウザごとにばらつきがある。またページ進行方向などCSSで規定しきれない部分があるのでePub独自の策定が必要。CSS3の最終的な標準化スケジュールは未定なのが問題。

マルチメディア
HTML5のタグはすでにKindleとiBooksに採用されている。しかしGoogleやApple、Amazonが現在採用しているHTML5とW3CのHTML5案には若干の相違がある。ePub3はW3C版を支持する。ただしHTML5も策定作業の途上にある。最終標準化は相当先になるので、それを待つことは非現実的。ハンディキャップを持つユーザーのために音声や動画によるアクセシビリティを確保することはきわめて重要な課題。著作権保護、メタデータの取り扱い、テキストと音声の同期、広告なども同様に重要。

対話性
次のような分野で活用できるようなスクリプトによる対話性の確保が求められている。eラーニング(学習)、ゲーム、位置情報、コンテンツの変換、ユーザー毎のカスタマイズ。

互換性
さまざまなサイズ、機能のデバイスを広くサポートし、デバイス間の互換性の確保することが必要とされる。またコンテンツ制作の容易さ、アクセシビリティの確保も重要。これらの点を考慮してePub3では次のような技術的指針を採用する。JavaScriptの限定的採用。宣言的構文の推奨。スクリプトはページネーションに影響を与えないよう固定サイズのブロックにのみ適用される。

レイアウト
従来のCSSを基本として、以下の機能を加える。画面サイズに応じた複数のスタイルシートをダイナミックに適用できるようにする。またマルチカラム(段組)、画像レイアウトのオプションの拡張。特に複数スタイルシートのサポートはスマートフォン、タブレットなど異なったデバイスに対し最適な表示を行うために非常に重要。

その他
media-query対応、MathML対応などのさまざなワーキンググループから多くの提案が寄せられている。

電子書籍がガラパゴス化しないために

わが国の関係者の努力でePub3に縦組、ルビ、外字、ページ進行方向などの日本語組版機能が組み込まれることになったのはすばらしい。こうした努力がなければ日本の電子書籍はさらに5年ぐらい遅れを取るところだったのではないか?

その昔、日本には「文豪」、「書院」、「ルポ」といったたぐいのワープロ専用機が全盛をきわめた時代があった。断っておくが、ワープロのソフトウェアではない。ハードウェアである。見た目は小型の一体型パソコンないしノートパソコンだが、ワープロの機能しかない。OSもファイルフォーマットも各社独自で他の機種とはまったく互換性がない。一時は情報機器の主力商品だった。

それが今はどうなっただろう? 影も形もない。若い世代はそんなものの存在さえ知らないだろう。当時、膨大な労力がこうしたガラパゴス・ワープロのハード、ソフトの開発に注ぎ込まれた。その結果はゼロだ。何の遺産も残さず雲散霧消した。残ったのは互換性のない文書の山をかかえて立ち往生したユーザーだけだ。

日本のメーカーの一部は電子書籍でも懲りずに同じ道をたどろうとしているのではないか? ガラパゴス携帯でさえ、すでに行き先が長くないことが見えてきた。ましてガラパゴスeリーダーなど、立ち上がる前に挫折することは100%確実だ。

現場ではまさかガラパゴスリーダーがヒット商品になるなどと思っている人間はいないだろう。ではなぜそんな無駄なことをするのか。「敗者にはいつも事情がある」という司馬遼太郎の名言がある。勝つための手立てを考えていかなければならないのに、それと無関係な「事情」にしばられていては負けるに決まっている。

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滑川海彦
(ライター・翻訳者)