台湾がOPDSでやろうとしていること

2012年9月18日
posted by 安藤一博

台湾の経済部工業局が進める智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進プロジェクト)は、ICT技術の活用による市民の知的生活レベルの向上を目的とした、2010年7月から2013年12月までのプロジェクトである。台湾の行政府である行政院が推し進める電子出版産業発展5カ年計画(2009〜2013)(*1)下で経済部工業局が担当する子計画も、このプロジェクトの中で実行されているようだ。

*1 數位出版產業發展策略與行動計畫(電子出版産業発展策略及び行動計画)のこと。この計画については以下のエントリを参照のこと。
台湾の「數位出版產業發展策略與行動計畫(電子出版産業発展策略及び行動計画)」(2010年9月18日)


智慧生活應用推動計畫のサイトでは電子書籍などの取り組みが動画で紹介されている。

台湾はプラットフォームの枠を超えた電子書籍の流通を促すため、特定の企業の技術や特許に縛られないオープンスタンダードの導入を積極的に進めている。今から約3年前というかなり早い段階で、EPUBを台湾の電子書籍の標準フォーマットとすることで政府と業界内の意見を統一し、EPUB 2では台湾の要件は満たせないからと、EPUB 3 の仕様策定段階から検討メンバーとして参加して可能な限り台湾の要件を組み込もうとするその姿勢が、オープンスタンダードに対する台湾の積極さを顕著に現していると言ってよいだろう。

台湾はさらにInternet ArchiveBookServerプロジェクトの基幹技術である、オープンなメタデータ配信規格OPDS(Open Publication Distribution System)の導入を進めている。台湾には米国におけるAmazon、Googleのような巨大な電子書籍プラットフォームがいまだ存在しておらず、小さなプラットフォームが乱立している状態である。台湾政府は電子書籍市場を拡大するために、プラットフォームの統廃合を進めて2、3の巨大な電子書籍プラットフォームを台湾市場に登場させるとともに、これらのプラットフォームの相互運用性を向上させて、プラットフォームの枠を超えてコンテンツを流通させる必要があると認識しており、その相互運用性を向上させる基幹技術としてOPDSを活用しようとしているらしい。

今回は、台湾がどのような形でプラットフォームの相互運用性を向上させようとしているのかについて、OPDSを中心に以下のようにまとめてみた。なお、主に智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進プロジェクト)の過去2年分の活動報告(以下)をベースしている。

智慧生活應用推動計畫(經濟部工業局專案計畫執行成果報告)
2010年度版報告(活動報告期間:2010年7月30日から2011年6月30日まで)
2011年度版報告(活動報告期間:2011年7月1日から2011年12月31日まで)

1. 相互運用性仕様書と権利記述言語ガイドラインの策定

すでに完了している事項であるが、プラットフォーム間の相互運用性を向上させるために、業界内の意見が集約された後に以下の仕様とガイドラインが作成され、2011年3月に電子閱讀產業推動聯盟(電子閲覧産業推進聯盟)のウェブサイト上で公開された。

(1)版權描述語言參考規範(著作権記述言語参考規範)
デジタル著作権管理(DRM)技術を構成する技術のうち、ポリシーを記述する権利記述言語について書かれたガイドラインである。ODRL (Open Digital Rights Language) を中心にまとめられている。

(2)電子書平台與電子書閱讀器之傳輸協定互通標準_v1.0(電子書籍プラットフォームと電子書籍端末の伝送協定相互運用仕様 ver.1.0)
プラットフォーム間の相互運用性を向上させるために策定された仕様で、OPDSによる電子書籍のメタデータの公開・交換、OpenSearchによるメタデータの統合検索、OpenIDによるプラットフォームを跨ぐ認証が掲載されている。なお、業界内で完全に意見を統一することは困難であるため、仕様の強制度はOPDSがMUST(必須)、OpenSearchがSHOULD(推奨)、OpenIDがMAY(可能)となっている(*2)。

*2 この仕様については以下のエントリで紹介したことがある。
台湾で電子書籍の流通の標準化を狙った仕様「電子書平台與電子書閱讀器之傳輸協定互通標準ver.1.0」が公開された(2011年4月2日)

