未来の読書風景

2009年9月17日
posted by 仲俣暁生

フランス第二の大手出版社editisが、2007年に未来の読書風景を描いた長篇プロモーション・ムービーを発表している。近い将来、家庭内、書店、旅先などでどのように電子書籍デバイスが使われ、生活のなかでいかなる役割を果たすかが、具体的にとてもよくイメージできるように作られた、すぐれた映像である。

書店の場面が面白い。現在と同様、印刷された本が大量に置かれた書店の風景。いまと違うのは、読者は本に電子書籍デバイスをタッチさせることで、コンテンツをダウンロードできることだ。本は棚に戻し、読書は電子書籍で行うのである。

この映像についてボブ・スタインは、if:bookの記事で「これは1987年にアップルが提案したナレッジ・ナヴィゲーター以来、もっとも興奮する本の未来についてのヴィジョンだ」と述べている

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『東洋経済』の特集〈アマゾンの正体〉

2009年9月11日
posted by 「マガジン航」編集部

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『東洋経済』が8月29特大号で組んだ特集「アマゾンの正体~知られざる出版革命」の記事が同社のサイトに公開されている。

青息吐息の“出版旧体制”、デジタル時代の覇権は誰の手に?《アマゾンの正体》
ケータイから始まる出版革命、アメリカの先を行く日本の電子書籍《アマゾンの正体》
キンドルが変える! 出版業界の“旧秩序”《アマゾンの正体》
米西海岸のユーザーに聞く―どのようにキンドルを使っていますか?《アマゾンの正体》

キンドルをめぐる論争

2009年8月10日
posted by 仲俣暁生

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キンドルでの読書をめぐって、さまざまな議論が起きている。日本でも紹介された『グーテンベルクへの挽歌』 の著者として知られる批評家スヴェン・バーカーツは、今年3月にAtlanctic誌に掲載された「キンドルに抵抗して(Resisting the Kindle)」という記事で、「ページからスクリーンへの変化」が読書にもたらすことに対して否定的な意見を発表した。

バーカーツはこの記事で、キンドルなどによる電子読書が、「ウィキペディアが情報に対してもたらしたのと同じようなことを、文学や人文科学に対してもたらすのではないか」という懸念を表明している。

こうしたバーカーツの意見を受けて、セバスチャン・メアリーが書いたwill the real iPod for reading stand up now please? (日本語訳は「いまこそ本当の読書用iPodを」)という記事がif:booksに掲載されている。

■関連記事
Note to e-Book Reader Makers — It’s the Content, Not the Device Itself(JK on the run)

TIBF2009 萩野正昭講演録

2009年7月11日
posted by 「マガジン航」編集部

17年間ボイジャーがやってきました活動、そして今回の東京国際ブックフェア4日間の一部始終を振り返り、これからのデジタル出版、デジタルパブリッシングというものが本当に船出をしていけるのかどうか、最終日の最後の時間にあたり、皆さんと一緒に考えていきたい。

色々なことがありました。また新しいこともたくさん考えてきております……全てつまびらかにお話ししながら、皆さんと一緒に船に乗り、出て行きたいとおもっています。

最初に、この『デラシネ――わたくしの昭和史』という本をご覧ください。そしてもう一冊、『ひらめきのマジック』という本がここにあります。ご覧のとおり、クラシックな紙の本です。二冊ともボイジャーのドットブック(.book)という電子出版のフォーマットで作られたものです。

オンデマンド・プリントといいまして、必要な量だけ印刷する方式で作られたものです。.bookというボイジャーのフォーマットで作りますと、たった一冊だけ紙の本を印刷する道がつけられています。それで作った本なんです。

著者は大正12年生まれ、今年86歳のおじいさんです。栗山富郎さんといいます。実は映画のプロデューサーでいらっしゃいまして、東映というところでいろいろな名作を作った人です。高倉健の映画を作っている降旗康男という監督のデビュー作品『非行少女ヨーコ』を作りました。緑魔子、谷隼人、そういう俳優の方たちが出たものです。

それから佐藤純彌監督、この間『男たちの大和/YAMATO』を作りましたが……その佐藤純彌監督と『組織暴力』なんていう映画をプロデュースしました。それから、鹿島建設が霞ヶ関ビルを作ったときの映画『超高層のあけぼの』そういう映画も作った、大変有名な映画プロデューサーだったんです。

栗山富郎さんが自分の人生を家族に言い残したいということで、しかし自分は自費出版なんてそういうことはやりたくないんだと、単純に一冊だけ家族に残したいんだということで、私のところに相談に来られたんです。

本は出来上がりました。こういう、三百何ページの本が。本を作るのは難しいことじゃなかったんです。ただ、この人は、実は同時に、段ボール箱二箱くらいいっぱいの写真と資料を持ってこられました。それを見て、本当ならば紙の本の中に写真や資料を挿入して作ってみたいと考えましたけども、それでは有り余る量があったわけです。

