小さな本屋を応援するBOOKSHOP LOVERという活動をしている。詳しくは以前に本誌に寄稿した以下の記事を読んでもらいたい。
上記記事でぼくは“「本屋を開業したい人が増えている」という実感”と書いた。実際、「小さな本屋のつくり方」「本屋入門」というイベントを開催し、そこでのお客さんの反応を見ていると自分を含め思いのほか本屋をやりたい人が多いのだと感じる。
ぼくにとってそれはとても嬉しいことだが、その一方で、閉店した本屋も数多くある。茨城県つくば市の名物書店・友朋堂書店の閉店は記憶に新しい。出版市場全体は縮小を続けていることは確かであり、ビジネスとして考えるなら、これから「本屋」をやる魅力は少ないはずだ。
では、なぜ本屋になりたいと言う人が増えている(ように見える)のか。
もしかしたらこれから小さい本屋は増えていくのかもしれない。中には人気になる本屋も出てくるだろう。だが、ぼくは本屋は続けることにこそ意義があると思っている。
「マガジン航」に掲載された「北海道のシャッター通りに本屋をつくる」にこう書いてあった。
書店がなく、公共図書館もない地域は、たいてい学校図書館の整備もままならない。そういう自治体が3分の1を超えようとしている。そんな地元を離れ、札幌や首都圏で「本に潤う暮らし」を経験した若者が、砂漠に戻って来るだろうか。
この記事の中で荒井宏明氏は「本に潤う暮らし」を北海道の都市でない各地で実現したいと考えているが、暮らしを提案するためには2年や3年ではいけないだろう。絵本を読んでもらっていた子どもが大人になるまで。つまり、最低でも10年、いや20年は続けなければいけないはずだ。
そうは言っても10年後、20年後のことなんて誰も分からないではないか。そのとおりである。だが、何をやるにしてもはじめが肝心だ。「どうして本屋をはじめたいのか」。これから本屋をはじめるのであれば、彼ら彼女らの考えを聞いてみたい。
そうすることで、彼ら彼女らの開く本屋が10年後、20年後も残っているのか。本の世界が10年後、20年後にどうなっているのか。きっと何かしらの答えのようなものが見つかるはずだ。
学生によるブックユニット「劃桜堂」
2015年12月19日に東京・中延でブックイベント「〜街に染み出す本たち〜 Books seep into the town」が行われた。このイベントの主催者は、渋谷のフリースペース「くるくる Global Hub」の一部を間借りしてBOOK Cafe劃桜堂(入場料制。500円でワンドリンク。本を持っていくと店内の本と自由に交換できる)を運営している、大野真司さんと春日康秀さんのお二人だ。
以下はその際に伺った話と、私が主催するイベント「小さな本屋のつくり方」にお二人にご登壇いただいたときの話にくわえ、メールで補足インタビューを行いまとめたものである(以下、敬称略)。
――まず、劃桜堂の活動について教えてください。
大野 現在、「くるくる Global Hub」さんにて『お茶で癒しを、本で元気を』というコンセプトでBOOK Cafeをやっています( 2016年4月時点の営業時間は月・水~日の朝7時〜朝10時。定休日は火曜日)。
今後はたくさんの人に素敵な本と出合うきっかけ作りをしつつ、その人に合った本をおすすめする活動も行っていきたいです。たとえば、大切な方に本を贈るお手伝いもさせて頂いています。大野、春日と直接(もしくはSkypeにて)三者面談をして、本を贈りたい相手にどんな気持ちを伝えたいのかを聞いて選書させていただく、「~思ひ出選書~」というサービスもはじめています。
――なぜ劃桜堂という活動を始めたんですか?
大野 大学時代に悩んでもやもやしている自分たちを変える第一歩になればと思い劃桜堂を始めました。受験期や留学中に何度も本に救われたので、本を通じて元気になってもらえればと思います。
――始めようと思ったキッカケは……?
大野 とくにありませんが、しいて言うなら留学から帰ってきたことでしょうか。台湾に留学中、本に飢えて、自分は本が好きなんだって自覚しました。帰国してから、この思いを何か形にできないかと劃桜堂をはじめました。
――なぜ一人でなく二人で活動しようと思ったのでしょうか?