2. プラットフォームの枠を超えた電子書籍のメタデータへのリーチの担保

電子書籍プラットフォームが発行するOPDSカタログのアドレスを登録する場所を提供して、プラットフォームを跨ぐ電子書籍のメタデータ統合検索システムを構築する。ウェブサイト上から検索できるだけではなく、OpenSearchによって電子書籍ビューワアプリなどからの電子書籍を統合検索できるようにする。そして、そのまま検索結果に対応する電子書籍プラットフォームに誘導して、該当するコンテンツを購入したり、借りたりできるようにする。

以下はそのイメージ図だが、商用の電子書籍プラットフォームだけではなく、図書館、教育用のクラウド書庫なども統合検索のサービスの対象に想定されている。商用のプラットフォームだけではなく、業種の枠を超えた電子書籍のメタデータ検索サービスをシステム構築しようとしているようだ。

図1 B2Cメタデータプラットフォームのイメージ図 (2011年度版報告p37)

また、RSSではすでにおなじみの技術であるが、OPDSカタログについて、Ping Server(公開や更新を通知するPing送信を受けつけるサーバー)やauto-discovery(自動検出)の導入が検討されている。

3.B2Bの電子書籍のメタデータとコンテンツの交換

出版社や「原創作家」と呼ばれる出版社を介ぜず作品を発表する作家が、メタデータやコンテンツを電子書籍プラットフォームに対して配布・交換を行うB2Bの電子書籍のメタデータプラットフォームを構築しようとしている。このプラットフォームとして電子書籍プロジェクト「百年千書」が利用される。「百年千書」は過去150年の間に中国・台湾で出版された書籍を電子書籍として公開するプロジェクトであるが、このプロジェクトで蓄積されたノウハウとシステムがメタデータプラットフォームとして活用されることになるようだ。交換用の標準メタデータフォーマットにはONIX 3.0が採用されることになっている。

しかし、ONIXは書誌情報を記述するためのメタデータフォーマットであり、書誌をリスト化することに向いていないため、OPDSがその部分を補う形で活用されることになる。OPDSカタログ上では簡易なメタデータとONIX形式のメタデータファイルのURLを記述し、OPDS経由でネットワークからONIX形式のメタデータファイルとコンテンツファイルであるEPUBを取得させる流れになるようだ。

図2 B2Bメタデータプラットフォームのイメージ図 (2011年度版報告p69)

4.都市を跨ぐK12向け教育用電子書籍の流通の促進

台北市や高雄市などの都市がK12を対象とした教育用クラウド書庫・書架の構築計画を進めている。台北市の事業を請け負った浩鑫のように、すでに教育向けクラウドサービスを開始しているところも存在する。さらに知的生活応用推進計画では各都市の教育用クラウドサービスを連携させ、教師が自作した教材や課外読み物、電子書籍などの都市を超えて流通させることを目指している。

図3 教育用クラウド書庫・書架のイメージ図 (2011年度版報告p70)

上の図はその連携のイメージ図になる。

教育用クラウドサービスだけではなく、公共図書館も対象とした大小の書庫及び個人を対象としたクラウドなマイライブラリサービスをOPDSカタログによって連結させる計画になっている。さらにOpenIDによる相互認証メカニズム、OMA(Open Mobile Alliance) DRMによるデジタル著作権管理メカニズムの導入も視野にいれて都市を跨ぐK12対象の電子書籍教育応用サービスを展開しようとしているようだ。

さいごに

ここまでお読みいただいた方はすでお気づきだと思うが、1から4はそれぞれが密接に絡みあいながら進められている。台湾はこのプロジェクトで商用のプラットフォームの枠だけなく、図書館、教育といったジャンルの異なるプラットフォームの枠も超えて、コンテンツとメタデータを流通させようとしている。利用者には1台の端末1つのアプリケーションからすべてのコンテンツを扱える利便性を、業者にはプラットフォームや業種の枠が取り払われ拡大した市場を提供しようとしている。

うまくいけば本当に素晴らしいことであるが、プロジェクトもまだ半ばというところで、現時点ではまだその片鱗が少し伺えるというところである。智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進プロジェクト)が終了する2013年12月に台湾の電子書籍市場がどのようになっているのか、台湾の1年半の動向を注視したいところだ。

※この記事は「e-chuban blog」の9月4日のエントリー「台湾がOPDSでやろうとしていること-「智慧生活應用推動計畫(知的生活応用推進計画)」活動報告書より-」に加筆いただき転載したものです。

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安藤一博
(国立国会図書館)
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