「プロジェクト(D.I.W.O.的)編集」の時代に

2011年6月8日
posted by 津田広志

さる5月20日、東京、恵比寿のクリエイティブスペースamuで、これからのパブリシングを考える集まり「Open Publishing@amu」のプレオープン会議が開かれた。呼びかけ人は、この「マガジン航」の編集人である仲俣暁生さん、出版社ビー・エヌ・エヌ新社編集長の吉田知哉さん、副編集長の村田純一さん、出版社フィルムアート社編集部の私、の計4人。会場の参加者とともに輪になって話し合った。

編集とは発見である

私たちはまず、こう考えた。これからの世界を「設計」、「デザイン」、「編集」の力で作れないだろうか。
たとえば、デザイナー、編集者、ライター、プログラマー、キュレーター、さらには建築家、庭師、花屋、料理人なども含めたこうした職能の人は、このテーマに近い場所にいるはず。それぞれの立場を超えて、広領域な「未知のメディア」を作る。1人で悩んでいるのではなく、D.I.W.O.(Do it With Others=みんなでつくろう)の精神で作る場が今、必要なのではないか、と。

「私」ではなく、「私たち」になって、これからのメディアを考えるということ。プロセス、ファシリテーション、成果物までを、「共に考え、話し、作り、メディアにする」、こういうストーリーを作ってみた。目標として、クオリティの高い企画は、企業案件として現実的にすすめていく。特に、
人と人をKnot(つなぎ)し、意外性のあるつながりにして、パブリシングのKnotworking をしたい。そんな願いだった。

プレセミナーの会場風景。

5月20日のプレオープン会議の会場風景。

会場からは、SNSのあり方、ZINEのあり方、異なる業界の編集、具体的には製造業で働いている人が他の業種とどう連動するか、図書館でメディアをもつにはどうしたらいいのかなどさまざまな面白い意見が飛び交った。期待したとおり、「次世代パブリシング」のモデルを見たいという想いの表れだと思う。

こうした流れは、昨今の〈FREE〉〈SHARE〉という考えと結びつきながら、どこまでも、限りなく低料金で、小さなメディアを作るという動きになっていくと思う。マスコミュニケーションとは反対のこの方向も、私たちは支持したい。と同時に私は、そこから「仕事としての編集」、「プロでしかできない編集」という道も考えたいと思った。

どういうわけか編集をいまだ多くの人は、「情報を集めること」、つまり分類整理と思っている人が多いような気がする。違う。編集とは、「発見」である。一見、結びつきそうにない物と物の間に、関係性を見いだし、「切り口」と「動線」を引き、今まで見えなかったものを「発見する」行為だ。たとえば、「チョコレート」と「アフリカの子供」は一見、ぜんぜん関係しない。しかしカカオの実を搾取されながら働くアフリカの子供たちを「発見」すれば、両者は関係してくる。さらにそれをフェアな交易の実現=「フェアトレード」という切り口と動線に落とした時、「問題解決に向けたアクション」にまで編集は進む。

「プロジェクト編集」とは?

問題解決に向けたアクションにまで落とし込まれた発見行為こそ、これからの「編集」だと思う。そう考えれば、もはや編集は、紙や電子書籍といった2次元編集にとどまらず、もっとダイナミックな「3次元編集」に移る時代に入るのではないか。それは1人の編集者が行える領域を越え、多くの人が力を分かち合い編集する「集合知の結集」であり、私たちはそれを「プロジェクト編集」と呼んでいる。

私の事例を出して恐縮だが、たとえば今、東京工業大学のサイエンス&アートLab が主催する「CreativeFlow」というプロジェクトがある。これは「プロジェクト編集」の一例である。サイエンスとアート。この一見、結びつけにくい関係を発見的に編集していき、プロジェクト化していくことがミッションである。

Creative Flowの会場風景 Copyright All rights reserved by CreativeFlowJP

サイエンスとアートは本来、別ものである。対象を客観的に一定の条件下で法則化するサイエンスはどこまでも「対象とは何か」を問う「認識論」である。他方、アートはその対象が「存在するとはどういうことか」を問う「存在論」である。「認識論」と「存在論」はうまく噛み合ない。

しかし、先端科学の世界にはいると、科学も「存在論」の問いをしなくてはならなくなる。今問題になっている未知のダークマター(暗黒物質)などはそのよい例だ。目に見えない物質が、私たちの体をもすり抜けながら、しかも世界の大きな秩序を作っているとするダークマターの存在。まさに「あるということは何か」という「存在への問い」がサイエンスの側から発せられているのだ。

サイエンスとアートは、今「目に見えない存在」への旅を始めている。科学者たちとアーティストたちの発想は、かつてのニューサイエンスとは違う次元で、限りなく近づき始めている。「目に見えない存在」=「存在論」をキィに私は、この両者の関係を発見ができないかと考えている。また市民や学生もこのプロジェクトに参加する点が重要だ。話し合いの場であるサイエンスカフェ、カフェのファシリ/映像ドキュメント化、研究分析の成果物など、多くの編集が複数の分野の人たちを巻き込んで必要になってくる。

こうした試みは、たんに対象を分析し支配していく、これまでの「ハードサイエンス」に対して、存在論からものを考え、共生の思想へと結びつく「ソフトサイエンス」の構築に繋がると確信している。近未来の科学問題(たとえば福島の原発事故問題解決などもふくめ)を解決していくことを含め、その意味で、D.I.W.O.的「プロジェクト編集」だと思う。

次回、「Open Publishing @amu」は6月17日に開かれる。こうした具体的モデルを参照しながら、「プロジェクト編集」をめぐって、小グループに分けて、課題を考え、前進させていく。ご関心のある方は、月1回第3金曜日にやっていますので、いつでもお気軽に参加ください。

■参加申し込みは下記サイトにて。

OpenPublishing@amu
第2回 これからのメディアをD.I.W.O.でつくろう。

6月17日(金) 19:30~21:00 (開場 19:00)
会場:amu‎ (東京都渋谷区 恵比寿西1-17-2)

執筆者紹介

津田広志
(フィルムアート社編集長)