活発なオンラインコミュニティの作り方

2015年5月15日
posted by サラ・ウェンデル

SarahWendell

「オンライン読者コミュニティ運営の秘訣を教えてください」

たくさんの人たちからよく聞かれる質問です。「スマート・ビッチズ・トラッシー・ブックス(SBTB)」は世界中あらゆる地域の150カ国から読者が集まる、ロマンス小説ファン向けのオンライン読者コミュニティです。コミュニティの活動は活発で、コメントや議論の応酬が何日も続くことも珍しくありません。ここに集う人々の態度は、率直かつ誠実で心がこもった会話にあらわれています。SBTBはどのページも引き込まれるような知的な会話にあふれており、そのことは私の誇りです。

私が友達と一緒にSBTBを始めたのは2005年でした。コミュニティをどうやって構築したらいいのかを教えてくれるマニュアルや道標はいっさいなく、手探りで初めたウェブサイトですが、2015年1月で10周年を迎えます。

少なからぬ人が、私にこう訊ねます。

「10年の間、ロマンス小説について毎日こんなに生き生きとした、愛情のこもった議論がつづくサイトをどうやって作り出すことができたのですか?」

読者コミュニティの始め方や、10年間にわたり、毎月ファンを引きつけてやまないウェブサイトを運営しつづけてきたノウハウを手とり足とり説明できるわけではありません。自分の直感にしたがってやってきたなかで私が理解したことを、記憶を整理しながら説明してみることにしましょう。

ロマンス小説ファン向けのオンライン読者コミュニティ

SBTB top

SBTBを始めた頃、このブログがロマンス小説の出版ビジネスで重要な位置を占めることになるとは思ってもみませんでした。それどころか、自分たちがどこに向かっているのかも、よくわからなかったのです。

私が最初にしたのは——これはいまでも続けていますが——ロマンス小説ファン同士の架け橋になることです。初めの頃の目標は本について正直に話すことでした。つぎに、「同じ本を好きなまだ見ぬ仲間たちを見つける」という目標になりました。

10年後のいま、私は明確な目標を持っています。それはミッション・ステートメントのようなものですが、これまでやってきたことを振り返って、はじめて気づいたことです。現在のSBTBは、ロマンス小説ファン同士を結びつけるだけでなく、「ロマンス小説本と、その読者との間の架け橋になる」という目標をもっています。はっきりとしたかたちを取るようになったのは最近ですが、ずっと以前からそれが私のモチベーションの源でした。

インターネット上になんらかの場所を作ることは、比較的簡単になりました。誰もがどんな話題のブログでも1分もかからずに作ることができます。でもコミュニティを立ち上げるためには、それ以外に「鍵」が必要です。その「鍵」とは、何かが欠落している場所、そこにいる人たちが求めている注意や情報がまだ届けられていない場所を見つけることです。

私が子供の頃には、インターネットは存在していませんでした(私はもうすこしで40歳になります)が、コンピュータという機械の話を聞いてワクワクしたことを覚えています。コンピュータが電子的なネットワークでつながるずっと以前の話です。何かを調べようと思ったら、当時は図書館に行き、目録カードをめくり、書庫の列から本を探し、答えが書いてなかったら同じことを繰り返さなければなりません。調べ物によってはすごく時間のかかる作業でした。

でもいまの子供たちは、世界中のあらゆることを数秒で調べられる世界で育っています。好奇心を満たすためには家を出るどころか、ズボンさえ履く必要もありません(母親としては風邪をひかないよう、ズボンを履いてもらいたいですが)。

こんなに便利な時代に生きているいまの若い人たちは、人と出会ったり、求める情報を手に入れることができなかった時代を経験していません。そのせいで、自分にとって何かが欠けていること、その穴を埋めてくれるような、ある話題に特化した関心をもつ人々を歓迎するコミュニティが作れることに、なかなか気づきません。

ひとたびそのようなコミュニティが不在であることに気づいたなら、次のステップは、機会をとらえて人々を結びつけることです。SBTBは「ロマンス小説ファンが切望していたコミュニティ」だという評価を受けています。SBTBはロマンス小説ファンが集い、本について話し合う場です。ロマンス小説ファンだからといって、からかわれることもありません。

私たちロマンス小説ファンは、そのジャンルが好きだというだけで、書店員や学校の先生、赤の他人からでさえ、笑われたり失礼な態度をとられてきました。自分の好きな本について話す相手を現実生活のなかで見つけることができない読者たちに、同じものを愛し、同じものを読み、それについてあらゆることを議論できる場を提供しているのがSBTBです。SBTBなどのロマンス小説ブログやコミュニティは、現実の世界で孤立しているロマンス小説ファンたちにとって、憩いの場なのです。

コミュニティ構築の4つの鍵

コミュニティのテーマと、そのコミュニティを作るオンライン上の場所が決まったら、次のステップは宣伝です。既存のコミュニティを訪れたり、同じジャンルのブログにコメントを書き込んだり、関連する他のコミュニティを見つけたりすることは、そのような場所を探し求めているファンたちに、新しいコミュニティの存在を知ってもらう良い方法です。