この本を見ると帯のところに、www.dotbook.jpのderacineといういわゆるURLです。インターネット上の戸籍番号、これが振ってあります。ボイジャーは本に固有の戸籍番号というのを作って、それに資料をおいて、その資料を、この本を見ながら一緒に連動して見ることができるようにしたわけです。

今後ボイジャーが出版するものには、必ずその固有のURL、戸籍番号を振っていく……それは写真があるとかないとか関係なしに、できあがった本に対して一つの「場」が保証される、本とは未来へ発せられた一つの契機なのだ、そういう風にしていこうとおもったんです。

続きはこちら:http://www.voyager.co.jp/sokuho/img_tibf_report/tibf09_hagino.html

TIBF2009 松井進氏講演録

2009年7月11日
posted by 「マガジン航」編集部

― イントロ 鎌田純子(ボイジャー) ―

皆様の中には今日初めてバリアフリーの読書ということを考えた方もいらっしゃると思います。

「読書」とは何だろうか。大きくいえば自分の体験していないことを本から体験する、色々な人生を仮に体験して豊かにする、そういったことができることだと思います。またそれは目が見える、見えないとか、例えば足が悪いとか入院しているとか、ということではなくてできること、大事な、私達が生活する上での文化としての権利なんじゃないかと思います。

実は来年は国民読書年といわれています。これは皆が読書するんだということが公の場から発表されているものです。その中にバリアフリー、読書にとってもバリアをなくしていこうという動きがあります。

今日は、盲導犬と一緒に来ていただきました、バリアーフリー資料リソースセンターの副理事長でいらっしゃる松井進さんのほうから、「誰でも読書~電子本の読上げが拓く視覚障害者の読書~」というテーマで、具体的な読上げの方法なども含めてお話をいただきたいと思っております。では、よろしくお願いいたします。

みなさんこんにちは。松井進と申します。私の下にロミオという盲導犬が、寝転がっておりますが下におります。

今日は電子本を使った読書ということについて、お話をさせていただきたいと思います。目が悪い人と電子本はあまり関係がなさそうとイメージされるのではないかと思うのですが、そんな読書の話題を今日は約30分お話ししたいと思いますので、みなさんおつきあいをいただければと思います。

視覚障害者の文字=点字というふうに皆さん思われがちだと思いますが、実をいうと視覚障害者の中で点字を使っている人の割合というのはせいぜい一割、10パーセントから12パーセントといわれています。

では、他の視覚障害者はどのように本を読んでいるのか。いちばん多いのが、点字を使える人であっても使っている方法なのですが、録音の図書を聞いているパターン。また、大きな活字「大活字」を読んでいるパターン。あとは、実際に図書館で行っているサービスで、目の見えるボランティアさん、「音訳者」というふうに呼んでおりますけども、本を読んで下さる方と一緒に本を代読していただく「対面朗読サービス」。

そしてOCR。皆さんの中でOCRというと、データをテキスト化するための道具というふうにお考えられがちだと思いますが、視覚障害者にとってはテキスト化しただけではそのままでは使えないのでそれを合成音声で読上げてくれる装置まで発展しています。

視覚障害者で困ることは、こういう文字処理のことが大きいわけです。大きく分けて困ることが3つあるといわれています。

文字を読んだり、書いたり、歩いたり、「文字・書き・移動」というふうにいいますが、人間の外界からの情報の約80パーセントから90パーセントは目を通して得ているというふうにいわれており、視覚障害者は別名「情報障害者」ともいわれています。

その8割なり9割なりの情報、阻害されている情報をどのように得るかということが、今日のテーマにもなり、「読書」ということにもつながってまいります。情報障害を克服するために、例えば周囲の音、におい、そして触る、触覚ですね、体感、この8割の部分をいかに補うかということを考えているというわけです。

一番端的に使われているのが「聴覚」、耳で聞いて感じる感覚です。次に「におい」、「味覚」、これは見えても見えなくてもそれほど変わらないと思いますが。私みたいに食べるのが好きだとこのように太ってしまうということはあると思います。

「触覚」。点字なんかはまさに触覚で感じる文字です。触覚イコール手で触るだけという風に考えられがちですが、どちらかというと体感、体全体を使って、例えば足の裏で道の様子を感じたり、風の流れを感じたり、太陽の暖かさを感じたり、そういったことで体全体を使って。特に頬なんかは風の動き、太陽の暖かさ、そういった皮膚感覚というもので周囲の様子を感じたり、また額にも新たな、額に三つ目がとおるの写楽くんみたいに目があるわけじゃないんですが、バランス感覚とか気配とか様子とかそういった意味で感じる働きをするといわれています

続きはこちら:http://www.voyager.co.jp/sokuho/img_tibf_report/tibf09_matsui.html