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次世代のブックフェアを構想する

先月のこの欄でも少し触れたが、3月1日にリードエグジビションジャパンが今年の東京国際ブックフェアの「休止」を発表した。これを報じた文化通信の記事によると「2018年9月の開催をめざす」とあるものの、存続するにしてもその意義を「皇室の来場」に置いているなど意味不明であり、あらたなコンセプトの設定は難しいと思われる。ブックフェアとながらく同時開催されてきた電子出版EXPOも2015年を最後に終了しており、一つの時代が終わった感を強くした。

もっとも、東京国際ブックフェアが開催されなくなったとしても、ここから派生したコンテンツ東京(クリエイターEXPO、コンテンツ・マーケティングEXPO、キャラクター&ブランド・ライセンス展など七つの専門見本市からなる国際総合展)は今年も開催される。東京国際ブックフェアは昨年の時点で、ビジネス見本市から「読者謝恩(ようするに本の割引販売、出版社からみれば在庫処分)」へと大きく舵を切ったが、結果的にブックフェア自体の存在意義を喪失させることになったのではないか。

この決定の結果、日本は出版先進国でありながら「本の国際見本市」が存在しないという、情けないことになるのか。東京国際ブックフェアに代わる、別のブックフェアを構想すべき時期が来ている。

オルタナティブなブックフェア

すでに、オルタナティブなブックフェアの萌芽は生まれている。昨年10月のこの欄でも紹介した「THE TOKYO ART BOOK FAIR」もその一つ。2016年は海外20カ国からの参加があり、世界的に有名なシュタイデル社による「Steidl Book Award Japan」というアワードと連動した展示もあった。アートブックに特化した小規模なイベントではあるが、クリエイティブな雰囲気に満ちており、未来を感じることができた。

2回目となる今年は神楽坂の日本出版クラブ会館で開催された「本のフェス」。

去る3月12日には第2回目の「本のフェス」が開催された。2016年の初回は「THE TOKYO ART BOOK FAIR」と同様、北青山の京都造形芸術大学・東北芸術工科大学の外苑キャンパスで開催されたが、今年は神楽坂の日本出版クラブ会館での開催となり、前回を上回る3000人が来場したという(前回は1000名)。

今回は私も、自分の蔵書の一部を会場に特設された「本棚」で展示していただき、出展側の一人として参加した。日本出版クラブ会館内では恒例の「本の雑誌社商店街」で新刊書・古書の販売が行われたほか、地元・神楽坂の「かもめブックス」の柳下恭平さんがプロデュースした「スナック乱丁」が開店。私は見る余裕がなかったが、ほかにも作家の石田衣良さんによる創作ワークショップや、さまざまなトーク&朗読ライブが行われたという。

野外スペースでは前回と同様に簡易ステージでのライブ演奏があり、「ネオ屋台村」と称した飲食スペースや、茨城県からの産直市などと相まって、通りがかりの人がふらっと立ち寄りたくなる雰囲気を醸し出していた。

「アジアのブックフェアを立ち上げる」

さらに今年5月には、大阪・北加賀屋でKITAKAGAYA FLEA 2017 SPRING & ASIA BOOK MARKET(仮称)が開催されるという。3月9日にはこのブックフェアの開催に向けて、東京・銀座の本屋EDIT TOKYOで『IN/SECTS』編集長の松村貴樹さん、『LIP 離譜』編集長の田中佑典さん、朝日出版社編集者の綾女欣伸さん、そして本屋EDIT TOKYOの内沼晋太郎さんによる「アジアのブックフェアを立ち上げる」というトークイベントが開催された(私は残念ながら参加できず!)。

日本と台湾をつなぐクリエイティブエイジェンシー、LIPのウェブサイト

田中さんは「台日系カルチャー」の発信を目的とするクリエイティブエイジェンシーLIPの代表で、綾女さんは韓国の出版事情に詳しく『ソウルのブック革命(仮題)』という自著の出版が予定されている(追記:内沼晋太郎さんとの共著とのこと)。松村さんは「KITAKAGAYA FLEA」を開催してきたLLCインセクツの代表で、このASIA BOOK MARKETでは関西圏の版元をとりまとめる役割。また関東の版元は昨年で8回目を迎えたBOOK MARKETを主催してきたアノニマ・スタジオが参加を呼び掛けるとのこと。そこに田中さん、綾女さんらと親しい台湾と韓国から中小規模の出版社を招いて、「アジアのブックフェア」を草の根から立ち上げようというものだ。

これらはいずれもまだ手作りイベントという段階だが、存在意義を「皇室の来場」に求めざるを得ない出版業界主導のブックフェアなどより、はるかにリアリティがある。とくに、ここ数年かけて成長してきたオルタナティブなブックフェアの流れが、ついにアジアの出版社・編集者たちとのコラボレーションへ踏み出すかと思うと、その先に起きる出会いに胸が高鳴る思いがする。

そもそも出版とは一種の家内制手工業なのだ。既存のブックフェアが機能しなくなってしまったのなら、それぞれが理想とする、次世代のブックフェアを構想すればいい。その動きは、すでに確実に始まっている。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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