カラー液晶の新型Nook試用記

2010年11月24日
posted by 大原ケイ

先週バーンズ&ノーブルのNookColor(勝手に「黒Nook」と命名)が届いたので、まずは使い心地などをご報告。

iPad並みに小じゃれた縦長の箱を開けようとして、突然まん中からバキっ!と折れるものだから、一瞬いきなり壊したか?と焦ったけど、マグネット式になってたんですな。あ〜、ビックリした。別にこんなところでアップルと競って凝ってみてもしょうがないだろうと思いつつ、黒Nookを取り出すと…第一声は「重ッ!」でした。

こんなパッケージで到着。お洒落。

こんなお洒落なパッケージで到着。

黒Kindleをちょっと縦長にしたぐらいの大きさなんだけど、やけにズッシリ。E-ink(いわゆる「電子ペーパー」)のNookと厚さは変わらないのに更に重い感じがするので、計ってみたらやっぱりね、1ポンド近く、つまり437グラムもあるでやんの。ちなみにE-inkの白黒Nookは343グラム、黒Kindkeが222グラム、ということで、やっぱりバックライトの液晶だと重くなっちゃうのね。片手でなんとか持てるんだけど、これじゃすぐ手が疲れちゃうよ。

新型Nookは筐体の色が黒に変更。

新型Nookは筐体の色が黒に変更。

というわけで、しばし充電。立ち上げてみると…あ、なるほど、バーンズ&ノーブルのオンライン書店と同じで、アマゾンよりややオサレな感じ。やっぱり本の表紙がカラーだと、ぱっと見でどの本かわかるから、本を選ぶのに関してはKindleで見るよりいいかも。iPadのiBookStoreに似ている。というより、本棚があって、そこに買った本を入れていくのは、どのガジェットにも共通しているということかも。

ちょうど前の晩に全米図書賞のノンフィクション部門を受賞したパティ・スミスの “Just Kids” を買ってみよう。 Nookbook Storeで9.99ドル。今のところEブックの価格はアマゾンとBN.comが同じぐらいで、iBookStore版がちょっと高めの設定になっていることが多い。既にアカウントを持っていてクレジットカードが登録されていれば、ボタン一つでオーケー。あっという間にダウンロード。

NookbookStoreは200万冊の品揃えで「世界最大」と豪語。

Nookbook Storeは200万タイトルの品揃えで「世界最大」と豪語。

ちなみに提供されているEブックのタイトル数は、NookBook Storeが200万タイトルに対して、KindleStoreは70万タイトル。Nook向けのほうが多いのは、フォーマットにオープンなePubが採用されているから。Kindle向けに出ているEブックなら、Nookでもほとんど手に入る。タイトル数で言うと、まだアップルだけがランダムハウスと揉めているので、「売れ筋」でいうとiPadだけが「全部はないぞ」という印象だ。

タッチスクリーンは便利だが、電池の持ちがいまいち

NookはePub対応なので、基本的にはiPadを横にした時の大きさのページを、1ページ分だけひとつの画面で見るのと変わらない感じ。わからない単語を調べたりするのは、やっぱりE-inkの画面でカーソルをぐいぐい動かすより、タッチスクリーンの方が便利だね。でも黒Nookのタッチスクリーンは、iPadよりやや鈍くさいぐらいのスピード。フォントは自分であれこれ操作するより、とりあえず版元側が指定したデフォルトで十分読みやすい。

1点だけ、メタ操作で気になるのが、ページをめくった時の感覚が掴みにくいこと。Kindleや白黒Nookだと一瞬、画面が反転するし、iPadだとページがめくれていくグラフィックがあるのですぐにわかるんだけど、黒Nookはそのまま次のページに画面が移行しているので、マージンがわずかに上下した瞬間に画面を見ていないと、わかりにくい。本に没頭してたら、いちいち右上に表示されているノンブルなんて見ないもんね、普通。

第三世代キンドルよりやや縦長の寸法。ペーパーバックサイズを意識?

