3月6日、アップルが電子書籍ストア、iBookstoreを日本でもオープンしました(アップル社のプレスリリースはこちら)。これにあわせて電子書籍アプリのiBooksもバージョン3.1にアップデートされており、iPhoneやiPad、iPodといったiOS対応のスマートフォンやタブレットをもっていれば、iBooksのアプリから電子書籍を購入できます。
これで2010年頃からの電子書籍ブームを引き起こした「黒船」勢、つまりアマゾン、グーグル、アップルの電子書籍ストアがすべて日本でもオープンしたこ とになります。
iBookstoreでの本のカテゴリ分けは、「フィクション(小説)」「マンガ」「ビジネス/マネー」「ミステリー/スリラー」「ライトノベル」(注:本稿執筆時点。その後拡充されています)。それぞれに有料と無料との区別がありますが、いまのところ、それ以上のサブカテゴリは設定されていません。哲学、思想、歴史、芸術、実用書…といった実際の書店の棚構成を模倣するのではなく、スタート時はとりあえず売れるコンテンツに特化した印象です。これからのカテゴリやサブカテゴリがどのように増えていくのかも注目です。
村上龍のデジタルブックを限定配信
iBookstoreでの電子書籍の配信をはじめている出版社は、ざっと確認しただけでも大手では講談社、集英社、文藝春秋、角川書店、幻冬舎などが確認できました。逆に6日午前の段階では小学館、新潮社のコンテンツはまだ配信されていません。
気になったのは、「フィクション」のカテゴリには村上龍の作品を限定配信する特設コーナーが設定されていたことです。第一弾として『心はあなたのもとに』『希望の国のエクソダス』 『空港にて』の3タイトルが配信されており、今後も追加される気配です。発行元はいずれも「村上龍電子本製作所/ G2010」とクレジットされており、紙版の出版社ではなく、作家自身による配信のようです(ただしG2010のウェブサイトでは、3月5日時点ではまだ、これらのタイトルについてのリリースは出ていません)。
iBooks3.0で縦書きの横スクロールが可能に
iBooksはアップルの電子書籍ストアであるiBookstoreにアクセスし、そこで買ったタイトルを閲読するほかに、EPUB 3.0による電子書籍も閲読できます。今回のバージョン3.1へのアップデートでは表示切替の「テーマ」から、本を模したページめくりの「ブック」のほか、単ページによる「フルスクリーン」が追加され、「スクロール」でも、これまでの「横書き/縦スクロール」にくわえ「縦書き/横スクロール」が表示できるようになりました。
iBookstoreにはすでにiPad専用の電子書籍オーサリング・ツールiBooks Authorがありますが、KindleやKoboで実現しているような簡単なセルフパブリッシング(自己出版)の仕組みが、日本を含むアジア市場向けにはまだ提供されていません。アップルが今後、iBooks AuthorだけでなくEPUBベースで、アジア圏でどのような自己出版の仕組みをつくっていくのかが気になるところです。
[追記] 『Gene Mapper』の著者である藤井太洋さんが、iBookstore向けに自己出版(セルフパブリッシング)するための手順を記事にしています(こちら)。英語画面での手続きとなりますが、指示に従ってステップを踏めば、日本のストア向けに販売することもすでに可能とのことです。
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執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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