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hon.jp DayWatchの事業継続を祝す

昨年の10月に株式会社hon.jpの代表取締役社長だった塩崎泰三氏が逝去したことに伴い、同社の運営するニュースサイト「hon.jp DayWatch」をはじめとする事業の継続が困難となっていた。

そうした状況のもと、私も理事を務めているNPO法人日本独立作家同盟と株式会社hon.jpとの間で、上記の「DayWatch」事業を引き継いで継続する話が進んでいた。すでに3月15日には両社間で事業譲渡契約が締結されており、サイトの再開が待たれるばかりだったが、7月1日をもってベータ運用が始まった。

https://hon.jp/news/

株式会社hon.jp時代の記事アーカイブもまるごと引き継ぎ、さらに日本独立作家同盟理事長でライターの鷹野凌によるコラム「出版業界の気になるニュースまとめ」と「国内ニュース」、文芸エージェントの大原ケイによる「海外ニュース」が新たに始まる。当面はこの態勢でベータ運用を続け、10月1日からは本格運用に切り替える予定だ。

過去と未来をつなぐ道として

DayWatchの継続がありがたいのは、電子書籍を専門とするニュース記事の配信媒体がほかにほとんど存在しなくなってしまったからだ。2010年ごろから始まった一種の「電子書籍(をめぐる報道や出版)バブル」も一段落し、IITジャーナリズムの関心は人工知能や仮想通貨に向かいつつある。電子書籍という技術をめぐるイノベーションも一段落し、新奇性(すなわちニュースバリュー)はたしかに薄れたともいえる。

だがそれは、電子書籍をはじめとするウェブ上で閲覧される出版コンテンツが、生活のなかに定着したことの表れでもある。であれば、それらをあらためて出版産業のなかに正当に位置付け、継続的に伝える媒体が必要なはずだ。新奇性が失せたことでそれが営利事業として成り立ちにくいのであれば、非営利団体がその役割を引き受けるという流れが起きて当然である。

電子書籍や電子出版といった話題は、それが唯一ではないにせよ、この「マガジン航」にとっても重要なテーマであり続けている。しかし、この分野で起きるニュースを継続的に追い続ける根気は、正直なことを言えば、このところかなり失せていた。電子書籍のプラットフォームとして(いやそれだけでなく、ネット上のあらゆるコンテンツのプラットフォームとして)、特定のプレイヤーが強大になり過ぎ、その状況を前提に出版の今後を考えざるをえないからだ。

電子書籍はかつてはオルタナティブなメディアであったが、いまでは(ことにマンガを中心に)メインストリームになりつつある。少なくとも、大手プラットフォームの影響力を抜きにして、この問題を考えることは難しい。そうしたなかで私自身の関心は、紙の本も含めた出版全体の転換点を見定めたい、という方向に変わりつつある。

しかし、この十年ほどの間に電子書籍という分野の周辺で起こったさまざまな出来事が、今後の本の世界を考える上での基本的な土台となることは間違いない。であれば、その間のことを記録してきたメディアがそのアーカイブごと、新しい環境のもとで継続されることほど、ありがたいことはない。

紙の本の未来と電子の本の未来は、どこかで一本となると私はいまも考えている。NPO法人日本独立作家同盟の理事としてだけでなく、同じ時代を見続けてきた「マガジン航」という小さなメディアの編集人としても、過去と未来をつなぐ道として、hon.jp DayWatchが継続されることを大いに喜びたい。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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