第三世代キンドルよりやや縦長の寸法。ペーパーバックサイズを意識?

iPadやiPhoneで読むのに慣れている人には気にならないだろうけれど、やっぱりグレアと呼ばれる反射があるので、頭上の直接照明が映り混んだりすると角度を変えなくちゃならなかったりして、これはやっぱりE-inkに軍配が上がるだろう。

ウェブブラウザも付いていて、日本語入力ができないだけで、FacebookもTwitterも読める。WiFiがあればYouTubeの映像も問題なし。バーンズ&ノーブルはこれから児童書と教育系ソフトに力を入れていこうと決心したらしく、親子でNookを楽しんでもらおうという意図が垣間見える。

ところで、電池の持ちは…あまり良くない。下手すりゃ何週間も平気なE-inkと比べちゃいけないのかもしれないけど、iPhoneより劣ることは間違いない。

iPadとKindleの中間の器

さて、本をひとしきりいじったところで、雑誌や新聞はどうだろうか? Kindleよりはかなりタイトル数が少ないが、雑誌1部あたりの値段が、紙の雑誌と同じか、少し安めに設定され、定期購読するとぐっと安くなるのだが、紙の雑誌や新聞を定期購読するときは半年や1年単位でまず先払いし、途中解約がやや面倒くさいのに対して、オンラインだと1ヶ月単位で定期購読できるのが便利。ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルが1部99セント、1ヶ月の定期購読だとタイムズが10ドル、WSJが15ドルというのはお得な気がする。

雑誌も同じく、1部買いだと紙の雑誌を店頭で買うのと変わらないか、安いぐらいで、こちらも定期購読だとグッとお得なものもある。Kindleと違って写真がカラーなのはありがたい。ただ、記事を箇条書きにしているので、PDFでレイアウトをそのまま見るのとは全然違う感覚。読み物中心の雑誌ならいいけど、写真とレイアウトで見せる雑誌には辛いところ。こちらもキンドル版と同じ、すべて2週間のお試しができる。

ということで、これはちょうどiPadとキンドルの中間の器としてのガジェットと言えるだろう。良いとこどり、とまでは行かないとしても。Kindleは一応日本でも手に入るので、Nookはまだマイナーと思われがちだが、アメリカではKindleに負けない売れ行きなのである。Eブックの品揃えや値段もどっこいどっこい。

例えば、iPhoneを持っている人が、500ドルも出してまでアプリのほとんどがカブるiPadは要らないけれど、本はもう少し大きな画面で読みたいな、と思うのだったら、250ドルの黒ヌックがちょうどいいのかもしれない。最初のEブックリーダーとしては、iPadじゃちょっと値段が張るし、Kindleの操作が面倒くさい、という初心者にはかなり高得点じゃなかろーか? これだったら子供でもお年寄りでもすぐ使えるだろうし。

この時期に出荷できたのもバーンズ&ノーブルにとって好タイミングといえるだろう。真っ先に飛びついて、気に入った人はクリスマスプレゼント用に家族や親しい友人に贈るだろうから。ということで、この年末はEブックリーダーを巡る熾烈な商戦が繰り広げられるだろうと期待している。

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執筆者紹介

大原ケイ
文芸エージェント。講談社アメリカやランダムハウス講談社を経て独立し、ニューヨークでLingual Literary Agencyとして日本の著者・著作を海外に広めるべく活動。アメリカ出版界の裏事情や電子書籍の動向を個人ブログ「本とマンハッタン Books and the City」などで継続的にレポートしている。著書 『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)、共著『世界の夢の本屋さん』(エクスナレッジ)、『コルクを抜く』(ボイジャー、電子書籍のみ)、『日本の作家よ、世界に羽ばたけ!』(ボイジャー、小冊子と電子書籍)、共訳書にクレイグ・モド『ぼくらの時代の本』(ボイジャー)がある。