大野 なんとなく、始めるなら二人か三人がいいなと思ってました。一人だと自分に言い訳してしまいますが、二人で決めたことだと約束を反故にするわけにはいきません。ゆるく活動しながらもきちんとするところはきちんとしようと思い仲間を募集しました。
――数ある職業の中から「本屋」を選んだわけは?
大野 私たちの世代は「活字離れ」が進んでいるとか本をあまり読まないとよく言われていて、せっかく面白い本がたくさんあるのにもったいと思っていました。本をつくることももちろん大事ですが、本と触れ合う機会がないとそもそも本を好きにならないと思い「本屋」を選びました。
――本屋と言っても多くのやり方がありますが、劃桜堂さんはフリースペースの一部を間借りしてブックカフェ(本はレンタル)を運営したり、クラブイベントや街の一角で一日だけ古本屋を開いたり。なぜこのようなやり方を選んだのでしょうか?
大野 費用や手間など現実と理想を比べて、いまやれることを選択していった結果、カフェ運営や出張古本市を行ういまの形態になりました。
――カフェ運営についてお聞きします。「リアルな場所を持つ本屋」になろうとすると、ぶつかるのが場所の壁です。いくら蔵書や知識があっても販売する場所・人が集まることができる場所を用意できなければ実現できません。
その点、劃桜堂は学生が運営する“本屋”でありながら、リアルな場を(朝の時間という条件付きですが)持っています。なぜそんなことができるようになったんですか?
大野 大学の先輩がthisisgalleryという会社を起業していて、thisisgalleryとくるくるのコラボイベントで展示会をするとFacebookの投稿であったため、展示を観にくるくるまで行きました。
会場にいた方と、自分もいずれは店舗を構えてたくさんの人に来てもらえるような本屋を開きたいということを話していると、その方がくるくるを運営している会社のアドバイザーだったため朝の時間でカフェやってみる? とお誘いをいただき、現在の形になっています。
――ご縁があって、場所を借りることができたということですね。では、出張古本市についてもお聞きします。BOOKSHOP LOVERでも宣伝した「〜街に染み出す本〜 Books seep into the town」。日々の研究で忙しい中、このイベントをすることになった経緯を教えてください。
大野 友人の小林空からこんなことしてみない? と言われたのが発端でした。どの街にも、使われていない、もしくは気付いていないけども、使い方次第で魅力的になる場所はあり、そういった場所を本のチカラでひらくことができるのではないか。普段、通勤通学で街や都市を移動し続ける中にあって、ふと立ち止まってくつろいだり、どこかに腰掛けたりできるようなふるまいを許してくれる場はそう多くありません。
そこで、一箱古本市をはじめとした街中で行われるブックイベントを参考に、そのような寛容のある場を生み出してみようと「劃桜堂」の二人と小林空で「街に染み出す本たち」と銘打って開催することにしました。
――このイベントは本が街に溶け込んでいて、それでいてお祭り感がある楽しい出店だと感じました。手前にはオセロ盤や将棋盤で対戦もできたりして、街中が遊び場になるような仕掛けも楽しかったですね。大野さんはダンスをされているそうですが、ご自身のダンスイベントでも本を販売されたとか?
大野 普段は本と接する機会のないような人にこそ本に触れて欲しいと考え、読みやすい本を持って行っています。結構売れるんですよ。
――ダンスイベントで本が売れるなんて素敵ですね! さて、「本と人が出会うきっかけづくり」のためにブックカフェ運営や出張古本市と精力的に活動をしている劃桜堂さんですが、こういった活動をしていると「趣味なんじゃないの?」など言われることも多いと思います。正直な話、売上や利益についてどうお考えでしょうか?
大野 売上や利益についてはもちろん意識しています。というのも、現在のBOOK Cafe劃桜堂は間借りで本も販売していません。劃桜堂の目標は自分で実店舗を持つことですから。大野は留学中にお世話になった台湾への店舗出店。春日は地元の山形に漫画を読みながら寝落ちできるような「古民家カフェ」をつくることが目標です。
利益を出してお店を回していくことは、いざ二人が実店舗を持った時のための準備の一つだと考えています。とくに最近始めた新企画「“気持ち”をプレゼントする 〜思ひ出選書〜」は、うまく行けば値段がある程度決まってしまっている古本業界で利益を出していくための新しい道かと思っています。
――「“気持ち”をプレゼントする 〜思ひ出選書〜」はプレゼント用の箱をオリジナルで作ったというところが魅力ですね。選書サービスを行っている店舗や個人は多くいますが、本をプレゼントするときにちょうど良いような箱というのは実はありません。単行本1冊と文庫2冊を入れるのにちょうど良いサイズのこの箱があたらしいですね。出版業界が厳しいということはご存知だと思いますが、そんな中で、なぜ「リアルな場所で本を売る」ことを選んだのでしょうか?
