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読み物コーナーに新記事を追加

読み物コーナーに原哲哉さんの寄稿、「電子書籍は紙の本にまだ勝てない」を追加しました。原さんもお書きになっていますが、この文章を掲載するきっかけになったのは、「Wired.jp」に公開された「電子書籍が紙に負ける5つのポイント」という記事です。電子書籍が普及するには、以下の5つの問題を解決することが必要だと、この記事の筆者であるジョン・C・アベル(John C Abell)氏は主張します。

  1. 読了へのプレッシャーがない。
  2. 購入した本を1カ所にまとめられない。
  3. 思考を助ける「余白への書き込み」ができない。
  4. 位置づけとしては使い捨てなのに、価格がそうなっていない。
  5. インテリア・デザインにならない。

電子書籍は「紙の本にはかなわない(少なくとも、簡単にはかなわない)」といいながらも、これらの問題さえ解決されれば「電子書籍は制限なく成長していくことだろう」とも述べており、その将来にはかなり楽観的なようです。

アベル氏が挙げているような問題点については、すでに電子書籍ビジネスを進める側も気づいているようです。さまざまな電子書籍プラットフォームで「購入し た本を一箇所にまとめる」ためのサービスとして、今年の国際電子出版EXPOでは、インプレスR&Dと大日本印刷は電子書籍の読書環境を一元化する「オープン本棚(仮称)」を発表しました。彼の挙げた5つの「問題」は、遠からず解決されていくことでしょう。

しかし、と原さんはさらに疑義を呈します。

「WIRED.jp」の「電子書籍が紙に負ける5つのポイント」という記事を読んだ際、「紙の書籍」と比較されている「電子書籍」の特徴というのは、電子書籍ではなく、電子書籍を読むための「端末」(リーダー)の機能であって、本質的な比較と分析が行なわれていないと思いました。

これまでの他の多くの記事でも「電子書籍」と言いながら、それを読むための「端末」(リーダー)の評価が多く、その上で読まれる最適化された「書籍」とは一体どういうモノなのか、その新しいメディアによって、読む側はどうなるのかが語られていませんでした。これは間違いだとは言えないでしょうが、 間違いに近い。

アベル氏と違って、原さんは電子書籍の弱点を指摘するのではなく、むしろその「利点」として挙げられることをリストアップし、それらは本当に利点なのか、というアプローチで反論を試みています。原さんと同様、大量に本を所有している身としては共感するところが多かったですが、もちろん、異論をもつ方もいると思います。別の立場からの「電子書籍」論の投稿は大いに歓迎します。

日本でもReaderStorehontoTSUTAYA GALAPAGOSなど、新しい電子書籍ストアが昨年から今年にかけて相次いでオープンしており、それらに対応したリーダー端末やアプリもリリースされています。さらに今年の国際電子出版EXPOでも、あらたな電子書店の参入が発表されました。アベル氏や原さんの挙げる問題点が、現実のサービスのなかで少しずつでも解消されていくことを期待します。

執筆者紹介

仲俣暁生
フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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