津野海太郎さんの「書物史の第三の革命」の連載第4回目(4 若者が本を読まなくなった)を読み物コーナーで公開しました。若い世代の「読書離れ」「活字離れ」は、昔からいくども言われてきたことです。それは日本では、いつ頃から始まったのでしょうか。
1960年代に俳人の中村草田男によって批判された「読書をしない大学生」とは自分の世代のことだと、津野さんはいいます。津野さんはさらにこの文章で、
そして、つぎの変化の時がその十数年後、一九八〇年代です。いまとおなじく、あの当時も、出版界周辺では「活字文化があぶない!」という危機意識が急につよくなっていた。ただし統計で見ると、このころ本の売れ行きがとくに急激に落ちたわけではない。その逆です。年間発行点数も総発行部数も実売金額も、むしろ安定して増えつづけていた。それなのに、あの時期、なぜあんなに声高に「活字の危機」が叫ばれていたのか……。
と書いています。思わずドキリとしましたが、1980年代の大学生といえば、まさにこの私の世代にあたります。しかし統計的に見れば、1980年代はむしろ出版産業の黄金時代だったわけです。
津野さんはこうした一連の「活字離れ」「活字文化の危機」といった言説の起源を遡り、20世紀という「本の黄金時代」を通じて起こった読書の大衆化と「活字離れ」の関係について考察しています。21世紀、これから「読書」はどうなるのでしょうか。
「読書の秋」ということで、先月の終わりに毎日新聞社の読書世論調査が今年も発表になりました。第64回を迎えたこの読書世論調査では、7割以上の人が読書にあてる時間が減ったことや、今年の春からメディアで話題となった電子書籍の読める電子端末に対しては、「読んだことがある」と「読んだことはないが読みたい」を合わせても28%と、意外と冷静な反応が見て取れます。
電子書籍の登場と普及は、21世紀の読書をどのように変えていくのか。それはまだ、誰にもよくわからないことです。今年の暮れから来年にかけて、日本でもさまざまな電子書籍サービスが新たに始まると言われています。電子端末やプラットフォームの話題ばかりが先行していますが、「読書」という行為の側からも、これから登場するサービスについて「マガジン航」でも考察していきたいと考えています。
なお、津野海太郎さんの「書物史の第三の革命」の連載は第5回目となる次回で終わりです。続きは今月に国書刊行会から刊行予定の『電子本をバカにするなかれ』でお読みください。
執筆者紹介
- フリー編集者、文筆家。「シティロード」「ワイアード日本版(1994年創刊の第一期)」「季刊・本とコンピュータ」などの編集部を経て、2009年にボイジャーと「本と出版の未来」を取材し報告するウェブ雑誌「マガジン航」を創刊。2015年より編集発行人となる。著書『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神エルマガジン社)、共編著『ブックビジネス2.0』(実業之日本社)、『編集進化論』(フィルムアート社)ほか。
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