講談社のノンフィクション誌『G2』がiPhone対応に

2009年12月21日
posted by 「マガジン航」編集部

昨年休刊した『月刊現代』の後継媒体として講談社が今年9月に創刊した『G2』は、「雑誌・単行本・ネットが三位一体となったノンフィクション新機軸メディア」をめざしている。これまでも記事の一部をウェブで無料公開してきたが、12月発売の『G2』2号ではiPhone向けに記事ごとの有料販売をはじめた。

『G2』の記事をiPhoneで読むためには、ボイジャーの電子書店『理想書店』への会員登録(無料)と同社のiPhone用アプリ、「理想BookViewer」(version 1.2.3以上)が必要だ。iPhoneのウェブブラウザで理想書店にログインし、読みたいコンテンツを購入・ダウンロードすると、「理想BookViewer」側でコンテンツを表示することが可能になる。

iPhone版として用意されているのは、西岡研介「ドキュメント吉本興業買収」、上杉隆「裏切りの総理官邸」、魚住昭「思考解剖・小沢一郎」など『G2』2号掲載の11本の記事。価格は記事1本ごとに230円で、購入した記事はiPhoneだけでなくPC側でも閲読できる。

『G2』記事コンテンツの一覧。無料のお試し版も。

iPhone側で見た『G2』コンテンツ一覧。無料のお試し版も。

講談社の雑誌では『G2』のほか、『クーリエ・ジャポン』もiPhoneで配信している。こちらはオリジナルのレイアウトを表示できる専用のiPhoneアプリとして配信されている。

講談社は同社のウェブポータルサイト「MouRa」を今年6月に完全リニューアルしたばかりで、電子出版の主戦場をウェブベースでの有料コンテンツ配信から、携帯電話やiPhoneでのコンテンツ提供にシフトしつつある。『クーリエ・ジャポン』に続き『G2』の参入で、その流れはさらに加速しそうだ。

グーグル「ブック検索」訴訟が投げかけたもの

2009年12月15日
posted by 仲俣暁生

今年の夏、東京国際ブックフェアのボイジャー社のブースで弁護士の村瀬拓男さんが行った、グーグル「ブック検索」集団訴訟についての講演映像がボイジャーのサイトで公開されました。村瀬さんは新潮社でCD-ROM版『新潮文庫の100冊』をはじめとする電子書籍を担当されていた、電子出版のエキスパートです。その後、弁護士に転身され、現在は法律家の立場から、著作権をはじめとする問題に積極的にかかわっています。

ブックフェアでの講演当時は、「ブック検索」集団訴訟の和解案が、日本を含む全世界を巻き込むことが明らかになり、出版界が騒然としていた時期でした。その後、11月13日に修正和解案が示され、日本国内で出版された本は集団訴訟の和解から除外される見通しになりました(日本書籍出版協会事務局による修正和解案の訳文 PDF)。しかし、集団訴訟和解からの除外はけっして問題の解決ではありません。たんに訴訟以前の状態への復帰にすぎず、法的和解の手段を失ったことで、むしろ事態をさらに複雑にしたといえます。

村瀬氏の講演では、米国での「ブック検索」集団訴訟の行方に関わらず、今後に日本の出版社が電子出版に取り組む場合に考えなければならない問題の要点が、簡潔にまとめられています。ことに、この講演でも村瀬氏が紹介している国立国会図書館の電子図書館構想は、グーグルの「ブック検索」と同様、重要な問題を提起しています。そういう意味でも、あらためてグーグルの「ブック検索」集団訴訟とはなんだったのかを考えてみることは重要です。

以下に村瀬氏の講演録の冒頭部分を転載します。全文と全映像はボイジャーのサイトでご覧ください。

東京国際ブックフェア2009 村瀬拓男氏 講演録

いくつもの新聞や雑誌などで「Google問題」「Google和解問題」という形で報道がされていたので、今日は業界関係の方々中心ですから、皆さんいろいろなところでいろいろなものを読んで、見ておられると思います。この問題で我々が一体何を考えなければいけないのかとか、一体この問題というのはどういうことなのかといったことを、なるべくわかりやすくお話ししていきたいと思います。

