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続・本屋とデモクラシー

2ヵ月前のこのコーナーで、「本屋とデモクラシー」というコラムを書いたところ、何人かの方から、このテーマでイベントを開催できないか、というお声がけをいただいた。そこでさっそく、東京・渋谷に新しくできたLOFT 9 Shibuyaという店で、9月6日に以下のイベントを行うことになった。

#本屋とデモクラシー〜シブヤ・いちご白書・2016秋〜
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/48460

登壇者は、ここ数年に「本屋」を開業した人や、取次・出版社・作家といった書店にかかわる関係者のなかから、以下の方をお招きすることにした(司会・進行は「マガジン航」編集発行人の私が務める)。

・辻山良雄(本屋Title)
・松井祐輔(H.A.Bookstore)
・梶原麻衣子(月刊『Hanada』)
・碇雪恵(日販リノベーショングループ)
・藤谷治(小説家)

これまで「マガジン航」では「本屋/書店」に関する記事を、経営者やオーナー自身にご寄稿いただいたり、インタビュー取材させていただくかたちで掲載してきた。

百年の一念
くすみ書房閉店の危機とこれからの「町の本屋」
「フィクショネス」という本屋の話
いまなぜ本屋をはじめたいのか
京都の「街の本屋」が独立した理由〜堀部篤史さんに聞く【前編】
京都の「街の本屋」が独立した理由〜堀部篤史さんに聞く【後編】
選書専門店「双子のライオン堂」の野望
学生による本の活動ユニット・劃桜堂
北海道のシャッター通りに本屋をつくる

わがままな利用者としての立場から本屋に言及する記事はネットに溢れているが(そして、それも重要だが)、これだけアゲンストの風が吹いているなかで、それでもなお、これから本屋をやろうとする人たちの考え方を知る機会が、あまりにも少ないと思ったからだ。

ところで、今回のイベントに先立ち、とてもタイミングよく西日本新聞社出版部からこんな本が出た。

『本屋がなくなったら、困るじゃないか 11時間ぐびぐび会議』

昨年秋に福岡で開催された「ブックオカ」のイベントの一環として、2日間にわたって行われた「車座トーク」をまとめたもので、現在の出版が抱えている問題が、まさに「車座」のごとき多視点で語られている。東京・荻窪に本屋Titleを開店するまえの辻山さんが、新規開業の「心づもり」を語っておられたり、同じく登壇者であるH.A.Bookstoreの松井祐輔さんが特別インタビューに登場していたりと、上記イベントの予習にうってつけなので、ぜひお読みください。

デモクラシーとローカルメディア

『本屋がなくなったら困るじゃないか 11時間ぐびぐび会議』を読んでハッとしたのは、この企画を主催し実行したのが、九州の書店・出版関係者だということだ。そうか、だからこの本は面白いのかもしれないな、と思った。東京にいて暮らしていると気づかない、その地域その地域が抱えるさまざまな問題・課題が、この本では「九州」という地域を足場に語られていることが、私としてはとても新鮮だった。

「マガジン航」では『ローカルメディアのつくりかた』の著者、影山裕樹さんに新連載「ローカルメディアというフロンティアへ」を開始していただくと共に、影山さんを共同モデレーターにお迎えし、「ローカルメディアが〈地域〉を変える」という連続セミナーを今年の夏から開始している。そして、この第2回目がまもなく9月9日に開催される。

ローカルメディアが〈地域〉を変える
第2回「メディアが地域にビジネスを産み出す」
http://peatix.com/event/187998/view

講師:
・江守敦史氏(一般社団法人日本食べる通信リーグ ゼネラルマネージャー)
・杉浦裕樹氏(NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事、「ヨコハマ経済新聞」編集長)

「マガジン航」がなぜ「ローカルメディア」に関心をもったのかと、このセミナーを始めてから、訊ねられることが増えた。私個人の動機づけは、学芸出版社のサイトで影山さんの『ローカルメディアのつくりかた』について書いた書評で少しふれてみた。端的にいえば、東日本大震災後のメディアの動向に対する違和感、つまり東京という中央から発信されるメディアだけでは、世の中のリアリティを十全にすくいとることはできないという、当たり前の事実に気づいたことである。