大野 先ほどの答えと重なりますが、本をそんなに読まない人にも本と出会う場所を提供したいと思ったからです。今後もネット書店が増えていくと本好きな人はネットでどんどん買うようになるかもしれませんが、その一方で本を読まない人は本と出会う機会が失われてしまいます。
読みたい本があるから本屋さんに行くのではなく、なんだかよくわからないけど楽しそうなことをしてる場所があって、なんとなく立ち寄ったら素敵な本と出会えた、というロマンチックな出会いをつくっていきたいです。
――「本との出会いのための場所」ですね。最後に、ずっと気になっていたのですがこの劃桜堂というお名前はどんな意味なのでしょう?
大野 二人で名前を付けるにあたって◯◯堂にしたいね、と話し合い、互いに好きな文字を1つずつ出したところ、大野は敬愛する作家の伊藤計劃さんから「劃」、劃桜堂という名前に春日は大好きな「桜」を選び、劃桜堂という名前になりました。「心に桜を劃(えが)くようなお店になりたい」という思いが込められています。
――素敵な思いが込められていたんですね。本日はありがとうございました。
本と触れ合う機会をつくる
劃桜堂の二人がやりたいことは「本との出会いのための場所」をつくることだ。彼らはこの場所にリアルな場所が適していると考えているし、必要であれば普段は本がないような場所にも本を出現させることも厭わない。とくにクラブイベントで本を販売することは斬新だ。
しかし、インターネットでの活動にあまり積極的でないことが気になった。
BOOKSHOP LOVERの活動上、ネット上での本屋に関わる情報を意識的に集めているのだが、彼らのことは「〜街に染み出す本〜 Books seep into the town」の宣伝依頼をいただくまで知らなかった。もし依頼が来なければぼくが劃桜堂のことを知ることができたかどうかは怪しい。
2016年2月26日に公開された「芳林堂も破産、書店閉店が止まらない日本–書店復活の米国との違いとは?」(CNET Japan 林智彦の「電子書籍ビジネスの真相」)という記事の中に、
今の消費行動は、若者を中心に「ネット」にどんどん起点がシフトしてきています。地元に素敵な書店があっても、「ネット」に足がかり(プレゼンス)がないと、消費者に知られず、お客もどんどん減ってしまいます。電子書籍は消費行動のベースがネットに移ってきていることの1つの「表れ」にしかすぎず、コンテンツがなんであろうと、人々はネットで知り、ネットで調べ、その上で購入するようになってきているのです。このサイクルに加わるには、リアル書店も日本のO2Oとは逆の意味のO2Oに取り組み、「ネットフレンドリー」になるしかありません。
という一文がある。
彼らがいざ台湾や山形で開業したときにインターネット上での活動をどう考え、どう実施するのか。心配である。
いやもしかしたら劃桜堂だけではないかもしれない。ネット上での活動が苦手な本屋が、本当はとても素敵な空間であったり活動をしているのにもかかわらずネット上で見つけられずに閉店してしまうかもしれない。
これは杞憂だろうか。次はインターネット上でのプレゼンスが大きい本屋に話を聞いてみたくなった。
劃桜堂の店舗詳細
営業時間(2016年4月時点):月・水~日 朝7時-朝10時(定休日:火)
料金:入場料500円 (1ドリンク付き)
住所:東京都渋谷1-13-5 大協渋谷ビル1F
FBページ:https://www.facebook.com/kakuodo
執筆者紹介
- 「本屋をもっと楽しむポータルサイト BOOKSHOP LOVER」を中心に、ウェブサイト運営やライティング、イベント開催など小さな本屋を応援するための幅広い活動を行うフリーランス。手掛けたイベントは「小さな本屋のつくり方」、「本屋入門」など。
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