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フリーミアム実践の舞台裏を聞いた

2009年12月12日
posted by 高森郁哉

電子メディアと出版の未来に関心のある当マガジンの読者ならすでにご存じだとは思うが、『ロングテール』のベストセラーで知られる、米『Wired』誌の編集長クリス・アンダーソンの新著『フリー』の邦訳をNHK出版が先月下旬に刊行し、その事前キャンペーンとして、1万人限定・期間限定で全編をオンライン無料公開した。

無料閲覧用PDFには約43時間で1万人がアクセスした。

無料閲覧用PDFには約43時間で1万人がアクセスした。

本書のテーマである、商品やサービスの無料と有料を戦略的に組み合わせるビジネスモデル「フリーミアム」を自ら実践した格好で、どちらかと言えば保守的な印象のあるNHK出版が業界初の試みを仕掛けた意外性もあった(もっとも、米国での原書の販売に際しても近い形で無料公開を実施していて、それを基に日本独自の工夫を加えたものではあるが)。

上のリンク先にもあるように、開始から約43時間で登録者数が1万人に到達し、無料のキャンペーン自体は成功裏に終わったが、さて肝心の「(プレ)ミアム」、つまり書籍販売の状況は果たしてどうなのか。NHK出版・学芸図書編集部の松島倫明氏に、キャンペーンの舞台裏や、発売前後のオーダー状況などについてメールで聞いた。

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BookServer訪問記

2009年12月9日
posted by 萩野正昭

ボブ・スタインから連絡が入り、急遽 “BookServer” プロジェクトの中心メンバー、ピーター・ブラントリー(Peter Brantley)と面談する機会ができた。さっそく渡米し、サンフランシスコの金門橋の近く、最近ニューチャイナタウンと呼ばれるようになった一角にある、インターネット・アーカイブを訪ねた。

インターネット・アーカイブのロゴは神殿をイメージ。

インターネット・アーカイブのロゴは神殿をイメージ。

彼らの本拠は、元教会だという大きな白亜の建物だった。もとから神殿風建物をデザインしたロゴをトレードマークとして使っていたのだが、偶然なのか意図したのか、まさに太い円柱を備えた建造物が彼らにもたらされていた。その週のはじめに引っ越したばかりだといい、すべてがまだ雑然とした状況だった。

教会建築の地下が彼らの工房。書籍のスキャンはこのフロアの隣で行われている。

教会建築の地下が彼らの工房。ここで書籍のスキャンが行われている。

出てきたのはピーター・ブラントリーではなく、ブルースター・ケール(Brewster Kahle)だった。「親方」自身の登場で少々ビックリした。「新しい仕事場でのはじめての取材だよ、まだ何も準備できていない」と、大きく腕を振ってとっちらかった周りの状況を示しながら、彼は歩きはじめた。そして私たちを二階にあるボードルームへ導いた。インタビューはそこで行なわれた。しばらくして ピーター・ブラントリーも到着、交通渋滞で時間がかかってしまったとのことだった。

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電子書籍に高まる出版社の期待

2009年12月7日
posted by 仲俣暁生

12月2日に東京電機大学で開催された、「版元ドットコム入門・電子書籍の状況から作り方売り方まで」に参加してきました。版元ドットコムは、出版社が共同で書誌データベースを構築し、ネット上での本の販売を行うなど流通改善を目的とする団体で、この記事を書いている現在で156社が加盟しています。

この版元ドットコムが主催した今回の勉強会は、電子書籍ビジネスの現報告状をはじめ、その具体的な作り方や手順の講習、さらには国立国会図書館の進める「電子図書館」構想やアメリカで一足先に進んでいる本の「クラウド化」の構想など盛りだくさんの内容で、200人を超える参加者がありました。

扶桑社の梶原氏(中央)

扶桑社の梶原氏(中央)、漆山氏(左)。

当日の登壇者と演題は下記のとおり(敬称略)。

「電子書籍の制作と販売の実際」 梶原治樹(扶桑社 デジタル事業推進チームマネージャー)、漆山保志(同 電子書籍担当)、「PC/iPhone/携帯での配信実例」 鎌田純子(株式会社ボイジャー取締役 制作企画担当)、「.bookをinDesignから作ってみた(デモ)」 山田信也(ポット出版 デザイナー)、「国立国会図書館のすすめる資料の電子化の構想と現状」 田中久徳(国立国会図書館)

勉強会の詳細な内容については、同時中継されていたツイッターのログを参照していただくとして、ここではおもに私の感想を書くことにします。

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