でも大切なのは、そうやって獲得したファンに何度も繰り返し戻ってきてもらうこと。それこそがコミュニティ構築の「鍵」です。私の考えでは、定期的に人々が訪れてくれる、居心地のいいコミュニティを作りたいなら、4つのことを頭に入れて日々の記事を書くといいと思います。それは、

・一貫性(Consistency)
・寛容(Generosity)
・誠実(Authenticity)
・好奇心(Curiosity)

です。

一貫性(Consistency)

まずはじめは「一貫性」です。私の言いたいのは、記事を定期的に更新するということではなくて、コミュニティとしての「一貫性」です。掲載されるコンテンツを、コミュニティの基盤となっている話題に限定することで、そのような「一貫性」が生まれるのです。

SBTBの場合、ロマンス小説のファンと作家が集まるコミュニティなので、実にさまざまな話題があります。ロマンス小説特有の言い回しをはじめ、フェミニズム、セクシャリティ、女性の健康問題、心理学、人付き合い、ジャンルに関する議論、理想の男性像、表紙のイラストに登場する胸筋が発達した男性モデル、などなどです。

コミュニティのなかではジョークや少しひねくれたユーモアも通じるようにしたいので、ちょっとヘンなビデオの投稿や、表紙に登場する女性モデルの悪趣味なヘアスタイルの批評は歓迎されます。スケジュールに沿ったコンテンツの更新も重要ですが、コミュニティの基盤となっている話題にコンテンツを限定することが大切なのです。

寛容(Generosity)

これも「一貫性」と関連しています。SBTBのほとんどのブログ記事は無料で読めます。まだ読んでもいないブログ記事に金をよろこんで払おうとするネットユーザーなんて会ったことがありません。面白くて読む価値のあるコンテンツ制作には、莫大な時間と労力が必要ですが、そうやって苦労して制作したコンテンツを無料で読めるようにするのは、寛容さのあらわれなのです。

コミュニティにおいては、コンテンツだけが寛容さのあらわれではありません。SBTBを訪れ、コメントを書き込むファンに、何を求めているのかを尋ねることも寛容さのあらわれです。そこでSBTBでは、読者とのコミュニケーションのためのコーナーがいくつかあります。

毎週火曜日に更新する「Help a Bitch Out 」 (HaBO) はその一つです。小説のあらすじや設定は覚えていても題名を忘れてしまったとき、HaBOに題名のわからない小説のあらすじや設定を掲載すると心当たりのあるメンバーが返答してくれる、本の探偵サービスです。たいていの場合、題名は数時間以内に判明します。

habo

「HaBO」はファン同士がタイトルを忘れた本を探してくれるコーナー。

このサービスが人気なのは、サイトの読者が本の題名を探してくれるコミュニティ活動だからだけでなく、自分たちも他の読者のために役立てる、相互の助け合いの場だからです。あらすじは覚えているのに、本のタイトルが思い出せないというのは誰でもあること。忘れてしまった本を一緒に探してくれる読書仲間の存在は、得がたく心強い存在と感じられるはずです。

毎日発信しているロマンス小説の発売情報も、「寛容」なウェブサイト運営の一環です。評判のいい、あるいは熱烈に愛好されている作品が電子書籍または印刷版で刊行されたときは、その販売価格の情報をまとめて、ツイッターで毎日3〜4回投稿します。また、作品ごとにも1日に3回投稿しています。安売り期間が続いている間に、面白い本をなんとか手に入れてほしいからです。

ロマンス小説とそれを愛する人、そして読者同士を結びつけようというこのコミュニティの目的のかげには、私自身の個人的なもう一つの目的があります。それは本の衝動買い仲間を増やすことです。もちろんこれは冗談ですが、自分ひとりだけでロマンス小説のまとめ買いをするのは寂しいですから。

SBTBの読者サービスは他にもあります。いちばん人気があるのは初心者向けの推薦書を選ぶスレッドです。ノラ・ロバーツやリサ・クレイパスなど既刊書が豊富な作家を選び、彼女たちの作品の中から初心者向けの本をコミュニティと一緒に選びます。その結果がSBTBの人気コラム「クラシック・ロマンス:最初に読む本」です。

classic romance

ロマンス小説の名作を紹介するコーナー。

ロマンス小説についてよく知らない初心者でも本を見つけやすいように、不思議な力を持つヒロインと、それを持たないヒーローが登場するファンタジーロマンスや、特定の場所が舞台になるサスペンスロマンスなど、コラムはそれぞれのサブジャンルにまとめてあります。

コミュニティがもっとも推薦する作品を選ぶ過程で行われる会話は、ファンの間での議論を活性化するだけでなく、より実質的な役割を果たしてくれます。人気作家やサブジャンルごとの代表作がリストアップされていれば、将来の読者が自分の読むべき本をみつけることができるのです。

誠実(Authenticity)

「誠実」が目標だなんて当たり前だと思うかもしれませんが、これはコミュニティの形成にはとても重要な側面です。個人が意見を表明することが期待され、それが尊重されるコミュニティをつくろうとするなら、なおのことです。

