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Editor’s Note

「数学ガール」シリーズなどで知られる結城浩さんの短期集中連載、「私と有料メルマガ」が始まりました。結城さんいわく、「短期集中連載ということで、以下の三回に分けます。主に時系列に沿って書いていくことになります」とのこと。具体的には、

  • 第一回 皮算用編では、私が「結城メルマガ」を始めようとした経緯と、始めたばかりの頃に起きたことについて書きます。
  • 第二回 転換編では、初期の体験から自分が考えたこと、そしてそれを踏まえて行った「結城メルマガ」の方針変更を書きます。
  • 第三回 継続編では、現在の私が考えていることを中心に、メルマガ執筆を継続させることの意味、継続させるために工夫していることなどを書きます。

という、全三回の連載となります。有料メルマガを自分でもやってみようという方、あるいはすでに始めているが、いろいろ悩んでいるという方、あるいは読者としてメルマガを講読している方、そして「メルマガなんてやる意味ない」という否定派の方、どなたにとっても面白い、具体的で実践的な内容になりそうです。どうぞお楽しみに。

公共空間としての図書館を守るためにできること

もう一つ、この気の重い話題について、やはり書かなければなりません。すでに多くのメディアで報道されているのでご存知の方が多いと思いますが、『アンネの日記』をはじめとするアンネ・フランクやホロコーストの関連本300冊以上が、昨年から今年にかけて、東京都内の杉並、中野、練馬、新宿、豊島の5区と、武蔵野、東久留米、西東京の3市の公立図書館(分館を含めて少なくとも38館)で損壊されていたことが判明し、警視庁が捜査に入っています。

この事件については、以前の記事で紹介した『つながる図書館〜コミュニティの核をめざす試み』の著者でもある、ハフィントンポスト記者の猪谷千香さんが継続的に取材して記事にしています。その第一報はこの記事でした。

「アンネの日記」 都内の公立図書館で250冊以上が破られる被害

また、この事態を受けて2月25日には、公益社団法人日本図書館協会が、理事長である森茜氏の名で、以下のような声明を出しました。

公立図書館における「アンネの日記」破損事件について(声明)

最近の報道によると、東京都内の複数の公立図書館で、蔵書の「アンネの日記」及び関連図書が、複数ページにわたって破り取られるという事件が起きている。その被害状況は都市部の3市5区に及び冊数は300冊に上るとの報道もある。

図書館の蔵書は、単に公の物理的財産というにとどまらず、人類共有の知的・文化的な財産である。公立図書館は、そのような人類共有の知的・文化的財産を市民が共有し、広く市民の読書に提供し、次の世代に伝えていくことを任務としている。

どのような理由があれ、このような貴重な図書館の蔵書を破損させることは、市民の読書活動を阻害するものであり極めて遺憾なことである。今回の事件について日本図書館協会は、図書館の所蔵する文化資産が広く市民に提供されることを願うものとして、非常に残念に思っている。

どのような動機や目的でこうした行為が行われたのかについては、さしあたり捜査の進展を待つしかありません。しかし図書館や書店という、誰もが自由に出入りできる公共空間を舞台にこのような事件が起きたことに、私自身はつよい衝撃を受けました。そして一読者、一利用者として、図書館や書店といった、多くの本が無防備に置かれ、そこに人が自由に出入りできる空間を守るために、なにができるかを考えたいと思いました。

正直にいって、これは難問です。今回のように特定のテーマの本が大量かつ同時に破損されるケースはまれでしょうが、図書館ではこれまでにも、本の損壊はつねに一定程度は起きていたことなのかもしれません。また書店では、(ある意味では)本の破壊よりも迷惑な万引き被害が絶えません。しかし、こうした事件を防ぐために書店や図書館への出入りの自由を制限し、セキュリティを高めてしまえば、これらの場所の意味は一変してしまいます。

本はまた仕入れればいい、だから大げさに騒ぐことはない、という意見もあるでしょう。図書館や書店の現場にとっては、新しい本と交換し、事件が再発しなければ、大きな問題ではないのかもしれません。しかし、利用する側としては、もやもやする気持ちを抑えることができません。

図書館や書店では、多くの本が置かれる広い空間をごく少ない人員で管理・維持しています。利用者への一定の信頼がなければ、そうした場の維持はますます難しくなってしまいます。こうした事件が起きたことで、図書館や書店という公共空間のイメージが悪化したり、現実に不穏な場所になることを、私はなによりも危惧します。

そこで、公立図書館や書店に直接的に働きかけるのではなく、この事件をきっかけに、利用者である私たち自身が、図書館や書店との関係を考えるため、ささやかなプロジェクトを立ち上げる準備をしています。今回の事件で被害にあった本にちなんで、「アンネ・フランク・ライブラリー」と名づけたこのプロジェクトは、たとえば『アンネの日記』を地元の図書館で借りたり書店で購入し、身のまわりの人と一緒に読んだり話題にすることで、本とそれらの置かれる場所に対する今回の攻撃を、犯人探しや事件の背景に対する裏読みではなく、本を使ったコミュニケーションの契機にしよう、という試みです。

このプロジェクトは「マガジン航」の編集人である仲俣が個人で発案し、インターネットを使った図書共有システム「リブライズ」を開発している河村奨さんの協力を得て、数日前に立ち上げたばかりです。さしあたり、発案者として2月26日に以下のような文章を書きました。

アンネ・フランク・ライブラリーをつくる
https://medium.com/p/aadc88f1b944

一緒にこの問題を考えてくれる人たちと、Facebookグループを立ち上げて話を始めたばかりですが、本と、それらが置かれる公共空間への攻撃を許さないためにも、多くの人がそのことについて話をすることが、何よりも大事ではないかと考えます。関心のある方はぜひ、Facebookでこちらまでコンタクトをください。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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