その意味で、私の中ではローカルメディアへ関心と、「本屋とデモクラシー」という一文を書いたときの気分とは、共通の根をもっている。

オルタナティブなメディアの必要

「マガジン航」が2009年に創刊されたときの、最大の関心は「黒船」だった。つまり、グーグルやアマゾン、アップルといった外資の巨大IT企業が、日本の出版界にどのような影響を与え、その生態系を変えてしまうのか、ということだった。ようするに、当時の電子書籍ブームは文字どおり「政治的」なものだった。

電子書籍は、その後も「政治」に翻弄された。「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」を受けての出版デジタル機構の設立、そして東日本大震災の復興を名目にした「緊デジ」こと「コンテンツ緊急電子化事業」の無残な失敗。これについては、さすがに「マガジン航」で書くことがためらわれ、WIREDのサイトに『さようなら、「電子書籍」』という文章を書いた。この頃は、なにからなにまで政治や国策に翻弄される「電子書籍」に、正直、うんざりした気分になっていた。

少し時間を遡る。「マガジン航」の発行を長らく支援してくれているボイジャーの人たちと最初に出会ったのは1993年、インターネットの日本での普及以前のことだった。「青空文庫」を立ち上げる前、まだライターとして仕事をしていた富田倫生さんとあるパソコン雑誌の仕事で出会い、ボイジャーの電子出版物「エキスパンドブック」についてお書きいただいた。

それがきっかけでボイジャーという会社とその電子出版事業を知り、1994年に創刊された最初の「ワイアード日本版」で、彼らが刊行したCD-ROM版『寺山修司・書を捨てよ、町へ出よう』について取材させてもらった。さらに1997年に創刊した「季刊・本とコンピュータ」という雑誌では、萩野正昭さん(当時の代表取締役)を副編集長に迎え、8年にわたり一緒に仕事をすることになった。

いま思えば、当時はまだ「電子書籍」という言葉はほとんど使われておらず、「電子出版」という言い方をしていた。CD-ROMどころかフロッピーがおもな媒体だったが、パソコンを使って誰もが電子的な手段で著作を世に問うことができるという「夢」を、素朴に信じていた。その「夢」はまもなく、WWWとウェブブラウザによってあっけなくかなってしまう。だが私のなかでは、その初発の夢と「電子出版」はいまでも結びついている。

成長産業としての期待から、電子書籍を「国策」として進めることや、外資の独占から日本の出版産業を守るために防御的にふるまうことの是非は、ここでは論じない。ただ、私のなかでの電子出版への関心や期待は、いまも「オルタナティブなメディア」としてのものであり、ローカルメディアへの関心と根は同じである。私が大きな影響を受けた元晶文社の編集者、津野海太郎さんに『小さなメディアの必要』という本があるが(青空文庫で読める)、この言いまわしに倣えば、「オルタナティブなメディア」がいまでも必要なのだ。

* * *

アマゾンが日本でもKindle Unlimitedのサービスを開始し、雑誌やマンガといった、出版物のなかでも書店にとって稼ぎ頭だった分野を根こそぎもっていこうとしている。最初の話に戻せば、いま「本屋とデモクラシー」というテーマで本屋や書店を語りたいのも、すでにネットやアマゾンこそがメインストリームになりつつある時代に、本屋や書店のなかに、それに対する「オルタナティブな場所」としての可能性を見出したい、という気分からだと思う。

「マガジン航」では今後とも、さまざまなオルタナティブの考え方や仕組み、それに関わる人たちを紹介したい。電子メディアやテクノロジーの最新の動きも注視していくが、同時にローカルメディアや本屋に対しても、新しい視点で取材していきたい。私のなかで、「電子出版」と「ローカルメディア」と「デモクラシー」には相互に深い関係がある。ぜひ、9月のイベントのいずれかにいらしてください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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