SBTBに定期的に掲載されるロマンス小説の書評は、とても率直な——ときには率直すぎるほどの——ものです。私たちが感じたことを正直に書くからです。個人の好みの差が書評に反映されることもありますが、それは正直な感想だからです。

書評に対して原稿料を支払うことはありませんし、出版社や作家からの依頼で書評を書くこともしません。書評は私たち読者の正直な感想で、ときには長過ぎると感じることもありますが、読者が本を読んでいるときに感じたことや考えたことが率直に書かれています。できるかぎり誠実に、オープンなかたちで意見を分かち合いたいのです。

意見を分かち合うことだけが誠実さのあらわれではありません。書評やコメントなどの文章からは、書いた人の熱意や情熱が——それが誠実な気持ちである場合はとくに——顕著に読みとれます。ロマンス小説を愛する情熱や、ファン仲間と出会いたいという願望は、決してウソでも演技でもありません。自分が書く記事の対象に、私は真の愛情を抱いています。コミュニティの基盤になるトピックに誠実に向き合い、楽しむことができることは、コミュニティ運営者にとってきわめて重要です。

ファン同士の出会いは、次のようなシンプルな質問から始まることがよくあります。

「私はこの本が好き。あなたはどう?」

答えがイエスであれば「本当!あとでちょっとおしゃべりしませんか?」ということになるわけです。

たとえそれが10人のコミュニティであれ、1万人のコミュニティであれ、誠実な情熱と熱意から生まれたコミュニティの誠実さは、同じような情熱と熱意をもつ新たなファンの心を惹きつけると思います。

好奇心(Curiosity)

最後は「好奇心」です。書評やコメントの文章を書くだけでは、コミュニティは成長しません。ウェブサイトを繰り返し訪れる忠誠度の高いファンを獲得するには、その声に直接耳を傾けるのがいちばんです。サイトの話題にかんする読者の実体験や意見、考えなどを話し合うことはコミュニティの雰囲気を明るくし、議論を活性化し、そして新たなファンをコミュニティに惹きつける求心力の源になります。

さきほどの例で言えば、「私はこの本が好き」という話題のシンプルな共有から始まった結びつきは、それに続けて「あなたもこれが好き?」と尋ねること、つまり好奇心によってより強まります。新たなメンバーを歓迎し、好奇心に満ちたコミュニティができれば、そのコミュニティは長続きします。

サイトを訪れてくれる読者がサイトに魅力を感じているかどうかを測るもっとも効果的な方法は、どのコンテンツがいちばん好きで、どんな要望があるかを尋ねることです。私たちは個別のテーマごとに複数の問い合わせフォームをつくったり、大半の記事の下に読者へのアンケート項目を置いたり、読者の意見や視点に応えるため実際にお招きするなど、いくつもの方法でそれを行っています。

私はSBTBで毎日話をしている女性たちの考えに、たいへん好奇心をもっています。私の書くものに意見を言ったり、コメントをつけてくれる彼女たちにしても同じ思いでしょう。

コントロールを手放す

お話ししたいことはもう一つあります。これがいちばん難しいことかもしれません。コミュニティがある程度まで成長したら、いったん固く引き締めたコントロールを緩める準備をする必要があります。このことは私が『マニフェスト 本の未来』に寄稿した「コントロールできない会話」(原文はこちら)のテーマでもありました。

manifest

運営者がコミュニティを、すべての面で完全にコントロールすることは無理です。そこで起こるすべての会話の主導権を握ったり、方向性を定めることも期待できません。あるコミュニティにファンを惹きつけるということは、究極的には、その場所を自分たちのコミュニティだと感じてもらうことだからです。

SBTBのことをいつでも戻ることのできる、インターネット上の自分の家だと思っている人たちから、私信として、たくさんの感謝メールをもらいました。そうしたメールには必ず、「ようやく私は会うべき人たちと出会うことができた!」といったことが書かれていました。

コミュニティの発展に貢献した人が、それを自分のコミュニティだと思いはじめることも、何か不満があれば文句を言うのも自然なことです。それだけでなく、何か困ったことがあれば、コミュニティの他のメンバーがすぐに助けてくれます。なぜなら彼女たちから見れば、あなたはすでに自分たちによくしてくれている味方だからです。

SBTBが成功し、いまだに成長を続けている理由は、コミュニティ内でロマンス小説について文章を書いたり意見を表明している私や読者たちが、ロマンス小説やその読者である女性たちに対し、一貫して誠実かつ好奇心にあふれた態度で接し、仲間同士を結びつけてきたからです。

いまのところ、私たちのコミュニティにはまだ余裕があります。新しい仲間の参加をお待ちしています。

(翻訳:編集部)

執筆者紹介

サラ・ウェンデル
(Sarah Wendell)
ロマンス小説のファンが集うオンライン・コミュニティ「スマート・ビッチズ・トラッシー・ブックス(SBTB)」の共同創設者。『マニフェスト 本の未来』(オライリー刊、日本版はボイジャーより)に「コントロールできない会話」を寄稿(原文)。著書に「Everything I Know About Love, I Learned from Romance Novels」、共著に「Beyond Heaving Bosoms: The Smart Bitches’ Guide to Romance Novels」がある。

インタビュー動画はこちら