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Editors’ note

今年の春に日本語訳が刊行されて以来、ことあるごとに人に薦めている本があります。アメリカの新人作家、ロビン・スローンの『ペナンブラ氏の24時間書店』(東京創元社)という小説です。

これがどういう作品で、ロビン・スローンがどういう人物であるかは、他のサイトでこんな記事を書いたことがあるので、そちらを参照していただくとして、なぜ多くの人に『ペナンブラ氏〜』を読んでほしいかというと、この本は私がずっと抱いていた不満をズバリと言い当て、しかもスカッと解消してくれる本だったからです。

それはどんな不満か。ようするに、「本が好き」な人はウェブやテクノロジーの話題に疎く、逆にITやネットの専門家とは、本について突っ込んだ話をすることが難しい。文理融合の呼び声がかかって久しいですが、少なくとも日本では「二つの文化」(C. P. スノー)の間の壁はいまだに高く、溝は深い。しかしこの小説は、「本」と「コンピュータ」のどちらの世界にも当分に足をかけ、その広がりの中で壮大なエンタテインメントが展開される、なんとも爽快な作品だったのです。

たとえば「電子書籍」は、スティーブ・ジョブズが「テクノロジーと人文知(リベラルアート)の交差点」と表現した場所で生まれるべき、サービスや商品のはずです。にもかかわらず、いまの「電子書籍」は技術的にもパッとせず、人文知の面からも物足りない、そんな中途半端なものに思えていたのです。

そんな思いをかかえて、ソーシャルメディア上で『ペナンブラ氏〜』の名を連呼していたところ、あるセミナーで知り合った電子書籍サービスの方が敏感に反応してくれました。そして、日本を舞台にした「和製ペナンブラ氏」とでもいうべき物語を書いてみようか、と仰ったのです。では、ぜひその顛末の報告を「マガジン航」でお願いしたいと申し出たところ、快諾を得ました。

短期集中連載『もしも、ペナンブラ氏が日本人だったら』がスタート!

そうした経緯で始まった原田晶文さんの短期集中連載「もしも、ペナンブラ氏が日本人だったら」(全三回を予定)の第一回「遭遇篇」をお送りします。お読みになるとわかりますが、この記事もなかなか本題に入りませんが、その「迂回」にもきっと意味があります。独特の語り口もふくめ、ぜひご堪能ください!

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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